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浪漫武器の鍛冶師  作者: アルマ=ロマン
白い魔王が舞い降りた
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第四話


 ユリアーナが『浪漫武器屋』に入ると、出迎えたのは目の下に隈を作り、少しやつれた黒髪黒目の青年のヴェルンドだった。


「来たな、お嬢ちゃん」

「は、はい。あ、あの……」

「ん?なんだ?」

「先日はシュミット卿とは知らずに、ご無礼を――」

「ああ、いい。ガキがそんな事を気にすんな」

「しかし、それでは――」

「くどい!おい、フランもガキに下らねぇこと吹き込むな!」

「「失礼しました」」


 ユリアーナと犬耳メイドのフランツィスカが頭を下げる。

 ヴェルンドは二人のその態度に、盛大に「はぁー」とため息をついて、髪をガリガリと掻く。


「よし、話を戻すぞ」

「はい」

「まず、お嬢ちゃんの杖が完成した。しかし、最後の仕上げで、まだやらなければならんことがあるから、お嬢ちゃんにも協力してもらう。いいな?」

「は、はい」


 ユリアーナは「この前みたいに森に連れて行かれて、学園に遅刻しないだろうか?」と思いながらも、ヴェルンドの言葉に頷いた。

 前回でユリアーナは「ここでは理不尽な事が起こる」と学習していた為、何も言い返さない方が話が早く進むと本能的に察知したからだ。


「じゃあ、この針で指先を刺して、杖とこの指輪に垂らしてくれ」

「はい」


 ユリアーナは言われた通りに、ヴェルンドが取り出した魔法言語が刻印されているマジックリングと、変わった形の――先が丸く、その円の中に五芒星がある短いステッキの様な――杖に血を垂らす。


「次は、俺の言葉を真似して唱えるんだ。風の妖精シルフとの本契約だ」

「え?は、はい」


 ユリアーナは「本契約って何?」と聞きたかったが、もうこの店の意味の分からない展開には諦めの境地に達しているのか、疑問を飲み込んで返事する。

 慣れとは怖いものだ。


「じゃあ、いくぞ。指輪と杖は離すなよ?」

「はい」


 ヴェルンドに言われて、ユリアーナはしっかりと杖と指輪を握り直し頷く。


「我、古の契約に従い、汝の敵を討ち滅ぼす者なり」

『我、古の契約に従い、汝の敵を討ち滅ぼす者なり』

「汝、古の契約に従い、我が敵を討ち滅ぼす者なり」

『汝、古の契約に従い、我が敵を討ち滅ぼす者なり』


 ユリアーナがヴェルンドの真似をして呪文を唱えだすと、ユリアーナを中心として魔法陣が展開される。

 ユリアーナは驚きで声が出そうになるのを堪えて、ヴェルンドの呪文を聞き逃さない様に必死に唱える。


「我、汝の盾となり剣となろう。汝、我が盾となり剣となる事をここに誓うか?」

『我、汝の盾となり剣となろう。汝、我が盾となり剣となる事をここに誓うか?』

『誓うよー』


 今度はどこからか、陽気な声が聞こえる。


「ならば、死が我らを別つまで、共に同じ道を歩もう【契約(コントラクト)】」

『ならば、死が我らを別つまで、共に同じ道を歩もう【契約(コントラクト)】』


 ユリアーナはこの魔法が、そこはかとなくヤバそうな事を感じ取ったが、もうここまで来たらと半ば自棄になり、呪文を唱えた。

 すると、杖と指輪とユリアーナの体が青白く光り輝いた。


「よしっ!完成だ!この最高な杖の名は『白き魔王の破壊杖』だ。大事にしてやってくれよ?」

「は、はぁ」


 光が収まり杖と指輪に謎の刻印がされると、ヴェルンドはニコニコしながらユリアーナの肩を叩いた。

 ユリアーナは未だに何が起こったのか分からないが、自分の杖がやっと完成したという事だけが分かった。





 完成した杖は収納機能が付属されている指輪に収納され、渡された。

 その後にヴェルンドから、長々と杖の使い方を説明された。


 ヴェルンドの説明は長かったので省略すると、どうやら杖を取り出したい時は、『変身』と言わなければならないらしいが、ユリアーナはこんな凄い機能が付いている武器は見たことがないので、それだけで今回作られた『特別な杖』に期待が出来るというものだ。

 勿論ユリアーナには、杖を取り出す際に『変身』と叫ぶ重要性がよく分からないが、ヴェルンドが言うには「とても大切な事」らしいので、とりあえず納得した振りをしておく。

 とても熱く語られたので、幼馴染のアルノルトが剣について語る姿を思い出し、少しほっこりしつつも、とりあえずヴェルンドに合わせて「分かっていますよ」と言う顔で頷いておいた。


 それから色々と杖の機能について説明を受けたが、ユリアーナは学園の時間を気にしていたので頭に入ってこなかった。

 青年は説明の時に「これはお約束だからな!」とか「この方がな、浪漫があるんだよ!」とか「このギミックがな!マジで熱いんだよ!」とか言っていたが、学園に遅刻しそうだし、試験の事で頭が一杯だったし、ヴェルンドの説明がやっぱり意味が分からなかったので、適当に「うんうん」と言いながら聞き流し、最後には「すいません、学園に遅刻しそうなので」と、逃げる様に店を出て『黄金の小麦亭』の前に待たせていた馬車に乗り込んだ。


(試験ではぶっつけ本番になるけど、杖は完成したから、これで試験もばっちりよね!)


 そんな不安を抱えつつ、ユリアーナは学園に向かった。





 馬車の御者に急いでもらった為か、ユリアーナは何とか遅刻せずに学園に着き、自分の教室に行くと、今日も今日とて幼馴染の少年アルノルトにからかわれる事となった。


「魔法が上手く使えないユリアが来たぞ~」


 いつもなら本当のことなので上手く言い返せないが、今日は新しく杖を手に入れたこともあり、ユリアーナもついつい強がってしまう。


「ふ、ふん。今日こそ本当の私を見せてあげるわ!」


 本当は今日まで魔法の練習をしていたが、一度も上手くいっていない。

 ユリアーナはそんな事は顔に出さずに、膨らんでいない胸を張って、アルノルトに言い返す。


「へ、へんっ!失敗してもフォローしてやんないからな!」


 アルノルトも言い返されたことに驚いたのか、むっとした顔で去っていった。





(だ、大丈夫よ。なんて言ったって私には夢を叶える武器があるんだから……大丈夫な筈よ!)


 そんな不安な思いを拭いきれないまま、時間の経過とともに魔法の実技試験が始まる。

 ユリアーナよりも前の生徒は、威力の弱い魔法ながらも的に当て、教師に褒められていた。

 ユリアーナはその光景を見ながらドキドキしながら待っていると、とうとうユリアーナの名前が呼ばれた。


「次!ユリアーナ=フォン=イッテンバッハ君。前へ」

「は、はい!」


 次々に生徒たちの試験が終わり、ユリアーナの番になった。

 今回の魔法の実技試験は、特殊な素材で出来た標的に向けて、自分の得意な攻撃魔法を放つというものだ。

 威力や技術や精度など様々な点で見られ、評価をつけられる。


(大丈夫よ。大丈夫)


 ユリアは緊張しながらも、指輪がはまった右手を前に突き出し『夢を叶える武器屋』の店主ヴェルンドに教わった通りに、大きな声で「変身!」と言葉を発する。


 すると、右手にはまった指輪が光輝き……辺りは光で包まれた。

 そして、光が強くなると、ユリアーナが着ていた学園の制服が弾け飛んだのだ。


「え?」


 そう驚きの声をユリアーナが口にしたが、光は収まるどころか、更に輝きを増す。


「え?ちょ?えぇええ!?なんでー!?」


 戸惑うユリアーナを他所に、手や足に光が集まり、光が手袋や靴へと変わる。

 そして、ユリアの全身を光が包み、光が消える。


 するとそこには、胸に大きなリボンがあるフリフリの可愛らしいドレスの様な衣装に身を包んだユリアーナの姿があった。


 辺りは騒然としている。

 試験官である教師も、口をあんぐり開けてユリアーナを見ている。

 アルノルトや他の男子生徒は顔を真っ赤にして、鼻に手を当てたり、目で手を隠し指の隙間から覗いたり、少し前屈みになって何か言っている。


 この異常現象を引き起こしたユリアーナも愕然としていた。

 しかし、ここ一週間不思議な体験をして耐性が付いたのか、この場にいる誰よりもいち早く復帰する。


「えぇぇぇ~~~~~~~~!?なんでぇええ!?」


 そして、自分の姿を見て驚愕するユリアーナであるが、同時に「ああ、だから犬耳メイドさんに全身のサイズを測られたのか」と妙に納得してしまった自分もいた。

 彼女があの武器屋に相当毒されているが、今はその事は置いておこう。


「……この格好……恥かしい」


 この格好はユリアーナにとってもかなり恥ずかしいようで、さっさと試験を終わらせる為に杖を構えて、ヴェルンドに教わった『お約束の言葉』とやらを発する。


「え~っと、確か『もう何も怖くない!』だっけ?」


 すると、その言葉に反応したかのように指輪が光り、ユリアーナの体から溢れんばかりの魔力が発せられる。


「うわぁ!すごい!!……これならいけるわ!!」


 何がいけるか分からないが、これまで感じた事のない魔力の放出に感動しつつ、ユリアーナは構えていた杖を標的に向け、続けて教えられた『決め台詞』とやらを言う。


「えっと、今度は『これが私の全力全開!』だったよね?」


 その言葉を発した瞬間、ユリアーナの体から発せられていた魔力と体内の魔力がごっそりと無くなり、可愛らしいデザインだった杖が、音を立てて変形する。

 変形した杖はもう杖と呼べる形ではなく、槍の様であった。

 そして、足元には見た事もない極大な魔法陣が現れ、杖の周りに帯状の魔法陣が絡みつき、杖の先端には小さな魔法陣が空中に幾重にも重なるように出現する。


「えっ……嘘?これ……絶対ヤバくない?」


 ユリアーナが無意識に呟くと、杖から『Don’t worry.My lady!』と無機質な声がする。


「え?え?……あっ!?も、もしかして、妖精さん?」


 今朝方本契約した妖精を思い出しながら、ユリアーナが尋ねると『Yes,my lady』という聞いた事もない、言葉で返事をされる。


 ユリアーナが妖精シルフの使う言葉を理解しようと、言葉の意味を頭の中で考えていたその時、杖が『キィィィィン』と音を立てる。

 ユリアーナは理解していなかったが、その音はユリアーナの杖の先端で魔力の圧縮される音だった。


「あれはヤバい!全魔力を使って防御魔法を展開し、全員避難しろ!早く!急げ!」


 そこでようやく我に返った試験官の教師は、切羽詰まった声で生徒達に警告する。

 しかし、その警告は遅すぎた。


 そう、どうしようもなく遅すぎたのだ。


「あわわわわわわわわ!!!」


 ユリアーナの慌てた変な言葉と裏腹に、無情にもユリアーナの杖の先端が光り、極大の魔力砲撃が発射される。


 辺りは眩い光に包まれ「ドゴーーン」とも「ドカーーーン」とも聞こえる爆音と破壊音、それと「ズゥゥゥゥン」と鈍く重い音が学園を襲った。


 そして、ユリアーナの極大の砲撃の光が消えると、標的は綺麗に跡形も無く消え、標的の後ろの壁も無くなっていた。



――そう、そこには何もなかったのだ。



 ユリアーナは自分の手に持つ杖を見つめ、プルプルと震える。

 そして、杖先端が「ガシュッ」という音がする。

 その音にユリアーナは驚き、一瞬体が「ビクッ」としたが、手に持つ杖を離さない。

 というより、この杖から手を離したら何が起きるか分からないので離せない。

 すると、先端部分がスライドし「シュゥゥ」という音と共に、周囲に水蒸気が排出された。


「……嘘でしょ?」


 ユリアーナは周りの惨状を改めて見渡し、その言葉を最後にまたしても白目を剥きながら意識を手放した。





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