これからを‐クルルの選んだ道
「あー、いい天気だねっ!」
「だからって無茶振りすぎるだろ!?」
「いいじゃんテレサー。ちょっとのお散歩だよ?」
「ちょっとでどうして冥界からエルフの森にこなくちゃいけないんだしかもわざわざグランドフォート経由で遠回りして!」
「んー気分?」
「おいコラ」
「あっははー」
私は今、テレサ……エールプティオー・イラと共にエルフたちが住む広大な森に来ている。
エルルとユーゴが結ばれた。わかっていたけど辛かった。私の中にあるユーゴへの想いは、エルルの記憶を引き継いだから得たものであり、この想いはエルルのものだから。
だから、卑怯だとは思うけど逃げるように二人の前から姿を消した。心配させてしまうのはわかっていたが、あのままエルルとユーゴの幸せな空気を見ていることは、正直辛かった。
幸いにもエルルが帰り際に冥界への転移ポイントを用意していたから、それを使ってお父さんのところに転がり込んだ。親子の絆を育むのだーって言い訳を、お父さんは笑顔で受け入れてくれた。
もうそれから色々あった。色々ありすぎて小さな本なら一冊くらいになる物語になるほどの出来事だ。
具体的には七氏族の当主たちとのガチンコバトル。私がハデスの半身であると認められるために必要なことだったらしい。
……だけど、それを語る必要は無いよね?
「で、どうして僕もいるんですかね」
「ふっふっふ。ニヒルに静かにこっそりフェードアウトしようとした紫水晶さんに世界のことを教えてもらおうと思ってね」
ウィル・クォーレンとはなぜか冥界で再会した。学術的興味が~とか言ってお父さんに冥界の魔導書を借り受けようとしたらしい。
だから私の旅に同行させた。私には私に出来ることがある。そんな気がして。
「……あはっ」
空を見上げれば、鬱蒼とした木々の隙間から空が見える。
見たことのない鳥が大きな羽を広げながら自由に空を飛んでいる。
凄い気楽そうに、楽しそうに。思わず手を伸ばして、虚空を掴む。
私に出来ることは、まだ見つかってない。
でも世界は広い。エルルと一緒に冒険したのはグランドフォート山だけだったから、これからユーイレル大海峡にもその奥の砂漠にも行ってみよう。
テレサとウィルという実力的にも信頼できる同行者がいれば百人力だ。
立っていられないほどの地震と共に、森が悲鳴を上げた。
木々を揺らしながら姿を現したそれに、思わず口を開けたままにしてしまう。
「マジか」
「おやおや。スワンプ・ワームではありませんか」
どうして砂漠の神様がこの森にいるんだろう。どうやってユーイレル大海峡を、あのリヴァイアサンを越えてきたのだろう。
目的も何もわからない。わかっているのは、明らかにスワンプ・ワームはこの森を攻撃しようとしていること。
「やっちゃおうか、テレサ。ウィル」
「……やれやれ。魔導書の借りがあるとはいえ、酷い旅に付き合わされたものですね」
「同情するぞ。オレもハデス様……エルル以外にこうして協力するとは思わなかった」
「あはっ。いーじゃんいーじゃん。私たちは自由なんだからっ!」
とりあえずはスワンプ・ワームを黙らせよう。ついでにそれを手土産にエルフの人たちとの交流も図ってみよう。
そうすればウィルが欲しがりそうな魔導書とか、テレサが喜びそうな猛者と出会えるかもしれない。
そうだ。世界にはまだまだ未知がたくさんある。私のやりたいことを探しながら、その未知を一つ一つ解明していこう。
――いつか、エルルに謝って絆を取り戻そう。ユーゴを真正面からからかえるくらいに。
「ねえエルル。私の大切な半身。聞こえてないけど言葉にしておくよ。――エルルもユーゴも、大好きだよっ!」
逃げてしまった私だけど、エルルだったらきっと許してくれるだろう。
なんだって私の半身は、いつもいつまでも幸せ絶好調だからだ。