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45/54

45:湖中へといざなう手

「お前たちが解決するだと? 無能だと言われていた弱者の貴様がか?」


 俺が呪いを解く。その言葉に異を唱えたのはいまだ剣を向ける兵士だった。

 嘲るような笑顔を浮かべ、そして顔だけをシックスの方へ向けながら続ける。


「シックス様。いくらご兄弟とはいえ、こんなやつらを頼るまでもありません。私どもだけで十分です」


 もとはこの国の王子だと言うのに、相変わらずひどい言われようだ。

 そして。その言葉についに我慢の限界を迎えたのか、背後からゆっくりと俺の前へと歩み出たクロさんが眼前の兵士に低い声で言った。


「弱者? ……聞き捨てならんな。私にするのは構わんが、我が君を愚弄することは許さん。取り消してもらおうか」

「……良いだろう。ただし、そいつごときの護衛の貴様が、ガイランド上級兵士(アークソルジャ)のオレを負かすことができればな」

「——ふっ」

「貴様……っ!」


 クロさんの失笑を漏らしたのが気に入らなかったのか、男のこめかみが青筋が浮かび表情が怒りに染まる。

 男の怒気をまったく意に介さず彼女は悠然と振り向きながら、


「我が君よろしいですか?」

「……ああ、いいよ」


 止めても無駄だろうに。

 口から放たれる言葉と、目で語りかけてくる言葉が一致してないじゃないか。

 あの瞳は、『ダメと言われてもやります。だから良いと言え』としか捉えることができなかった。

 それでも念のため、


「ただし——」

「安心してください。殺しはしません」


 濁して言おうと思ったのにっ!

 男の怒りはもはや頂点を越えたのか、顔から表情が消えていた。

 代わりに、その目は殺意をたたえている。


「……死んで後悔しろ」

「おや? 全員でかかってこないのか」

「ぬかすなっ!」


 激昂し、飛び出す兵士。

 対し、クロさんは一拍以上遅れてから一歩だけ踏み込み——二人の影が交差し、すれ違う。

 わずか一合。勝敗は一瞬で決まった。

 ——次の瞬間、片方の衣服にいたるすべての装備が両断され、音をたてながら地に落ちる。


「——ぁ」

「はぁ、もういい。……その粗末なものをしまって、さっさと下がれ」


 彼女の汚物を見るような視線に耐えきれなくなったのか、全裸になった男は短く消え入るような声を上げ、守るべき存在を置いて一人木々の向こうへと姿を消した。

 今のはきっついな……。


「さて、まだ返事を聞いてなかったな兄上。どうするんだ?」


「上級兵士をこうもあっさりと……い、いいだろう。だが解決できなかったときは父上たちに報告し、お前たちの国に攻め入るからな」


「ああ、それでいい」


 もちろん解決できる保証などない。

 だが、この呪いには間違いなくこの先にいる《精霊の王》が絡んでいる。

 加護を得るためにも、これ以上の民が犠牲にならないためにもやるしかないのだ。


 そのまま歩いていき、湖の前に二人で立つ。

 黒い水面を覗き込むと、ふと思い出した。

 湖の面影がなくなっていたから今の今まで忘れていたけど、獣人は——


「……」


 そこには、先ほど余裕の表情を浮かべ戦闘に勝利していた者とは思えないほど苦い表情で立ち尽くす銀髪の剣士が。


「……ここで待ってる?」

「絶対に、ついていきます」


 その言葉と表情に思わずくすりと笑ってしまってから、彼女に手を差し出す。

 彼女が少しだけ間を置いてから、照れくさそうに手を握り返してきた——その瞬間。


 ぱしゃりと小さく水が跳ねたような音がする。

 そして、足に黒い触手のようなものが絡みついている、と認識したときには暗い湖中へと身体が引きずり込まれていた。


 凄まじい勢いで引き込まれながら水中で目を開けると、触手はこの湖の底に開いた大きな穴から伸びていた。

 

 ——それはケリュネアに教えてもらった《願いの坩堝》への入り口だった。


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