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Phase.5 謎の白い紙の正体

「紙を見せろだ!?お前たち、証拠品だぞ!?」


 夜勤で忙しいダド・フレンジーの元へ私は乗り込んで行って、早速証拠保管庫を開けさせた。


 デスクの上には、二枚の紙がある。一枚は、死んだウッディが、身体の中に隠していたもの、もう一枚は、ライネス・ホーホロがいたサウルの撮影現場から発見されたものだ。


「なんだ、一体何をする気だ!?」


 私は給湯室でお湯を沸かしてきて、それを自前の霧吹きに入れた。ややぬるめのそのお湯の霧を、二枚の紙に浴びせてみると、みるみるうちに紙が真っ黒に変色し、その中央には、翼を広げたフクロウらしき紋章が白く浮かび上がってきた。


「これ、あぶり出しじゃないですか!?」


 ソフィアが驚愕の声を上げるのを、私は、にんまりして聞いていた。そうだ。すぐに気がつくべきだったのだ。これはつまり、こうやって使うものだったのだ。


「どうしてです!?さっきどうしてこんなことに気づいたんですか?」

 ソフィアは翼をはためかせて詰め寄る。

「アーロン・アルファだよ」

 私は、答えた。

「まさに、オールドファンならではだ。これは『秘密はヤギに喰わせとけ』。ドジャーン・ミューアの初期アルファの傑作だよ。アルファが追う犯罪組織のボスはこのあぶり出しで指令を受ける。こいつを始末するには、もはやヤギに喰わせるしか手はない、と言う話さ」

「シュレッダーにかけたらいいじゃないですか…」

 身も蓋もないことを言い出したクレアの意見は、聞かなかったことにした。これだから浅いファンは困る。


「それにしても、だったらここからが問題じゃないのか?…おれにはよく分からんが、このフクロウの紋章、これには何か秘密が隠されているんじゃないのか?」

「そうだ、ダド。ここからが正念場なんだ」

 脱線しかけた話をもとに戻すと、私はソフィアにこの二枚の紙を見せた。

「あとは君の分野だ。どうだろう?白い紙に、それを黒く染めるフクロウの紋章が現れた。…それは恐らく、君が追う『ホーの夜党』そのままのイメージを表していると思うが」

「それは違いますね」

 二つの紙に浮かんだ紋章を、穴のあくほど見つめていたソフィアが首を横に振ったのはそのときだった。

「違う?」

「はい、全然違います」

 私たちは一瞬、彼女が何を話そうとしているのか上手く呑み込めなかった。


 全然違う、と言うのはやはり、私がたどり着いたここまでの推理が、見当違いだとでも言いたいのだろうか。そう思った時だ。


「誤解しないでください。…違う、と言ったのは、この紙に現れた二つの紋章、これが全く別のものだと言うことです」

「この二つがかい?」

 私だけではなく、クレアもダド部長も顔を見合わせた。その上で、もう一度確かめてみたが、やはりこれは、まったく同じフクロウの紋章にしか見えない。

「もちろん、見ただけでは分かりませんよ。…ほとんどの人は同じ紋章に見えます。トメテバ公国内でも、分かる人間は限られていますね」

 と言うとソフィアは、もう一つ、スマホを取り出した。ベガスではあまり見ない形をしたライトグレーのスマホだ。ソフィアはスマホのレンズを差し向けると、カメラ機能でぱちり、と、片一方の紋章を撮影した。


「これは、Tコードです」

 と言うと、ソフィアはスマホを見せた。


 すでに何らかのアプリが起動していたのか、フクロウの紋章をカメラ機能で読み込むと、一つの動画データが保存される仕組みになっていたのだ。


「QRコードみたいなものかな?」

「はい、それに近いですね。トメテバ公国ではトリーキゾクたちの間だけで使用を許されている緊急用の暗号コードです。…普通はこの紋章コードのスマホでしか読み込めませんが、わたしのこのスマホだけは、情報部員専用ですべての鍵が開けられます」


 ソフィアは誇らしげに言った。確かにこれぞ、スパイのアイテムと言った感じだ。


「で、問題はこの動画が何を表しているか、と言うことなんですが…」


 と、ソフィアは、恐る恐るダウンロードした動画を立ち上げる。そこには壇上に登る年配のワシミミズクの男が立っていた。


 きちんと整えられた暗褐色の毛並みに、立派な仕立ての縞のスーツもさることながら、その左胸に重たく下げられた立派な勲章が二つ、三つ、四つ。見ているだけで、こっちの首が凝りそうである。


「…案の定ですね」

 ソフィアが、押し殺した声で言う。

「誰なんです?」

 と訝るクレア。いや、もっとニュースを見ろ。私は知ってるぞ。

「これは保守派のエドヴァルド候補だね?」


 イェレミアスの宿敵、『ホーの夜党』の親玉と目される人物である。フクロウ至上主義を掲げ、強引なリーダーシップでトメテバ公国総裁の座を狙っているまさに渦中の男だ。


「このフクロウの紋章は、エドヴァルドの家のものなんです。それにしても驚きました。…この動画でいったい、何をしようとしているのでしょう」


 ソフィアは音量を最大にしたが、動画からは故意に音声が抜かれているようだった。これではエドヴァルドが何を話しているのか、知るすべはない。


「もう一つの紋章データはどうでしょうか?」

 と、クレアが言う。なるほど、そうだった、さっきソフィアはもう一つは違うデータだと見抜いたのだ。

「…こちらは写真です。何枚かの画像データが、登録されているだけですね」

 と、ソフィアは、その何枚かの写真を続けざまに見せてくれた。恐らくベガス市内だと思うが、どこかの企業のオフィスのようだった。

「市内だって言うなら、すぐに場所は判るぜ」

 ダド・フレンジーが、鼻息を荒くした。手がかりが揃ってきた。どうやらここからが、私も腕の見せ所のようだ。


 写真にあるオフィスの所在地を一番に突き止めたのは、優秀な助手のクレアだった。

「ここ、味付け卵の工場だそうですよ。マンテンTフーズ。名前が示す通り、トメテバ公国が発祥の国際企業の拠点工場ですね」

「味付け卵か…」


 ラーメンとか豚の角煮とかに入っている例のやつである。最近では完熟卵ばかりではなく、半生のとろぷる食感のまま加工できる技術が開発されたので、コンビニ売りのうどんやおそばなどにも月見トッピングとして需要があるらしい。


「うどんかそばって言ったら、ヴェルデ親分ですね…」

「また、あの狸か。…電話つながるかなあ」


 ほどなく、ウッディの司法解剖の結果も出たとのことだった。遺体の両肩には、無惨な爪痕が残っており、これはやはり猛禽類のものだと言うことだ。哀れなキツツキのジャーナリストは、窓から爪で抱え上げられ、空中で放されたとみて間違いない。


「特殊部隊の飛行訓練を受けたフクロウは、飛行できるんです。…ライネス・ホーホロの仕業とみてやはり間違いないですね」


 その間にソフィアはクレアと手分けをして、ウッディの遺留品のパソコンを含むデータ関係を洗い直していた。中にはやはり、取材用のデーターベースが存在し、あのサウル・イードについて調べたことも載っていた。


「サウルも特殊部隊経験があるんだね。…軍歴に長い空白期間があるとウッディが書いている。撮影のため、と称しているが、これが少し臭いな」

「臭いって…どう言う意味ですか?」

 ソフィアは訝し気に眉をひそめた。

「特殊部隊経験者は、軍歴を隠すことがままあるってことだよ。…大抵そう言う場合は、公表できない作戦に参加している可能性が高い。ウッディがサウルから聞き出そうとしていたのは、もしかして、この件なんじゃないか?」


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