ぷろろーぐ
見切り発車。長くても30話くらいで、あらすじ回収したところで終わる予定デス。
「こいつでトドメだっ! 死ねぇっ!」
「ギャース!」
オレが全力で振り下ろしたブラジオンが、75階層の主である巨人の頭を完全に粉砕した。そのまま勢い余って本来砕けることがないはずの迷宮の床まで打ち砕く。
はっはー! やっぱオレの愛棒はすげえぜ! なんつったって、重さは破壊力だかんな!
オレの愛用している棍棒、愛棒たるブラジオンは、世界一重いズッシーリ石の周りをメチャカテェ鋼でコーティングした史上最強の棍棒なのだ。つーか重すぎてオレ以外に使える奴がいねーんだよな。装備すんのに筋力24必要とか人間の種族限界値超えてっから。
まあ、何にしたってオレの筋肉にかなうものはねぇ!
人間には扱えないはずのブラジオンをひょいと肩に担いで振り返ると、パーティメンバーが親指を突き出して来たのでオレも拳で胸を叩いて返す。
「んじゃ帰るか! ぱーっと打ち上げしようぜ!」
この階層はとにかくデカブツが多くて探索大変だったからなぁ。美味いもの食って酒かっくらいてぇわ。
そんな浮かれるオレの肩に。
パーティリーダーのリュウがぽん、と軽く手を乗せた。
「あー。浮かれてるとこすまんが。……アル、後で少し話がある」
「ん? なんだ。今この場でいゃぁいいじゃねぇか」
首を傾げるオレの耳元に口を寄せて、リュウは囁くように言った。
「……後でな。打ち上げの後、お前の部屋に行く。真面目な話だ。飲み過ぎて寝るなよ?」
「お、おう?」
いったい、何の話だよ。
……まさか愛の告白とかでもされんじゃねーだろうな? ケツの穴がきゅってすんだが。
パーティメンバーと飲んで騒いで、75階層突破を祝ったあと。
自分の部屋に戻って仰向けにベッドに倒れ込んだところで、すぐに扉をノックする音がした。
「リュウか、開いてるぜー」
やべ、ちょっと飲み過ぎたかもしれねぇ。うつ伏せになったらゲロ吐きそうだわ。水飲みてぇ。
「……夜中にすまんな、アル」
リュウは酒瓶を片手に部屋に入ってくると、ベッドのそばの椅子にどっかりと腰かけた。
「おう、んで、二人っきりでなんの話だよ? オレに愛の告白でもすんのか? んー? へへっ、どうすっかなー。お前なら……考えなくもないぜぇ? うひ」
やべ。なんかさっきから妙にケツの穴がきゅってする。まさかと思うが、オレ実はアルにヤられること期待してんじゃねーだろな? 酔い過ぎだな。はっはー!
「……アホか。俺にはそんな趣味はねーよ」
「んだよおい、趣味じゃねーとかひでぇな! 何年一緒につるんで来たよ? まあ確かに今さらって気はすんだが……」
ふむ。なんで少し残念に思ってるんだろうな、オレ。
まあいいや。愛の告白とかじゃなかったら、何の話なんだろうな。
「……んじゃ、そんな深刻な顔して何の話だよ、リュウ? 仲間のいないとこで、二人きりで話なんて」
打ち上げの最中もリュウはほとんど酒を飲まずに、何か悩んでいるようだった。
起き上がってベッドの上で胡坐をかくと、リュウが酒の入ったグラスを突き出して来たので受け取って一気にあおる。
ぷっはー。リュウのやつ奮発したな。これさっき飲んでたのよりずっといい酒じゃねぇか。
「なあ、アル。今日で、俺たちは75階を超えた」
「さっきまでその祝い酒のんでたろ? それがどうしたよ」
「……レベルは、上がったか?」
「……」
言葉に詰まる。
オレのレベルは。2年前に戦士50レベルになったのを最後に――全然上がっていなかったのだから。
「いいかげん、認めたらどうだ。お前、もう、戦士は成長限界なんだろう?」
「ぐっ」
一気に酔いが醒めた。
「……レベルは50から急に上がりにくくなるだろ。そのせいさ」
自分でも、それがもう言い訳として通じないことは身に染みてよくわかっていたが。それでもオレは、その言い慣れた言葉を返すしかなかった。
オレに、もうこれ以上先がないことを、認めるわけにはいかないのだから。
「……確かにレベル50を境に急激にレベルが上がりにくくなるのは知っている。俺だってもう聖騎士のレベル73だしな。それまで順調に上がっていたレベルが、50になったとたん半年も上がらなかった時には、俺だって成長限界が来たのかと焦ったさ。だからアルの気持ちも分かる」
「なら、もう少しくらい待ってくれよ。戦士はオレの天職だ。今はまだちょっと限界を超えるのに経験値が足りてないだけだろ? オレぁ50になるまでが早すぎたんだ。その分時間かかってるだけだって」
「……2年も待った。もう十分だろう?」
リュウは酒瓶から直接を酒をあおると、大きく息を吐いた。
「これ以上は、もう待てない」
「そんなこと言うなよ。今日だって、オレが大活躍だっただろ? オレはまだまだやれるし、これからだってこの先だって、ずっとやって行けるさ! 史上最強の愛棒だってあるしな!」
壁に立てかけてあるブラジオンを指さして胸を張る。あまりに重いので床が抜けないように1階か地階にしか泊まれないというデメリットはあるがそんなの大したことないしな。
「アレはオレにしか振えない。うちのパーティの最大戦力だろ?」
「ああ。確かにアル、お前は強いし、”今は”パーティの最大戦力だろう。75階まで危なげなく戦えていたし、一般に階層数が適正レベルとはいうものの、50レベルのアルでも、もう少し先までは一緒に行けるかもしれない」
「だったらっ!」
「――だが、俺たちは、奈落の底を目指している。そうだろう? 最下層が何階かも不明な、世界一深い迷宮だ。この先、ずっと今のままの成長しないお前だと、いつか必ずついて来られなくなる。それは絶対確実で、どうしようもない。だよな?」
諭すように、リュウが言う。
オレにとって、認めたくない事実を。
「――戦士のお前とは、これ以上、奈落を探索出来ない」
「それは、オレが要らないっていうことか?」
さーっと、血の気が引く音が聞こえた気がした。動悸が激しくなって、目の前がチカチカと明滅し始める。
「ああ。戦士のお前はもう不要だ。アルが戦士を天職だと思っているのは知っているが、天職なら成長限界にならない。……まあ、正確に言うなら限界に達する前に寿命がくるってやつだが。つまり、お前の天職は戦士じゃなかったってことだ。いいかげん、それを認めろ」
「――認められるかっ! オレの天職は、戦士だよっ! オレはこれまでずっと戦士だったし、これからもずっと戦士だっ!」
怒鳴ると、くらりとめまいがした。頭がガンガンと痛む。さっき引いたばかりの血の気が、今度はどんどん頭に上って来て怒りで目の前が真っ赤になる。
「50レベルというのは一般に成長限界としては高い方ではあるし、中層をメインに探索するなら戦士のままでもいいだろう。だが、奈落の底を目指す俺たちには不要だ。だから……」
「出て行けってか。そうか、そうかよ……」
まさか、リュウにそんなことを言われる日が来るとは思わなかった。
訓練場で一緒に戦士の訓練をした仲だった。訓練場を出た日に、酒場で気の合う仲間たちを集めてパーティを組んだ。
いろいろあったけど、これまでずっとうまくやって来たし、これからもやっていけるって思ってたのに。
「いや、まて。アル、早とちりするな。出て行けとは言ってないぞ? 上級職なら一般に限界は基本職よりずっと高い。前衛の基本職の戦士で50までいけるアルなら、」
「ちくしょーっ! リュウのくそったれー! ばかやろー! 短小包茎っ! おたんこなすー!」
まだ何かリュウが言っていた気がしたが、これ以上何も聞きたくなかった。
オレは、耳を塞いで大声でわめき散らして。
部屋を、飛び出した。
★一言めも★
アル「リュウのばかやろーっ!」
リュウ「なんであいつは人の話を最後まで聞かないんだ……。まあ、頭が冷えたら戻って来るだろ。……あと俺は短小包茎違うし。違うからな」
PTメンバー1「リュウとアルが二人だけで飲み直すとか。アヤシイでござるな」
PTメンバー2「リュウなら例の話するとか言ってたよー?」
PTメンバー3「ナニナニ? ついに告白とかっ!?」
PTメンバー4「……ん。アルが何か叫んで飛び出してった。ほんと、ケンカするほど仲がいいって言うけど」
★設定殴り書き★
【ブラジオン】:棍棒の一種。一般には釘バットとか、鬼の金棒みたいな形状のものを指す。当作品においては、2m近い長さの、片方がかなり太めになった金属製の棒状の武器。
【成長限界】:
クラスごとに定められた限界レベルのこと。
才能が有るほど限界は高くなる。魔法使いや僧侶がレベル13でレベル7呪文を覚えるため、このレベル(通称マスターレベル)を超えられるがどうかが才能の有無の目安となる。また、本当にまったく、これっぽっちも才能がない場合は、ステータスが足りていてもそのクラスに転職すらできない(限界0レベル)。
転職前に成長限界を知るすべがなく、実際に転職してレベルを上げるしか確認する方法がないため、中途半端に才能があると苦労する羽目になる。
30レベルを超えると一般にはかなり才能がある方とみなされるが、奈落の奥を目指す探索者たちにとっては30レベルなどはまだまだ駆け出し扱いである。
また基本クラス(戦士系・盗賊系・僧侶系・魔法使い系)に対し、同系統の上級クラスは成長限界が高い傾向にある。もっとも才能が無ければそもそも上級職には転職できないわけなので、当然ともいえる。