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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
第三章 家族の絆と向こう側のボク
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ここから始まる、幸せ生活。




 とんとんとん、と包丁の音がキッチンに響く。煮込んだスープは味見をしたけどもう一煮立ちすれば完成かな。

 空を見れば、空が赤く染まっていた。もうすぐで日は落ちて夜になるだろう。


「ただいまー」


「あ、パパーっ!」


「あ、ユエルっ」


 日が暮れてきて、ボクの大事な人が今日も今日とて宮仕えを終えて帰ってくる。

 出迎えようとしたけど料理中で手が離せない代わりに、ユエルが嬉しそうに駆け寄っていった。

 むぅ。ここ最近べたべたしすぎじゃないかなぁ。っと、小さな子供にヤキモチを焼いても仕方ない。

 あとは余熱で煮込むだけだから、ボクも行こう。

 火を止めて、エプロンを外す。この六年ですっかりボクも料理が上達した。

 とはいえハムちゃんの腕にはまだまだ届かない。今でもたまに教えてもらうけど、どうしてハムちゃんはあんなに料理が上手なんだろう。

 というか、家事全般。ボクなんか一日使ってようやく終わると言うのに。


「お帰り、ユーゴくん」


「ああ。ただいま、エルル」


 六年の歳月はボクたちを少しだけ大人に成長させた。出会った頃より落ち着いたユーゴくんは、今では王国の兵士たちに剣技を教えている、王宮師範代となった。

 トリスタンさんの隠居と共に師範代になったユーゴくんは同時にミリアちゃんの側近兼護衛として毎日王宮で働いている。でも日暮れ前に帰れるのは、一重にミリアちゃんのおかげだ。


 ミリアちゃんとは、ちゃんと顔を合わせて話をした。

 大好きな『友達』であると。思ったより素直にミリアちゃんはボクとユーゴくんを祝福してくれた。

 ……話をしていた部屋のドアから、せるちゃんが覗き見してたけど。


 せるちゃんはミリアちゃんと意気投合したらしく、今では王都でお店を開いている。

 せるちゃんが造る氷は食用にも観賞用にも重宝されているとか。


 かつてお母さんと暮らしていた家があった場所。

 ボクたちはそこに家を立てて暮らしている。王都まで一時間ほどかかってしまうけど、ボクが改良した転移魔法の普及により移動時間の問題は解消された。


 ハムちゃんはグランドフォート山を守る、とか言っていたはずなのに三年ほどで帰ってきた。そして王都でわざわざせるちゃんのお店の隣で居酒屋を開いた。

 毎晩せるちゃんが飲みに来ると苦笑いしていた。


 リフルちゃんはリードン火山の開拓団に同行して、今もあっちで暮らしている。

 寂しいけれど、リフルちゃんが自分の意思で決めたことだ。

 それにボクの幸せも頼まれてしまった。いつか再会する日に、笑顔で再会すること。それを条件として、リフルちゃんは火山へと帰った。




 ボクの家族だった皆は、皆それぞれの生活を得ていった。寂しくもあり、同時にボクに尽くしてくれた分、今を自由に生きていてくれるのが嬉しい。

 クルルは――。


 クルルは、ボクとユーゴくんが結ばれてから少しして、何処かへ行ってしまった。

 私にしか出来ないことを探すと書置きを残して姿を消してしまった。

 大切な半身がいなくなってしまい、当時は酷くうろたえてしまいユーゴくんにも八つ当たりをしてしまった。

 けれどそんなボクをユーゴくんはしっかりと受け止めてくれた。その時にはもうユエルを妊娠していたのもあって、ずっとずっとボクを受け止めてくれた。優しくしてくれた。


 クルルが何処にいるのかはわからない。

 でも、何処かで生きているのだけはしっかりとわかる。

 だって、クルルはボクの半身だから。

 クルルは今も、この世界の何処かで生きている。

 それがわかるだけで、大丈夫だ。



「どうしたの、ママ?」


「ううん、なんでもないよ」


 楽しそうにユーゴくんにじゃれついていたユエルを抱き上げる。小さな身体はあの頃からあまり成長していないボクでも簡単に持ち上がるほど、軽い。

 ボクたちの娘を抱き上げて、命の重さを感じる。かつてお母さんがボクに抱いてくれた思いを、今はボクがユエルに抱いている。

 この子を幸せにする。ボクも、ユーゴくんも、皆幸せになる。

 エルルとしての人生は、大切な夫と娘を手に入れてようやく始まった気がする。


 これから先、小さなことで喧嘩もするだろう。小さな子供との接し方もわからないボクは、きっと何度も間違えてしまうだろう。

 でも、間違えても怖れずに触れ合うんだ。触れ合って、謝って、それでもっと幸せになるんだ。


「ユーゴくん」


「うん?」


 ユエルを抱き締めながら、ふと泣いている自分に気付いた。

 嬉しいのに。悲しくも寂しくもないのに、どうして涙が出るんだろう。


「ボク、幸せだよ」


「ああ。……これからもっと、もっともっと、幸せにするよ。大好きだ、エルル」


「……うんっ! ボクも大好きだよっ!」


「ユエルもパパとママのこと、大好きだよーっ!」


 ユエルがこれから成長して、どんな出会いや別れを繰り返すかはわからない。

 でも、ユエルにはボクたちがいる。ボクにハムちゃんやせるちゃんたちがいたように、ボクたちが、この子を幸せにする。

 ユエルを幸せにして、ボクたちも幸せになる。幸せは連鎖していく。


「ううん。ユエルよりママのほうが幸せだもんねーっ」


 ありったけの想いを込めて笑うんだ。




 幸せを表現するには、それが一番だ。

はい。そういうわけで今回で最終話という形とさせていただきました。

ご愛読、ありがとうございましたっ!

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