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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
第二章 エルルとクルルの鵬程万里
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一難去って




「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」


『小娘がぁぁぁぁぁっ!』


 駆け出した私に、ポセイドンが再生した拳を向ける。クルー・エルは私の力の象徴。大鎌を振るう。

 紙でも裁断しているかのように、なんら抵抗が無い。接触面から瞬時に黒の破壊の力が拳を侵食する。

 気付いた時にはもう遅い。上下に両断された拳をポセイドンが庇うようにもう片方の拳を向けてくる。

 指が開き、パーの形となる。私を捕まえたいのか、それとも。


『所詮は人間ッ!』


 答えは後者。

 手の平から渦を巻いて水流が放たれる。渦巻く水流は一瞬で私を飲み込んだ。


『ふは、ははははははは……っ!?』


「ざーんねんっ」


 水流の中でも焦る必要はない。鎌は水流を受け止めると同時に球体に戻り、そこから糸のような線が伸びる。

 黒い線は水流に絡みつくように広がっていく。もっともっともっと広がって。

 黒の線に触れたところから破壊の力に染め上げる。渦は力を失い破壊される。水流は破壊され弾け飛ぶ。

 雨のように水が降り注ぐ中で、黒い球体をポセイドンに再び向ける。


 この球体は私が望むがままに形を変えて黒の力を振りまく災厄。

 触れたものは全て死に絶える。破壊される。


 だから、ね?


「黒き力よ、万象森羅を喰らい尽くし、我が望みを叶えたまえ」


 球体を掲げる。

 高速で回転を始めた球体から次々に黒の線が走り、海底都市全体に広がっていく。

 狙うのは、都市ではない。

 今、私を飲み込もうとしている、天井を突き破ってくる海水だ。


 パリン、とガラスが割れたかのような音とともに海水が消滅する。弾け飛ぶ。

 これで制限時間はなくなった。これで何も気にすることなく暴れることが出来る。


 球体を再び鎌へと変える。ポセイドンの表情は明らかに黒の力を怖れている。

 楽しいなぁ。怯えてもらえるなんて、光栄だね。


「動けないのが仇になったよね、ポセイドン」


『きさ、ま……貴様貴様貴様貴様貴様ぁ!』


「もーそれしか言えないの?」


 再び大地を蹴る。今度はもう逃さない。

 幾重にも放たれる水球を全て鎌で両断する。水面を滑るように、回避できるものは上体を逸らしたりして華麗にかわす。

 不意に視界が暗くなった。

 見上げてみれば太くておっきな三叉の矛が私に向けて落ちてきている。

 うーん、学習してないのかなー。


「無駄なのにねぇ」


 でもさすがに鎌だけ応戦しても面白くない。だから意思を込める。

 鎌は応える。瞬時に形が変化する。鋭く、細い、双剣に。

 剣を振るい、三叉の矛は綺麗に分割されて地に落ちる。ちょっと揺れた。

 あー、使いやすいなぁ。エルルは体力はあっても運動神経がいいわけじゃないから武器は持たないみたいだけど、私は違う。

 私は魔物を使役しているほうがよっぽど疲れる。だからエルルは凄いと思う。あそこまで自分以外に気を回せるなんて、早々出来やしない。


 ……まあその分、かなり自分を犠牲にしてる感があるけどね。

 今度またお説教しておこう。ハムはともかくセルだって自分よりエルルを優先するだろうし。


 いつもいつも、エルルの中から見ていた。

 甘えてくるセルと、苦笑しつつ受け入れるエルル。

 エルルの我侭をどうやり過ごそうか微笑むハム。

 幸せそうにお煎餅をかじるリフルと、それを見て和むエルル。

 ユーゴはどうだろう。私を知って私をどう思うかな。

 きっと私という存在を肯定してくれる。だって彼は優しいから。底抜けにお人好しだから。


 どうして私はそこにいないんだろうって、思ってた。

 シェリッツィンの町での事件で覚醒した私の意識は、自由を渇望している。


 だからつい、エルルに頼んでしまった。私の身体が欲しいって。

 無理なら無理でも構わない。それなら素直に諦める。

 でも、私もあの家族の中で暮らしたい。どんなデメリットがあってもいい。

 だって私も、エルルだから!


「だからさ―――」


 矛の瓦礫を踏み、私は跳ぶ。


「私の幸せライフのために、邪魔なんだよね。ポセイドン!」


 私は宙を蹴る。破壊の剣は三度姿を変える。

 双剣は二つの球体へ。私を迎撃するために放たれる幾つもの水球を盾へと変化した球体が消滅させていく。

 もう片方の球体を変化させる。新たに選んだのは、意趣返しも含めて三叉ではないが矛。

 柄を回し、すべての水球を消滅させて身体を捻る。


『ナナクスロイぃぃぃぃぃぃ!』


「―――エルルを、傷付けるな」


「あら、セル」


 ポセイドンが最後の抵抗とばかりに飛ばしてきた水流を、駆けつけたセルが凍らせてくれた。

 わーい、たっすかるー。だいすきー。


 矛をポセイドンの胸へと突き立てる。濁った声が聞こえると同時に、矛から伸びた黒の線がポセイドンの身体中に広がっていく。

 壊せ、壊せ、壊しつくせ。

 黒の力こそ私の本質であり本性。破壊こそ全て。

 全て破壊した後にこそ、自由は在り。


「壊れちゃいなよ、ポセイドン」


『ぬ、おぉぉぉぉぉぉおぉおおおお!? 我が、我が滅びるというのか?! 我はまだ地上を制しておらん。我はまだ戦王と決着をつけておらん、我は、我はぁぁぁぁ』


「知るかばーか。戦王だって今はもうどっかで封印されてるか消えてるかのどっちかよ。冥王である私が断言するわ」


『ナナクスロイ。否、冥王ハデスぅぅぅぅぅぅぅぅ』


「私はクルルよ。クルル=ハデス=ナナクスロイ」


 じゃあね、ポセイドン。

 黒い力に飲み込まれていく。広がりきった黒の線が収束していく。それに引き摺られるかのように、巨人の身体が矛を中心として捻れていく。

 最早意思も力も感じられない。ポセイドンの肉体も何もかも、黒の力に呑まれて消えた。


 あ、そうだ。忘れてた。

 私でも出来ればいいんだけど……。


「エルル、力を貸して?」


 黒い球体を消滅させて、濡れてしまったカードを取り出す。

 さて、上手く行けばいいんだけど。


「―――私はクルル。黒き申し子にして獣の子。盟友の名の下に封印された汝らを、呼び戻す者なり」


 大丈夫そうだ。カードはなんとか応えてくれる。エルルの力にちゃんと応えてくれる。

 中空に留まっているポセイドンを破壊した黒き矛。カードから飛び出た紫の光が矛へと激突する。

 黒と紫は互いにせめぎ合い、存在を主張する。

 黒の力を緩ませる。次第に紫の力が押して行く。


 んー、間に合うかなー。


「水の民よ、今すべての封印を解く。ディスペル―――」


 黒が負けて、紫の光が弾ける。

 破裂する音と共に海底都市の空に沢山の生命が召喚される。

 ジェレミアに封印されて、ポセイドンに捧げられた水の民たちだ。

 トロ吉とかマスクド・エビとか、サハギンもゲッドタートルたちもいる。

 そして。誰よりも先に優雅に着地した女性は。


「……ありがとうございます。エルル様」


「あっははー。よかったよかった」


 エルルじゃないんだけどね。エルルも多分もう大丈夫だし、速めに戻ってあげないと。

 できればセルとかハムにバレたくないしー。ハムなんか一度だけ幽体でいたずらしようとした私と会ってるしー。

 っあー。ここだけ私エルルにそっくりだ。私のことを知られたくないというか、拒絶されると考えちゃうから怖くて会いたくない。


 ん、んー。


「……なるほど、出てきたのですね、クルル」


「クルル? 誰のことよ」


「くんくん……匂いが違うのう」


「げげげげげ」


 なんで皆もういるのー!?

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