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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
第三章 家族の絆と向こう側のボク
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出会い-ユーゴとクロエと、不器用な騎士。




 栄華を誇る城塞都市エクレイア。民を導く女王クロエ=ナナクスロイ・ホウル=オーディン。

 民を愛し、国を愛した女性。国の為に、民の為に己を捧げた女性。

 千を越える数の求婚を断った。余の身は民のものであると。

 余は国と民の為に全てを捧げると。

 まるでそれが当たり前のように語る女性に、民は心酔し、依存していった。

 けれど同時に、彼女に求婚していった者たちから不満の声が上がる。


 女王は人間を愛していない。

 女王は人間という“種族”を愛している。


 一人の騎士がいた。実直で、融通の利かない、不器用な騎士。

 騎士は近衛兵の地位にまで上り詰めたある日、城の中庭で女王に告白した。


 ―――女王が自らを愛さない分だけ、自分が女王を愛します。


 ―――だから女王様。その特別の愛を、自分にください。


 騎士の言葉の意味が、わからない女王ではなかった。

 聡明な女王は騎士の告白を断った。そして同時に、謝った。



 それでも私は、民を愛している。この国を愛している。



 騎士の求めた特別は、最初から女王は持ち合わせていなかった。

 だから、騎士がいくら求めても、受け入れられはしなかった。


 けれど騎士は諦めなかった。

 最初からないのであれば、自分が与えると。

 自分にとっての特別が女王であると。


 出会う度に告白をし、出会う度に断られた。


 それでも騎士は諦めなかった。


 あくる日、根負けした女王は問うた。


 どうしてそなたはそこまで余に固執するのだ。

 この国には見目麗しき女性がたくさんいる。

 近衛兵の立場なら引く手数多であろうと。


 騎士は返した。


 貴女以上に私の魂を惹きつける女性がいれば、そうしたでしょう。

 ですがこの身は、この魂は貴女に惹かれ焦がれてしまったのです。

 他の女性を見ても心も動かない。

 私の心は、女王に凍てつかされてしまったのです。


 そんな狂気にも似た告白に、女王は笑った。

 お前は面白いと。


 確かに女王は国中の誰よりも美しかった。

 けれど求婚を断り続けていくうちに、誰もが届かぬ存在だと理解し遠ざかっていった。

 だからこそ、それでもなお女王を求める騎士に心が動いた。


 特別には出来ない。


 けれどこれまで以上に、傍に仕えることを許そう。


 それが女王の最大限の譲歩だった。


 騎士は女王に付き従う。此の身滅ぶまで女王に仕えることを誓う。この命尽きるまで、女王の為に生きることを誓う。




 女王と騎士が引き離されたのは、皇帝竜バハムートの気まぐれだった。


 ただ寝場所を求め、城塞都市の裏手に聳え立つ世界樹を寝場所と決めた皇帝竜の気まぐれに、城塞都市は巻き込まれた。


 皇帝竜は伝承だけの存在だと思っていた民たちは、いつ皇帝竜が目覚め猛威を振るうか不安に夜も過ごせなくなった。

 不安と恐怖が都市に広がっていく。女王は決断を迫られる。

 都市を捨てて逃げるか。

 皇帝竜と戦うか。

 そして、女王は決断する。

 愛する国を捨てることなどできないと。皇帝竜と戦う選択を、してしまう。


 機嫌を損ねた皇帝竜に、いくら魔法を覚えたといっても人類が勝てる道理はなかった。

 どんな兵器を用いても、傷すら与えられなかった。

 叡智を蓄えた魔法使いでさえ、傷ひとつ与えられずに踏み潰された。

 多くの兵士たちが、武器を持って戦いに挑んだ。

 戦いにすらならずに、敗走した。

 傷つき、倒れ、死んでいく兵士たち。


 そして、皇帝竜の咆哮が城塞都市に響いた。

 皇帝竜から放たれた破壊のブレスは、瞬く間に城塞都市を破壊した。

 そこに生きる民たちも。海に出て漁に勤しむ漁師たちも。

 山に赴き狩りをする者たちも。城塞都市に、大陸に住まう者たちのほとんどの命を、奪った。


 ブレスが直撃した王城で、女王は致命傷を負った。

 崩落した天井に下敷きにされ、最早助からぬと悟っていた。

 騎士はそれでも、女王を守ろうとしていた。

 もう動けない身であるのに。騎士はそれでも、女王を抱き締め続けた。

 騎士もまた、衝撃の余波で致命傷を負っていた。急いで治療すれば、助かるかもしれない。

 ぎりぎりの傷だった。けれど騎士は女王を優先した。

 逃げゆく人々に目もくれず、失われた視界の中でずっとずっと腕の中に抱き締めた女王の命を守ろうとする。

 自らの身体で傷口を押え、失われた血を直接注ぐ。

 それで助かるとは思っていなかった。これは騎士の我侭なのだ。女王を愛した騎士の、傲慢な意思だ。

 女王は視力を失った騎士の腕の中で、ひっそりと息を引き取った。


 騎士はいた。


 不思議と、憎しみはわかなかった。

 けれど、無力だった自分が許せなかった。

 皇帝竜の気まぐれによって滅んだ国は数知れず。

 眠る皇帝竜の鼻息が、夜空に響く。

 月光が差し込む玉座の間で、騎士は冷たくなった女王の身体を抱き締めたまま息を引き取る。

 せめて。

 せめて、女王だけは守りたかった。

 彼女の特別になれなくても、彼女は自分にとって特別だったから。




 その意志が、執念となって騎士の身体を魔物へと昇華させた。

 奇跡のような、呪い。女王を守る意思が、死してなお騎士の身体を動かした。

 鋼鉄の鎧に宿った意志は、肉が腐敗し骨が風化しても鎧だけで動き続けた。

 呪われた遺志が鋼鉄を巨大化させていく。いつしか騎士は不退の騎士(デュラハン)と呼ばれるようになった。

 肉を失い、記憶すらなく。それでも騎士は女王を守りたかった。


 女王を守ろうとする騎士の呪いが、事切れた女王の魂を己が内に引き止めた。


 魂はいつしか記憶を取り戻し、鋼鉄の中で女王は叫んだ。


 力を、もっと、力を。

 騎士に報いるための力を。再び民を繁栄に導くための力を。

 それは最早怨念である。

 けれど栄華を願う祈りでもあった。


 いつしか祈りは漏れ出した。

 漏れ出した祈りは荒廃した城塞都市に、一つの形を成した。


 それは幼き旅人が出くわした、不退の騎士のもう一つの姿。

 母子が運良く出会わなかった、強大にして尊大なる存在。

 堅牢なる鎧に身を隠し、自らの倍はある巨大な剣を振るう、城塞都市を守る存在。


 女王の祈りが。騎士の願いが。二人の執念が、螺旋のように絡み合い、交じり合い、そして、神となった。


 剣帝王オーディン。


『お前は強いなぁ。すげえ、すげえよ!』


 オーディンを見る少年の目は、在りし日の騎士の姿を思い出させた。

 実直で、不器用で、でも、自分の意志を貫く騎士の姿を。

 オーディンは、真っ直ぐに自らを見つめる少年に手を差し伸べた。


 ―――少年よ。お前は眩しいな。


 かつての騎士を重ねて、オーディンは少年に興味が湧いた。

 旅を続けるという少年に、着いていく事を決めた。

 神を使役することができないと知ると、自らの力を押し込めて不退の騎士(デュラハン)として彼に下った。

 それほどまでに、彼は騎士に似ていた。

 違うところは、クロエ、という美女を見ても心が動かなかったくらい。


 クロエは悔しかった。こんな気持ちを抱いたことはなかった。

 数えられぬほどの求婚を断ってきた身が、ないがしろにされたのだ。

 自分に求婚し続けてきた騎士にそっくりな少年に。


 少年と騎士は違う。それはわかっている。

 それでもクロエは悔しいのだ。だから、かつて騎士がしていたように、今度はクロエが少年を口説くのだ。

 少年と旅をしていく内に、少年の思いに共感していった。

 今まで感じたことのない、自分ではないような高揚感に包まれていった。


 かつて国を愛した女王が、初めて人に特別な感情を抱いた(恋をした)




「おい大分曲解されてないかどっちかと言うとお前いきなり俺に喧嘩売ってきた挙句師匠(せんせい)にボコられて俺に封印されぐふぅ!?」

最初は祈りだった。

そして呪いとなった。

けれど、再び祈りとなって―――彼女は彼に、恋をした。

報われない恋でもいい。ただ、想うだけでもいい。

想いを告げるだけでも、幸せなのだ。

かつての騎士が自分にしたように。

嗚呼―――愛するという特別は、心から幸せになれる。

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