序章2 馴れ初め
原稿用紙1枚分にも満たない文字数で、抽象的な表現ばかりのプロローグだけではよくわからない話でしかないので、あまり間を開けずに序章2話目を投稿します。
序章2
上野葵は、いわゆる「器用貧乏」ですらなかった。
この世界に存在する6系統の魔法すべてにある程度の適性を持って生まれたが、初等学校では基本の3系統(赤魔法、青魔法、緑魔法)で学年の平均か平均未満の能力しかなかった。
残りの3系統のうち、白魔法と黒魔法は使い手自体が少ないため、初歩の魔法しか使えなくても重宝されたが、第六種魔法は行使に必要な魔力が足りなかった。
女子中等学校の入学試験も、2次試験である魔法の実技は白魔法だけを使って合格した。
魔法の実技試験の内容は、3体あるターゲットが基本3系統それぞれに耐性を持ち、かつ3体同時に破壊しないとやり直しになるというもの。
葵はまず「スーパーカムイ」で一時的な能力強化を行い、ターゲットの耐性に影響されない「ホワイトアロー」を1体ずつ同じ回数当て続け、あと1回か2回当てたら壊れそうなところで、複数を同時に攻撃できる「スーパーホワイトアロー」に切り替えた。
作戦通り、やり直しなしで3体同時破壊を達成し、2次試験を突破した。
最終試験としての面接はあったものの形式的なもので、よほど人格に問題があるとかでなければ最終で落とされることはなく、葵のもとにも後日合格通知が届いた。
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入学式の日、母・天音に連れられてやってきた女子中等学校。
自分のクラスが1組であることは、校庭に張り紙で掲示されたりはせず、合格通知と、その後の入学手続きの際にもらった女子中等学校の生徒証に記載されていた。
入学式が行われる講堂に一足先に向かう天音と別れ、葵は1年1組の教室に向かった。
その日、入学式が終わって講堂から教室に戻ると、明日以降の授業や学校行事などの説明があるとのことで、担任の教師から席に座るよう指示された。
葵が空いている3人掛けの席の真ん中に座ると、すぐに両脇も埋まった。
左右に座った子を葵が見ると、2人ともとてもかわいい子だった。
2人だけでなく、これから1年間クラスメイトになる35人全員がかわいかったが、2人は顔を間近で見たからか、葵にはよりかわいく見えた。
「わたしは萱野命です、よろしくね」
「わたくしは神田明です、あなたは?」
「わたしは、上野葵です…2人とも、1年間よろしくね」
葵の右に座った命は、きれいな黒髪ロングヘアと、神秘的な黒目が魅力の清楚系女の子。
葵の左に座った明は、まるで光が透き通っているような白髪ロングヘアに灰色の瞳、そして円形の眼鏡をかけた儚げなメガネっ娘。
葵は黒髪のショートボブに濃いブラウンの瞳、動いていなければ高級な人形と間違えられるかもしれない。
3人は担任教師の説明が終わって解散となってからもその場を動かず、雑談に興じた。
もっとも、それは3人だけでなく多くのクラスメイトも同様だったが。
話しているうちに見た目通りではない自分以外の2人の内面に触れてしまったものの、結果的には意気投合し、そのまま3人は友達、そして親友となった。
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2年生の時は、葵と明は引き続き同じ組になったが、命とは別の組になってしまった。
その代わり、新たな友達ができた。
茶髪のショートヘアに茶色い瞳の本山茗露。
彼女は1年生の時には"ぼっち"ではなかったが、親友と言える存在はできなかった。
2年生の教室で、始業式後の明日以降の授業等の説明がある際に、派閥に入れなかった茗露は"余っていた"葵の右隣に腰掛けた。
「わたしは上野葵です、よろしくね!」
「わたくしは神田明です、あなたは?」
「本山…茗露…です…」
この時の茗露は少しおどおどしていたが、その姿が2人をキュンキュンさせた。
「わたし、茗露ちゃんのかわいさにメロメロになっちゃった…。
だからわたし、茗露ちゃんのことこれからメロちゃんって呼ぶわね」
「ふふっ…じゃあ私も、葵ちゃんのこと…アオちゃんって呼びます…」
命にも茗露を紹介し、葵たちのグループは4人になった。
茗露が呼ぶ明のあだ名が「アキちゃん」、命のあだ名が「イノっち」になったのも2年生の早いうちだったが、本人曰く2人のあだ名の由来は「なんとなく」だったらしい。
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3年生になり、4人は同じ1組になった。
昨日は始業式で、今日から3年生の授業が始まる。
葵は始業「20刻」前に学校の正門を通過し、3年1組の教室へ「1番乗り」を果たした。
窓側にある「4人掛け」の席を確保し、親友たちの到着を待つ。
3人の姿は他のクラスメイト達よりも早く現れた。
葵は3人を見て、3人は葵を見て、ぱぁっと笑顔になる。
「コーメイちゃん、ミコちゃん、メロちゃん、おはよう!」
「おはよう、葵」「葵さん、おはよう」「アオちゃん、おはよう」
その挨拶とともに、葵の隣の席をかけた3人の短くも激しい争いが幕を開けた。
白魔法の名称は完全に趣味に走りましたが、私は道民ではありません。あしからず。
本編である『無のエリス』との掛け持ちになるので、次話投稿の頻度はあまり高くならないと思います。(エリスのほうが行き詰った場合はこちらのほうにシフトする可能性もありますが…。)
次回投稿は気長にお待ちください。