外に出るしか、ないらしい
円形の巨大な建造物は歓声に包まれていた。
観客を沸かせている原因はコロッセオの中心で対峙する二人の召喚士。
片や真紅の魔法服。その素顔はフードによって隠されている。
片や紺色の魔法服。その素顔はフードによって隠されている。
審判が二人の召喚士を分かつように制している。手にする赤と白の杖は審判を表すと同時に身の安全を保障するマジックワンド。
「さあさあ始まります。召喚士同士の決闘がっ!」
口元でマジックワンドへ向けられた言葉が、広大なコロッセオ全体に拡散されて響く。
魔法で声を拡散させて観客に届けているのだろう。出なければかき消されてしまうほどの歓声だ。
空いている腕を広げるように。その手が向けられた先には召喚士。
マジックワンドを持ち替えて、同じ動作でもう一人の召喚士にも手を向ける。
「この街で不敗神話を築くチャンピオンの召喚士、グリード・レギンダットぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
「チャンピオンに挑むは異国より訪れし宿無し召喚士、ユーゴ・マトウぅぅぅぅっ!」
「「「「死ぬなよーーーーーーー!」」」」
「皆さん死なない準備は出来ましたねぇっ!?」
審判の紹介と共に召喚士たちは形式に従いフードを取る。
審判の合図と共に召喚士たちはバックステップを踏む。両者の間に距離が出来る。
試合に巻き込まれぬように背中を見せて逃げ出す審判。召喚士たちは三枚のカードをその手に掴み、審判の宣言と共に叫ぶ。
「決闘、ゴォォォォォォォォォォ!!!」
「「召喚っ!」」
掲げたカードに魔法陣が浮かびあがる。三角形と逆三角形が重なった六芒星。
召喚士によってカードに封印された魔物がその封印を解かれる。
六芒星から光の粒子が立ち昇る。嵐のように舞い上がる粒子が空へと広がり、召喚士の意思に応え、顕現化する。
チャンピオンが召喚するのは巨大なドラゴン。都市より遥か彼方の山脈に住まう伝説の存在。
鋼鉄をも噛み砕く顎と、広げられればステージには収まりきらない翼。
一歩を踏みしめるだけで大地は陥没し、引き締まった四肢がその巨体を支える。
挑戦者が召喚するのは鎧の騎士。かつて栄え、滅んだ城塞都市を未だ守り続けていた騎士のなれの果て。
傷んだ甲冑は激闘を生き延びた勲章。翻したマントこそ騎士の誉れたる証。
肉体は無い。だが、肉体という枷から解放されたからこそ騎士は此処までの魔物へと昇華した。
どちらも常軌を逸した力を有しているとその場にいる全員が感じ取る。
騎士でさえ挑戦者を軽く凌駕する巨躯だが、ドラゴンはその遥か上をゆく。
観客からは二種類の声が聞こえてくる。無敗を築いたチャンピオンの勝利を疑わぬ歓喜の声と、期待はずれの矮小な騎士を召喚した挑戦者への落胆の声である。
腕を組んで仁王立ちするチャンピオンは不敵な笑みを浮かべながら、ドラゴンへ攻撃の指示を出す。声に従いドラゴンの口から高熱の炎が吐き出され、瞬く間に舞台を飲み込み騎士も挑戦者の姿も見えなくなる。
「これは……もう決まってしまったかぁーーー!? 恐ろしきはチャンピオンの伝説のドラゴン・ラグナロク! その一撃は守られていなければ観客席にまで届いてしまうぞーーーーっ!」
沸き立つ観客を野次を飛ばす観客と観客席に逃げ込みながら状況の解説を続ける審判。
だがそこで変化が起きる。突風が炎の中から発生し、炎が断たれる。
観客のどよめきは審判にも伝わり、何が起きたかを理解する間もなく炎の中から騎士が飛び出してくる。
「これはっ。挑戦者も魔物も無事だったぞーーーーーー!?」
飛び出してきた騎士は脇目もふらずにドラゴンへと駆ける。
無傷の挑戦者がその手に握っていてカードを二枚掴み、更なる召喚を告げる。
一体だけの召喚でさえ並大抵のことではない。
並の召喚士では一体の魔物を顕現化し使役するだけで精一杯だというのに。
挑戦者の詠唱と共に二枚のカードに浮かびあがる魔法陣。
それと同じくして、騎士の手と背中に同様の魔法陣が浮かび上がる。二つの魔法陣は光りあい共鳴しあい、新たに顕現化する。
召喚されたのは魔物ではなく巨大な剣と鋼鉄の翼。空いていた手に握られた剣は更なる選択肢を、背に装着された鋼鉄の翼は騎士に空の自由を約束する。
さすがの状況にチャンピオンも表情を変える。カードを繰り出し同様に召喚を告げる。
ドラゴンの攻撃を巧みにかわし、眼前にまで迫り騎士は二振りの剣を振り下ろす。
だが突如として発生したガラスのようなバリアが騎士の剣を弾き、騎士は空での姿勢を崩してしまう。
「っ……!」
「甘いぞ、その程度で私は崩れん!」
チャンピオンが咄嗟に召喚した、物理的な攻撃を無効にしてしまうバリアだ。
一回だけの召喚だが効果は充分。消費される魔力もかなり少ない。
チャンピオンの追撃が始まる。姿勢を崩した騎士にドラゴンの鉤爪が迫り、不利な姿勢だが騎士は必死に受け止める。
受け止め弾くことはできたが空での自由を奪われる。弾き飛ばされた剣。姿勢を崩し大地へと叩きつけられる騎士。
衝撃にコロッセオが揺れれ、舞い上がる砂埃がドラゴンと騎士の姿を隠す。悲鳴を上げる観客たちだが、二人の召喚士は表情を崩さない。
「ラグナロクよ、粉砕せよ!」
「不退の騎士、切り開けッ!」
召喚士たちの声が重なると同時に、舞い上がった砂埃の中からドラゴンと騎士が姿を現す。
ドラゴンの爪がより伸びる。召喚された剣を失った騎士が残された剣を両手で握り締め、正面で構える。
笑いあう召喚士たち。次の一撃で決着が着くと読んでいる。
そして、動き出す。
騎士の胸元を狙い突き出された爪は、虚空を切り裂きドラゴンは騎士を見失う。
召喚士の声に従い上を見上げれば、そこには大きく跳躍し剣を振りかぶる騎士の姿。
迎撃せんと鋭利な爪を向ける。だが騎士は逆光を利用してドラゴンの視界を奪い、その剣を振り下ろす。
伸ばされた爪は目標を捉え切れず、鎧を抉るが致命傷にはならず。
一刀の元に首を断たれたドラゴンは光の粒子となり、ドラゴンを失ったチャピオンはうめき声をもらして倒れた。
「き、決まったぁぁぁぁぁぁぁぁ! この一年、不敗だったチャンピオンが負けたぞぉぉぉぉ! これがどういうことか観客の皆様はよーくわかるはずです! 新たなチャンピオン、ユーゴの誕生だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
盛大な歓声にコロッセオがまたも揺れる。意識を失い担架で運ばれるチャンピオンと、額にかいた汗を拭う挑戦者。
ド迫力の決闘に観客の心は燃え上がる。
これこそが、召喚決闘。カードに封印した魔物を使役し戦わせ勝敗を決する、この世で最も優れた召喚士を決める闘い。
今、召喚決闘が世界を賑やかしている。
+
「にっひっひーっ。大穴狙いで大・正・解っ!。儲け儲け~っ」
暗闇の中で宙に浮いた映像はリアルタイムで召喚決闘の結果を教えてくれる。
いやー魔法って便利だよね。遠く離れた場所の映像ですらこうして見せてくれるんだから。
結果はボクの予想通りであり望み通り、挑戦者が辛くも勝利した。
映像の向こうの挑戦者さんは疲れきった表情をしているが、ボクはそんな彼に感謝の言葉を贈りたい。
「ありがとっ。これでボクも大儲けですっ」
召喚決闘の裏で行われている勝敗を予想するだけの簡単な賭博はかなり盛んに行われている。
どちらが勝つか。堅実に勝ちの目を狙うか、大穴を狙って勝負に出るか。
戦う人たちには一切合切関係ない、ただただその結果だけを利用するギャンブル。
賭けられた金額や人数に応じて倍率が変動する簡単なギャンブルだ。
そして今、ボクはそのギャンブルに勝利した。ベットするときに感じた直感に従い、挑戦者に賭けた全財産。
まあ負けて素寒貧になってもいいかなーって思いつつ、蓋を開けてみたら結果は大勝利。配当金を適当に計算するだけでもかなりの額になる。
というかこれ、家とかぽーんと買えるくらいじゃない?
思わず頬が緩む。にっひっひー。やっぱりギャンブルに勝つと気持ちいいなぁ~。
「ハムちゃ~んっ!」
大声で部屋の外で待っているはずのボクの唯い……じゃなくて大切な家族であるハムちゃんに呼びかける。
至福の気分に包まれているボクはベッドの上で全身を広げてお気に入りの企鵝鳥のぬいぐるみのペン太くんを抱き締める。
「にひひっ。えっへへー」
「どうしたんですか気持ち悪い」
「気持ち悪い!? こんな美少女のどこが気持ち悪いの!?」
お母さんから貰った綺麗な緑色の髪と琥珀の瞳! 可憐な顔立ちは街中を歩けば知らないお兄さんに声をかけられるくらいで!
カード召喚術も最高レベル! ボクほどの召喚士はいないとさえ言われるほどなのに!
胸は小さいけど召喚士としての階位は最上位の、このボク、エルル=ヌル=ナナクスロイが!
「五月蝿いですコミュ障ギャンブラー。いい加減外に出やがれください」
「嫌です灰になります」
お外には出たくありません。
ついでに知らない人に会いたくないです。
「貴女は吸血鬼じゃないでしょうに……」
諦めているようなハムちゃんの言葉にちょっと後悔。
で、でもね。家の外はボクに優しくないから。
だからボクは、背が高くて執事服の似合うツヤツヤした黒髪の優しい兄のような存在のハムちゃんにお願いするんだ!
「ハムちゃん、配当金貰ってきてついでに新しいペンちゃん買ってきてっ」
「そもそも配当金の受け取りは本人確認のための魔力検査があるでしょう」
「あ……」
すっかりうっかり忘れてた。というより前からずっとそれがあるからこのギャンブルには手を出さなかったのに。
ついつい自分の直感と配当に目が眩んでしまった。てへぺろっ。
……外かぁ。
「う、うーん……」
「そんなに嫌ですか」
外は怖いところだ。悪意が蔓延している。知らない人に会いたくない。というか誰とも会いたくない。
「エルル様?」
……あ。
ぽん、と優しくハムちゃんの手がボクの頭に乗せられた。そのままゆっくり撫でられる。
まるで子供をあやしているようで、少し複雑だけど。
小さいころからボクを守ってくれているだけあって、ハムちゃんの撫で撫でには逆らえない。
「まあ受け取りにいかないなら先方に連絡入れて寄付にでも回しますね」
「行きますごめんなさい」
せ、折角の稼ぎだもん! 少なくとも向こう三年は働かなくても生活できるくらいのお金だもん! お金が無いと生活できないし、学院に行かなきゃいけないし!
ボクの言葉を待ち望んでいたのかハムちゃんが微笑む。うぇぇ。やだなぁ。
ある日唐突に思い付いた、カード召喚+引き篭もり+コミュ障+ギャンブラーのぺったんこ系主人公。
主人公のペンギン好きだけは譲れない設定です(断言)




