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万有の葵  作者: 長部円
1章
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1章1 町の外にて

半月ほど空いてしまいましたが、1章の第1話をお届けします。

1


城郭都市「四稜(しりょう)町」にある「四稜女子中等学校」の3年生グループ「十色盟(といろのちかい)」と「煌華菱嵐(こうかりょうらん)」の合計8人は、卒業課題の1つ目「外の町へ行ってくる」に挑戦することになった。

まず今日は、町の外に広がり、四稜町と外の町を隔てている"動物園"の雰囲気に慣れつつ、すぐに町に戻れるところで魔物と戦う経験を積むことにした。


町の外に出ると、8人は学校から持ってきた、戦闘に使う武具を手に持った。

葵の武器は刀だが、学校の備品は予備にして、メインは初等学校の卒業時に成績優秀者の記念品としてもらった銘刀「識彩(しきさい)」を使う。

もとから用意されていたものではなく、四稜町の武器職人7人が葵のために造ってくれたという。

以来、葵のお気に入りとして使い続けている。

四稜女子中等学校では卒業課題を含めて、武具は学校の備品でも個人の持ち物でも、校則や法令に違反しないものであれば使用可能である。


他の()たちの武具は、(めい)が小型の矢を打ち出す弩、(みこと)は薙刀、茗露(めいろ)は緑属性を強化するロッド。

煌華菱嵐はリーダーの椿山智(つばきやま・とも)が赤いロッド、梅田紫(うめだ・ゆかり)は両手に短剣、桃井悠(ももい・ゆう)は槍、桜木雅(さくらぎ・みやび)は葵と同じ刀。


「葵ちゃんの刀、ものすごく切れ味よさそう…みやびもこんな刀欲しいな…」

「みやちゃん…顔近いし、わたしにくっついてると危ないよ…」

刀を使う者同士、という名目で葵に近づいた雅は、そのまま葵にくっついた。

こんな場所でのスキンシップに慌てる葵だが、すでに雅を"みやちゃん"と呼んでおり、雅を含めた煌華菱嵐の4人との仲はいい。

「葵ちゃんかわええ…うちも刀にしようかな…」

紫がつぶやき、悠と智も頷く。

煌華菱嵐の4人も全員葵の愛らしさに魅了され、他のグループとの熾烈な争いを制して"課題に十色盟と合同で挑戦できる権利"を獲得した。

普段は机と明、命、茗露に阻まれているが、今は葵とイチャイチャできる貴重な機会なのである。


雅にくっつかれながら葵は辺りを見回したが、視界に見える魔物はいずれも人間に敵意を持たないものばかり。

こういう魔物は(みだ)りに傷つけてはいけない。

「城壁に沿って一回りしてみましょうか」

明の提案に他の7人が賛成し、西、北、東の順で回ってきたが、人間を襲う魔物には遭遇しなかった。

もう少しで一周して南門、というところまで来て、前方を警戒していた明が

「葵、命、少し左右に分かれて…向こうから来るわ」

と2人に伝える。

この時の隊列は、進行方向に十色盟の4人がいて、最前列が葵と命、次に明、その次が茗露。

後方には煌華菱嵐の4人がいて、茗露と同じ列に智、次の列に悠と雅、殿(しんがり)が紫。


明の言った通り、城門を守る兵士に追い払われたのか、1体の黄色い魔物がこちらに向かってきた。

「命、わたくしが矢を撃って魔物が止まったらとどめを刺して。

 葵、もし魔物が止まらなかったら頼むわね。

 茗露も、もしもに備えておいて」

「了解です、明さん」

「わかった、コーメイちゃん」

「アキちゃん、了解」

明は、2通りの可能性と、その後のことを考えて3人に指示すると、

「ブルーサンダー」

矢に青魔法を籠めて弩にセットし、黄色い魔物が有効射程に入ったタイミングで矢を撃った。


矢は狙い違わず魔物に命中したものの、魔物はそのままこちらに向かってくる。

ただ、魔物の黄色かった体色は薄くなっている。

それを見て、葵は両手で持った「識彩」に力を籠めると、向かってくる魔物を見据える。

茗露も魔法を発動できる状態になっている。


あと少しで魔物が葵にぶつかってきそうなタイミングに葵が動く。

「やぁーっ!」

葵はかわいい掛け声とともに前に出ると、"黒い"力を纏って「識彩」を一閃。

葵の一撃で(コア)ごと両断された魔物は活動を停止すると、やがて壊れた核だけを残して消滅した。

"黒い"力を纏ったまま振り返った葵の、いつもの愛らしい葵とは違う姿に、7人は魅了された。


「葵、いますぐわたくしと結婚しましょう」

「葵さん…わたしを彼女にしてください…」

「アオちゃん…私を好きにして…いいよ…」

「葵様…もう貴女から目が離せませんわ…」

「葵…ぼく…君への愛が抑えきれないよ…」

「葵ちゃん…みやびは葵ちゃんのものだよ」

「葵ちゃん…うち、もう我慢できひんわ…」

明、命、茗露、智、悠、雅、紫からほとんど同時に言い寄られた葵は慌てて"黒い"力を霧散させたが、7人が正気に戻るまでには少々かかった。

…正確には、7人は"葵のことしか考えられないような状態"は解消されたものの、葵に対しての(かす)かな恋愛感情は心に刻まれた。


魔物の核を回収して南門に戻ると、城門を守る兵士から、そちらに「サンダーラット」が来なかったかと尋ねられた。

黄色い魔物なら葵が刀で核ごと両断して滅ぼしたと伝えると、まさにその魔物がサンダーラットだったらしく、兵士が仕留め損ねたところを葵たちが討ち取ったということで褒められた。

その話をしている際に明、命、茗露と煌華菱嵐の4人は熱っぽい目で葵を見ていたが、当の葵はそれに気づいていなかった。

魔物の核の扱いを聞いたり、少し遅めの昼食をとったりするために、一行は一旦町の中に入り、学校へ戻った。

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