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Phase.7 秘密暴かれるとき

「これは…」


 いわゆる特殊な金庫室と言うやつである。やはり、ここにエドヴァルドの重大な秘密とやらが隠れているのだ。と、思ったら。


「そこまでだ!動くんじゃない、このコソ泥どもが!!」


 なんと中には、銃を持った連中がずらり。銃口の数を誇るように二人が待ち構えていた。ライネス・ホーホロと、もう一人はなんと、エドヴァルド本人じゃないか。


「本当に本人か…?なぜこんなところにいる!?」


 私とソフィアは愕然である。だって連日、遊説で向こうのテレビに出ているはずだし。


「影武者じゃよ」

 と、ずばり、偽者と言い切ったのは、アルホじーさんだ。

「トメテバ本国で演説している方はな。…ここに来るのは、本物でなくてはならんだろうて」

「まさか、総裁選を放り出して…?信じられない!」

 ソフィアは悲鳴のような声を上げたが、私も同感だ。政治家にとって、選挙戦以外に大事なことってあるんだろうか。

「やかましい!貴様もイェレミアスそっくりだな。どーでもいいことを、いかにも大事そうにべらべら、べらべらと!選挙演説など、影武者で十分だ十分!私の高邁(こうまい)な話は選ばれた同志諸君にだけ分かれば、それでいい。後は優性フクロウであるこの私に、黙って従えばいいのだ!」

「まったく、つくづく最低な政治家ですね…!」

 ソフィアは目を剥いて罵倒する。まったくひどい男だと私も思ったが、さっきからアルホじーさんは、にやにやほくそ笑んでいるばかりだ。

「ははッ、言うのうエドヴァルド。お前が優性か。無駄に尊大なのは、へっぽこ作戦指揮官だった頃から変わってないわい」

「黙れッ!」


 エドヴァルドは、激昂した。取りも直さず、アルホじーさんはこの男の神経を逆なでするネタを沢山持っているとみて間違いなかった。


「ふん!てゆうか、なーにが影武者で十分じゃ。つまり、裏を返せばここには、お前本人が来てわしらを待ち構えていなくては、まーずいからじゃろうが。ふははッ、それでこそお前の極上物の『秘密』を、特注の品にして譲ってやった甲斐があったわい」

「それと言うのもこうなったのも全部ッ!お前のせいだッ!お前だけは生かして帰すものかッ!」

 エドヴァルドの合図で、ずらりと銃口が私たちに向けられる。さすがの私も、これだけの銃口を一度に制する事なんて出来はしない。ナッツが足りん。

「おいじーさん!どうするんだ、挑発したのはあんただぞ!?」

「あほ!だから言ってるじゃろうが!あとは若いもんの仕事じゃ!ぶつくさ言っとらんでほれ!何とかせんか!」

「何とかなるわけないでしょう!?」

 あおるだけあおっといて無責任にも、ほどがある。やっぱこのじーさん、ちょっと頭が黄昏てるんじゃないか?あああ、もう間に合わない!

「全員殺せッ!」

 エドヴァルドが発砲を命じようとしたそのときだった。


 社長室の窓が盛大な音を立てて割れ、最上階の冷たい空気が一気に中へ、入り込んできた。それから、何か大きな音を立ててどさりと、何かが投げ込まれてくる。


 それは一抱えくらいの小さな段ボール包みだった。味玉のパッケージがしてある。なんだ、こんなときに宅配便か?


「そこまでだッエドヴァルド!」


 翼のはためく音がした。見るとその窓から、特殊部隊の装備に身を固めたサウル・イードが入り込んでくるところだった。まさにアーロン・アルファのスパイアクションそのものだ。


「証拠は押さえたぞッ!それが僕の父を策略にハメた証拠だなッ!大人しく引き渡してもらおうッ!」

「なんだ貴様ッ!サウル・イードかッ!なぜここが分かった!?」

「調べてくれたのは、ウッディ氏さ。あの日僕は、お前が隠している『秘密』が保管されている場所の詳細を彼から受け取るはずだったんだ。アルホ先輩がウッディ氏を紹介してくれなければ、僕は気づくことが出来なかった。エドヴァルド、薄汚いお前の謀略のすべてをなッ!」

「黙れ黙れッ!貴様、状況が分かってるんだろうな!?ハエが一匹入り込んだところで、まとめて始末すればいいだけだ!馬鹿な奴だ、わざわざ殺されに来るとはな!」


 今度は銃口の列が、サウルに向けられる。しかし、サウルは、応戦する気配もない。実に堂々と、私たちの前に立つと、肩をすくめてみせた。まさに、これぞスパイのハードボイルドだ。


「馬鹿はお前だ、エドヴァルド」

「なんだと!?」

「撃つなら、撃ってみるといい」

 と、サウルは足元にあるものをブーツの先で突いた。それはさっき、窓から投げ込んだ謎の味玉小包だ。

「これにはC4爆薬がみっちり詰まっている。この程度の量でも、このビル丸ごと吹き飛ばすくらいの威力はあるだろう。どうする?影武者に後は任せて、お前はチリにでもなるか?…粉々になりたくなかったら、銃は捨てろ。お前たちは終わったんだ」

「ぐうう…くそッ!おのれ若造がッ!」

 さすがにエドヴァルドは、発砲を断念した。

「うむ、よくやった。さすがわしの後輩じゃ」

 アルホ先輩は、後輩に丸投げしてばかりである。


「先輩、助かりましたよ。あなたが重い腰を上げてくれたからこそ、僕はエドヴァルドの秘密に迫ることが出来た」

「ああ、ついにこのときが来たと言うことじゃな。エドヴァルド、今度こそ観念せい!」

「何が観念せいだ!毎年、高い口止め料とりおって。サウル、貴様もこれで不法侵入の犯罪者だ。現行犯でムショにぶちこんでやるぞ!」

「それはどうかな。エドヴァルド、あんたが握っているその証拠は、かつて僕の父を不当に逮捕監禁したときのものだ。あれは、一部の過激派に踊らされた汚職政治家がやったことになっているが、すべての命令はあんたから出ている。この、白い紙を黒く染める、フクロウの作戦書からな!」

「なんですって!?じゃあ、あの二枚の紙は、やはりエドヴァルドのものだったんですね?」


 ソフィアが尋ねると、アルホじーさんが自慢げにうなずいた。


「そーうじゃ。まータネを明かしちまうと、あれはわしが奴から盗み出したものでな。わしはそれに、エドヴァルドの『秘密』を仄めかすデータをインプットして、そこかしこにばらまいておいた。すると案の定じゃ、エドヴァルドの腹心のライネスが、喰いついてきおったってわけよ」


 そうか。それで私は、ぴんときた。


「つまりあのスズメのマスクのライネスは、サウルにメッセージを残しかったんじゃない。メッセージを回収に来ていたんだな?」

「そんなところじゃ。あのプラカードは、作戦書を盗んだ人間に警告を発していたんじゃな」


 と、じーさんは、惜しげもなく胸元から束で作戦書の紙を取り出してみせた。そりゃあんなにいっぱい、盗んだらエドヴァルドたちパニックになるわ。


「誤算は、盗んだのがサウルと接触するウッディだと思われたことですよね?」

「う、うむ…あれは失敗じゃった。だがあいつにも警告したんじゃよ、エドヴァルドの殺し屋が狙っておるからすぐにサウルに接触して助けてもらえとな」

「サウル…じゃあ、あなたはウッディを救いに行ったんですね?」

「そんなところです。ですが、ことを公にすると、僕の撮影が中断になってしまうかも知れない。そうなると、エドヴァルドの真相に迫ることが出来なくなる」

「『秘密』はベガスに。そうなるとトメテバ公国の人間でも、手出しできる人間は限られてくる。サウルくんがスターになったのも、海外で自由に行動できるようにするためと聞く」

「僕の父は、なんの変哲もない政府秘書官でした。エドヴァルドは、その僕の父に濡れ衣を着せて葬った仇なんです。今こそ、僕が父の無念を晴らすときが来ました」






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