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穴掘りリュウくんvsドラゴン

「ふう。だいぶ近くまで来たね」

「うん。もうちょっとだね」


 実際に近くまで来てみると、さすがはドラゴンの棲み家の山だけにすごい迫力です。リュウくんは少し怖くなってきました。

 ですが、リュウくんがアリスちゃんを見ると、アリスちゃんが震えています。

 アリスちゃんもリュウくんと同じように、怖くなってきたのかも知れません。

 リュウくんは自分に気合を入れると、アリスちゃんの手を優しく握り。


「心配しなくていいよ、ぼくがついているから大丈夫。ドラゴンの生き血を手に入れて、絶対におかあさんを助けようね」


 力強く、リュウくんはアリスちゃんにそう言いました。


「うん……、ありがとう」


 アリスちゃんの震えは止まりましたが、今度はだんだん顔が赤くなってきました。

 リュウくんもだんだん恥ずかしくなってきたので、パッとアリスちゃんから手を放して。


「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるね」


 あわてて、リュウくんはその場から走って離れました。


「あー、ドキドキした……」


 リュウくんはトイレをすませて、もうちょっと落ち着いてからアリスちゃんのところへ戻ろうと思っていたその時。


「キャー! リュウくん助けてー!」


 突如、森に響き渡る声。

 あわててリュウくんが、元いた場所に戻ると、何匹ものトカゲの兵隊たちが、アリスちゃんと牛肉を担いで走っています。


「まてーっ! アリスちゃんと佐賀牛を返せー!」


 リュウくんは必死に追いかけましたが、トカゲたちの逃げ足は速く、とうとう姿が見えなくなってしまいました。


「ぼくのせいだ……」


 リュウくんは、アリスちゃんと離れてしまったことを後悔しましたが、落ち込んでいるひまはありません。

 トカゲたちの行き先は分かっています。


「待っててねアリスちゃん。すぐ助けに行くからね」


 リュウくんは、スコップを握りしめると、ドラゴンの棲み家があるという、煙をあげる岩山を見上げました。



 *



「小娘よ、よくワシのところへ戻ってきたな」


 険しい山の中、重く低い声が響き渡ります。

 爛々と輝く黄色い目、つららを思わせるような鋭利な牙、全身を鱗に覆われた皮膚。

 そして、山のような巨大な身体。

 その生き物の名前はドラゴン。

 地上では幻とも呼ばれる存在がそこにいます。


「おねがいです、あなたの血を分けてください。わたしのおかあさんが病気なんです。助けて下さい」


 アリスちゃんはロープで体をぐるぐる巻きにされていましたが、それでも気丈にドラゴンにお願いします。


「今からお前は食べられようとしているのだぞ。よく親の心配などしていられるな」

「おかあさんを助けることができるなら、わたし何でもします。おねがいします、おねがいします!」


 アリスちゃんの必死の訴えに、ドラゴンは顔をしかめ。


「分かった。そんなに言うなら、お前の願いを叶えてやろう」


 それを聞いたアリスちゃんは、喜びの表情を見せましたが。


「我々も人間の女の血を飲むと不老不死になれると聞いている。お前の生き血を全部飲んだ後、お前が生きていたらワシの血を分けてやろうじゃないか」


 ドラゴンが言うと、それを聞いたトカゲたちは大笑い。

 血を全部取られたら、生きていられる訳がありません。

 アリスちゃんは泣きたくはありませんでしたが、悔しさで目から涙が一粒こぼれました。

 その時。


「そこまでだ! アリスちゃんを離せ!」


 凛とした声が山にこだまし、一人の男の子が現れました。


「何だ、お前は?」

「ぼくは、リュウ=ダートフリーク! さっきから聞いてりゃ、意地悪なことばかり言って。女の子をいじめるなんて男の風上にもおけないよ。ぼくが相手になってやる!」


 リュウくんはスコップの切っ先を向けて、ドラゴンに迫ります。


「ほう、ワシにそこまで刃向かう奴は初めてだぞ。そんなにワシが許せないのなら、力づくで生き血を奪ったらどうだ」

「望むところだ!」


 リュウくんがドラゴンに向かって走り、スコップで殴りかかります。

 ドラゴンは前足でリュウくんを踏みつぶそうとしますが、リュウくんはそれをかわし、スコップで掘った土をドラゴンの顔にぶつけます。

 目つぶしを食らってドラゴンがひるむと、そのスキにリュウくんはドラゴンの足元に穴を掘ります。

 すると、ドラゴンが足を踏み外し、態勢をぐらりと崩しました。


「こしゃくな、これでも食らえ!」


 ドラゴンが口から火を吐きますが、リュウくんは穴に潜ってそれをかわし、繰り出されるドラゴンの攻撃を、次々に穴を掘ってぴょこぴょことモグラ叩きのようによけていきます。


「おっにさん、こっちら♪」

「ええい、うっとおしい!」


 苛立つドラゴンのスキをついて、リュウくんはドラゴンのすぐ足元に穴を掘ると、ドラゴンは完全に態勢を崩し、ズデーンと転倒してしまいました。


「今だっ!」


 チャンスと見たリュウくんは大きくジャンプをして、ドラゴンの頭になぐりかかります。

 が。


 ドゴッ!


 ドラゴンは尻尾を振ってリュウくんを弾き飛ばすと、リュウくんは崖から転がり落ちて姿が見えなくなってしまいました。


「そんな……、リュウくーん!」


 アリスちゃんは大きな声で叫びましたが、リュウくんの返事はありません。

 ただ一人残されたアリスちゃんはその場で泣き崩れると、そこへドラゴンとトカゲたちが、ジリジリと容赦なく近寄ってきます。


「これで邪魔な小僧はいなくなったな。それではお前の生き血をいただこうとしようか」


 ドラゴンの言葉を聞いても、アリスちゃんは動こうとしません。瞳からは光が消え、もう抵抗する気力を失ったかのようでした。

 ですが、その時。


(穴を掘るときゃごーかいに、ほーりほりったら、ほーりほり……)


 地面の中から、不思議な歌声が聞こえてきます。


「何だ? この声は……」


(ほーりほりったら、ほーりほり、ほーりほりったら、ほーりほり……)


「……リュウくん?」


 だんだんと、歌声が大きくなっていきます。

 それに加えて、ゴゴゴゴゴと地面から地鳴りのような音が鳴り響き、さらにはグラグラグラと地震まで起き始めました。


「何だ、一体何が起こってるんだ!?」 


 さすがのドラゴンも冷静さを失い、トカゲたちも慌てふためきます。

 そして。


「温泉掘るときゃごーかいに、ほーりほりったら、ほーりほりっと!」


 ドッカーーーン! という爆音とともに温泉が噴き出し、ドラゴンはその直撃を受け、空高く吹き飛ばされてしまいました。

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