1章2 降臨
相変わらず投稿の間隔が長くて恐縮ですが、1章の2話目をお届けします。
2
サンダーラットの核は一旦学校で預かってもらい、8人は食堂へ。
4人席のテーブルを2つつなげた8人席で、葵の隣を確保したのは命と明だった。
一方、「煌華菱嵐」の側で、見事葵の真向かいを確保したのは智だった。
「葵様が食事する姿を真正面からみられる特等席…最高…えへへ…」
自分の注文した食べ物には全く手を付けずに、恍惚とした表情で口からよだれを垂らしながら葵の食事風景を見続ける智。
「あの智ちゃんがここまで壊れるとは…葵ちゃんは魔性の女やなぁ」
「紫、君はあの席に座って正気を保っていられるとでも思うのか?」
「無理無理」
「紫ちゃんは正直だね…みやびも同じ意見だよ」
「それでも、ぼくは智が羨ましい…壊れてもいいから葵のそばにいたい…」
「…あぁ…葵様…お待ちください…はっ…皆様、食事は…」
「食べ終わってないのは、葵ちゃんに見惚れてた智ちゃんだけだよ」
「智、あまり長いこと葵を待たせると、葵に嫌われるよ…」
「そんな…葵様に嫌われたら…生きている価値などありませんわ…」
智は泣きながら昼食を食べ終えて、すぐに葵のもとへ急いだ。
智が
「葵様…お待たせしてしまい、誠に申し訳ございません…」
と謝罪した後、8人は再び町の外へ。
今度は東、北、西の順番で回ることにした。
隊列も紫が先頭、次の列に悠と雅、3列目に智と茗露、4列目に明、殿が葵と命で、昼前と逆だった。
北西の隅あたりで2匹目の魔物に遭遇した。
魔物の動きは素早く、紫と悠と雅はそれぞれの武器で攻撃を防ぐのが精いっぱいだった。
「智ちゃん、そろそろアレ頼むわ」
「仕方ないですね…」
紫からお願いされて、智は赤いロッドに魔力を籠める。
「ラピート・アルファ」
智が魔法を発動させると、紫の周りが少しの間だけ濃紺に染まった。
「きたぞ きたぞ!」
魔法によって紫は魔物と同等、いや魔物よりも素早い動きをするようになり、今度は紫が両手の短剣で魔物を一方的に攻撃している。
しばらくして、紫が攻撃を止めると、緑色の体に赤紫の斑模様のついたウサギが斃れていた。
少し時間をおいて、サンダーラットと同じように、ウサギの体は核を残して消えた。
「葵ちゃん、見ててくれた?」
「見てたよ!ゆかちゃん、すごいね!」
「うへへ…葵ちゃんに褒めてもろた…」
紫はだらしない顔になって、体を妖しくくねらせて葵に褒められた喜びに浸っている。
葵は3列目まで上がってくると、智の前で立ち止まった。
「智ちゃんも、あの素早さが上がる魔法すごかったよ」
「あ、ありがとうございます…葵様…」
葵は智の手を握りながら"ラピート・アルファ"を褒めると、殿に戻っていった。
智は普通に言葉を返していたが、遅れて葵に手を握られていたことに気づくと、
「あわわわ…葵様が…葵様が…葵様の…あ…お…あ…」
幸せそうな顔で気絶した。
「葵ちゃんは本当に、魔性の女だね…」
雅が呆れたようにつぶやいた。
ウサギの核を回収すると、紫と智が正気に戻ってから城壁沿いを南下し、南西の隅に着くと、南門に向かって進路を東に取った。
南門が見えるところまで来て、3匹目の魔物と遭遇。
隊列の横から襲ってきたので、体勢を整えるまで時間がかかるが、魔物は待ってくれない。
黒い鳥のような魔物は葵を目掛けて突進してきた。
だが、彼我の距離はそれなりにあったので、葵も迎撃の準備はできている。
魔物をできるだけ近くに引き付けた葵は、魔物がくちばしを突き出す前に機先を制して
「いやぁーっ!」
というかわいらしい掛け声とともに前に出ると、"白い"力を発動させた「識彩」を魔物に向かって一閃。
魔物の体はきれいに両断され、さらに「識彩」の"白い"力によって、魔物を覆っていた黒い羽根は白化すると、内部で爆発でも起きたかのように辺りに散った。
白い羽根越しに見えた、あちこちに白い羽根をつけた葵の姿はまさに天使だった。
しばらくして、魔物の体と羽根は消滅し、魔物がいたところには核が落ちていた。
「葵…まるで天使のように…尊い…」
「葵さんは…天使だったのですね…」
「天使の…アオちゃん…かわいい…」
「天使の葵様…貴女を信仰します…」
「ああ…まさに葵は…ぼくの天使…」
「みやび…天使の葵ちゃんが好き…」
「うちに葵ちゃん天使が降臨した…」
明、命、茗露、智、悠、雅、紫はそれぞれ、葵を天使と錯覚して独り言をつぶやく。
「皆さん、わたしを崇めてないで、そろそろ町の中に戻りましょう」
核を回収した葵がこう言って移動を促すと、
「はい…天使様…」
という感じで葵の言うことは聞くが、逆に葵以外の外的要因には何も興味を示さない、ある意味危険な状態。
幸い、この後は魔物に襲われず町の中に入れたが、学校に着いて教師に対処してもらうまで、7人はこの状態のままだった。
なお、後にこの日討伐した魔物を調べたところ、2匹目のウサギは「シティラビット」、3匹目の鳥は「ダークダック」という魔物だったそうだ。
作品中の重要な要素ではないのでここに書きますが、「シティラビット」は、動物園の外にある町出身のシティという人が発見したウサギの新種、という設定です。