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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
第三章 家族の絆と向こう側のボク
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ハイエンド・ハイブースター




「ハッハァッ!!!」


「うわ傷ひとつ付いてないよ」


 爆風を掻き分けて突き進んでくるエールを見て、ちょっとびっくり。

 確実に足を止めさせるつもりで放った魔法なのに、ちっとも堪えてない。

 銀の甲冑が軋んでいる。彼の動きについてこれないのだろう。相当無理をさせているようだ。


「バーンドクルゥゥゥゥズ!」


 高速で迫る巨躯から振り下ろされる大剣の一撃を後方に飛んでかわす。

 四対の翼に魔力を通し、空へ。エールが振り下ろした一撃によって闘技場にはクレーターが出来上がり、床材が吹き飛んだ。

 流石にあれを真正面から受け止められるほどボクは頑丈じゃない。回避して正解だった。よかったよかった。


「さっすがー。じゃあボクも、負けてられないかなっ」


「来て下さい、ハデス様っ!」


 空は、ボクの世界だ――。

 眼下のエールへ左手を向ける。手の平に浮かび上がった八芒星が巨大化していく。直径三メートルほどにまで拡大すると、それぞれの頂点に魔力が集う。


「テスタメント・エインスフレア」


 ボクだからこそ使える。ボクだからこそ扱える。八つの属性をそれぞれに宿した魔力の塊。

 魔力塊は球体となって一斉に放たれる。それぞれが独自の機動を描く魔弾がエールへと襲い掛かる。

 まあ、流石にこれなら少しは慌てたりはするでしょ。


「せい、やぁぁぁぁぁぁぁ!」


「……わーお」


 触れればそれだけでそれぞれの属性が“爆発”する魔弾なのに、エールは慌てるどころか怯みもせずむしろ叫んで魔弾を打ち返した。

 それも正確に打ち返している。エールへ辿り着いた魔弾は打ち返され、迫っていた別の魔弾に激突して相殺される。

 重そうな大剣を軽々と振り回して、四つの魔弾を処理して残り四つの魔弾を打ち消した。

 驚いた。でも、そこで油断しちゃうのがダメかなー。


「ぬっ!?」


「テスタメント・ケインド」


 布石は打っておいた。空へ逃れる直前に床に仕込んでおいた魔法を発動させる。

 エルルとして学んだ知識。床材に魔法を『封印』し、時間差で解放して発動させる。

 発動する魔法は鎖と十数本の柱の連続召喚による拘束魔法。

 今まではカードに封印していたけど、別に封印する術式さえ刻めれば媒体は何でも良い。

 鎖がエールの腕に絡みつく。床から伸びた柱が腕を足を打ち彼の身体を強引に持ち上げる。


「この、程度ぉ……っ!」


 エールが身体に力を込めると、鎖が悲鳴を上げる。いやいやまさか。この鎖はリードン火山の猛獣たちも容易く拘束した鎖なんだよ?

 それがいくら氏族の当主といえど簡単に――「ぬぅんっ!!!」――壊れたね。

 砕けていく鎖。エールを持ち上げていた柱も簡単に砕かれていく。

 何あれ。しかも身体強化の魔法もろくに使ってない。ただただ純粋な膂力だ。

 ……普通の人間じゃ辿り着けない境地だよ。あんなの。

 元々武芸に秀でる一族ってのはわかってるけど、肉体面であそこまで進化するものなのかなー。

 不思議でしょうがない。うん、ほんと。今ボクは人間の進化の秘密に触れている気がする。


 大きく距離を取りながら、闘技場に降りる。

 このまま魔法でけん制を続けてもいいんだけど、多分それじゃあエールは納得してくれない。

 彼が求めているのは、純然たるハデスそのもの。魔法だけに頼るのはハデスの戦いではない。

 エールが使うイラの武芸は、剣術が中心となる。決まった動作や礼節は必要とされてないけど、ハデスが片手剣を愛用していたからこそそのように伝わっていった。

 だから、エールに認めてもらいたいなら、エールが認めてくれるのはやはり剣技なのだろう。

 魔法剣技は得意じゃない。知識や記憶としてなら誰にも負けるつもりはないけど、ボクには圧倒的に経験が足りない。

 この身体はあくまでエルルであり召喚士(サモナー)だ。近接戦闘、ましてや剣舞などもってのほかだ。


「……やれやれ。君が氏族で最強ってのがちょっとわかったよ」


 何しろボクが派手に魔法で仕掛けているのに、彼は鍛え上げた身体で応戦しているだけだった。

 イラとしての技術でもなんでもない、ただの人間がハデスの魔法の猛攻をいとも簡単に凌いだのだ。

 純粋に凄いし、同胞を傷つけまいと手を抜いたとはいえちょっとショックだ。


「ハデス様。まさかこれで終わり、ってことはないでしょうね?」


 兜の下で彼が笑ったような気がして、ちょっとムカっときた。

 素顔を覆い隠す兜は目元と顔の中心部分にT字に隙間が空いている。

 その奥に隠された瞳まで見ることはできないけれど、確かに彼はボクを見ている。

 そうだよね。この戦いは、彼がボクを試しているんだ。彼の望んだ戦いでないと、意味が無い。


 ずっと右手で持っていた片手剣の切っ先を、エールに向ける。

 待っていたとばかりに大剣を正面で構えてくる。


「ねえエール。一ついい?」


「なんでしょうか」


「君はボクの剣でありたいがためにボクに挑んでるけど――ボクが君より剣技も上だったら、どうするの?」


「ならば盾となるだけです。幸いなことにこの肉体は盾としても活躍できるよう鍛えております」


 それは、困るなぁ。出来れば素直に剣にも盾にもなってほしくないんだけど。

 ボクを崇め、敬うのは良い。それは個人の勝手だ。

 でも、ボクのために死んでほしくは無い。その命は自身のものだ。ボクが決めていいものではない。

 ……やっぱりボクは、まだハデスになりきれてない。ハデスの記憶を完全に取り戻し、エルルとしての記憶を全て捨て去れば、きっと一つの目的のために如何なるものも犠牲に出来る神が誕生する。

 それを拒むのは、ずっとずっと大切なモノを求め続けてきたエルルの記憶だ。

 自分自身を蔑ろにしてきたエルルの成れの果てだ。

 ボクはもうハデスであるというのに、ボクを慕う者たちの思いを受け止めきれない。ボク自身が自分自身の価値をわかっていない。

 客観的に考えることは出来る。でも、理解できない。


「エール、約束をしてほしい。君がボクを認めたら……ボクのために戦っておくれ。でも、ボクのためには死なないでおくれ」


「……確約はできませんね」


「仕方ないね」


 空を飛ぶ魔力は必要ない。テュポンたちと違い、翼を持っていなかったボクは彼らからかつて捧げられた翼を顕現化させて空を飛ぶ。

 彼らから捧げられた翼は七つ。ハデスとしての翼が一つ。計四対八枚の翼。ハデスを象徴するとも言われている八枚翼。

 それらは此処からの戦いには必要ない。その分の魔力も全て、使う。


「ハイエンド・ハイブースター」


 魔力を全身に込める。身体強化の魔法だけではない。

 魔力を強引に放出して、肉体を押し出す。ボクの意思に応じて放出される魔力がボクの身体を強引に突き動かす。

 ボクは今まで出したことの無い速度で、エールに肉薄する。

 そこでようやく、エールが動揺を見せた。

 当然の如く彼も反応してくる。でも、僅かにボクのほうが速い。

 ボクの最大の武器は、知識でも技術でもなんでもなくて――純粋な魔力量だ。

 その魔力を無駄と思えるほど大量に放出して、身体を加速させる。過密した魔力はそれだけで強固な盾にもなる。

 急な加速も制動も思うがまま。同年代の少女にも劣る筋力も防御力も何もかも、魔力で補う。

 それこそがボクがハデスの記憶から得た本当の強さ。


 ボクに勝る魔力の保有者なんて、この世界には存在しない――!

戦闘書くのが最近苦手ですな……うぐぅ

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