一件落着
そして、ひゅるるーと落ちてきたドラゴンは、ドッコーン! と地面に叩きつけられて、気を失ってしまいました。
「よいしょっと」
温泉が出てきた穴から、リュウくんが出てきました。
「リュウくーん!」
アリスちゃんはリュウくんに駆け寄りました。
「リュウくん、生きてるの? お化けじゃないよね」
「うん、大丈夫。アリスちゃんもケガはない?」
「よかったぁ……、リュウくん死んじゃったかと思ったよぉ……、本当によかったぁ……」
崖から落ちたと思われたリュウくんですが、実は崖の壁面にしがみつき、横から穴を掘り進めて、ドラゴンの棲み家の真下の温泉を掘り当てていたのでした。
エーンエーンと泣く、アリスちゃんの頭をなでて、リュウくんはアリスちゃんの縄をほどいてあげます。
「さて、あとは生き血を採るだけだな……」
リュウくんはスコップを構えて、ドラゴンに近寄ります。
ですが、気絶していたはずのドラゴンが、急に立ち上がりました。
「まだ、やる気?」
ところが、ドラゴンはそのままへたり込んでしまいました。
「もうダメだあ……、腹が空きすぎてもう動けない……」
「おやぶーん!」
トカゲの兵士たちがドラゴンをかばうように、リュウくんたちの前に立ちふさがります。
ですが、ドラゴンはトカゲたちにこう言いました。
「もういい、お前たち。どうせ我々はもともと飢え死にする運命だったのだ」
「おやぶん……」
「小娘よ、もうワシは長くない。生き血を採るなり殺すなり好きにしたらいい。そのかわり、子分たちに何か食べさせてやってくれ」
「「どういうこと?」」
ドラゴンたちの話を聞けば、元々この山の中では、草木も生えにくく、食べるものを手に入れるのが大変でしたが、最近ではわずかに取れていた木の実や草さえも取れなくなり、ドラゴンやトカゲたちはお腹が空いて死にそうだったということでした。
「そこに現れたのが、お前だったのだ。お前の生き血を飲めば不老不死になり、みんな死なずにすむと思い、お前を追いかけまわして連れ去ったというわけだ。本当に迷惑をかけた」
「ここで生きていくには、もうそれしか方法がなかったんです」
ごめんなさーい、ごめんなさーい、うわーんとトカゲの兵士たちは泣きながら謝り始めました。
それを見て、リュウくんとアリスちゃんは顔を見合わせます。
「アリスちゃん、どうする?」
「うーん、おかあさんを助けるためにここまで頑張ってきたけど……。でも、ドラゴンさんたちもかわいそう」
うーん、と二人は考え込んでいましたが。
「そうだ。リュウくん、野菜を掘って」
「え?」
「いいから、掘ってみて」
言われるがままに、リュウくんはとりあえず地面を掘ってみます。
「野菜を掘るときゃしんちょうに、ほーりほりったら、ほーりほり♪」
食べ物が取れない土地ということでしたが、ジャガイモやニンジン、タマネギが少しと、米俵が掘れました。
「やっぱり、あんまり採れないなー」
それを見たドラゴンたちは、よだれを垂らしながら。
「頼む、早くそれを食べさせてくれ!」
「あわてないで。今からおいしいのを作るから、ちょっと待っててね」
そう言うとアリスちゃんは、さっき掘ってもらったジャガイモ、ニンジン、タマネギと、ネズミのおばあちゃんからもらったスパイス類、フェレットのおねえさんからもらった佐賀牛の肉のかたまりで、コトコト煮込んだおいしいカレーを作りました。
「ご飯も炊けたよー」
「はい、できました。召し上がれ♪」
『いただきまーす!』
ドラゴンとトカゲたちは、一口カレーを食べた瞬間、どばーっと涙を流しました。
「こんなにうまいもの……、初めて食べた……」
ドラゴンたちはオーイオイと泣きながら、ガツガツとカレーを食べます。
「おかわりいっぱいあるから、たくさん食べてね」
ドラゴンたちは、おかわりおかわりおかわりおかわり! と一斉におかわりをします。
そして、あっという間にアリスちゃんのカレーを全部食べてしまいました。
おなかいっぱい、ごちそうさまー。と、トカゲたちは大満足。
「こんなに幸せな気分になれたのは生まれて初めてだ。本当にありがとう」
「いえ、そんな……」
ドラゴンから真摯にお礼を言われ、アリスちゃんは照れてしまいます。
「でも、そんなに食べるものがないんじゃ、これからどうする?」
たしかに今はおなかいっぱいでも、すぐにお腹は空いてしまいます。根本的な解決にはなりません。
リュウくんとアリスちゃん、ドラゴンとトカゲたちはみんなで輪になって考えましたが、アリスちゃんにとっても良いアイディアが浮かびました。
「じゃあ、せっかく温泉を掘り当てたんだから、村の人に温泉に入りに来てもらって、代わりに食べ物をもらったらどうかな?」
『それ、いいね!』
アリスちゃんの考えを元に、リュウくんが穴を掘り、ドラゴンたちも石を運んだりして、だれでも入れるような温泉を作りました。
温泉ができたことを知って、村の人たちが温泉に入りに来ました。
オケラのおじさんやネズミのおばあちゃん、フェレットのおねえさんも入りに来ました。
そして、ドラゴンたちが食べるものに困っている事を知り、温泉に入る人は食べ物を持ってきてくれることになりました。
たくさんの人が温泉に入りに来るので、食べ物もたくさんもらえます。
これでもう、ドラゴンやトカゲたちが飢え死にする心配はありません。
ドラゴンたちと村の人たちは、みんな笑顔で暮らせるようになりました。