2、「あるいは天職」
魔??女 Lv1 種族:人間? 年齢:??
HP:1685
MP: 666
筋力 : 8
知力 :18
信仰心: 8
体力 : 8
敏捷性: 8
運 : 8
魔法:---
詠唱:---
杖 :---
棍 :255
格闘:255
命中:255
回避:255
「……オレの、筋肉が」
当然のように、転職したらステータスがめっちゃ下がった。
同時に。
自慢のオレの筋肉も、キレイさっぱり無くなってしまった。
転職とかしたことねぇからすっかり忘れてたんだが、普通は転職するとその職業に関係ないステータスは種族基本値までさがっちまうんだったわ。
アホかー、オレ。何がオレ魔法使いで戦士やりゅぅ!だ。よく考えなくたって、魔法使いがブラジオン持てるわけねーだろっ!? それ以前に、飛び出してきたわけだし、今さら部屋に愛棒取りに戻れるわけがねぇしっ!
「……めっちゃへこむ。ってか鏡に映ってるのが自分とは信じられねぇな」
転職の魔法陣のそばには、全身が見える鏡が据え付けられている。
転職すると今までの装備が使えなくなるので、オレもあらかじめ借りた布の服に着替えて転職の儀式をしたんだが。布の服をはち切れんばかりに押し上げていたオレの筋肉は影も形もなく。服はぶかぶかになって肩がずれていた。ってか乳首見えてる。はずかちー。
「……服とか全部買い直しかよ、つれぇな。しかしほんとにコレがオレかぁ?」
鏡に顔を近づけて、じっと覗き込む。
いやまぁ、よく見ると面影が無くはない、のか?
ゆるくウェーブのかかった銀色の髪はそのままだし。顔もすっきりしてしまってほとんど別人だが、目の色が変わったわけでもないし。
けど、なんかずいぶん背が縮んだような? オレ身長170はあったはずなんだが、これ120くらいまで縮んでね? 服ぶかぶかになったのは筋肉が無くなったせいばかりでもなさそうだな。
ってゆーかさぁ。
なんてゆーか、オレ、ずいぶん幼くなったように見えるんだが。普通は転職すると肉体年齢は加算されるもんだが。……なんか若返ってねぇ? ステータスの年齢も??とかなってるし。
「……ってゆーか、オレ、結構な美少女に見えるんだが?」
いやもう実年齢的には少女っていう歳じゃないかもしれんが。大胸筋と区別がつかなかったオレのおっぱいもちゃんとふくらんで見えるし。両手で触ってみるとちゃんと柔らかくってびっくりした。オレ、ちゃんと女だったんだなーって今さらながらびっくりした。
筋肉の鎧が無くなっただけで、スッゲー華奢で小柄な美少女に見える。手とか足とかこれで生きていけんのかって心配になるくらいほっそいんだが。
やべぇな。
お洒落に興味なんてなかったが、ちょっと紅でも差してそれなりの服着たら、まあ見られるんじゃないかね? ははっ。リュウのヤツ今のオレの姿見たら絶対指さして大爆笑だなこりゃ。
「あー。あー……あはは。いや、わらえねーか」
……つーか思いっきりやっちまった感がある。
転職の魔法陣で儀式をしただけでは、まだ完全に魔法使いになったとは言えない。
戦士の時には一通りの武器を全て扱えるようになるまで朝から晩まで数か月は訓練したものだったが。魔法使いとか僧侶なんかの後衛の場合、最低2つの魔法を覚えるまで訓練場を卒業できないんだよな。場合によっちゃあ、転職したものの才能がなくて魔法が覚えられず、結局さらに別の職に転職し直す奴まで居るとかいう話。
逆に言うと、魔法を覚えさえすれば即日訓練場を卒業できるらしいんだが、どうだかな。魔法理論がどうとかオレに理解できるとも思えねーんだが。
……まあ、もう転職しちまったわけだしどうしようもねーな。
ぶかぶかになった上着がそのままローブと言い張れそうな気がしてきたので、帯だけ締め直して見た目を整える。おっぱい見えてんのは流石にまずいので、襟元をちょっと絞ったらリボンみたいになった。へへ、ちょっとだけお洒落だぜ。
微妙に裾が短い気もするが、まあ、見られても減るもんじゃねーしな。いや、ぱんつもサイズが合わなくて脱げてんだが。
まあしばらくは大丈夫だろ。って、毛も生えてねェし。マジ若返ってんな……。んー、ってことは生えてきた年齢から逆算すると今のオレの肉体年齢は、12、3ってとこか。やべえな。
犯罪じゃねーか。
理由はわかんねーけど、まあいいわ。若い方が魔法も覚えやすいだろーしな。
とりあえず、荷物をまとめて転職の間から出ることにする。着の身着のままで飛び出してきたが最低限の装備はしてたんで結構重い。なんとか引きずることはできるが、装備すんのは絶対無理だなこりゃ。まあ、重すぎる以前にぶかぶかで装備できねぇんだが。おっぱい隠れねぇし。
……装備を重いと感じる日が来るとは、悲しいぜちくしょう。どうせもう装備できねーし、下取りに出してもう少しまともな服買おう。
ふぃー。とりあえず気持ちを切り替えていくぜー。
「教官殿、無事転職できたぜー。今から魔法の訓練って出来るか?」
声をかけると教官がなんかぎょっとした顔をしてたが、まあ筋肉ダルマが入って出てきたのがロリ美少女だったらおどろくわな。びっくりさせて、さーせん。うひっ。
一応やってるらしいので教えてもらった場所へ行く。
真夜中だってのにご苦労様だねぇ。
「考えるな、感じろにゃー」
魔法の教官は、猫獣人だった。
ハズレかよ。魔法が一番不向きな種族じゃねーか。知力の種族基本値がよん?しかないだろ。
そんながっかりが顔に出ていたのか、ネコミミ教官はむっとした顔をした。
「夜中に来てぜーたく言うにゃ。猫は夜行性だからあちしが夜勤なのにゃ」
「すまん。とにかく魔法教えてくれ」
「これが呪文一覧にゃ。初心者は【着火】【地図】【隠れ身】あたりからやってみるにゃ。まともに冒険の役に立ちたかったら、【眠りの雲】と【小炎】あたりは必須だけどにゃ」
「んー、順番とかどうでもいいわ。呪文唱えるだけでいいのか?」
「呪文唱えるだけで魔法使えたら教官なんかいらないにゃ」
「それもそうだな。じゃあ、どうやって魔法使うか教えてくれ」
「んーってやって、にゃー!って感じにゃ」
「ふむ? んーってやって、はぁああああああっ! ってこうか?」
指先を的に向けたら。
なんかすっげえでかい炎の塊が出たんだが。
しかも、なんかまだどんどんおっきくなってるんだが。
「……これ、どうすりゃいいんだ?」
「……おー。おー? なんかすっごいにゃ!」
教官も首を傾げている。
「的に向かって投げつけりゃいいのか、コレ?」
「それ的に当てたら壁ぶち抜きそうだからやめろにゃ。ここは初級魔法にしか対応してないにゃ。だから、これにぺってするにゃ。ぺっって。毛玉吐くみたいに」
ネコミミ教官がどこからともなく大きなゴミ箱っぽいのを取り出して、中を指さした。
「オレ人間だから毛玉とか吐いたことねーわ。ってかこんなんゴミ箱にいれて大丈夫なんか?」
「つべこべ言わずにぺっ、するにゃ。それともお前ごとぶち込むにゃ?」
「さーせん」
汚ねぇゴミ箱に押し込まれたくは無かったので、言われるままに、唾を吐く様な感じで指先をゴミ箱の中に向ける。
すると、ネコミミ教官がオレの指先ごとフタを閉じた。
「いってっ!? 指挟んだだろっ!?」
とたんにものすごい爆発音がしてゴミ箱がガタガタ震え、わずかに隙間から黒い煙を吐き出した。
「ってかゴミ箱すげぇ。あの炎に耐え切るんか……。それとも見かけだけでオレの魔法大したことなかったんかね。オレまだ魔法使い未満だしなー」
「まあにゃー。このゴミ箱は産業廃棄物から獣人だからとあちしをバカにする生意気な訓練生の死体まで、なんでもぶち込んで証拠隠滅……無かったことに出来る優れものだにゃー」
「こえぇこというなよ」
……まさかオレごとゴミ箱にぶち込むとか言ってたのって、マジだったのか?
「ちゅーかお前は何の魔法使ったんにゃ? 今のは炎系最上級レベルだったにゃ」
「教官がんーってやってはーっていうから、その通りにやっただけだぜ」
「……アレで魔法使えるようになったヤツはお前が初めてにゃ」
「そんなんで教官名乗んじゃねぇっ!?」
ネコミミ教官はにゃっはーと笑って、三角の耳をぴこぴこ揺らした。あざといなっ。
「そうすると【着火】でアレだにゃ。ついでに【地図】とか覚えるにゃ。【地図】は、んーってやってぴきーん!って感じにゃ。頭の中に周辺の地図が浮かんでくるにゃ」
「んーってやって、ピキーン! ってこんな感じか」
こめかみのあたりに稲妻が走るイメージでやってみると。
ふむ。なんか頭の中にこの訓練場の様子が立体的に浮かんでくるな。どこに誰が居るのか何があるのか、手に取るようにわかる。あと近くにいるとほとんど透けて見えるレベルでわかるな。
「教官」
「なんにゃ?」
「あんたそんなぺったんこなのに胸パッド入ってんだな。パッドの意味なくね? もっと盛ったらどうだ」
「……魔法使いのローブにだって胸部に補強が必要なだけにゃ。決して別の意図はないにゃ。わかったにゃ? わかたにゃ? わかにゃ? にゃ?」
「そんな何度も念押しすると逆に怪しいぞ?」
「うるさいつるぺた幼女の癖に生意気なっ! 撫でまわすぞっ!?」
「語尾にゃを付け忘れてるぞ教官。ってか、つるぺたゆーけど、オレ教官よりはおっぱいあるぞ?」
さっき自分で揉んで確かめたしな。
「お? 生意気にゃ。ちょっと確かめさせろにゃ」
「ぎゃーっ!? 揉むな触るな、舐めるなーっ!? 舌がザラザラすりゅっ!?」
……まあ、いろいろあったが。意外とネコミミ教官の教えはオレに合っていたらしい。
どこまでネコミミ教官の感覚的な教えについてけるか試してみたところ。オレは呪文レベル4までの魔法使い呪文を全て修得してしまった。呪文レベルは最大で7までだから半分以上だな。
オレまだ魔法使いレベル1なんだけどなっ!
しかも威力は呪文1レベルの【着火】で炎系最上級の【炎獄波】クラス。
自分でも信じられねぇが、オレ、魔法使いの才能とやらがあったらしい。
……まあ、それでもオレの心は戦士のままなんだがな。
というわけで。
魔法を覚えて訓練場は卒業なので、奈落に潜るために装備を整えなきゃな!
ちょっと仲良くなったネコミミ教官にお古のローブもらったんで、丁度お日様ものぼってきたことだしいつもの店にいくぜっ!
★一言メモ★
アル「オレ、意外と魔法の才能あるのかもしれねーな。いやいや、心は戦士のままだからなっ!」
ネコミミ教官「なんかスゲーのに関わっちまったにゃ。んむ、酒場で期待の新人が生まれたって宣伝しとくにゃ。アイツはあちしが育てたって自慢になるにゃ」
★設定殴り書き★
【呪文の修得】:
魔法を使用できるクラスは、基本的にレベルを上げることにより呪文を修得してゆく。
呪文には1-7のレベルがあり、例として奇数レベルごとに次のレベルの呪文を修得できる可能性がある。例として魔法使い1レベルで呪文レベル1、3レベルで呪文レベル2…、13レベルで呪文レベル7という感じになる。このため13レベルがとりあえずの才能の有無の目安となっている。13レベル以降も奇数レベルごとに呪文習得の可能性がある。
またあくまでもレベルは目安であり、そのレベルになったからといえ、そのレベルで覚えられる呪文を全て修得できるとも限らない。呪文レベル1の【地図】を10レベルになっても覚えないなんてことはざらにあったりする。
ちなみに作中の主人公が1レベルで呪文レベル4まで修得しているのは、理由はあるものの、まあご都合主義による主人公補正というやつである。