大団円
「お前たちにはさんざん酷いことをしたのに、こんなに良くしてもらって、なんとお礼をいっていいものか」
「べつにいいよ、村の人たちと仲直りできてよかったね」
リュウくんとアリスちゃんは結局、ドラゴンの生き血を手に入れることはできませんでした。
でも、そのかわりにドラゴンから七色に輝くウロコをもらいました。
「ワシのウロコを粉にして、人間が飲めばどんな病気でも治ると聞く。足りないようだったらまた取りに来るがよい」
「うん、どうもありがとう!」
「アリスのおかあさんが元気になったら、またあのおいしいカレーをごちそうしてくれよ」
「うん! じゃあ、またねー」
こうして、リュウくんとアリスちゃんは、ドラゴンの棲み家を後にしました。
後は急いで、おかあさんに薬を届けるだけです。
ドラゴンの棲み家の岩山をどんどんと登って行く二人。
頂上まで登って空を見上げると、不思議なことに空にぽっかり穴が空いていました。
「あそこから、おうちに帰れるはずなんだけど……」
リュウくんとアリスちゃんは、空の穴から中に入ると、スポンと地上に飛び出しました。
「着いたー!」
「やったー!」
穴から抜けた先は、アリスちゃんが住んでいる村のはずれでした。
「よし、急いでおかあさんにそのウロコを飲ませよう」
「うん!」
リュウくんとアリスちゃんは、急いでアリスちゃんの家に行くと、ドラゴンの言うとおりにウロコを粉にして、おかあさんに飲ませてあげました。
すると、病気で眠ったままだったおかあさんの目が開き、おかあさんの意識がもどりました。
「おかあさん?」
「……アリス?」
「おかあさーん!」
アリスちゃんはおかあさんに抱きつくと、エーンエーンと泣きました。
おかあさんもアリスちゃんをギュッと抱きしめます。
二人は、いつまでもいつまでも生きている幸せをかみしめて、涙を流して抱き合いました。
リュウくんはその様子を見て、心から良かったなあと思いました。
そして、リュウくんとアリスちゃんに別れの時がやってきました。
「……もう、行っちゃうの?」
「うん。ぼくの町の人たちがそろそろ心配してるころだと思うし、ぼくの住む町につながる穴が、いつまで開いているか分からないから」
「そっか……」
アリスちゃんは青い瞳に涙を浮かべ、少しさみしそうに言いました。
「リュウくんのおかげで、おかあさんを助けることができたよ。本当に……、本当にありがとう」
「いやー、薬が手に入ったのはアリスちゃんが頑張ったからで、ぼくは穴を掘っただけだよ」
「ううん。リュウくんがいなかったら、わたし一人じゃ何もできなかった。いっぱい助けてもらったのに、わたしリュウくんに何もしてあげてない……」
「いいよ。女の子を助けるのは男の務めだし、ぼくもアリスちゃんといっしょに冒険できて楽しかったよ。おいしいゴボウの食べ方も教えてもらっちゃったし」
この言葉を聞いて、アリスちゃんは少しだけ笑顔になります。
「リュウくん、わたしが急に押しかけて来たのに、すごく優しくしてくれたね」
「アリスちゃんが出てきた時は、本当にびっくりしたよ」
「一緒に旅をして、ネズミのおばあさんからスパイスもらったり」
「フェレットのおねえさんから牛肉をもらった時はびっくりしたね」
「わたしが不安な時は励ましてくれて、わたしが捕まった時も助けに来てくれて、あの時はすごくカッコ良かったよ」
「いや、そんな……」
「リュウくんがいっぱいいっぱいいーっぱい、優しくしてくれたから、だから、わたし、その……」
アリスちゃんは、そっとリュウくんのそばによると、リュウくんのほっぺにキスをしました。
「わたしのこと、忘れないでね……」
「……うん、絶対忘れないよ。きっと、また会おうね!」
リュウくんは真っ赤になりながら、ニッコリ笑って言いました。
*
こうして、二人の冒険は幕を閉じ、自分の住む町に帰ってきたリュウくんは、また穴掘りをして暮らす日々に戻りました。
「穴を掘るときゃごーかいに、宝を掘るときゃしんちょうに、ほーりほりったら、ほーりほり♪」
リュウくんは歌を歌いながら、昔の金貨や昔の武器、首飾りや宝石など、土に埋まった宝物をどんどん掘り出していきます。
今日はいつもより大漁でした。
でも、リュウくんはなんだか物足りないみたいです。
地底の国への入り口は、いつの間にか閉じてしまったみたいで、リュウくんはアリスちゃんと会うことはできなくなっていました。
このまま、もう二度と会えないのでしょうか?
「……ちょっと試してみようかな」
リュウくんは自慢のスコップを構えると。
「穴を掘るときゃごーかいに、アリスちゃんを掘るときゃしんちょうに、ほーりほりったら、ほーりほり……、なんてね」
すると、リュウくんが掘った穴の中から、ポコンとまたアリスちゃんが出てきました。
「アリスちゃん!?」
「おひさしぶりー! おかあさんの病気がすっかり良くなったから、改めてお礼を言いにきたの。でも、また帰り道が分からなくなっちゃったから、またお家まで送ってくれる?」
リュウくんはアリスちゃんを穴から引っ張り上げると。
「うん、ぼくにまかせてといて!」
そして、また二人の旅が始まります。
さあ、今度はどんな冒険が待っているかな?
めでたし、めでたし。
おしまい