1章3 満貫
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初めて町の外で魔物と戦った日の翌日、「煌華菱嵐」の4人は他のクラスメイトに、葵がいかに天使であるかを説いて回っていたが、クラスメイト達の反応は
「葵ちゃんが天使だなんて世界の常識を今さら…」
「そんなことも知らなかった人たちに葵ちゃんは任せられませんわ!」
といった感じだった。
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2回目の"課題日"がやってきた。
今日も外に出るのは葵たち8人だけ。
今日は前回とは逆で、先に東回りの城壁沿い一周を行うことにする。
南東の隅を通過し、東側に出たところで早くも魔物と遭遇した。
青狼が3体。
初めて複数の魔物を相手に戦うこととなった。
明はすぐに、相対している魔物への攻撃方法を考え、仲間に伝える。
「茗露、この"42本"の矢にあの緑魔法を籠めて」
「アキちゃん、"42本"ということはアレだね…」
「葵と命は、茗露が緑魔法の準備をしている間、魔物の相手をして。
仕留められるなら、先に仕留めてもいいけど」
「コーメイちゃん、了解」
「明さん、了解しました」
「あとは…」
明は後ろを向くと、
「誰か1人、葵と命に加勢してくれませんか?」
煌華菱嵐のメンバーに助力を依頼した。
「葵のためなら、ぼくが行く」
「悠…ありがとうございます」
槍を持った悠が最前列に上がり、葵、命とともに狼の相手をする。
「葵の隣で無様な姿は見せられない…」
「悠さん、わたしも思いは同じです…」
悠の呟きに、共感した命が言葉を紡ぐ。
「ミコちゃんは自分でできる?」
「はい、本当は葵さんにかけてほしいところですが…」
「じゃあ、ゆーちゃんとわたしの2人分…レッドリボン」
葵と命の赤魔法で、3人の頭に赤いリボンがつく。
3人は積極的に攻めはしないものの、隙を見て狼の足を狙い、紫色の傷をつけていった。
「葵、命、悠、準備ができたから少し退いて」
明から声をかけられた3人が、明の弩の射線に重ならないよう、少し退く。
3人のおかげか、狼の動きは鈍っていた。
それを確認した明が、弩から緑魔法の籠められた矢を3本同時に発射する。
正確には、緑魔法によって"矢柄が竹のようになった緑色の矢を2本束ねた形状"に変化した矢が、3方向同時に撃たれていた。
初弾は3つとも狙い違わず3体の狼を捉えた。
束ねられた矢は、次は3本、3回目からは4本、6回目からは6本と増えていき、9回目からは8本。
12回目、13回目になると、矢が緑の龍に姿を変えて狼に襲いかかる。
14回目の攻撃で、3体目の龍がとどめを刺したのか、狼は3体ほぼ同時に核を残して消滅した。
「満貫・緑一色、動く的相手に初めてやったけど、何とか仕留められたわ…」
そう言いながら、明は茗露と右手でハイタッチをする。
「アオちゃんたちのアシストもあったとはいえ、全弾命中だよ、さすがアキちゃん」
「茗露の魔力のおかげよ…でも、わたくしも茗露も、まだこの魔法を"1人で"使いこなせてないから…」
緑魔法「満貫・緑一色」は本来1人で発動する魔法だが、茗露1人では魔法が安定せず、明はこの魔法自体がまだ発動できない。
そのため、茗露の魔法を明の矢に籠める"2人かがり"の形で安定性を得ていた。
「この課題をクリアするまでには、私もアキちゃんも、1人で使えるようになっていたいですね」
「それより…頭に大きな赤いリボンを乗っけた葵…かわいい…」
「アオちゃん…かわいいね…ぐぇへへ…」
魔物との戦闘が終わって緊張を解いた2人は、葵の品定めをしながら、だらしない顔になっている。
「もちろん命もかわいさが増してるし、悠も意外と似合ってて少しドキッとしたけど、2人とも残念ながら引き立て役ね…」
「イノっちとユウきゅんも、自分がかわいくなっているにもかかわらず、よりかわいいアオちゃんを愛でてる…羨ましい…」
「今度茗露には、その茶色の髪に合う大きなブルーリボンをつけてあげるわ…」
「私も、アキちゃんに緑のリボンをどう使えばかわいくなるか考えておくね…」
狼の核は明、茗露、悠が1つずつ取り、皆に惜しまれながら葵のレッドリボンが消えると、一行は城壁沿いを北に進んだ。
この世界の属性は第六種魔法以外の魔法の系統と同じ赤緑青白黒の5属性あります。
属性による効果の強弱は、同じ属性への攻撃(例:黒属性の魔物に黒魔法で攻撃する)が弱くなる以外に、緑と青の属性持ちが赤属性に弱くなる、赤と青の属性持ち(紫色)が緑属性に弱くなる、赤と緑の属性持ち(黄色)が青属性に弱くなる、といった関係があります。
葵たちが狼と戦った際に「レッドリボン」を使ったのは、それによって攻撃が赤属性となり、青属性の狼に赤属性の傷をつけることで緑属性の攻撃(満貫・緑一色)の効果を高めるといった意図がありました。