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27、「リュウの勧誘」

 先に立って歩き始めたリュウのやつは、なんだか妙にそわそわと落ち着かない様子で。たまにオレの方をチラチラと振り返ってくる。

 ……心配しなくてもちゃんとついてくんだがな。

 おそらく行先は探索者の酒場だろうし、そうすると他のパーティメンバーもいるだろうから、少しばかり気が重いのは確かなんだが。

 まあ、オレ自身、鏡見て本人かどうか疑ったくらいに見た目は違うからな。別人で通すことは可能だろ。

 ……大丈夫だよな? あーちぇとか、普段の言動がオカシイくせにたまに妙に鋭いことあるからちょっと心配なんだが。

 うむー。

 いろいろ考え込んでいると。

 沈黙に耐えられなくなったのか、リュウが立ち止まって振り返った。

 こちらも立ち止まると、リュウはためらいがちに口を開いた。

「あの、さ。ところで、あいつは、アルのヤツは、元気にしてるのか? ちょっとした行き違いがあって、出て行ったままでさ、気になってたんだが」

「……」

 お前の、目の前に居るよ。

 でも、まあ。

 もう二度と。あのアルにお前が会えないことは事実なんだよ。

 黙ったまま、そっと目を伏せる。

 それだけで何かを察したのか、リュウがぐっと、息を飲んだのが感じられた。

「……嘘だろう? アイツが、アルが、死んだわけないよな?」

「戦士のアルは……死にました。もう、二度とあなたの前に現れることはありません」

 きっぱりと口に出して否定する。

 口に出して言うと、自分でも驚いたことに。とっくに自分の中で整理が付いていたことだと思っていたのに。

 戦士の自分は、もうこの世のどこにも居ないんだということを改めて思い知って。


 ――思わず、涙がこぼれた。


「ウソだ! アルが死ぬわけがない! 殺したって死ぬヤツじゃあない。君はアルの死体を確認したのか?」

「……っ」

 あまりのリュウの剣幕に、出た涙が思わず引っ込んだ。

 リュウの信頼がすげえ。パーティ組んでた時だって、オレ何回か死んだだろーが。

 でもまあ、これは、ちょっと答えに困るな。

 いったい、どう答えたものだろう。

 オレは、ウソをつくのは得意じゃねぇ。変に凝った設定を考えても、すぐに忘れてポカをしそうな気がする。

 というか、自分でオレのこと追い出しといて、元気かもなにもねーよな。

 少しばかりの意趣返しを込めて、それっぽく話を作ってみるか。

「あの日。泥酔した兄が、村を出てきたばかりのわたしの所へ転がり込んできました。訓練所で魔法使いになったわたしを鍛えてくれようとして、一緒に奈落に入り。愛用の武器もないのに油断していたんでしょうね。あっさりと2階で首を刎ねられて死にました。どれだけ体力があっても、死ぬときは一瞬ですよね」

「……蘇生は、したんだろう?」

 あまりにリュウの形相がひどかったので。

 いいえと答えるとリュウが死体を探しに行くとか言いそうで。

 あるいは、部屋に残してある髪から復活を試されても嘘がばれそうだし。

 本当はボッタクリオヤジに言ったように、蘇生に失敗して装備を売り払ったことにしようかと考えていたんだが、少し修正を加えることにした。

「……蘇生は成功しましたが。たかが2階のザコに殺されるようじゃ、もう探索者はやっていられないと。奈落で通用しなくとも、田舎じゃあ戦士Lv50というのは十分以上ですし。村に帰ることに」

「……そうか。やっぱり、俺のせいなんだろうな」

 深く息を吐いて。

 リュウがオレをじっと見つめて来た。

 ……リュウにじっと見られると落ち着かねーんだが。

「君たちの村の場所を教えて欲しい。会いに行って連れ戻したい」

「……追い出したのはあなたじゃないですか。今さら何を言うんです?」

「誤解が、行き違いがあったんだ。あいつ、酔っぱらってて人の話を最後まで聞かないから」

「レベルの上がらない戦士が不要という言葉に、誤解も行き違いもないのでは? 連れ戻してどうするんですか。無理矢理、戦士から転職でもさせる気ですか?」

「……それは」

 実際、酔いが醒めて、冷静になったあとで考えると。

 レベルがこれ以上、上がらない戦士というのが、あのパーティにとって将来的に不要になるのはオレ自身理解できた。……だからトチ狂って魔法使いに転職しちまったわけなんだが。

 せめて、リュウの記憶の中では、戦士のままのカッコイイオレであってほしい。

「……だから、兄のことは戦士のままでいさせてください。そっと、しておいてください」

「……そうか」

 リュウは黙って、歩き出した。その背中が、妙に煤けてる。

「こちらからも、聞きたいことがあるのですが」

「……なんだい?」

「兄が、アルが居なくなったあと。探索は?」

「俺たちは75階層をクリアしたところだった。流石に5人では難しくてね、アルが戻ってくるまで臨時のメンバー探そうとしていたところだったんだが……」

 リュウたちもなさけねぇな。

 案の定、オレという戦力が抜けただけで探索できなくなってやがるし。戦士不要とかいいつつ、結局オレの愛棒頼りだったんじゃねーかよ。

 ちゅーか。どーすっかな。

 リュウのやつが、気がついてないなら。オレが、オレの代わりにパーティに入るのも……。

 いやいや。オレ、リュウに追い出されたんだぞ?

 かといって、オレが抜けたせいでリュウたちが探索出来ないってのも気が引ける。

 それに、いくらオレが魔法使いで強くなったとはいえ、オレとミルクの二人だけでは潜れる階層もたかが知れているだろう。パーティを組まないといつかは行き詰る。マリちゃん先生みたいな実力があれば、ソロで何百階層っていけるんだろうけどな。

 うーん。

 でも、オレの方からパーティに入れろとお願いするのもなんだかな……。

 なんて考えていたら。

「いきなりですまないが、アリスティアちゃん。君、俺たちのパーティに入る気はないかな?」

 リュウの方から勧誘してきたんだが?

 こいつ、オレのことを新人魔法使いだと思ってるはずなんだが、レベル75前後のパーティに誘うとか、頭おかしくねぇ?

「本当にいきなりですね。訓練場出たての新人を75階層に連れて行く気ですか?」

「いきなり深層につれてくなんてことはしないさ。ただ、俺は、いつかアルが帰って来てくれることを信じている。だから、それまでの間、アルの代わりに君の面倒を見させてほしい」

 リュウが、きりっとした眼差して。かっこつけるように小さな笑みを浮かべた。

 ……まさかと思うんだが。

 オレ、こいつに、ナンパされてねぇ?

 体よくパーティに誘うといいつつ、なーんか違う意味で狙われてる気がするんだが。気のせいか? なんか、妙に熱い眼差しがちょっと気になるんだが。

「……ありすてぃあ、やっぱちょんぎるです?」

「大丈夫よ、ミルク。妙なことされそうになったら自分でちょん切るから」

 まあ、パーティに加わって。直に今のオレの強さを見せつけるってのもそれはそれで悪くはない話だし。けど、あんま素直に頷けねェな。

「もしかして俺、警戒されてる……?」

「高レベルパーティが、ド素人の新人、しかも年若い少女を勧誘するって、下心を感じない方がおかしくないですかね? とりあえず、保留にさせてください」

「あー。参考までに、君たちってレベルはいくつくらいなんだい?」

「……」

 そう言えば。

 寝不足でふらふらしてたせいですっかり確認忘れてた。

 あれだけ戦ったんだし、そこそこレベル上がってると思うんだが。

 ……ステータスを見るのがちょっと怖い。

 一回メタルドロップどもを片付けた時、35まで上がってたのは確認した覚えがあるんだが。

 50の壁は、今度こそ超えられたんだろうか。

 やっぱ戦士の方が天職で。魔法使いは50にも届かないで限界になってたりしないだろうか。

 あれだけ戦ったんだから、せめて50には届いてると思いたいが。

 いや、もしオレに魔法使いの才能っていうものがあるならば。

 50の壁くらい、軽く超えてたっておかしくはねぇ、と、思うんだが。

 ……不安だ。

「……何か、聞いたらまずかったかな」

「……いえ。ミルクは、45レベルでしたっけ?」

「なのです!」

 実はミルクとは一緒に行動してるだけでパーティ組んでるわけじゃあないので、経験値はそれぞれで入ってるんだよな。パーティ組んでると頭割りになるんだが、そもそも魔物とパーティ組めるか良くわかないし。試したら普通に組めそうな気もするけどな。

「ミルクちゃん、案外、レベル高いんだね」

 リュウはちょっと驚いた様子だった。

「アリスティアちゃんは……?」

「……ええと、わたしは、です、ね」

 ええい、ままよ! 迷ってても仕方ねぇ!

 オレはステータスを開いて。

 薄目で、そーっと覗き込んだそこに――――50の文字をみた。

 ……あはっ。なんだよおい。

 転職したところで、結局50の壁は越えられねぇってか。

 いや、50レベルにまで達したってことは、やっぱり魔法使いとしてもそれなりに才能はあったってことなんだろうけどさ。


 泣き笑いで、もう一度ステータスを確認しようとして。


 魔王少女 Lv504 種族:魔族 年齢:14


 ……え?


 思わず目が点になった。

★一言メモ★

リュウ「……アルはきっと帰ってくるさ。それまで代わりにアリスティアちゃんを立派な探索者に」


アリスティア「(……魔王少女ってなに? Lv504て、どういうこと!?)」

ミルク「……ごはんはまだなのです?」


★設定殴り書き★

【部屋に残された髪】:

 灰からすら復活可能な蘇生魔法があるこの世界では、探索の前に髪をひと房、知人に預ける慣習がある。それは死体すら持ち帰れなかった最悪の場合、この残された髪を元に復活を試みるためである。

 ちなみに死んでいない場合には確定で蘇生に失敗するため、生死確認の手段として使われることもある。


【魔王少女】:

 魔王の少女、以上。魔王幼女、魔王熟女。魔王老女といった亜種も存在するかも?

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