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浪漫武器の鍛冶師  作者: アルマ=ロマン
白い魔王が舞い降りた
1/11

プロローグ


 ここはゲルニア大陸北部にあるルーマー王国の王都ザクセン。

 その煌びやかな都市にある『安らぎの木漏れ日亭』と呼ばれる酒場。


 夕刻になると、むさ苦しい力仕事の男衆から、旅人や行商人、仕事帰りの職人や冒険者といった庶民が集まる憩いの場だ。

 今日も忙しそうに看板娘のエルマが、慣れたように客席の間を縫うようにスイスイと動き周り、そのエルマのお尻を触ろうとする客を酒場の女将が叱りつけ「がはは!」と大きな笑い声が周りの客席から漏れる。


 いつもと変わらない温かさ。いつもと変わらない賑やかさ。

 そう、いつもと変わらない、いつもの酒場の光景だ。


 そんないつもの酒場のある客席では、怒鳴り声にも似た音量で会話がされる。


「おう、エッボ。お前知ってるか?」

「なんだドミニク?またお前の与太話か?」

「うるせぇな!いいから黙って聞けや!」

「はいはい……で、なんだ?」

「なんでもな?この王都には『夢が叶う』武器屋があるらしい!」

「はぁ!?武器屋だろ?お前、頭大丈夫か!?武器屋で夢が叶うって……おいおい、いくらなんでもおかしいだろ?」

「だぁかぁらぁ~!『黄金の小麦亭』を裏路地に抜けて、突き当たりを左だっけか?まぁ、そこに歩いて行って、右に曲がって進めばあるんだよ!武器屋がぁ!」

「あ~そうだな!あるんだな!」


 看板娘のエルマは「ドワーフの職人達が、また言い合いを始めたのかな?」と思い、視線をそちらに向けると、その声の主は常連の冒険者の男達のようだ。

 エルマは「なんだ、いつもの事か……」と思いながら、他の客を見ようとした瞬間、常連の冒険者エッボと目が合った。


「あっ、エルマちゃん!ドミニクが相当酔っぱらっちゃったから、悪いんだけど、水を持ってきてくれない?」

「は、はいっ!」

「ああん?エッボ……俺は……俺は(おりゃあ)、酔ってねぇぞ?」

「ああ、はいはい。そうだな、酔ってないな」


 そんな会話をする常連客に「酔っぱらいの酔ってないという言葉ほど信用できないものはないよね」と苦笑いしつつ、エルマは急いで厨房まで水をもらいに行き、水差しから木で出来たコップに水を注ぎ、また客席に戻る。


「エッボさん、水を……って……」

「ははっ、毎度ごめんね。エルマちゃん」

「ふふっ、いえいえ」


 水を持って行くと一足遅かったのか、ドミニクは机に突っ伏しており、エッボもまた苦笑いだ。

 エッボはエルマが持ってきた水を飲み干し、起きる様子のないドミニクをどうするか迷っているようで、その様子を見てエルマは少し気になった事を質問する。


「ああ、そういえば……エッボさん」

「ん?なんだい?」

「さっき聞こえちゃったんですけど……その『夢が叶う武器屋さん』って本当にあるんですか?」

「ははっ。聞かれちゃったの?恥ずかしいな。嘘だと分かっているんだけど……なんて言うのかな、男のロマン?みたいなものなのかもね」


 エッボはエルマの言葉に少し照れたように頭を掻く。

 それを見て、エルマはお盆を口元に持ってきて、同じく照れたように笑う。


「ふふっ、そうですか?私は、す、好きですよ?……その、そういうの」

「そ、そうかい?でも、エルマちゃんの夢を壊すようで悪いけど、どうせまたドミニクの法螺だと思うけどね」

「そうですか……少し残念です」

「ははっ。でも、エルマちゃんもそういうのを信じるものなの?」

「いえ、流石に本気じゃないですけど……でも、そんな店があったら素敵だなぁ~と思ったんですよ」

「ああ、そういうことね。そうだね、それはとても素敵だね」

「……ええ」 

「ち、ちなみに、だけど……もし叶うとしたら、エルマちゃんは何を願うんだい?」

「え?わ、私ですか!?私は……その……えっと……」


 そう言って、エルマは流し目でエッボ見つめる。

 エッボも照れながらもエルマを見つめる。

 お互いの目と目を合わせ、二人の間に甘い空気が流れる。


「ちっ」

「クソがぁ」

「俺は今、これほど呪術師でなかったことを後悔したことはない!」


 周りの客からは呪詛とエッボを射殺さんばかりの視線を集めるが、二人だけの世界にはその効果も虚しく、その固有結界(ラブラブフィールド)を破壊するほどの威力はないようだ。

 しかし――


「うおおおおおおおお!!!」

「うわぁ!」

「きゃっ!」


 ――そう、しかしだ。

 そんな甘ったるい空気をぶった切るように、隣で寝ていたドミニクがいきなり吠える。

 他の客は「よくやった!」や「お前が今日の英雄(ヒーロー)だ!」とばかりに歓声をあげる。

 どうやら、看板娘を狙う男達(ハイエナ)はこの店には多く出現するようだ。


「な、なんだよ!?ドミニクこの野郎!!今!今めちゃくちゃいいとこだったんだぞ!?おい、お前聞いてんのか!?」

「あ、止め、おまっ」


 慌てたエッボがドミニクの肩を掴み、前後に揺らし問い詰めるが……それは逆効果だった。


「あっ、もう、無理――」


 そのエッボの言葉と共に、ドミニクの口の中からとても汚い噴水が――いや、汚い吐瀉物が、エッボに向かって滝のように流れた。


「オロオロオロ」

「ド、ド、ドミニク!てめぇぇえええ!!!」

「きゃああああ!!!エッボさぁぁぁぁん!!!!」


 エッボの怒声やエルマの悲鳴を他所に、酒場では先ほどより大きな歓声が上がる。

 それはまるで、戦に勝った勝鬨の雄叫びのようでもあった。

 そう、モテる男を羨むモテない男達の、それはもう醜い嫉妬の咆哮だった。


 こうして、今日も王都の夜が過ぎていく。

 騒がしい酒場に、ガサツな料理。

 ぬるいエールに、タチの悪い酔っ払い。



 そう、これもいつもと変わらない、いつもと同じ酒場の光景だ。





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