地面から出てきた女の子
あるところに穴掘りリュウくんという、穴を掘るのが得意な少年がいました。
リュウくんは自慢のスコップで毎日宝探しをしています。
「穴を掘るときゃごーかいに、宝を掘るときゃしんちょうに、ほーりほりったら、ほーりほり♪」
リュウくんは歌を歌いながら、昔の金貨や昔の武器、首飾りや宝石など、土に埋まった宝物をどんどん掘り出していきます。
今日も一日頑張ったので、リュウくんはお腹が空きました。
「今日は何を食べよかな。野菜を掘るときゃしんちょうに、ほーりほりったら、ほーりほり♪」
リュウくんが穴を掘ると、地面からたくさんのサツマイモが出てきました。
「やったー、今日はお芋ごはんだー」
リュウくんはこうして、毎日穴掘りをして暮らしていました。
*
ある日の事。
「今日はもっと面白いものが掘りたいなー」
いつものようにリュウくんが穴を掘り始めたところ、地面からポコンと金色の髪の毛のかわいい女の子が出てきました。
「あ、地上に出られたわ!」
女の子はびっくりしているリュウくんを見ると、青い瞳を潤ませて泣きそうな顔で言いました。
「助けて! わたし、追われているの!」
リュウくんはしばらくポカンとしていましたが、女の子を穴から引っ張り上げると。
「なんだかよく分からないけど、わかった。ぼくにまかせといて!」
女の子に頼られたら断る事はできません。リュウくんは力強く応えました。
しばらくすると、女の子が出てきた穴の中から、たくさんのトカゲがぞろぞろと現れました。
「あの娘はどこへ行った? 手分けして探すぞ!」
隊長と思われるトカゲが号令をかけて、トカゲたちが走り出そうとした瞬間。
ボコン、ボコン、ボココーン! と地面に穴が空いて、うわーとトカゲたちは次々と落とし穴の中に落ちていきました。
「よし、これで全部やっつけたかな」
「すごーい! 助けてくれてありがとう。わたしの名前はアリス=ホワイトバニー。あなたは?」
「ぼくは、リュウ=ダートフリーク。町のみんなからは穴掘りリュウくんと呼ばれてるんだ。ところで、アリスちゃんは何で土の中から出てきたの?」
アリスちゃんは表情を曇らせながら、リュウくんの質問に答えます。
「実は、わたしのおかあさんが病気で眠ったままになっちゃって、このままだともうすぐ死んじゃうらしいの」
「えっ……?」
「だから、わたしは飲んだら不老不死になれるという、ドラゴンの血を手に入れようと思って、ドラゴンが住むという地底の国に続く穴に飛び込んだの」
「へえー、ドラゴンなんて幻想の生き物だと思っていたけど、地面の下に住んでたんだね」
いつも宝探しをしているリュウくんですが、地底の国の事は初耳です。
リュウくんはスコップの先で地面をつつきながら言いました。
「でも、どうしてトカゲに追われていたの? あいつらトカゲのくせにしゃべってなかった?」
「地底の国ではドラゴンもトカゲもみんな、わたしたちの言葉でしゃべっていたわ。だけど、ドラゴンに生き血をちょうだいってお願いしたら、ものすごく怒っちゃって。逆にわたしの生き血をよこせと言われて、手下のトカゲたちが追いかけて来たの」
「うーん、そうだったのかー」
「おうちに帰ろうにも道に迷っちゃったし、おうちに帰るには、またドラゴンの棲み家を通らないといけないし、ドラゴンの血が無いからおかあさんを助けることができないし……」
そう言うと大粒の涙が青い瞳からこぼれ、アリスちゃんはシクシクと泣き出しました。
それを見たリュウくんは、ギュッとスコップを握りしめ。
「じゃあ、ぼくが手伝ってあげる。二人で力を合わせたらきっとおかあさんを助けれられるよ」
その言葉にパッとアリスちゃんの顔が輝きましたが。
「でも、リュウくんに迷惑はかけられないわ」
「気にしなくていいよ。困ってる女の人がいたら助けてあげるのが男の務めだって、お父さんから言われてたもん」
リュウくんはニコッと笑って言いました。
「ありがとう。リュウくんは優しいんだね」
「へへへへへ」
「うふふふふ」
二人は笑いあい、リュウくんは初めてアリスちゃんのとってもかわいい笑顔を見ることができました。
安心したからでしょうか、ぐーっとアリスちゃんのお腹が鳴りました。アリスちゃんは顔を真っ赤にします。
「あ、お腹すいたんだね。ちょっと待ってて、今食べるものを掘るから」
そう言うと、リュウくんはいつものようにスコップで穴を掘り始めました。
「穴を掘るときゃごーかいに、野菜を掘るときゃしんちょうに、ほーりほりったら、ほーりほり♪」
「そのへんてこりんな歌はなあに?」
「ぼくが作った穴掘りの歌だよ。この歌を歌いながら掘ると、必ず何か出てくるんだ」
そう言って地面を掘ると、土の中からゴボウが出てきました。
「あー、はずれかー。これあんまり好きじゃないんだよなー」
「えっ、そうなの? ゴボウおいしいよ?」
「うーん、おイモなら焼いたらおいしく食べれるけど、ゴボウは食べ方が分からないんだよね」
「じゃあ、わたしが料理してあげよっか?」
そう言うと、アリスちゃんはリュウくんの家から調理器具を借りると、アツアツの美味しそうなゴボウチップスを作りました。
「うまい! これ、ものすごくおいしいよ!」
ゴボウのサクサクした食感と軽い塩味がたまりません。
「ね? ゴボウおいしいでしょ」
リュウくんは一口だけ味見のつもりでしたが、手が止まりません。
でも、お腹が空いているのはアリスちゃんなので、リュウくんはのどから手が出そうでしたが我慢しました。
「いやー、おいしかった。アリスちゃんは料理が上手だね」
「ありがとう。いつもおかあさんに料理を教えてもらってるから、そのおかげかな」
「アリスちゃんのおかあさんは、いいおかあさんだね」
「うん、ありがとう!」
ごぼうチップスを食べながら嬉しそうに笑うアリスちゃんを見て、リュウくんはアリスちゃんはもちろん、アリスちゃんのおかあさんも助けてあげたいなと思いました。
「よし、じゃあさっそく地底の国に出発だ!」
「うん!」
そう言うと、二人は地底の国に続く穴の中に、元気よく飛び込んで行きました。