私はハーレム要員じゃない!!【読切】
私はフィリア、フィリア・アストネーデ。15歳の普通の女の子だ。栗色の髪をツーサイドアップで纏めており、瞳は炎の属性色である紅色をしている。容姿に関しては、それなりに良い方だと自負しているし、もちろんそれなりに気を使っているけれど、ひけらかす真似はした事はない。そう言うのをひけらかすのはキャラじゃないと言うか、好きではないタイプだしね。
私が住んでいるのは、ラグラリアンタ統合王国という国のローバレン地方の南にあるマチセットと言う街である。マチセットは魔物の侵入を防ぐための城壁に囲まれた街で、各村とローバレン地方の都市とを繋ぐ交流拠点でもある。ローバレン地方では都市のアルベンの次に栄えている都市ね。
お話の始まりは、そんなマチセットにやってきた一人の冒険者によって始まった。
街の外には当然ながら魔物が存在する。魔物と動物の明確な違いは魔力量の違いで、魔物は保持魔力量が動物よりも多いと言う特徴があるらしい。一般人にはそんな違いなんてわからないし、野生動物と害獣の差ぐらいにしかないんだけどね。
私が用事で街の外に出ていた訳だけれど、帰り道に不運にも魔物と遭遇してしまったのだった。
「はぁ、はぁ、はぁっ!!」
私は病気のお婆ちゃんを助ける為の薬草を採取した帰りであった。カゴいっぱいの薬草を手で押さえつけて溢れないようにしながら、マチセットに向けて死に物狂いで走っていた。
「GYAOOOOOOOOO!!」
獲物である私を追いかけて、魔物が空を飛んで追いかけてくる。
時折急降下して来て私を捕獲しようとしてくるが、間一髪でなんとか避けきれている感じだ。運動神経はある方でよかったが、それどころではない。
私を追いかけてきているのは、ワイバーンと呼ばれる種類の竜である。飛竜とも呼ばれる魔物で、とてもではないけれどただの女の子である私は逃げるだけで精一杯である。
そして、さらに不運なことに、周りには野生動物どころか魔物すら居なかった。
一応、護身用に剣は装備しているが、ワイバーン相手に戦う余裕なんて無い。そもそも、ワイバーンは軍人さんが集団で討伐する魔物である。捕まらずに逃げ続けることができるだけ私は幸運であった。
「ヒィッ!」
私がとっさに右に飛ぶと、ちょうどその横を掠めるようにツメが降り注ぐ。
風圧で私は吹き飛ばされ、地面を転がるがすぐに起き上がり逃亡を再開する。あんなもの、当たったら八つ裂きである。私は恐怖のあまり色々な所から汁がダダ漏れであった。
「シヌゥ! こんなの死んじゃうってぇ……!」
体力の限界なんて意識する暇もない。力尽きても逃げなければワイバーンのおやつなのだ。
薬草を摘みに来てこれはない。私は全力疾走で逃げていた。
再度ワイバーンが私を狙って降下してきた時に、男性の声が聞こえた。
「Daijoubu ka?!」
私の知らない言語が聞こえて来た。
恐らく、大丈夫かーみたいな事を言っているのだろうか。
見たことのない服装の男性が私とワイバーンの間に割り込んだ。
「ちょっ……!」
その男性は見た目が16歳ぐらいの中肉中背で、黒髪短髪で瞳が黒い、端正な顔立ちであった。見たことのない服装をしているし、武器も持っていなかったけれど、その男性はワイバーンの方に振り向くと、飛び上がりワイバーンの顔をぶん殴った。
その跳躍力は人間離れをしていたし、腕力も到底人間のものとは思えなかった。
バキーンッッと殴った音とともに骨が折れる音を立てたかと思うと、ワイバーンはそのまま倒れてしまう。
その男性はスタッと地面に着地して自分の拳を見て驚くと共に、ワイバーンを見上げる。
「Oho、Sasuga ha Reberu Sanhyaku to Ittatokoroka……!」
私の知らない言語で言っているけれど、何を言っているのだろうか?
感嘆の声については理解できたけれど、何を言っているのかはわからない。
「Kimi、Daijoubu Datta? Kega ha Naika?」
「え、えーっと……」
「Nn? らぐらりあんたGo? Sukiru wo shuウトクしてっと……」
突然その男性は空間を指でなぞると、徐々に意味がわからない言葉からよく知る言葉に変化していく。聴いているこっちとしては気持ちが悪い現象だった。
「あー、君、大丈夫か?」
「え、ええ、あ、ありがとう……?」
私は状況がわからなかった。この、ワイバーンをワンパンした男性は一体なんなのかわからないし、そもそも黒髪黒瞳なんて、見たこともなかった。
声は若干幼い印象を受ける。見た目の年齢より幼目だ。
「うわ、なんか凄い状態だな……」
それはまあ、恐怖で私の体のあらゆる場所から汁がダダ漏れだった訳だし……。
「え、あ、ええ。ハァッ、ハァッ。……と、とりあえず、助かったわ。ハァッ、ふぅっ……。一人でワイバーンを、ワンパンなんて、強いのね。冒険者、かしら?」
私は気を取り直して、その男性に話しかける。呼吸を整えながらなので息が荒いのはご愛嬌だ。うう、今更ながら湿ったパンツが気になって来た……。
「えー……。まあ、そんな感じだ」
テンプレートで言っては見たものの、どう見ても冒険者には見えない。なんなら、容姿や来ている服装、筋肉のつきかたからいえば、町人そのものだろう。
あのワイバーンをワンパンした腕さえ無ければであるが。
「うーん、いや、貴方は冒険者じゃ無いわね。見たことも無い服を着てるけれど、デザインから言えば市販の服っぽいし……」
「え、ええっと……?」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はフィリア、フィリア・アストネーデ。親しい人はフィアと呼ぶわ」
実際、目の前の男性が私を助けてくれたことには変わりない。なんでこんな軽装でこんな場所にいるかはわからないけれども、安全な街にでも案内した方が良いだろう。
まあ、放置をしても大丈夫そうだけれど、私が安全に帰ることができそうだしね。
「お、俺はミツルギ=ハヤトだ。よろしくな」
ミツルギ=ハヤト……。聞いたことのない名前の付け方である。一部亜人の人たちや、民族の人たちにも特殊な名前をつける法則はあるので、それに近い人であるだろうか?
「ええ、よろしく。ミツルギさんね。助けてくれてありがとう」
「いや、当たり前の事をやっただけだから気にすんな。それに、レベルの確認もしたかったしな」
レベルとは一体なんのことだろうか。テーブルトークゲームの一種に強さを数値で表すものがあるけれど、それの事を指しているのかしら?
まあ、良いわ。
「そう言えば、フィア……で良いのか? なんでまたワイバーンなんかに襲われていたんだ?」
「……わからないわ。私は普通に薬草を採取していただけだったのだけれど、突然襲われた感じよ」
そう、思えば前触れは無かった。突然周りから魔物や動物の気配が無くなって、ワイバーンに襲いかかられたのだからね。
「そうか、そりゃ大変だったな。肝心の薬草は大丈夫だったのか?」
「ええ、それは死守したわ」
私はミツルギに薬草の入った籠を見せる。
薬草……ヒーリングハーブと呼ばれるものが一般的だけれど、それだけでは無い。今回採取したのは、結構レアな薬草である、ディスペルハーブである。確かこれを調合するとディスペルポーションになって病気や精神異常に効く薬になる。
「へぇー。葉っぱ? うーん、ハーブか何かか?」
この時点で私はミツルギがどう言った人物であるかを推察することができた。
どうやら、このミツルギはいわゆる【異世界】から何らかの形でやってきた人物なのだろう。そういう類の小説は、世の中に出回っているし、私も女の子がこの世界よりも文明レベルの低い世界に召喚されて恋をするみたいな小説を読んだことがある。
「そうよ。ミツルギさんの世界ではこういった薬草を煎じて薬にするなんて技術は無いのかしら?」
「うーん、知らないけど、錠剤の薬ならそこらで売ってあったりするけど……ってあれ?」
「そうなんだ。錠剤の薬ね……」
錠剤の薬は私の世界には存在しない。それは、液状の薬の方が効果が高い事に起因する。一般常識レベルだけど、錠剤の薬を作るための技術よりも液状の効果の高い薬を発展させたらしい。私もこのディスペルハーブは街の薬剤師さんに依頼して調合してもらう予定であった。
ちなみに、小型の薬は主に液体の薬品を濃縮したカプセルが主流である。
そう考えると、ミツルギの世界は確かに異世界と言えるだろう。
「そうそう、ジェネリックとか安いのもあるしね」
じぇねりっく……?
どういう意味かは分からなかった。おそらく彼の世界の独特の言葉なのだろう。
「それと、もう落ち着いたか?」
「ええ、おかげさまで」
私は立ち上がる。……パンツが湿っていて気持ちが悪い。お家に帰ったらすぐに着替えたい気分だわ。
「私は街に戻るけれど、ミツルギさんはどうするのかしら?」
「じゃあ、俺も付いていく。せっかく異世界に来たし、冒険者! ……ワクワクしてきた!」
せっかく以降はボソボソ言っていたけれど、あいにく私は難聴ではないのでバッチリ聞こえた。
ああ、これが異世界転移者と言う奴ね。まさか実在する上に私が関わってしまうなんて思っても見なかったけれど……。
確か、こう言う異世界転移って自然と周りに女の子を囲ってハーレムを作るのが鉄板なのよね。……そう言うのは私は遠慮したいところだわ。
そんな事を考えながら、私はミツルギをマチセットに案内するのだった。もちろん、私は漏らしているので匂いを嗅ぎつけられ無いように、距離を取りながらだけれどもね。
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「おお、フィアちゃん。お帰り」
「レルディアさん、こんにちは。今日もお仕事お疲れ様です」
「ありがとうな。薬草はどうだった? さっきワイバーンの鳴き声が聞こえたから警戒が高まっているんだが、大丈夫だったか?」
私は門番のレルディアさんに挨拶をする。まあ、結構近場まで逃げてたからね。
レルディアさんは甲冑姿にマスケットを持った門番のおじさんである。仕事はまさに門番で、体格はかなりがっしりしており、腰には剣を指している。
「ええ、命からがら逃げてたわ。死ぬかと思った……」
「ええっ! フィアちゃんよく生き残れたな……」
「私の後についてきてくれている男性に助けてもらったのよ。間一髪だったけどね」
私の言葉に、レルディアさんはミツルギの方を見る。
ミツルギは早速自己紹介した。
「俺はミツルギ=ハヤトだ。よろしく」
ここで冒険者だと言わなかったのは良かった事だろう。冒険者の場合は冒険者カードを提出する義務があるからね。まあ、道中で私が忠告したのだけれど。
「……本当ににいちゃんがフィアちゃんを助けたのか?」
レルディアさんが疑うのも仕方ないだろう。なんと言ってもミツルギはヒョロイのだ。むしろワイバーンをワンパンで倒したことが変なレベルである。
「ええ、ミツルギさんが機転を効かせてくれたお陰で」
「ふーん……。まあいいや。フィアちゃんがそう言うなら事実なんだろう。で、ミツルギって坊主は街に入るのかい?」
「ええ、恩人だもの。恩はちゃんと返さないとね」
「さすがはアルミアの婆さんの孫だぜ」
アルミア・アストネーデは私のお婆ちゃんだ。両親が居ない私の育ての親で、今は病気で伏せている。
最近マチセットでは病気が流行っていて、それに感染したと言った現状だ。原因不明の病気で、回復魔法でも完治しない謎の病気である。
「……うん」
「で、フィアちゃんはちゃんと薬草を採取できたのか?」
「それはもちろんよ。ディズペルハーブを籠いっぱいに採取してきたわ」
私はにっこりと笑って籠を見せた。
「お、よかったよかった。それでアルミアの婆さんが治ると良いんだがな」
「そうね」
私はうなづく。
そうそう、ミツルギを忘れていた。
「で、ミツルギさんは街に入って大丈夫かしら?」
「ん? 身分証は持ってるのか?」
「多分ないわ。どうやら何処かから転移事故に巻き込まれて転移してきたらしいのよね」
これは事前に打ち合わせている。
ミツルギが持っていたのは革製の黒い財布に見たことない紙幣と硬貨、それに見た事ない文字で書かれた顔写真つきのカードに、イラストの入ったカード数枚である。
ミツルギ曰く、顔写真つきカードは【学生証】と言う身分証で、それ以外は【ポイントカード】らしい。
「……そっか、にいちゃんも大変だな。それじゃ、身分証を発行してやる。見たところ無一文っぽいから、今回だけただで発行してやるよ。フィアちゃんを助けてもらったみたいだしな」
「え、マジですか! ありがとうございます」
素直にお礼を言えるので、ミツルギは悪い奴じゃないのだろう。異世界転移ものは引きこもりやコミュ障が転移するパターンがほとんどであるので、ミツルギもそれかと思っていた。
「あ、レルディアさん、私は先に入ってて大丈夫? ワイバーンから逃げてる時に汗かいちゃって……」
「ああ、構わないぜ。ミツルギの坊主はこっちな」
「ああ、わかった。フィアさん、また後で」
「ええ、また後でね」
私はミツルギを置いて、自宅へと走って行った。
で、シャワーを浴びて着替えると、私の家の呼び鈴が鳴った。ちょうど着替え終わっていたので、玄関まで出ると、ミツルギが待っていた。
「あら、ミツルギさんじゃないの。よくわかったわね」
「ああ、レルディアのおっさんに教えてもらってさ」
なるほど、まあ、私の恩人だしね。
「しかし、それにしてもすごいな! 蒸気機関っての? 至る所で蒸気をプシュープシューってしててさ!」
「……当たり前じゃない。蒸気機関って」
「おお、さすが異世界……」
蒸気機関の何が珍しいのだろうか。と、思ったけれど、ミツルギは異世界人である。ならば、蒸気機関がエネルギーの中心ではない世界から来たのかもしれない。そう考えると、ミツルギが驚くのも無理はないのかもしれない。
「ああ、この世界は、簡単に言うなら魔法と蒸気機関の世界よ。ミツルギにとっては珍しいかもしれないわね」
「ああ、スチームパンクの世界だったのか!……ってあれ?」
「スチームパンクってのが何を意味してるのかは分からなくもないけど、そんなところよ。首都に行ったらもっと驚くかもしれないわね」
何というか、ミツルギの目がものすごく輝いている。
蒸気機関は私にとっては当たり前の世界だけれどね。各家庭に蒸気機関があって、蒸気エネルギーを光に変えたり、生活用品のエネルギーに変換している。魔法との相性が良いのも、蒸気機関が発達した遠因だとも言われている。
蒸気エネルギーは魔力に簡単に変換できるらしいのだ。
そのせいか、街の中は基本蒸気で充満していて蒸し暑かったりするのが弊害である。洗濯物は街の外の城壁に干してあったりするのは、蒸気が街に充満しているからというのもある。
「すげーな! スチームパンクってこんな世界なんだな!」
「感動しているところ悪いけれど中に入ってもらえるかしら? さすがに玄関前で興奮されると困るし……」
「あ、ああ。すまない」
私はミツルギを家に招き入れた。
もちろん、客間にお通しする。髪は乾かし中だったので濡れているが、服は別の外着に着替えている。
私ははハーブティーを入れると、ミツルギに出す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。ってお茶じゃないのか」
「ハーブティーよ。この世界では一般的な飲み物だから覚えておくと良いわ」
「そうなのか。それじゃ、ありがたくいただくよ」
今淹れたハーブティは疲労回復に効果のあるノアビスカスをブレンドしたのハーブティーである。さっぱりとした酸味が特徴で、気に入っているハーブティーである。
「へぇー。結構美味しい」
「それはお粗末さま」
私もハーブティーに口をつける。……うん、美味しく淹れられたわね。
さて、この異世界転移者であるミツルギがどうするのかは、聞いておいたほうがいいだろう。少なくともマチセットにいる間ぐらいは面倒は見るつもりだ。
「ミツルギさん、今後はどうするつもりなの?」
私はど直球で聞いて見ることにした。
「どうって?」
「生活とかどうするのってことよ。一応身分証は発行してもらったはずだから、マチセットに滞在するのは問題ないでしょうけどね」
「あー……、確かに」
この顔は考えてなかったのかな?
しきりにこの客間でもあたりをキョロキョロしているし、そんなに珍しいのかしら?
とは言っても、異世界転移なんて基本的に冒険者やっているイメージなので、冒険者ギルドを教えてあげればいいかなー?
「そう言えば、冒険者って職業があるみたいな話をしていたけれど、やっぱりあるのか?」
「あるわ。と言っても、この世界の冒険者はどちらかと言うと開拓者って意味合いが強いのだけれどね」
「開拓者……」
「そうよ。街中で起きる事件は探偵か官憲が解決する仕事になるんだけれど、魔物の討伐や街の外の探索は冒険者の仕事になるわ」
中世ぐらいの時期だと探偵も兼ねていたらしいけれども、現代では冒険者はほとんど開拓者と同一のニュアンスになっている。実際、未開の土地の調査や魔物の駆除が主な仕事である。
今でも、冒険者が土地を開拓して入植してできた村や街が存在する程度には必要とされている職種ではある。
蒸気機関が発達して、主要都市は蒸気機関車で繋がれている現代においても、未開の地が多いのはひとえに魔物の存在が大きいのだ。開拓しては魔物に滅ぼされ、また開拓されと言うのを繰り返している。人間同士でも土地の奪い合いで戦争になるため、未だに世界地図には空白の場所が存在する。
まあ、私がディスペルハーブを採取しに言った場所はその空白の土地だったりするわけであるが。
「……そんなわけで、危険と隣り合わせだけれど、冒険者と言うのも悪くないわね。ミツルギさんの強さならそれもありなんじゃないかしら?」
「なるほど……。冒険者もありだな」
ミツルギには私の説明でちゃんと伝わったらしい。まあ、異世界転移して冒険者になるって鉄板だしね。
「他には無いのか? 例えば、勇者とか」
「勇者? えーっと、勇者ってのは魔王を倒すとかそう言うやつかしら?」
「そうそう」
魔王だとか勇者なんて、そんなのおとぎ話にしか存在しない。そもそもに勇者は職業ではなく称号である。いやまあ、職業に勇者が存在する異世界があるかもしれないけれどね。ミツルギが異世界人なら、そう言う世界もあるかもしれない。
ひとまず、私の知る限りにおいては勇者なんて存在したことは無かった。英雄はいるけれど、それこそ中世や戦争時のお話である。
「あいにく無いわね。ミツルギさんが望むような職業は」
「そ、そうなのか……」
ガックリとしているが、世の中そんなものである。
「私の国は島国だから戦争をそこまでしないけれど、軍や騎士になれば英雄になれるかもしれないわね」
「うーん、さすがに軍はな……。俺は戦争は嫌いだし」
それは見ればわかる。ミツルギを見れば、とてもじゃ無いけれども冒険者や軍人に向いているようには見えないのだ。ワイバーンをワンパンしたのだって未だに信じられない程には。
「ま、この世界は中世ファンタジーじゃ無いけれども、ミツルギさんのいた世界とは違う文明みたいだし、帰る方法でも探索しながら冒険でもしたらいいんじゃ無いかしら?」
帰りたいようには見えないけどね。
私がそう思っていたら、案の定ミツルギは否定した。
「いや、帰りたくは無いかな。どうせ戻ったとしても、嫌な上司や過酷な仕事が待っているだけだし……」
ミツルギはそう言うと、暗い顔をした。どう見ても私と同い年にしか見えないのに、まるで長年勤めていたような雰囲気を醸し出している。
「……ミツルギさんって何歳なの?」
「俺? あー、えっと、ステータス上は16歳だな。うん」
「……」
そこで誤魔化してもなぁと思う。
「まあ、良いわ。一応お婆ちゃんに確認するけれども、部屋を一部屋貸すわ。とりあえず、ミツルギさんが部屋を借りれるようになるまでだけれどね」
「すまない、ありがとう」
私はため息をついてそう提案するのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それが、私とミツルギ=ハヤトの出会いだった。この男は気づいたらどんどん色々な女性と知り合っていき、気づけばハーレムが出来ていたわけだ。
奴隷の女の子2人に、冒険者仲間の女の子2人、貴族の女の子1人となかなかバラエティ豊かなメンツが揃っていたのは、さすが異世界転移者の面目躍如だろう。
私はマチセットから出て旅をすると言うことは無かったのだけれど、なんだかんだでミツルギ絡みの事件に巻き込まれて、周りからハーレムの一員みたいな扱いを受ける事があり若干不快だった。
そして、他にもいたらしい転生者や転移者とも知り合う事になり、なんだかんだで私をハーレムに巻き込もうとするから大変であった。
あの知らず知らずのうちにハーレムを形成していくのは才能なのかしら? 私以外の全員がそれぞれの推しに好感度が高い状態というのはなかなかに気味の悪い光景である。
ただ、そんな異世界転移者に私は言いたい。
「私はハーレム要員じゃない!!」
なぜかノリノリで書けてしまいました!
長くなるので最後はブチ切りしました。
スチームパンク系の現代に異世界転移ってのも面白いかなと。
調べてないんで知らないですけど、それなりにありそうですよね。
世界観的にはスチームパンク世界で西暦1940年代近辺になります。
小説も刊行されていて、異世界転移・異世界転生系の小説もチラホラ存在します。