4、「友好的な魔物」
とりあえず、どうすっかな。
当面の目標としては、最低でもマスタークラスのレベル13までレベル上げだよな。
オレは魔法使い1レベルで呪文の大半を覚えちまったとはいえ、通常は才能のあるヤツが努力しまくってようやく13レベルで呪文を全部修めることができる、そういうものだ。
とりあえずの目標として13レベルになって呪文レベル7の魔法まで全部覚える、というのはまあ妥当なところだろう。
……流石に、レベル13までに成長限界になることはないとは思いてぇが。世の中にゃあ絶対なんてねぇからな。本当に、これっぽっちも才能が無い場合は、ステータス足りてても転職すらできねぇって聞いたこともあるし。大丈夫とは思うんだが、油断は禁物だよな。
ちっとばかし魔法使いとしても才能がありそうだからって、浮かれ気味になってはいられない。
だって。
戦士のときもそうだったんだよな……。
生まれつきの力と体力で、レベル1から重くて強力な武器を自由自在に振り回せたし。力を最大限に活かすために、棍棒メインにしたとはいえ、どんな種類の武器だって人並み以上に扱えた。
あんときオレは、戦士こそ天職!って思ったもんだった。
実際、2年前に50レベルで止まるまでは、常識はずれのスピードでレベルもあがったし。
通常、天職っていうのは成長限界が高い分、成長も早いんだよな。
才能がないと、レベルは上がりにくいわスキルは上がらないわ魔法は覚えないわで詰む。
1レベルのうちからそこそこ強そうだからって、オレの魔法使いがそうならないという保証はどこにもない。1レベルで半分の魔法を覚えたからって、実はそこ止まりでこの先1個だって魔法を覚えられないってこともないとは言えないのだ。
「……はぁ」
ため息を吐きながら、気合を入れるために両手で頬を張る。
ってかよく考えたら昨日の夜から一睡もしてなくね? つっても、追い出された以上、パーティの拠点にゃあ戻れねーし。宿に泊まろうにも先立つものがねぇ。
ただで泊まれる馬小屋とかは、筋肉の鎧が無くなった今だとちょっと躊躇するしな。
ふむ。
じゃあ魔法使いの立ち回りを試しながら、迷宮でちょっと宿代程度稼くとしようかね。
早朝の奈落はほとんど人気が無かった。
これ幸いと、入ってすぐの広間で、両手で棍をくるくる回しながら身体の動きを確かめる。
うむ。
グローブはしっかりと棍をつかんでくれるし、靴はガラスの癖に思いっきり床を踏みしめてもびくともしねぇ。流石は魔法の装備だな。足の甲は覆われてないんで、蹴るときにゃあ、つま先を当てるように気を付けないといけないが。
ひらひら揺れ動く貫頭衣は少しばかり気を付けないと棍の回転に巻き込んでしまいそうだが、まあ、シロウトじゃねぇから大丈夫だ。タダの布だから下手に引っかけるとボロボロになるしな。
筋肉の鎧が無くなって打撃力は減ってるが、そのぶんは手数でなんとかなるだろ。
って、レベル下がってるから攻撃回数も減ってるんだっけな。やっぱレベル上げは急務か。
ん? 魔法使いってレベルで攻撃回数にボーナスついてないんだっけ? わかんね。
何度も棍を振り回し、突き、払い、打ち据え、訓練所時代に習ったことを思いだしながら一通りの動きを確かめる。
「……んっ」
おうふ。
意外とおっぱいが邪魔だわ。たわわというには程遠いが、ちゃんとつかんで揉める程度にはあるからな。たまにさきっちょとか腕にこすれてなんか妙な感じする。はずかちー。
まあ、体格が大幅に変わっちまってるんだし慣れるしかねーな。
手足が折れそうなほどほっそいけど、動かしてみたら小回りが利くというか全力で愛棒振り回してた時よりいろいろ出来そうな気はする。
「よいしょ」
くるくると棍を回転させて、たん、と床を打ち、棍を背負う様にしてくるりと空中で一回転。
逆立ち状態でぱっと両脚を開いてさらに回転しながら、両手を床に付く。
片手で棍を拾い上げながら床を払って、その勢いて起き上がって構える。
「――おし、準備体操おわり!」
まずは適当にドア開けて雑魚を蹴散らすか。
HPは75階でもやっていけるだけあるから、少し試した後は一気に30階くらいまで潜ってもいいな。それか、マリちゃん先生のところで少し鍛えさせてもらうか。聞きたいこともあるしな。
それじゃ、適当に小部屋に突貫して雑魚を蹴散らすかね。
「たのもー!」
ドアを蹴り破ると、中には三匹の毛むくじゃらの人影があった。
犬の面をした人型の魔物。コボルトってやつだな。
朝早いこともあってコボルトどもも起きたばかりだったのか、ひどく慌てた様子でこちらの様子を伺っている。
「オイオイ、かかって来いよわんこども。まさか友好的な敵だとか言わねーよな?」
オレは属性は中立なんで、友好的だろうがなんだろうがぶちのめすけどなー。
歯をむき出しにして棍を突き付けてやると。
「わ、わう」
「わおん」
「くぅーん」
コボルトどもはなぜか。
恥ずかしそうに顔を見合わせて、もじもじし始めた。
「なんだよお前ら……。調子狂うな」
コボルトなんて雑魚はもうずいぶん昔にしか相手にしたことがなかったが、こんな変な行動するやつらだったっけな? オレの筋肉を見ただけで慌てて逃げ出すような弱虫連中なんだが。
「わおん?」
「どしたよ」
しょうがないので棍を床について話を聞く姿勢になる。
「わんわんお(御嬢さん、ぱんつ穿き忘れてるよぉ)」
「わおん(それとも痴女なの)?」
「くぅーん(初めて見た時からあなたに決めてました)!」
「あん?」
最後のはちょっと置いとくとして。
おうふ。
準備体操でテンションあがってたせいか、扇情の乙女装束が透けてるじゃねーか。
「……この格好で戦うと魅了効果とかでもあんのか?」
「わふ(痴女だよね)」
「わん(痴女だ)」
「くーん(良い匂い)。ハッハッハッ(prprしたい)」
「最後のヤツ、息荒くしてんじゃねぇよ。気持ちわりぃ」
あーもう、やりにきぃな。
とりあえず、ぶんなぐっとこう。
「……くぅーん(やられたー)」
「……きゅーん(ばたんきゅー)」
「……きゃいん(ご褒美です)!」
雑魚過ぎて殺さないようにすんのが大変だったぜ。だがまあ、その分修行にはなったかな。
ちゅーか、うん。ちょうどいいか。
なんかモフモフしてるしこいつら毛布代わりにするかね。
「よしお前らオレのベッドになれ。【清浄】」
汚らしい毛皮もちっとは綺麗になるかと思ったんだが。おかしいな。汚れすぎてて効かなかったのか? コボルトどもの毛皮は薄汚れた灰色のままだった。
人間だと普通に全身綺麗になるんだがな。
ふむ。
ステータス画面から呪文のコードを開いてカスタマイズする。
ネコミミ教官みたいな獣人は毛が多いからこのあたりいじるとか言ってたしな。
「よし。【毛づくろい】これでどうだ」
今度はうまく行ったようで、コボルトどもの毛皮が驚きの白さに。しかもふわっふわでモフモフ。
呪文名変わっちまったけど。
「おしコボルト3はキモイから入り口で見張りな? あとはオレのベッドと抱き枕だ」
「わおん(やっぱり痴女だよね)」
「わふ(痴女だー)」
「わぅっ(そんなっ)!?」
コボルト3のケツを蹴り飛ばして、コボルト1と2の首根っこをつかんで部屋の隅で横になる。
おう、ほこほこあったかくってもふもふでいい感じじゃねーか。
「昼過ぎにゃ起きるから。それまでお前らオレのベッドな」
ってわけで、おやすみなさいだぜ。
★一言メモ★
アル「すっげえもふもふ。……すやぁ」
コボルト1「きゅーん(く、くびが締まってるよぉ……)」
コボルト2「きゅん(姫、なんか言いにおいする)」
コボルト3「ハッハッハッ(放置プレイって考えると……これはこれで悪くないかも)」
★設定殴り書き★
【属性】:
属性とは探索者の性格を表すもので、善・中立・悪の3つが存在する。行動により善と悪は入れ替わることがあるが、中立だけはステータス最大で【祈り】の魔法を使用した時以外に変化しない。そのまま文字通りの意味ではなく、悪は好戦的、善は無駄な戦闘は好まない、程度に考えておけばよい。問題は中立で、「てめえの生き方を変える気はねぇ」ととことんマイペースな連中のことだったりする。
元ネタの某Wizと異なり転職条件には関係しないが、装備や成長度合いには影響する。
【友好的な魔物】:
魔物にだって疲れていたり、怪我してたり、積極的に戦いたくない場合もある。そういう魔物を友好的な魔物と呼ぶ。属性が善の場合は見逃さないと悪に変わる可能性がある。逆に悪の場合は「ひゃっは-! 弱った獲物だぜー!」と戦わなければ善に変わる可能性がある。
ちなみに。奈落内で出会った別の探索者パーティのことを指す場合もある……。