陰謀論を創作してみた
陰謀論は読んでみると意外に面白い。
断っておくけど、その内容を信じている訳じゃない。ただ単に、創作物として、と言うか、“人間ってのは色々な事を想像するものだ”と思えて楽しいだけだ。
中国の工場で起こった爆発事故が、アメリカの核攻撃だって主張している人がいたり、東日本大震災が核爆弾による人為的なものだと主張している人がいたり。
もっとも、陰謀論だって決して馬鹿にできない。北朝鮮の拉致事件はかつては陰謀論の一つとして噂されていて、“荒唐無稽だ”と馬鹿にされていたんだ。因みに、北朝鮮による拉致に対して警鐘を発するような漫画が、発覚のかなり前に発表されているらしい。“創作物”という形で北朝鮮の犯罪を訴えたかったのではないかとも言われている。
他にも陰謀論のような話が本当だった事はある。
読売新聞社を成功へと導いた正力松太郎は、なんとCIAのエージェントであった事が知られている。
“事実は小説より奇なり”って事もあるものなんだ。
僕はそんな陰謀論を眺めるうち、ふと陰謀論を自分でも創作してみようかという気になった。
新型コロナ(以降、コロナ19)関連でちょっと思い付いてしまって、思い付いてしまったなら、なんだか書きたくなってしまったものだから。
“創作です”と断った上でBBSに書くくらいなら許される範囲だろう。
タイトルは『コロナ19“新”生物兵器説』。『とんでもない秘密を知ってしまった』と僕はそれを書き始めた。
『俺は情報技術関連の企業で働ているんだが、中国企業とも取引がある。中国の企業が国と密接に繋がっているケースが多いってのは知っていると思うが、その伝手で信じられないような話が入って来たんだよ。
コロナ19生物兵器説は知っているよな?
コロナ19は、中国で製造されていた生物兵器が漏れてしまったものじゃないかって説だよ。
だが、この話は間違っている。
いや、コロナ19が生物兵器だってところまでは本当だ。間違っているのはその後の部分。コロナ19は“漏れて”しまったのじゃないんだよ。意図的に中国当局によって散布されたんだ。
こう書くと、“どうして自分の国を攻撃するんだ?”って疑問に思う人もいるかもしれない。
だが、その理由は簡単だ。
自国が被害者になっておけば、世界中に広まっても、それが“意図的な攻撃”とは疑われ難いからだよ。
まぁ、いわゆる“苦肉の策”ってやつだな。
まずは自国でコロナ19を蔓延させておく。世界と自国が繋がった状態でなら、そうすればコロナ19は世界中に広がるだろう。そして、充分に広がったなら、自国では防疫を行って感染を封じ込める。
元々、自国の研究機関で研究されていたウィルスだからな。封じ方だって知っているんだ。中国がコロナ19のワクチン開発が早かったのもだからだよ。
この効果は言わなくても分かるよな?
他の国がコロナ19で苦しんでいる間、中国は問題もなく経済発展ができる。開発したワクチンで“援助”を申し出れば、発展途上国を抱き込めもする。
デメリットよりも、そういったメリットの方が大きいと中国は判断したんだよ。だから、自分達も被害者の振りをして、コロナ19を世界中に広めた。
中国の武漢で、未知の病原菌ウィルスの存在に警鐘を発した医師が逮捕されたろ? しかも、死んでいる。
あれは中国のコロナ19による世界攻撃作戦の邪魔をしたから排除されたんだ。あの段階で世界に発表されて警戒されたら、計画が失敗に終わるからな。中国と深い関係にあるとされるWHOが、感染発覚初期、呑気としか言えなかったのも同じ理由だ。早い段階で警戒されたら失敗に終わるから。
因みに、台湾が迅速にコロナ19に対応できたのは、中国と繋がりが深いお陰で、この情報を秘密裏に手に入れていたからだ。
コロナ19という生物兵器のターゲットは、ほぼ全世界だが、その中でも特に重要なのがアメリカなのは言うまでもない。コロナ19は西洋社会により感染が蔓延し易いようにできている。だから、西洋諸国が一番被害が深刻だろう?
ただし、だからといって、この日本が主要なターゲットから外されているって事はない。日本もそのうちの一つだ。
こう考えると、コロナ19の感染が広まり始めた当初、日本政府の対応がとても緩かった理由もよく分かるだろう?
カジノ法案の賄賂事件でも話題になったが、日本政府の中には、中国と繋がった人間がいる。そういった連中が、中国に協力して日本にコロナ19ウィルスを広めようと画策していたんだよ。PCR検査が日本でそれほど行われない理由も恐らくはそれだろう。
強固に原子力発電所を広めようとする一派が日本にはいるが、実はこれも中国絡みだ。
中国はアジア最大のウラン資源国で、北朝鮮にも莫大がウラン資源が埋まっているとされている。だから、ウランを燃料とする原発で勝負しようとすれば日本に不利になるんだ。
また、軍事面でもまずい点がある。
中国は電磁パルス攻撃を既に実用化していて、インドとの小競り合いでも使用したらしいんだが、この電磁パルス攻撃を受けると原発は制御不能に陥る危険がかなり高い。
しかも、この電磁パルス攻撃は、攻撃範囲が広いんだよ。
原発が危険なレベルで密集している場所が日本にはあるが、もしそこに電磁パルス攻撃をされたら下手すれば国が滅びる。
一応断っておくが、実際に電磁パルス攻撃が使われなくなても充分に脅威だ。日本が原発を推進してしまったなら、外交面で中国がかなり有利になるだろう。
だから、中国は日本の原発推進を望んでいて、裏ではこっそりと応援しているんだよ。福島原発事故なんて凄まじい事故があったのに、まだしつこく原発を推進している連中が日本にいる原因の一つがそれだな。
意外に思うかい?
でも、日本が社会主義っぽいって指摘はもう随分前からされ続けているんだぜ?
ま、信じる信じないは自由だけど……』
「ふぅ」と書き終えると僕は大きく息を吐き出した。
陰謀論を書くのが思った以上に面白かったものだから、熱中してかなりの長文になってしまった。ただの思い付きのデタラメなんだけど、それなりに説得力がありそうな感じになっているような気がする。
こういうのを書いていて思うけど、都合の良い事実だけを組み合わせれば、ある程度自由に“説得力のある説”ってのは創り出せてしまうものなんだ。
という事は、つまりは、自分が(或いは、自分以外の誰かが)、どんな願望を抱ているかって点が、その説自体よりも重要なのかもしれない。
多分、巷に溢れている数々の陰謀論も、そんな感じで生み出されていったものなのだろう。自分が望んでいる現実を創り出そうとする人間の悲しい性質。
まぁ、という事は、僕は心の何処かで中国を悪者にしたいと思ってしまっているのだろう。
気を付けないといけないかもしれない。
それからしばらくが経った。
友人からメールが送られて来た。
『面白い話を見つけたんだ。コロナ19生物兵器説の新説だ』
その友人は僕が陰謀論を楽しんでいることを知っているんだ。だから、親切に教えてくれたのだろう。
「さて、今度はどんな陰謀論かな?」
僕は好奇心を刺激されて、その友人のメールにあったリンクをクリックしてみた。そして、それを読んでみて目を丸くしてしまった。
「……これ、僕が考えたあの陰謀論じゃないか」
そう。
誰がどう使ったのかは分からないが、僕が考えたあの陰謀論が、ネット上で真実として噂されていたのだ。
しかも、原発の部分はカットされていた。多分、転用した何者かにとって都合が悪かったのだろう。
「はぁ」と、僕はため息を漏らす。
“どんな願望を抱ているかって点が、その説自体よりも重要なのかもしれない”
そして、改めてそう思った。
その掲示板では、その僕が創作した陰謀論をネタにして、“中国許すまじ! 親中派の政治家も許さない!”と、大いに盛り上がっていた。