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 3、「呪われている」

 いつものボルタ&クーリ商店で、オレが装備していた鎧を下取りに出したら。

 店主が少し驚いた顔でオレを見つめて来た。

「……こいつぁ特注品のアルの鎧じゃねーか。まさか、アイツ、死んだのか」

「……」

 オレ、目の前に居るんだが。まあ、自分でも別人に見えるくらいだしな。かといってオレがアルだぜ何言ってんだオヤジ!などと自分から触れて回るのもなんだか恥ずかしい。あの筋肉ダルマがこんなかわいくなっちまって、なんて爆笑されんのは冗談じゃねぇ。

「蘇生に失敗して消滅(ロスト)でもしたのか。あいつ、筋力と体力はアホほどあったが、運だけは普通だったからな」

「……」

 まあ、筋肉ダルマのオレが二度と帰ってこないことは確かだ。少し寂しげに曖昧な笑みを浮かべて店主を見つめると、勝手にいいように解釈してくれたようだ。

「……そうか。お前さん、もしかしてアイツの身内か。娘……にしちゃあ大きすぎるし、少し歳の離れた妹って所か? どこか面影があるな」

「……」

 妹、ね。そういうことにした方が通りはいいかもしれねーな。

「ああすまんすまん。迷宮探索者なんてみんな何かしらの事情があるもんだ。詮索するのはヤボってもんだな。よし、ワビとアルの香典代わりに少し色付けてやろう」

 いつもはきっかり売値の半額でしか買い取らねェボッタクリな店主が、なんと七割で買ってくれたぜ。ラッキー。まあ、特注とはいえオレはあまり防具には気を使ってなかったから大した差額でもないんだけどな。

 装備を売った金でまずは武器を買う。

 武器はスキルが活かせる棍一択だ。一般的な魔法使いは呪文効果を高めたりする魔法の杖を持ったりするものだが、オレが欲しいのは武闘家などが使う殴れる棍だ。最初のうちはレベルも上がりやすいから、とりあえず取り回しに問題がなく丈夫でありさえすればそこまで攻撃力は問わない。

 条件を伝えると、魔法使いのローブなオレの格好を見て少し怪訝そうにしたものの、ひとつの武器を勧めてくれた。

「こいつぁ棍+1だ。普通の棍に鉛の芯を通したもので、少し重いが駆け出しにゃいい武器だろう。ただし魔法を使う気なら鉛が邪魔をして威力が下がるんだが……」

「……ん」

 かまわないので頷く。というかネコミミ教官との訓練で思い知ったのは威力が強すぎる魔法は非常に使いにくいということだった。敵をぶち殺すだけじゃなくて味方も巻き込んでたら洒落にならん。オレの魔法は常に全力でぶんなぐるようなもので、加減ができなかった。なので魔法を抑える鉛を使ったものにしてもらったのだ。

 受け取って、軽く振り回す。ブラジオンに比べるとその軽さが非常に心もとないが、軽い分素早く振り回せるし手数も増やせるだろう。悪くない。

「ほう。見かけによらず、慣れたもんだな。で、革の小手とブーツは……装備できるか?」

「……む」

 手足を保護するのに小手とブーツが欲しかったのだが、どうやら魔法使いは装備できないっポイ。手足に付けることは出来るのだが、”装備した”感覚がない。これはたぶん防御力もあがってないし、下手をすると戦闘中にすっぽぬけそうだ。役に立たないなこりゃ。

 首を横に振ると、店主は少し考え込んだ様子だった。

「……そうか、じゃあちょっと値段が上がって色物にはなるが、これはどうだ」

 差し出されたのは、いわゆる指ぬきグローブと、ガラス製の靴。ハイヒールというやつだろうか。踵が高くなっている。

「……」

 ガラスは流石にどうかと思うんだが。

 じっと見つめると、店主は少し困った様子で「いいから装備してみてくれ」と促した。

 試しに装備してみると、どちらも非常にしっくりときた。

 指ぬきグローブは棍をしっかりとすべらないようにつかむことができる。それだけでなく妙にかっこいい気がして心が昂ぶる。それにガラスの靴は妙に心が騒いだ。なぜか、誰かを踏みつけたくてしょうがない気になってくるけど。

「……ん」

「気に入ったか? そいつは闇魔導士のグローブに、女王の靴といってな。グローブは尊大な口調になるが魔法の威力があがる。靴は誰かを踏みつけたくなるが見た目に反して非常に頑丈で、心折られない限り砕けることがない。そして膝をつくことがない」

「……ん?」

 ちょ、そんな特殊な効果があるとか魔法の装備なんじゃねぇのっ!? オレそんな金はねぇぞっ!?

「……ちなみにそれ呪われた装備だから。外したくなったら教会に行ってくれ」

「……っ!?」

 思わず怒鳴ろうとして言葉を飲みこんだ。

 性能は悪くない。悪くないんだ。クソオヤジめ、騙して装備させやがったな!

 けど気に入ったのも確かだちくしょう!

「あとは鎧だな。動きやすい革製という条件だったがお前さん装備できないみたいだからな。

こんなのでどうだ」

 そう言って差し出して来たのは。

「……」

 それは、オレが戦士として長年愛用してきたビキニアーマーとほぼ同じデザインながら、布で出来た防具で……って、それじゃただの水着じゃねーかっ!?

「流石に肌を出しすぎるのも問題だろうから、この上にこの貫頭衣を付けるといい」

「……ん」

 筋肉の鎧がないと流石に水着は恥ずかしい気がすっけど。

 さっそく装備しようとしたら。

「こらこらこらっ。いくらガキとはいえ羞恥心ってもんがないのかお前さんは。向こうに試着用の仕切りがあるからそっちで着替えて来い!」

「……」

 おうふ、しまったぜ。ついいつもの癖で。

 ちゅーかロリコンじゃねーだろうな、このオヤジ。

 さっそく仕切りの向こうで装着する。ネコミミ教官にローブはもらったが流石にぱんつは他人のお古もらう気にはならなかったから、しばらくぶりに下着を穿いたわけだが……。妙に喰い込むなコレ。上も下も、身体にぴったり吸い付くようで、なんというか身に着けているのに全裸みたいな解放感というか。

 ふむ。だがまあ、これは動きやすくていいな。

 しかし、ただの布だと防御力が心配だが……これもなんか特殊な効果があるんかね?

 とりあえず貫頭衣に頭を通して腰のところを帯で縛ると。まあ悪くない感じだった。

 ひらひらしてると脚に絡んで邪魔になるかと思ったけど、そうでもねぇな。用を足すときにゃあちっと面倒くさそうだが。

「……ん」

 気に入ったとオヤジに親指を立ててみせると。

「そいつは戦場の乙女装束といってだな。戦場で周囲の意識を高ぶらせる鼓舞の効果がある」

「……お」

 それはすごいな。装着者以外にも効果のある装備品とか、かなりレア物だぞ。

「ちなみに、戦意の高揚に従って透明になるから気を付けるように。貫頭衣の方は普通の布だから一応大事なところは隠れるはずだが」

「戦う方の戦場じゃなくて、(あお)る方の煽情かよっ!? ちゅーかなんてもの着せやがんだクソオヤジっ!? ロリコンかてめぇ!?」

 思わず声を上げてしまって。

「おう、今のてめえにゃ、なかなか似合う装備だと思うんだがな? アル」

 笑顔で親指を立てて来た店主が、オレの名前を呼んだ。

「……あー。気付いてたのか。ってか気付いててオレのことからかってたのか?」

「気が付いたのは途中からだけどな。棍の取り回しがシロウトじゃなかったから気が付いた。ごまかしてたから知らんふりしてやろうかとも思ったんだが。ずいぶんと可愛らしい姿になっちまったもんだな?」

「オヤジにそういう生暖かい目で見られたくなかったから、ごまかしてたんだよっ! にしてもそりゃそうだよな。いくらなんでも訓練場から出て来たばかりの駆け出しに。こんな魔法の装備を次から次へと勧めて来るとかおかしいと思ってたんだ」

 ほとんどが呪われた品ではあるものの、いずれも強力な魔法付きだ。普通は今のオレの姿みたいな駆け出しの小娘に勧めるほどやすいものじゃあないだろうよ。

「……見込みのある新人には良い装備を回してやることもあるぞ? 将来性があっても死んだらそれまでだしな」

「ちゅーか最初に借金漬けにして体よくこき使おうって魂胆が透けて見えるんだが?」

「お互いに利のある関係だろ?」

「……まあ、話が早くて助かることは確かか」

 普通はコネか十分なカネがないと、こんな装備は融通してくれねえもんな。

「まあ、とにかくいい装備を回してくれて助かった。ガンガン潜ってイイモノ流してやる」

「おう、詳しい事情はあえて聞かないが、ひとつだけ教えてくれねぇか? アルよ」

「なんだ」

「お前さんのその格好、幼女化の呪いでも喰らったのか?」

「ただの転職だよっ!」

 ちゅーかそんな呪いあるのかっ!?



 何にしろ、店のオヤジにはすぐにばれたってことは、あいつらにもすぐばれる可能性が高いよな。もう少し、見た目を変えるべきだろうか。

 ……少なくとも、あいつらと肩を並べて戦えるだけの力を手に入れるまでは。ばれたくねぇな。

 まあ、装備は整ったし。先立つものを手に入れるためにもとっとと奈落(アビス)に潜るとしようか。

 オレは店のオヤジに硬く口止めして。

 迷宮へと向かったのだった。



 ちなみに。後日知ったところによると。

 店のオヤジがオレの正体に気が付いたのは「鑑定」のおかげだったらしいのだが。

 この時のオレは全く気がついちゃあいなかった。

★一言メモ★


アル「……見た目は結構変わってるはずなんだが、やっぱ知り合いだとすぐにバレるか。リュウにたちに笑われたくねーから、なんかごまかす方法考えなきゃな」


ボルタ(商店のオヤジ)「気になって鑑定するまで、アイツがアル本人だと気付かなかったぜ……。てか、アイツは否定してたがやっぱ、アレって幼女化の呪いだよな? なんか流行ってるらしいし」


★設定殴り書き★


【呪われた装備】:

 奈落では魔法の装備が見つかることがあり、中には特定の条件を満たさないと呪われてしまうものがある。呪いの内容は「防御力が下がる」「常にHPが減り続ける」など様々ではあるが、共通的には「その装備を外せなくなる」といったデメリットがある。呪われてしまった場合には、寺院でお祓いをしてもらうか、【解呪】の魔法で呪いを解くことができる。いずれの場合も呪われた装備は失われてしまうので注意が必要。

 また、呪われた装備とはいえそれでも魔法の装備であることから、多少のデメリットは受け入れてでも有用な効果がある装備もあり、このため商店では普通に売買されている。

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