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41:とびっきりの笑顔で

 ——私の話をよく聞いて。

 そう言った彼女の雰囲気は、先ほどとはまるで別人のようだった。

 その強い意志を灯した蒼い瞳に閉口し、続く言葉を待つ。


「——たった今、《精霊の加護》はこの森から失われたわ」


「……」


 なぜかその言葉にあまり驚きを覚えなかった。

 『力』の途切れたような気配。

 急速に散ってしまった《精霊》に、崩落した木の繭。

 きっと心のどこかにそんな予感があったのかもしれない。


「私は《核》と繋がる存在。スルトを説得しようにも、この森から離れることができない。

 だから自らその繋がりを断ち、内側から《核》を破壊することで、空になったこの器をむりやり動かしているの——勝手にごめんなさい」


「そんなことはいい! 《核》に繋がる存在なんだろ!? それを破壊したりなんかしたら……っ!」


「そんなこと、か。あなたらしいわね……うん。もう私も、この身体も長くはもたないわ」


「——ッ!」


 申し訳なさそうに謝るケリュネアに声荒く言うと、つかのま彼女はぽかんと口を開けた。

 そしてすぐに、些細なこととでも言うような口調でその事実を告げる。


 その台詞を聞き、ぎりと歯を軋ませた。

 失われた加護などよりも、彼女のそんな態度の方がよほど堪えるというのに。

 少しでも場を和ませようとしたのか、ケリュネアはわざとらしく明るい声で新たな情報を口にする。


「そうそう。新しい《森の王》はファフニルに託すことにしたから」

 

「まったく、初めて我に思念派で話しかけてきたかと思えば、とんでもないことを言い出しよって……。それに、その喜色の悪い話し方はなんじゃ?」


「あら、これが()()()話し方。それに今から大事な友人に会いに行くのに、気づいてもらえなかったら困るじゃない。……それよりも、あなたの方よ?」


「ふん、もとは我も《竜の王》と呼ばれていた存在だぞ。この森の民草を守ることなぞ造作もないわ」


「よく言うわ。あなた以外の竜なんて、いったいどこで何をしているのやら」


「ぐぬっ! ……我が呼べばすぐにでも——」


「——はあっ。一応、すべての森族にも思念で伝えておいたから。——これからしばらくはキツくなるわ。頼んだわよ、ファフニル」


「ああ……心配はいらん。我らにはご主人もいるからな」


「……ええ、そうね」


「……」


 小気味よい調子で交わされるその会話に入ろうとするのはきっと無粋だ。

 ——あれだけ邪険にしていたように見えても、本心では嫌っていなかったんだろう。


 最後になるであろう会話を楽しむ『友』の姿がそこにはあった。

 ひとしきり会話を終えると、表情を引き締めケリュネアがこちらへと顔を向ける。


「そして、これが一番重要なことよ。

 スルトが加護の力を使うのを止めたあと、《精霊》はこの土地に戻ってくるわ。

 土地に活力は戻り、作物も育つようになるでしょう。

 でも、——その速度はとても緩やかなの」


「つまりまた、食料難に陥るわけだな」


 それは当然のことだった。

 今、この国は《精霊の加護》の莫大な恩恵を受けることで生活が成り立っている。

 奥の手——谷にある財宝を使えば、金はなんとかなるだろうが、問題は食料の輸入。

 いや、そもそもどれほどの時間で国土に《精霊》は戻るのか——、


「そう。——そこで、あなたは私と同じように《精霊の王》のもとへ行き、加護を授けてもらうの」


「……まだ死ぬわけにはいかないんだが」


 ぴん、と右手の指を一本立てて真顔でそう言い放つケリュネア。

 その言葉に思わずうな垂れながら返事を返す。

 いくら国のためとはいえ、——いや、国のためだからこそ、お前がそんな身体になってしまった経緯を聞いて、おいそれ「うん」とは言えないぞ。


「大丈夫。あなたほどの『器』であれば、かつての彼女のように加護によって()()はしないわ」


「せめてもう少し確信を持てる言葉をくれ!」

 

「一つだけ断言できるのは、普通に待っていてもあなたが生きている間には元通りにはならないということ。……セブン、こちらへ来て。時間がないからひとまず《精霊の王》の居場所を教えるから」


 叫ぶ俺にケリュネアは眉尻を下げながらそう告げ、手招きする。

 やはり、相当な時間がかかってしまうようだ。


「口頭じゃダメなのか?」


「難しいのよ。彼の居場所は普通じゃ絶対にたどり着けない。だから映像をあなたの頭に直接送り込むの」


 そう言いながらケリュネアに近づくと、その右の白い掌で俺の両目を覆いながら言った。

 自然、瞼を閉じてしまう。

 次第に彼女の手のぬくもりとは別に、頭中心に熱が帯びるような感覚がしはじめる。


 そして、暗い視界に高速で流れる自身のものではない記憶のようなモノ。

 まるで、忘れないように頭の中に焼き付けられているかのような——。

 一分もしないうちにそれは終わった。


「いい? これは私たち森族の王にだけ代々伝えられてきた秘匿の場所。決して広めてはダメよ」


「ああ、約束する」


「——《願いの坩堝(るつぼ)》。それが彼の地の名前。

 おそらく私以上に、あなたが《加護》を手にするのは困難よ。あのとき、すでに《精霊の王》はほとんど()()()()()()()()から。

 思わず入口を封印しちゃうほどに。——がんばってね」


 最後にとびっきりの笑顔で不穏なことを言い残したケリュネア。

 俺が口を開いたときには、「鉱山まで乗せて行ってやろう」と言うファフニルの背に飛び乗ってしまっており、ついぞその真意を聞くことはかなわなかった。


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