心のままに。
「溶岩鳥を使った親子丼です」
「いただきますっ!!!」
出された食事に疑いもせず口をつけ、一口味わってから奪われないようにと丼を持って流し込んでいく。
ボクもハムちゃんのおいしいご飯をちびちびと食べ進めていく。溶岩鳥の肉は火が通りにくく調理しづらかったようだけど、火力に関してはリフルちゃんが手伝ってくれたみたいで上手く出来たようだ。火の神様が料理を手伝ってくれるなんて、なんかシュールだ。
いや、ボク以外神様しか住んでない家だけど。
うん、美味しい。
油っこくなく、さっぱりと食べれる。けれどしっかりと肉汁が滴っており、口の中が渇くこともない。
とじられた卵がどれだけまろやかなことか。白と黄色のコントラストが料理の彩をより華やかに魅せる。
マトウさんはハシ、という故郷のフォークのような木の棒を器用に持ってご飯を流し込んでいく。ボクはスプーンで食べ進めていく。一つの料理を別な食べ方をしている奇妙な光景だ。
ご飯を使った料理も好きだけど、ボクはこれならオムライスのほうが好きだなぁ、とか思ってしまう。
美味しいよ。美味しいんだけど。ボクはトマトをふんだんに使ったケチャップソースが大好きなのだ。ゆで卵にも使うくらいだ。ハンバーグには必需品だ。
せるちゃんとハムちゃんはマヨネーズと塩で食べるらしいけど、ボクはケチャップ一筋だ。だからこの家にはいつも沢山の調味料が常備されている。
ただ単にハムちゃんが凝り性ってところもあるけど。
「うめぇ。お代わりありますか!?」
「は、はぁ……どうぞ」
凄い勢いだ。ボクがまだ半分も食べてないのにマトウさんはもう丼を綺麗にして挙句お代わりをしていた。
意識を取り戻して開口一番が「腹減った」なだけあるというか。溺れていたことに疑問を持っていなかった。
……心の中で謝っておこう。
マトウさんの食べっぷりにミニマムモードで小さな器で満足しているせるちゃんとリフルちゃんも口を開けてぽかーんとしていた。
溶岩鳥はあれだけ巨大なサイズだったから、取れるお肉の量のかなりのものだ。
そこからお昼とちょっと手を抜いて晩御飯の分まで用意してもらった親子丼が、無くなりそうである。
ってもう四杯目!?
「むぐむぐ……うん、おいし」
「ありがとうございます」
マトウさんがいるから、思った以上に声が出せない。味はなんとなくわかるんだけど、いつもより鈍っている気がする。
い、居辛い。部屋に戻っちゃだめなのかなー。
ダメです、とハムちゃんが無言のプレッシャーを与えてくる。
うぅ、胃が痛い。
「溶岩鳥の胸肉のタタキです。レアなのが気になるなら、熱石人形の欠片で好きな加減にしてください」
「ありがとうございますうめぇっ!」
「こちらはアルトロ牛のホルモンですが」
「いただきますっ!」
「イニエト村直送のサラダです」
「ナスは入ってないですよね?」
「ご要望があったので」
「ありがとういただきますっ!」
凄い勢いだ。ハムちゃんが楽しそうに次々に料理を出していく。見ているだけでお腹がいっぱいだ。
というか、お肉と炭水化物ばかりである。マトウさんを肥やして食べちゃうつもりなのかな?
向かい合って座っているはずなのに、ボクの視界からマトウさんが消える。重ねられた食器の山に隠れてしまった。
でも食べ続けている。チキンカレーとポークカレーとビーフカレーと野菜中心のカレーが出たのに全部食べてる。
「カレーは飲み物ですから!」
「は、はぁ……」
作った張本人であるハムちゃんまで引いていた。うん。そりゃカレーだけならまだしもご飯も一緒に流し込んでれば誰だってそうなるよね。
対抗意識を燃やして沢山料理を出していくものの、マトウさんの食べるスピードは増すばかりだ。
ハムちゃんが限界とばかりにやっとの思いで出したアルトロ牛をふんだんに使ったテールスープを飲み干し、決着が着いた。
どっちが勝ったかはわからないけど、少しだけハムちゃんが疲れた表情をしていた。
凄い。ハムちゃんを此処まで追い込んだ人は初めて見た。
「っかー。ご馳走様です。いやー助かりました。何しろ食料尽きて四日くらいずっと森を彷徨ってたんで」
「この森には迷う魔法を仕掛けてありますからね。あの泉に来れただけでも凄いですよ」
「水の音だけを頼りに這いずっていきました」
親しげに話すハムちゃんとマトウさん。ハムちゃんは明らかに見てわかる作り笑顔で、マトウさんもそれがわかってるのか礼儀正しい口調のままだ。
「食器を下げますね」
「あ、ボクが」
「エルル様は座っていてください」
「……はぃ」
わかってる。ハムちゃんもマトウさんの相手はしたくないのだ。面倒くさい、悪い予感がする。
そもそもどうしてマトウさんが此処に来たんだろう。ラングルスから馬車でも数時間かかるこの森は、ボクが住んでいることもあり近づく人なんていないのに。
行商人ですら近づくのを怖れる森だっていうのに。
「っふっぅー……。美味かった。彼は兄かなにか?」
「……え、と」
「アンタに話すことなんてないわよ」
「あははー。厳しいなぁ」
食事を終えて少し、空気が緊張する。真っ先に警戒し始めたせるちゃんは嫌悪感を隠さない。
マトウさんも笑ってはいるが笑っていない。怖い笑みだ。
言葉に詰まるボクの前にせるちゃんが立つ。ミニマムモードでありながら、腕を組んで仁王立ち。勇ましい。
「エルルに何の用?」
「さっそく本題? 俺はもう少し自己紹介を」
「さっさと出て行って欲しいの。この森はエルルと私たちの家だから」
明確に、きっぱりと。せるちゃんがボクの心の言葉を代弁する。
何のための森への侵入者が迷う魔法をかけているか。関わってほしくないから。
先生がこの家に来れるのは、この魔法は先生に教わった唯一の魔法だから。
だから先生以外の人はこの家に辿り着けない。
……泉でマトウさんを助けたことを、少し後悔。命を軽んじたくないから助けたけど、関わってほしくなかった。
「というか帰っていいわよほらハム塩持ってきなさい!」
「ねえこの子魔物だよね凄い口悪いよね俺だって傷つく心あるよ?」
「うっさい童貞」
「どどど童貞じゃねーし! 俺のどこが童貞なんだよ!」
「そもそもオンナの匂いがしないわ」
うわ、マトウさんが真っ白になってる。ドウテイ、ってなんのことだろう。あとでハムちゃんに聞いてみよう。
頭を振って、マトウさんが話を変える。どうやら話題を変えたいらしい。
せるちゃんは犬のように唸り声をあげて威嚇している。
「ねえハムちゃん。ドウテイってなーに?」
「知らなくていいことです」
「うーん……?」
「ご、ごほん。いいかな?」
「あ、はい」
咳払いをして、マトウさんが居住まいを正す。ボクたちを遮っていた食器の山はいつの間にか忽然と姿を消しており、キッチンからはお皿が擦れ合う音が聞こえてくる。
速いよ、ハムちゃん。何のようだろう。大体は察してるけど、マトウさんの言葉を待ってみる。
結果から言えば、ボクはものすごく後悔した。
「結婚してください」
「え」
「なぁっ!?」
「ケッコンってなんじゃ?」
「泉で助けてもらう時にうっすら見えた君の姿。とても神秘的で美しくてずっと脳裏に焼き付いている。こんな気持ち初めてだ。一目惚れだ」
ヒトメボレ。
ひとめぼれ。
一目惚れ。
世間一般では一目見た瞬間に特定の相手に対して、夢中になる体験、もしくはその心的な機能のことを示す。
言葉の意味を頭の中の辞書から引っ張り出してきて、
……一目惚れっ!?
「ひゃ!? え、え、え」
「がるーっ!」
「落ち着かんかいセル!」
唸りながら飛び付こうとしているせるちゃんをリフルちゃんが懸命に抑えてくれている。
突然すぎてボクの思考は上手く纏まらない。糸がこんがらがってしまった感じで、なんだか頭がボーっとする。
心なしか頬も熱い。顔が熱い。全身が熱い。
何を言えばいいのかわからない。なにがなんだかわからない。
「ひ、ひひひひひひひとめ、ひとめっ!?」
「教えてください。エルルって女の子を」
「え、とえとえとえとえと……『身代わり企鵝鳥』!」
なんかもうよくわからない頭ぐるぐるするしあっついし!
緊急用に肌身離さず持ち歩いているカードの封印を解く。
一瞬の光と共に、ボクの視界が反転する。ボクの視界に映ったのは、見知った天井。
ベッドの上に投げ出される。『身代わり企鵝鳥』は予め指定しておいた対象とボクを入れ替える特殊な魔法だ。
古文書から編み出した、ボクだけの特別な逃げるための魔法。
起き上がってすぐに部屋の鍵を閉める。誰も入って来れないように。
毛布に包まって、ボクの代わりリビングに行ってしまったペン太くんにごめんと謝りつつ、ギン太くんを抱き締める。
ちょっぴり固いクチバシが痛いけど、それでも力を込めて抱き締める。
ぎゅーって。ぎゅーって。
よくわからない感情が胸の中をぐるぐるしている感じだ。
なんかこう、叫びたい。
「うきゅー!」
そのままボクは、意識を手放した。
ミリアリア「なんだかものすごくムカつく事件が起きた気がするわ……あ、このケーキ美味しいレシピ貰いましょ」




