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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
コミュ障エルルの召喚魔法(サモンマジック)~黒い魔法使いの人生設計~
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せるちゃんがガン見してた




 空はだんだんと灰色に染まってきている。目的地である火山がうっすらと見えてきた。

 ハムちゃんとの打ち合わせどおり、二回の休憩を挟み、二日と少し。

 休憩中にも移動中も魔物に一切襲われなくてちょっと気味が悪いけど、リードン火山のエリアにボクたちは到達した。

 かなり気温が上昇してきた。火山を見つけるために高度を落としてもらったんだけど、多分火山から吹き出ている煙で空が覆われてしまっている。

 日差しがないのはいいんだけど、でも、暑い。

 服の下は汗でびっしょりだ。額に浮かんできた汗を手で拭っていると、何故かせるちゃんが目を輝かせていた。


「どうしたの?」


「舐めていい?」


 なんとなく察しはついたけど、念のため。


「……何を?」


「エルルの汗!」


 いい笑顔だった。どうしてこう可愛らしい表情でそんな変態チックなことを言い出せるのだろうか。

 ハムちゃんのため息が念話で飛んできた。いや現実にもドラゴン状態で大きなため息が出ていた。


「やだっ! 何考えてるの!?」


 思わずせるちゃんを手で抑え付けた。ミニマムモードで助かった。

 汚いから! せるちゃんは関係ないと叫びながら必死にボクの手から逃れようともがく。離したら飛びつかれる。今のこの子は危険だ。

 思った以上にせるちゃんの力が強い。ちょっと待って、せるちゃんどれだけボクの汗に執着してるの!?


「大丈夫! 舌のさきっちょだけだから!」


「何が大丈夫かわからないよっ!?」


「お願い! ぺろぺろでいいから!」


『振り落としますか?』


「だ、ダメ。こんなところでせるちゃん行方不明になったら溶けちゃう!」


『そうでもしないとこの異常性癖雪女は止まらないと思うのですが……』


 物騒なことを言い出すハムちゃんを必死に制止する。いくらせるちゃんの言動があからさまにボクが引いてしまうくらいアレでも、大事な家族なんだ。

 ああでも! ほんとせるちゃんどうしてものすごい力でボクの手をどかそうとしてるの!?


『ッ!』


「ぴゃあ!?」


「うっひょわぉ!?」


 突然、ハムちゃんが速度を上げつつ身体を横に倒した。せるちゃんはボクの手から離れ、でも状況が状況なだけにボクの帽子に抱きついた。


 なになに、何が起きたの!?


 困惑するボクと懸命に帽子にしがみつくせるちゃんが、それに気付いた。

 石だ。大きな、石だ。地上から投げられている。ハムちゃんがボクたちを落としてしまわないように繊細の注意を払いながらかわしてくれる。

 ブツン、と頭に過ぎる昔の光景。


「あ、あ……」


「エルル!?」


『不味いですね……!』


 頭が、ぼうっと、する。

 だめ。やめて。石を投げないで。


「ごめ、なさい……」


「エルル! 大丈夫、大丈夫だから! あの時とは違うからぁっ!」


 ボクがあの時、もっと早く動いていれば。

 ボクがもっと早く、皆を追い払ってれば。

 やめて。やめて。石を投げないで。

 やめて。やめて。思い出したく、ない。

 あんなに優しかった商店のおじさんも、よくしてくれた書店のおばさんも、一緒に遊んだり学んだ友達も。

 脳裏を過ぎる、罵声と赤い光景。

 お母さんが、死んじゃった時。それからボクは、敵の皆をハムちゃんに追い払ってもらって。

 石を投げられて。罵られて。大事な、大事なお母さんと暮らしていた家が、燃えて。


「ごめ、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」


 だめ、あたまが、わけがわからなく、なる。

 お母さん、病気で死んじゃって。助けてほしかったのに、皆、ボクを見ると怒って石を投げて酷い時には刃物とかも投げられて。

 薬を買うことも、食べものを買うことも拒まれて、お母さん痩せちゃってどうしようどうしようどうしよう。


『エルル、誰も悪くないの。ちょっと我慢すれば、すぐ皆エルルが優しい子だってわかってくれるから』


 おかーさん、どこにいっちゃったの?

 ボク、ずっとずっと我慢したよ?

 でも、ニンゲンは優しくしてくれないよ。

 どうすれば、いいの?


 ―――壊しちゃえば、いいんだよ?


「エルルッ!!!」


「っ、ぁ……?」


 ひんやりと、でも、暖かい感覚がボクを包み込むように抱き締めてくれた。

 せるちゃん。ボクの大事な家族。


「あの時のような地獄は、もう味合わせない。私たちがエルルを守るからっ!!!」


「せるちゃん……。ハムちゃん……っ」


 ミニマムモードから、ボクの許可も無しに精霊状態へと変化すればせるちゃんは自分の魔力を使うしかない。

 小さい状態で必要最低限の魔力しか与えていないのだから、今、かなりきついはずだ。

 それでも、せるちゃんはボクを落ち着かせるために無理をしてくれた。

 ……そうだ。ボクはもう一人じゃない。あの時とは違う。ハムちゃんもせるちゃんもボクの傍に居てくれる。

 それに、此処にはボクを拒絶するニンゲンはいない。


「……うん。もう、大丈夫」


 震える足は、思い出してしまった恐怖から逃げ出そうとする表れ。

 でも、立ち上がるんだ。せるちゃんと共に立ち上がる。


「ハムちゃん。状況は?」


『地上から無数の岩石人形(ゴーレム)がこちらに向けて投擲してきてますね』


「どうしようか」


『正直鬱陶しいです』


「ボクの魔力、どれだけ使ってもいいから―――蹴散らそう」


『分かりました』


 ハムちゃんが、少し笑った―――気がした。

 翼をはためかせて、身体をひねりながら立ち上がるように姿勢を変える。

 口内へ魔力が集中する。溜めるは破壊の力。かつて、世界樹を支配し城塞都市を陥落させたという、滅びの一撃。

 無慈悲に全てを破壊し尽くす。生きるもの全て薙ぎ払う。

 十年前に、王都に攻め込んだ敵兵さんたちを撤退させるために、最小限の威力で空を穿った一撃を、魔力を込めて、放つ。

 魔力が、爆発する。


皇帝の輪舞(フレア・ロンド)


 収束した魔力は球体となり、放たれた。

 そしてすぐに爆発する。爆発と同時に幾つもの破壊の流れ星が地上に降り注ぐ。的確に、岩石人形(ゴーレム)を貫いていく。

 地上は焦土と化す。破壊の光で薙ぎ払い、こちらに敵意を向けていた岩石人形(ゴーレム)全てが沈黙する。


「ハムちゃん、火山の向こうに、水場!」


 煙を上げる大地の向こう側に、水場が見えた。貴重な水源なのだろう。ハムちゃんも気付いてくれたのか、徐々に高度を下げながら水源へ向かう。

 異常を感じたのは、その時。

 ボクですら一瞬恐怖を覚えるほどの、魔力。


『立チ去レ 立チ去レ 立チ去レ』


「う、そ……っ」


 ボクたちの眼前に迫る、巨大な腕。竜の体躯のハムちゃんよりも、さらに大きい、腕。

 まるで大地自体がボクたちを拒むかのように、その手を伸ばして。


「こいつが、このエリアを支配してる神ってことね……!」


 近づくだけで汗が噴出す。全身の水分が奪われてしまうと思えるほどの熱気に、せるちゃんも思う存分力が出せないようだ。

 ボクの魔界(グリモワール)の知識は、十年以上前の知識だ。その間にリードン火山の支配者が変わったのだろうか。

 此処まで巨大な腕は見たことがない。腕が本体なのだろうか、それとも本体は地中にでも隠れているのだろうか。


「ハムちゃん、避けて!」


『……っ!』


 振り下ろされる手の指の隙間を、かろうじて抜ける。

 あれほど巨大であれば振り返ることも難しいだろう。その間に水源に降りて、姿を隠さないと。

 水源はもうすぐだ。ハムちゃん、頑張って……!

 巨大な腕へ振り向いてみると、指先からいくつもの炎の塊が放たれる。せるちゃんにより巨大な氷塊を生み出してもらって、何とか相殺する。


『着陸、しますよ……っ!』


 ハムちゃんの苦痛を訴える声に、ボクは気付くことができなかった。

Q.ギャグとシリアスを混ぜないと気がすまないのか?

A.イエス!


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