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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
第二章 エルルとクルルの鵬程万里
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フォーリンラブ




「『禁断の愛憎の果てに(フォーリンラブ)』? 聞いたことのない魔導書だけど」


 クォーレンさんの持つ赤い水晶によって室内が照らされる。

 とはいえそれくらいしか照明と呼べる物は無く、地下室はボクたちを中心としたところ以外、暗いままだ。

 何か出てくるかもしれないと思ってしまうくらい、不気味な静寂だ。

 

「ええ。最近他国で発見された魔導書なんですよ」


 これです、とクォーレンさんが抱えていた魔導書を広げてみる。

 触れることすらできない瘴気。負の感情に当てられた魔力が汚染されている。

 触らない限り害はなさそうだけど。というか今のこの状況が害になってるか。

 ページを開いてみても、書いてあるのは魔法の術式ではなく物語が書かれている。


「身分の違う二人の少女が、出会ってしまい、互いに求め焦がれ合い、けれど同性という壁が、身分の差という壁が。そして半分は血の繋がった姉妹であるという壁によって結ばれることの無い悲恋の物語です。面白くて読み耽っていたら、まさか閉じ込められてしまうとはね」


 中身を読んだのだろう、ウィルさんが内容を熱弁する。どうやらこの人は本当に書物が好きなようで、熱く語るウィルさんの物語の説明はわかりやすく、ついボクも内容が気になってしまう。

 結ばれなかった二人の少女の想い。魔力を宿すほどの作者の思いが呪いへと変化した。

 そしてこの本を開き、共感した人物を空間に閉じ込める……まるで、物語の中で乗り越えられなかった壁のように。

 まるで、自分たちと同じように苦しめと。


「……これ、解読中です?」


「いえ、これは物語に魔力が宿って魔導書になったタイプですね」


「はぁ。魔導書というより呪いじゃない」


「ええ。だから僕に一任されているんです。この国で僕以上に呪いの分野に詳しい人なんて存在しませんから」


 失敗してますけどね、と笑い声が乾いている。笑い声が止むとすぐさま静寂が訪れる。


「とにかく、脱出できるか試さんことには」


「だから無理ですって」


「なぜだ? 目の前に扉もあるしローレンたちも待っている―――!?」


 ゴン、と金属がぶつかるような音と共にトリスタンさんが頭を抱えながら膝を付く。

 どうやら物理的に閉じ込められてしまったみたいだ。

 しかもご丁寧に外からは今の状況が確認できないみたいで、こちらから見える先生もローレンさんも佇んで虚空を見ている様子だ。

 うーん、呪いは詳しくないんだよなぁ。


「エルル、壊せないの?」


「……試してみます」


 ミリアちゃんに言われて、気付く。呪いとはいえ普通の事象ならば、ボクたちを閉じ込めている現象くらいならば黒の力で破壊できるかもしれない。

 手をかざして、カードを取り出す。やりすぎると部屋自体が壊れてしまうから、できる限り押えて。

 イメージするのは風。視認できない嵐が手の平に集い、破壊に染まる。目に見えるようになった黒い風は渦を巻く。


「『ウインド・バースト』」


「あー、駄目ですよ」


「っ……!」


 見えない壁に触れるように風をぶつけてみようとした瞬間、風が消えた。

 思い出した。そうだよ、ここは大図書館の地下なんだ、あらゆる魔法が使えない結界が敷かれた場所なんだ。

 一瞬だけ魔法を黒の力に染めることは出来る。でもそれを壁にぶつけるほどの時間的猶予は無いみたいだ。


「というわけですので、八方ふさがりです」


「どうにかできないんですか、ウィルさん」


「いやー、出来たら僕がもう脱出してますよ」


「そうよねぇ……」


「まあ、脱出のための条件は満たされましたけど」


「はぁ?」


 ミリアちゃんが呆れたような声を出した。

 それもそうだ。黒の力による魔法も無効化される。物理的にも妨害されるこの異常事態でどう脱出するというのか。


「簡単ですよ。この手の呪いは閉じ込められた原因を解決すればいいんです」


 魔導書を再び開いて、最後のページを広げる。

 物語の最後の部分には、まるで恨み言のように殴りつけられた文字がいくつもあった。

 会いたいと、触れ合いたいと、抱き締めたいと口付けを交わしたいと焦がれ焦がれた想いが綴られている。


「ではユーゴくん。どうしてこの魔導書は僕たちを閉じ込めたと思う?」


「え? 原因だろ……。ハッピーエンドに書き換えて欲しい、とか」


「これだから脳内お花畑のハピエン中は困るんですよ。そんなことでよければもう僕が脱出してますよ」


「こ、こいつ」


「ああ、なるほど」


「そういうことですか」


「どうやらトリスタンさんとイケメン執事さんは気付いたようですね」


 立ち直ったトリスタンさんが頭を搔きながら、ハムちゃんが視線を他所に向けながら正解を答えあぐねている。

 ちらり、とハムちゃんがボクを見た。

 ちらり、とトリスタンさんがミリアちゃんに視線を向けた。

 ボクたちは何がなんだかわからず首を傾げる。


 咳払いと共に、愉快気に口角を吊り上げながらウィルさんが口を開こうとして。


「はぁ!? そういうこと!?」


 悟ったミリアちゃんが素っ頓狂な声をあげた。

 顔を真っ赤にしながら慌てふためいている。こんなミリアちゃんを見るのも新鮮だ。


 ―――あー、なるほどね。


 クルル? もう大丈夫なの?


 ―――大丈夫大丈夫。その魔導書の魔力に気付いてちょっと引っ込んだだけだから。黒い力なんてその魔導書に浴びせたらもっと呪いが酷くなるだろうし。


 そうなの?


 ―――そうだよー。それは愛する二人がお互いを求め合う物語。破壊し引き裂くことしかできない黒の力は嫌悪されるよ。


 そういうものなの?


 ―――そういうもんなんだよ。で、エルルは答えわかった?


 う……まったく。

 幾つかヒントは出ている。結末を書き換えることではない。

 ウィルさん一人では駄目で、ボクたちが来たからこそ可能になったこと。

 結末を書き換えず、かつ複数人で無ければならない、ということだろう。


 ……あ。いや、まさか、ねえ?

 いやいや。呪いなんて言うくらいの魔導書がそんなことで……ねえ?


「この呪いはですね。空間内に取り込まれた二人の少女が愛を証明することによって解除されるんですよ。というかそれ以外答えがありません」


「……え? え、え?」


 愛を証明、って。というか二人の少女って!?

 ボクとミリアちゃんしかいないじゃん!?


「端的に言えばキスでもすれば多分呪いも満足するってことです。さ、陛下。さささささっ!」


 え、ちょ、ちょっと待ってちょっと待って思考が追いつかないいきなりなんなの頭ぼうっとするしなんなの!?

さあさあやっちゃえやっちゃえ!

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