表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある勇者のお話

主人公の勇者は地獄しか見ないそうなので私が幸せにしてみせます

 神と神、どちらが間違っているなんてことはないのだろう


 が、方針の一つで争いが起きる


 ――神話の時代に


 ある神は


『力を持ち自らの手で道を一人で斬り進む者こそ誠に必要なのだ』と


 ある神は


『力を持つこと必要であるが支える物があるからこそまたは支えてくれる者がいるこそ。そんな存在が必要なのだ』


 とお互いの意見理想を掲げた


 お互いの意見に対峙し、いつからか神々での争いとなった


 これが天地神闘と呼ばれる古の大戦



 人の歴史では神霊族と呼ばれる神が勝ったとされるが……


 真実は異なる


 戦争は終わっていない




 代理戦争だ


 神霊族は人に勇者を地神族は魔王を作り上げた







 本当に傍迷惑な話だ

 ホント、そうですよね~

 礼儀作法

 貴族としての在り方


 数えれば多くのことを学ばねばならないがもっと大切とされ、言われるのはこの2つなのでしょう


 私は生まれた時から貴族としての責務というものを義務とされていた


 不幸なんかではありません


 私の父も兄も母も私を溺愛と言っていいほどの愛情を注いでくれます


 もちろん私を政治の道具として他の貴族へ渡すということもあるのかもしれませんがそれを超えての愛もあると思います


 もちろん嫌、と言いたい気持ちもありますが私の幸せの下には歴々の方々が行ってきたことの結果


 私もそれを継いでいくのが普通なのでしょう


 そのために私は兄よりも多くの勉学に励みました



 5歳……いえ、6歳の頃でしょうか。私は勉学に励む中魔法に出会いました


 美しいと


 ただただ最初は思いました


 何もない空間から水を、火を、出し


 ある時には雷にて地を割る


 大いなる恵みの食物の生成にすら魔法は通じる


 美しさは感動にすらなります



 私の家は公爵家


 軍を持ちます


 その中には魔法騎士団として魔法を扱う精鋭の方々がいらっしゃる


 私はよく訓練を見学させていただきました


 小さい時から食い入るように見る私の姿は騎士団の皆さんにも認知されていました


 最初は御令嬢が見ているからと張り切っていましたが、まぁ人間ですものね、いつしか張り切ったものでなく普通に訓練というふうになっていましたが


 それでも私には本に描かれていることが目の前で現実として発現するその姿に毎日毎日感動しました


 ある日魔法騎士団長の方が父に話をしてくれました


 私に魔法を覚えさせては如何かと


 父は最初は難色を示しましたが


 私はそのことを兄から教えられいてもたってもいられず父から何度も注意され1度も破らなかった執務室へのノック無しの突撃をしてしまいました


 魔法騎士団長と父は驚いた顔をしていましたが今に騎士団長は引き下がる所でした


「ユ、ユキナ。ノックを――」

「お父様! ユキナは魔法を覚えたくあります! 魔法を覚えることは淑女たらんことかもしれませんが、高尚なる方に私は嫁ぐことになるのであれば毒味などの一手間を減じ、無駄なるお金としてあるそれを他に転ずることはその家の価値となるとユキナは考えます。もちろん貴族として雇いを減らすことも大衆への目を見るためにパーティなどではもちろん毒味の方は必要でありますし、日頃なる雇いでは他の所の雇いとして使えます」


「……ふふふ、面白いな。考えがあって、それの見方を変えればそうなるか……ふむ、魔法使いの教師を呼ぶも良いがユキナの言う無駄なるお金を出す訳にもいかん。お前が見るならば許そう」


 そう魔法騎士団長に目を配ると


「私が最初に提言致したことであります。私が責を取るのは至極当然であります」


「良かろう、ユキナ。彼女から学べ」


「ありがとうございます!!! お父様!」


「ここでは領主様だ。後でノック無しの件は教育係に伝えておこう」


「ウギュ!」



◇◇◇◇◇



 私は魔法の才があったのか教えて貰うことをドンドンと吸収していきました


 もちろん、今まで以上に勉学を励みました


 勉学をサボってまで両親は魔法を学ぶことはできないとわかっていましたから



 ある日私たち家族での旅行へ出かけました


 貴族として生まれながらに家族旅行というのは決して簡単にできることではなく


 兄ですら未だに1度、私も1度なのです


 私が生まれて3年後のあの旅行しかありませんでした


 私にとって旅行はその1度のみ、私の家の敷地から最近になって出ることを許されましたが領地外へはありません


 その旅行の時も家族旅行と言うよりも親密な貴族への私たちの顔見せに近い旅行でした


 もちろん記憶というのはほとんど朧気なので今回が私にとって初めての旅行になります



 楽しみで仕方ありません


 魔法の的の案山子を丸焦げにしたのはしょうがないことなのです


 それほどに浮かれていました



 騎士団、魔法騎士団、砲兵団、歩兵団


 各団から精鋭を選び少数での移動でした


 しかし、少数とはいえ公爵家、もちろんとして貴族以外という意味の平民の皆様への賃落としも兼ねており


 選ばれた兵の多くがバラけた宿を取り多くの宿へお金を払いました


 もちろん私たち貴族の泊まる宿は貸切に加えてその周りに多くの兵が泊まりました




 行ってパーティ、観光、また違う領地へ行きパーティ、観光


 その繰り返しを5度程し


 帰路に着きました



 私はやはりパーティは嫌いです


 他の貴族の男の方の目は怖いですし女性の方々はこちらを値定めるかのように鋭い目を向けてきます


 ある方に至っては馴れ馴れしいまでに近ずいて来ますしある方は目の敵のように作法を一々小言を言ってきます


 将来はあの中に入る……


 それだけでも心が沈みそうです


 父の上手いところは観光に力を入れてさり私や兄の心持ちを上手く操作する所でしょうか


 パーティでげっそりした私たちを連れての観光で色んな面白い名所に連れて行ってくれます


 貴族用に用意される観光地や平民用として用意された観光地


 いずれもお忍びのように連れてくださり


 本当に楽しかったです


 パーティでは私たち兄妹よりも寄ってくる人が多く気疲れも多いはずの父が私たちよりも楽しんでいて、それで私たちを楽しませようとしてくれました


 本当に幸せな時でした




 帰路の中


 ある森にて私たちに厄災がおりました


 突発的な魔物の発生


 近年魔王軍が活発化し、それに伴い魔物の活動が不安定化しており警戒が呼びかけられていました


 それにより歩兵団と騎士団で数人の先行後に私たちが通ることになっていました


 先行隊では問題なく安全に通れるはずが突如大量に発生


 各団一斉に広がり歩兵団は囮としてそれに合わせるように罠を魔法騎士団が砲兵団は一体ずつ


 騎士団は1人一体、手馴れや古参兵の方は2体3体と相手している方もいました


 私たち家族を父は守ってくださりました


 それほどに手は足りずにいました


 私や兄、母はひたすらに息を潜め震え馬車の中にいるしかありませんでした


 何とか押され気味ながらも確実に魔物を減らし押し返しに転じ始めたその瞬間


 一瞬でした


 地が震え私たち人間は止まるしかない中魔物は動き多くの命が刈り取られました


 巨大な体躯に見合う轟く咆哮


 ドラゴンと呼ばれる種族


 ひっくり返された馬車の中から見えたその恐怖の存在そのものは本に描かれた姿そのものでした


「お前たち……逃げろ、私はここに残る」

「あ、あなた!」


「父さん!?」


 ひっくり返された馬車を独りでに元に戻す父は私たちそう告げました


「今、戦力は減らせない、この私も戦力として数えるだけの力がある。今ここでお前たちもいなくなるのは痛手、何年も守ってきた家そのものが無くなるのは避けたい」


「じゃ、じゃあ私も」

「ならん、これは私……いや、父としての願いだ。ユキナ、幸せになれ」


 そういうと父は母に口付けをし、後ろを振り返ることなくドラゴンへ好き進んで行きました


「領主様」

「よい、私の後任はいる、が死ぬ気はサラサラない。共に行く」

「「申し訳――」」

「いらん謝辞だ」


 この時ほど父の顔を見なくても大きく恐ろしいと思うことはありませんでした


 それほどまで殺気を放ち


 進んでいくその姿は勇ましくかっこよかったのです










 が、それすらも霞みました




雷光の棘雨(ライトニングスパイン)


 目が眩む激しい光が辺りの魔物を正確に穿ち


 ドラゴンには何重もの閃光が落ちました


 正確には目を瞑っていたので光の間隔での判断ですが目を開け視界が戻った時にドラゴンの表皮に焼け焦げた後がいくつも残っていたので確かなことに近いのでしょう


「生きてるか……炎系はダメだとして……光は……やめといて……水で行こう。水刃」


 聞こえる魔法の言葉とは裏腹凶悪なまでの威力の魔法が飛んでいく


 水刃は水系統の魔法の中基礎に近い


 それではあのドラゴンにダメージなと入らないと思いきや


 鱗を剥ぎ取っていく


「ギャァアァアァァァアアアァァ!!!」


 痛みに吼えるドラゴン


 関係なしに撃っていく


 が致命的な一撃には至らない


 それにドラゴンは気づいたのか固まるのをやめ始めた


「ギャアァァァアァアアアァアアアアア!!!」


 吼えるドラゴンが口を上に向ける


 口が赤褐色を帯だす


「思考力が足りない……と、まだまだ子供か……済まないな。止水睡蓮」


 宙に浮かぶ平たい水溜まり


 雫が落ち出す


 ゆったりと見えるそれはよく見ると渦?


「ガァァァァァアアアァァアアア」


 炎の咆哮


「あっ!」


 誰の声かは分からない、もしかしたら私の声かもしれない



 渦を巻きながらの炎の咆哮を雫が針のように刺してゆき方向を指定していく


 拡散しないように留めて出したドラゴンの炎をさらに細く細くしてゆく



 威力は落ちず進む進路に1人の男の人が入る



 ゆったりと剣を抜く


 堂の入った動きで素早く一閃


 跳ね返るように炎は戻りドラゴンを焼く



 瞬く間にドラゴンは火を消し歩みを進めるつもりの動きをするも後ろに落ちてゆく


 一瞬で男が距離を詰め脚を斬り飛ばす


 次いで鱗を剣で剥ぎ取っていく


 動きが見えない


 庭で見る騎士団の動きとは全然違う


 確実に剥ぎ命を奪うように舞う剣術



「ガァァァアアァァア!!!」


 呼応するようにドラゴンの体の近くに火の玉が現れる


「変異種……これだから……」


 無駄なく腕、鱗を斬り傷を付け何重にも同じ所を


 首を斬り始めた


 一瞬の間を空で取り


「シッ」


 と空気を斬るような音


 首が飛ぶ


 地に着くと同時に火の玉を斬り始めた


 1つを斬ると吹き飛ばされる


「――っ! 魔力を纏める! 1つでも破壊するぞ!」


 魔法騎士団長が叫ぶ


 それを皮切り人が集まるが私たちは遠くにいた


 父もそこに参加


 数秒の中何度も斬り吹き飛ばされ何度も繰り返す



 魔法騎士団長の相殺も行うが1つを取り逃す



 なんの縁か


 それが私たちに向かってくる


 誰も間に合わない


 誰も助けてくれない


 私が――


「す、水淼珠々」


 守るために技を出すと見事に防げた


 奇跡的な成功率だったけど成功


 と思っていると何故か世界が反転している


 地面が空で空が地面……?


 あぁ、逆だ、私が反対、吹き飛ばされたんだ!


 ってやばい、高い……


 どうしよう、私受け身知らない、あれ? どうすればいいんだろ


 え、死ぬ?


「ごめん、間に合わなかったよ。助かった」


 そう思って目をギュッと瞑っていると耳の近くで声がした


 目を開けるとあのドラゴンを斬り倒してくれた男の人が顔半分を赤くした状態で私を抱き抱えていた


「あ、えっと……」

「あぁ、ごめんね、慌てすぎてこんな状態になっちゃった、地面に落ちるまでこのままで」


「いえ、むしろこのままで」


「え!?」


 わたしは動転していたのでしょうか、いや、いつでもこの状況なら同じことを言いますね


 私はこの時この人に心を奪われたのでしょうか


 単純だと言ってくれても良いです


 それほどまで強烈な印象を、強烈な一日をくれました



◇◇◇◇◇



 もちろん、あの時が奇跡だったのでしょう


 あの後父はお礼をしたいと領地に招待をしたいと言っていましたが


 凄く顔は面倒臭いと語りながら


「とても光栄ながら私は当然のことをいたしたまで、私は私の目的がございます。またの機会にお願いいたします」


 言葉は丁寧ながら


 めちゃくちゃ嫌! という顔で去っていきました


 名前を聞きそびれてしまいました



 あれから数年、私はそろそろどこかの貴族に行かねばならない時でしょう


 憂鬱しいです


 あの時のあの方と一緒に


 そんなことをあのころは何度も言いましたが今でもそれは変わらない


 でも子どものように愚図ることはまかり通らない



 そんな気持ちを晴らすために1番人気のない静かな湖に今日も行く



 風に草が揺れ、水面が漣が広がる


 静かに揺れる自然が私の心を落ち着けてくれる


 焦り馳せるこの心をここは受け止めてくれる


 その度に私のこの心は私の奥底に沈めれる



「綺麗な所ですね」



 漣む景色に音は付いている


 それなのになんの音も聞こえない


 ひたすらに聞こえた声しか聞こえない、いや、もうそれ以外必要ない


 ……私はこの心が叶うことはないと知っていた。名前も知らない、どこにいるの? どこ出身?


 貴方は誰で何なのだろう


 聞きたいことは溜まる一方


 ここに来て沈めて鎮める


 なのに……こんなの……!!!


「そ、そうですか? ありがとうございます。秘密な場所なんです。と言っても誰でも来れるんですけど場所も場所なので中々普通の人は来れないのですが」


「そうか、君は強くなったんだね」


「――っ! わ、私のことを覚えてますか?」


「あの時の返答の速さは君くらいしか僕の記憶の中にはないよ」


 そう言って笑う顔


「――っ!」


 ず、狡い! これ以上惚れさせるつもりですか!


 わ、私はき、貴族! 規則に乗るのが生きる使命



「まぁ、約束を果たしにね、君のお父様はまだ領主やっているかい?」


「はい、まだ現存してます」

「現存って、人に使う?」

「大丈夫です」

「いや、言葉の話なんだけど……」



◇◇◇◇◇


「私の名前は誰にも話さない、この条件のみでこの招待をお受けさせて頂きたく思います」


 父に会って一声目がそれでした


 父と魔法騎士団長以外は難色を示すようにそれぞれの武器に自然と手が滑りましたがその全てを父が制しそれをのみました


「それで良いのか? 私が君を知らないとでも?」


「さぁ? どうでしょうか」


「食えないな君は」





 数日の日々で終わると思っていた生活は存外に長く続きました


 彼は騎士団に混ざり何度も模擬戦を繰り返していました


 最初は騎士団長が戦いましたが赤子を捻るかのように一瞬で勝負がつきました


 その次は全ての団長の技を受け止め全てを返して決着を


 最後に戦っている時は団長は明らかに最初よりも体力がなくなっているはずなのに今までで1番のキレを持った動きをしていました



◇◇◇◇◇



 数日後、私はあることに気づいた


 好きな人と一緒にいたい


 無理だと諦めた


 それは家の発展に何もつながらない、私はあくまでこの家の一つの歯車に過ぎないから



 だがしかし


 彼がここに留まり続ける理由になるならばいいのでは?


 良い考えだが問題はある


 まずは父の許可

 その次に彼の許可


 父はなんとかできる、めっちゃ説得しよう


 問題は彼


 未だに名前を教えてくれていない。正確な名前を知っている人は誰もいないのでは無いだろうか


 最近ではいつまでも彼とかお客様とか御仁と呼ぶもの辛いほど人と関わっているためあだ名が付けられている


『ドラゴン先生』と


 領主をドラゴンから救ったドラゴン殺し、と騎士団の育成に関わってくれる先生を掛け合わせたもの


 ちなみに私は未だに呼べない


 だって! だって、名前呼びたい……あだ名も良いけど名前は貴方の存在そのものを表す大切な証、それを知らないうちに違う名前で存在を作るのは……


 と言うことでアタックを開始した



 結果


 ざ・ん・ぱ・い!!!!


「僕は昔に恋だの付き合うだので痛い目を見たから……」


 とのことです


 い・や・で・す!


 父の許可は下りていますが彼次第と言ってくれています


 毎日出会い頭に挨拶から愛叫ぶを繰り返しますが顔色一つ変えてくれません


 魅力が無いのでしょうか



 ……おい、誰だ平らって言った奴!


 魅力はそれだけじゃ無いはず!!



 母に相談しました


「相手を知る事が大切よ」

「相手を知る……」

「でも大変ね、彼の場合名前を分からないし」

「あ!」

「あ?」

「ありがとうお母さん!」

「え? う、うん。頑張ってね。迷惑掛けちゃだめよ~!」


 そうか、そうだよ


 知らない知らないじゃダメだ


 彼ほど強ければ何かしらあるはず。更に父は知っているらしきことを言っていた


 と言うことは絞れる




 数日かかったけれど見つけれた


『勇者一行、ゴブリンの大量発生から村を守る』

『勇者一行、怪事件解決。魔王軍の関与も』

『勇者一行、魔王への旅に』

『勇者一行、凱旋!』



 いくつかの記事だ


 どれも写真付き


 勇者、賢者、僧侶、重鎧戦士、そして荷物持ち


 どれも同じ顔が並ぶ


 荷物もち


 荷物持ちの方の顔ははっきりと映らない、見切れていたり背中だったり


 それでも分かる同一人物、そして彼だ


 勇者一行の人


 でも、それだけじゃ無い。格好がおかしい


 剣を帯剣している


 そして、極めつけ


 魔王への旅、と凱旋記事


 勇者の剣、聖剣の鞘には傷があるのに勇者の格好は一切変わっていない


 これは他の三人も同じ


 でも荷物持ちの格好だけは変わっている


 ある仮説……聞くのが一番


 それに――


◇◇◇◇◇



 湖の畔


 私がいると彼も来た


「ラッシュ。シャドウ。オムバー。トレース」

「――っ!?」

「全部貴方ですよね?」

「……はは、よく分かったね? それともカマカケ?」

「いえ、愛故です」

「……昔話でもしようか。昔々、神にすら手が出る凶悪な魔王がいました。狙われる神はある男に神としての力を用いり消せない最強の恩寵(ギフト)を送り勇者という存在を作りました。魔王はある神を殺し、それに遅れながら勇者は魔王を討ちましたがそれと同じくじくに命がなくなりました」


「……原初の勇者物語ですか」

「さすが、貴族様」

「私のことは名前かハニーと読んでくださいと言ったじゃないですか」

「どっちもツライ二択じゃん」

「そうですか?」


「まぁ、話を戻すと、その勇者に与えられた恩寵(ギフト)はその男の人生をそこで終わらせたりしませんでした。何度も記憶を持ち生まれ変わり、何度も」


「……」


「生き返る度に勇者は魔王を討ち、魔王を討つ」


「素晴らしい方ですね」


「はは、そして彼の命は毎回魔王には奪われない。奪うは人間」


「――っ!」


「あるときは農民、あるときは貴族、王から魔王を討伐した報酬として言われた王女との婚約が嫌だったらしく女王に殺されたり、その相手だったり……何度も何度も……だから俺は何もいらない、恋人なんかも作らない。だからまぁ、俺の事は諦めてくれ。今回も魔王は討伐しているんだ、もうそろそろ何かしらの理由で死ぬんじゃ無いか?」


「……だったらなおさら私が貴方を変えますよ。恋に興味なくても私に興味を持たしてあげます。私が幸せに過ごして貴方がもう死ぬって言うならば幸せな死にしてあげます」


「――っ!」


「もう、惚れても良いですよ♪」



 私はこの日からアプローチを変えてみた


 魅力魅力、じゃなくて、欲しいところに手が届くようにでも、尽くすのが最善じゃ無い


 だって尽くせば惚れるなら私はメイドさん達には勝てない、それに彼はメイドさん達に惚れてない



 料理も掃除もメイドの方々に教えてもらいなが手際よく、彼と会ったときは挨拶と愛叫


 剣の手入れはしない、父も自分でやることに誇りを持っていた


 父が武人の反面を持っていて良かった



「なんか、裏でこそこそ動いているな」

「あれ? バレてます?」

「支えるアピールか?」

「ふふふ、どうです? 花嫁修業をしているんです。これで私を連れて行けば家事しなくてすみますよ」

「打算的に付き合うわけ無いだろ……」


 はぁ……みたいな感じに疲れたため息を吐いた


「がっつり胃袋掴んであげますよ」


 湖で会う時は彼はかしこまった言葉遣いをしなくなった


 少しは信頼してくれているのかな


 少しの進歩を喜びながら私は先に湖を出て家に戻りました






「はぁ……もうとっくに掴まれてるけどな……胃も心も」





◇◇◇◇◇



 ある天気の良い日


 街に出ていると


 急に暗く――違いますね


 拉致されました



 お父様や私の兄に連絡をとり金を取ろうとしているみたいです


 公爵家にこのようなことをするとは……命知らずでしょうか


「はっ、命がけ……やるしかねぇとは言え、かなりの上玉、まぁ胸は無いが」

「頭……大丈夫なんでしょうか、にしても胸無いですね」

「これ本物なんですかねぇ。貴族ってのは胸がでけぇやつしかいねぇと思ってました」


 誰が胸ないだ!! うっさいわ!!!!!!


「とりあえず、音記録装置に悲鳴でも入れないとな、とりあえず剥ぐか」


「誰の服を剥ぐんですか?」


 薄暗い倉庫の中に一気に広がる寒気


 でも、心から安心ができる私の大好きな声


 でも、待って欲しい。今服脱がされかけてるから!


 ……え、この姿を見られるのはハズかしい


 瞬殺


 瞬きしている間に全てが終わっていた


「今、そっち行くからな」

「待って! 今はダメ」

「なに! まだ残って!――」


「ぎゃぁぁぁあああ!」




 上半身何も着ていない状態の私を見られる結果に


 格好良いけど、好きだけど……



 ここじゃないぃぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!




◇◇◇◇◇


 あれから数年


 もう期限ですかね


 結局彼とは婚儀を結べません



「綺麗なとこだな……」

「そうでしょ?」

「はは、大丈夫かよ、貴族なのにそんな言葉遣い」


 あれからすっかりと硬い言葉は私の前では言わなくなり私も彼に対しては楽に喋るようになりました


「で? 影の勇者様はいつになったら名前を教えてくれるんですか?」


 彼、彼言うのもダメだと思い影の勇者様、これが二人で会うときの呼び名にしました


「お前の性格は知ってるよ、名前、教えたら呪詛でもつけて俺を追うんだろ?」


 うぐ……この前の事をまだ引きずっていますね……


 しょうが無いじゃ無いですか、私は父について行けないのに付いていくのが悪いんです


 いつかいなくなってしまうんじゃ無いか不安なんです


 でも、ダメですね、ここは表情にも出さずに


「あら? そんなんじゃ足りませんよ、私の命をかけて呪詛をつけます、それならアナタも跳ね返さないでしょ?」


「やっぱやべ~奴」


 そう言って笑う彼


 最近よく見る顔


 彼は見た目以上に生きている


 私より良い方を知っているのかも知れない


 最近分かってきた


 彼は怖いんだと


 私が彼がいなくなることを恐れるように私が彼の元からいなくなることを


「私は裏切りませんよ?」

「ッ!?」


 だからこそ声に出さないと


 私達は言葉がフランクになっても心からふれあえていないのかも知れない


 ちゃんとした証明をしないと


「知らないとでも? アナタに関することを必死に探しました」


 実際に過去の彼だろうと思う人をまだ追っています


「公爵様のご令嬢に知られるなんて光栄ですね」


「心にも無い言葉はいらないですよ。私はアナタの為なら命をかけれる、なんなら不倫できない呪いでもかけてくださいよ」


「はは、笑えないね、俺は作る方じゃなくて破る方しか出来ないしね」


「では、信じてください!」


 心から叫んでしまった


 視界が少し揺れる



 短い沈黙が湖を制している



「……」


「あの時救ってくれたアナタの背中を忘れない、私は絶対にアナタと一緒に生きていく」


 私を二度も助けてくれた、救ってくれた


 二回目はあれだけど……


「怖いんだ……怖いんだ、今の幸せがあっても次に君は居ない俺はまた次の魔王を倒すために転生する、俺の輪廻は永劫だから、今、幸せを知れば次を一人で生きていく自信がない!」


 一つの沈黙


 初めてかも知れない


 本音……本音!?


 多分悲しい感じになるはずの空気だけど


 初めての本音につい


「良かったーーーーーーーーー!」


 叫んでしまった


「ふへ?」

「そんなことなら大丈夫です」


「え? いや、え?」


 これは想定内、そう! 想定内!


「いいですか? まずアナタが私を殺す」


「いや、なして!」


 驚いている驚いている


 私はもう覚悟を決めているんですから


 むしろその言葉を待っていたのかも知れません


「聞いてください、最後まで」


「う、うぐ……」


「私を殺す際に『永劫牢獄(ツキトマルハコノソコ)』を発動して私を閉じ込めてください」


 そう、何代も前の話ですが()()が持っていたスキルだそうです


「はぁ?」


 スキルの内容が故の反応でしょう


 永劫牢獄(ツキトマルハコノソコ)は閉じ込めのスキル


 でも、それだけじゃ無い


 勇者が用いた、という記述以外にある賢者の検証が


 それによると内部での死という時間が無いそうです


 そう、死なない


 だから


「そこで私がアナタと一緒にいられる方法を探します」


「いや、そんな方法――」


「探す。私はアナタのことが好きだから」


「……うぐ……」


 あ、あれ、なんか自分で言っても少し恥ずかしいです


「さぁ、どうぞ。と言いたいですがこのまま死ぬと父と兄がうるさいので少し工作をしないと行けませんね」


「あ、あぁ」

「ん? 何か?」

「いや、離れるのが寂しいなって」

「……昇天しますよ?」


 実際にやばかった、白い景色に川の向こうに幸せそうなお父様が……ってお父様まだ死んでませんでした


 それから数日後


 本当に『永劫牢獄』に取り込まれました



 黒い暗い空間


 際限がない


 でも、私は探します


 彼の――おっと、最後に教えて貰ったんでした


 ユグラ様と一緒に幸せになる為に



◇◇◇◇◇



 何百年


 いえ、その言葉は正しくないですね


 この空間に時間という概念は無い


 ただ私はここにあり暗い世界がここにある


 それだけ



 死なない、生きながらの死



 ……上等なんだ


 それにここでしかできない研究


 神域探索


 精神を神域に飛ばし知りたい事を知る


 それがここでの目的


 見つけてみせる




 何度も死んだ


 神域で私は異物


 神とその招待者以外は排斥される


 その中で探していく



 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も



 殺され死んで何も無い空間に戻ってくる


 この空間で死ぬことはできる


 常に自殺の手段が溢れる作りになっている


 何度も負けそうになった


 何度探しても見つからず殺される


 人の命とは神の前に無力と何度も言外に言われる様だった



 その度に、自ら命を絶つ寸前で彼の顔を思い出す


 私を『永劫牢獄』時の顔を、そのときに話した顔を


 泣きそうで寂しそうな顔






 また数百


 もう父の顔を母の顔も兄の顔を思い出せない


 あれほど毎日行った街の形も思い出せない



 また数百


 父の顔、母の顔だけでなく名前も分からなくなった


 私が住んでいた街は何だっけ


 私って何だっけ……



 また数百


 ……………………


 私は誰だろう



 また数百


 …………………………


 ここで……私って何をしてるんだろう


 なんでこんな事をしている?



 下が見えない


 高い場所


 ここから落ちれば死ねるよね


 このまま――


「……待ってるなユキナ」

「頑張れユキナ、お兄ちゃんは応援してる」


「馬鹿な娘だ」

「そんな事言って……あなたも大概でしょ? 私を落とす為にどれだけの危険を冒したんだか」


 もう誰の顔も思い出せない


 でも声が聞こえる


 幸せ? 分からない


 でも、ここでもう一歩出すのは違う


 違う違う違う


 生きる、生きてあの方の隣に!


 あの……ユグラ様



「ユグラ様!! わ、私は!」


『……君はそこまでして彼の……はは、僕はちっぽけ。最後の力で彼を殺そうと思っていたのに……そうか、彼は幸せを手に入れたのか……じゃあこれは死でなく生に』



 何百年と私以外の存在が無かったこの空間に声が聞こえた気がした


 でもなにも見えない


 でも声が聞いてくる


『君はなんの為に彼の隣にいたいんだい?』


 誰か分からない。でも


「私は、私が隣にいたいと思うのは分からない。言葉じゃないと思う。この世に言葉にできることじゃない。ただ隣にいたい。隣にいるときの彼の顔は幸せそう。でも、時々見るツライ顔を見る度に心が私を捻りあげてくる。そんな顔をしないで欲しい、いつも人の為に生きてる彼に彼自身の幸せを私があげたい!」


『……盛大な惚気だな、砂糖吐きそうさ』


「の、惚気なんて……」


『ふふ、じゃあ君の背中を押すのは僕の贖罪にできそうだ。彼に伝えてくれ。申し訳なかったと』



 気がついたときには白い天井の下にいた


 手が小っちゃい


「あーあーうぅー」


 声が出ない……赤ちゃん!?


 私は……あれ? 何してたっけ


 そう彼に、会わないと


 彼……だれ?


 会う約束


 頭に浮かぶ術式


 これを使って誰かに会う……でも誰に?


◇◇◇◇◇



 数年、私は十歳


 私には好きな場所がある


 私以外誰も知らない綺麗な泉


 ここにいると心がフッとなる


 私は天才児として皆に言われる


 まぁ前世の記憶あるしこれくらいわ



 皆優しいでもなにか足りない


 何でだろう


 毎日優しい皆と会って楽しく暮らして。貧しくなく生きれている


 なのにいつまで経っても私の心が渇いている


 泉はこんなに水が張ってるのにね






 ある日だった


 私だけの場所


 なのに誰か来た


 誰――――っ!!


 見た瞬間全てを理解した

 見た瞬間全てを思い出した


 そうだ、私はこの人に、ユグラ様に会うために!


 200年!


「今回もご苦労様です」


「今回も?」


 ――ッ!!!!


 いや、違う


「はは、忘れてしまいましたか?」


 軽口で返しますが心が締め付けられる


 私が言った提案だけど……


「君は、誰だい?」

「……ふふ、今の年を聞いて驚きました、アナタと約束したのにここまで遅れれば忘れてしまいますよね……200年かかりました。いや、こちらの方が早いですね」


 思い出して! お願い!


 記憶の再生魔法を掛ける


 驚いた顔で停止している


 数分後


 戻ってきたのかまぶたがピクピクと動いている


 え? なんで分かるかって?


 目を閉じている愛している人がいたら膝枕するでしょ?


 膝思いっきり蹴って曲げてでも


 そろそろ起きるなら戻さないと


「よいっしょ!」


◆◆◆◆◆


「思い出してくれました?」

「あぁ」

「あれから200年ですか~」


 かなり待たしてしまいました


「いや、200年では無いぞ?」

「え?」

「年の計算方法が3回くらい変わったから今で5,000年くらい経ったな」


 沈黙が支配する


 う、嘘……あう……あう……あうぅぅぅぅぅ



「ま、まだか、体が小さいですけどそういうことします?」

「そんな性癖ないわ! 急でびっくりだわ」


 で、デスヨね!!


「遅くなりました」


 そう言って小さな頭を下げる


「いや、おかえり」

「はい、ただいま」


 あぁ、幸せ……


「お前のことだ完成してるだろ?」

「はい」

「まぁそれがなくても言いたかったことがある」

「え?」


 え、急に……


「ユキナ、俺と死ぬまで、死ぬその瞬間まで俺の隣にいてくれ。俺を……1人にしないでください」


「………んふふふ、あら、失礼。当然ですよ、アナタが――ユグラ様が離してと言っても離れないですよ」


 心から嬉しい言葉


 私も……



 これからです


 私は――いえ、私達で幸せになりましょう





             ユグラ様!

悩んだ結果投稿しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ