愛し合うが故に
ハムちゃんが簡単に、と用意してくれた料理は本当にあんな短時間で用意できたのかと思ってしまうほど豪勢だった。
山盛りの肉料理と、いつの間に手に入れたのかウナギを蒲焼にしている。肉料理にはたっぷりにんにくが使われているのか、凄い臭いだ。
まあ臭いは魔法で消せるからいいんだけど。熱々のにんにくは美味しいよねー。
「豆腐と山芋と……これはレバニラか?」
ハムちゃんって時間を操る魔法でも使えるの?
火を使わなくちゃいけない料理が数種類ある時点で、作業効率もへったくれもない。いったいどんな魔法を使ったんだろ。
……そういえば、クロエさんも一時だけ姿を見なかったなぁ。じ、人海戦術?
「えーっと、なにこれ?」
飲み水として用意してくれたカップに、粉が入っている。
一緒に置かれている紙には、クラチャイダム、と書かれている。
溶かして飲むと疲れに効くと。薬の一種なのかな。
「とりあえず食べようぜ。さすがに腹減った」
「そうだね。いただきますっ」
沢山量はあるけれど、ボク自体は小食だから少しずつ食べられればいいや。
ユーゴくんは相変わらずいただきますと同時に飲むように食べている。凄い。
「あむあむ……うん、美味しい」
さすがハムちゃんのお手製だ。きっちり素材の味も下味も活かされている。
あれだけの短時間でも一切手が抜かれてないのが一口食べるだけでわかった。
凄いなぁ。森で暮らし始めたばかりの頃は料理すらほとんど出来なかったのに。
「ユーゴくんっ」
「ん、どうした?」
「あ、あーんっ」
「~~~っ!?」
小さく切り分けたウナギの蒲焼をフォークに刺したまま、ユーゴくんに向ける。
物語で読んだことがあるし、小さい頃はお母さんにしてもらったことがある。
だ、大好きな人だから。や、やりたくなっちゃった。
流石のユーゴくんも顔を赤くして戸惑っている。
でも、すぐにウナギに噛み付いてくれた。
「あ、んむ……はぁ。うまい」
「ほんと、美味しい……~~っ!?」
ウナギの味に満足して頬を緩ませたユーゴくんに満足して、ボクもにんにくを食べる。
使ったフォークのままで。ほくほくのにんにくを食べてから、気付いた。間接キスだ。
う、うぅぅー! さっきもキスをしたけどやっぱり恥ずかしい!
ユーゴくんは気付いてないのか、美味しい料理に舌鼓を打っている。
……ここは食べて忘れてしまおう。うん、そうしよう。
クラチャイダム、という粉末は量が少なかったのか味も匂いもほとんどしなかった。
「食べ過ぎた……」
「あはは。全部食べちゃったね」
間接キスの余韻が抜けていないまま食事が終わり、二人で片付けた。
食器などは水につけておいた。わざわざ書置きでハムちゃんにやらなくていいと釘を刺されてしまった。
うーん、ハムちゃんたちは本格的にボクとユーゴくんをい、イチャイチャさせたいのだろう。
どういう思惑があるのかはわからない。でも二人っきりになれたおかげで結婚の約束までしてくれた。
本当に、嬉しい。ハムちゃんとクルルさまさまだ。
「えへへ。ユーゴくん大好きっ」
「エルル、大好きだ」
ソファで抱き合って愛の言葉を交わす。好きって言うたびに、言って貰う度に心が躍る。
ほんのりと熱くなる身体。いつもより食べちゃったからかな。
ユーゴくんに抱きついて、頬ずりする。なんだか無性にユーゴくんと触れ合いたい。
まるで熱病のように頭がぼうっとする。
「ね、ユーゴくん……キス、して?」
「ああ」
自分から求めてしまうほど、彼が愛おしい。ついばむようなキスを繰り返す。触れて、離れて、また触れる。
彼と触れ合う場所が熱くなっていく。のぼせたように身体が熱い。
胸元のボタンを外すと、幾分かマシになる。
「ん、ユーゴ、くん。好き、好き、大好き……」
「ん、ぁ。エルル、好きだ。大好きだ。愛してる」
「ぼ、ボクも……んんっ」
ついばむようなキスが、少しずつ変わっていく。知識じゃない。経験でもない。本能が、彼を求めている。
伸ばした舌が、絡め取られる。身体に電気が走った感じがする。震えるほどの、快感。
「エルル……その、俺」
「あは……ユーゴくんの、好きに」
身体が熱い。頭がぼうっとする。自分が何を言っているかもわからない。
でも、彼を求めている。それだけはしっかりと理解できている。
ユーゴくんが身体を起こして、ボクの身体を抱きかかえる。お姫様抱っこの形で、移動させられる。
両手が塞がってしまったユーゴくんに代わってドアを開く。目的はボクの部屋。
ボクの、ベッド。
ドサ、とベッドの上に投げ出される。柔らかな弾力がボクを受け止めてくれる。
仰向けに倒れたボクの上に、ユーゴくんが覆い被さる。
押し倒されちゃった……。
落ち着かない様子の彼は、少し息が荒い。まるで、理性で何かを我慢しているような。
熱い身体。押し倒されたボク。ボクを見下ろすユーゴくん。熱にうなされたボクたち。
考えることをやめてしまおう。今、口にしたい言葉を吐く。
「エルル」
「ゆーご、くん……」
右手を伸ばして、彼の頬に手を当てる。彼の表情が少しだけ落ち着く。
身体が、熱い。わかっている。身体が彼を求めている。彼の愛を求めている。
「ボクを、もらって……?」
続きはだめです。これ以降は見せちゃいけない奴です。