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コミュ障エルルの召喚魔法  作者: Abel
第三章 家族の絆と向こう側のボク
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ミリアの選択




「おいユーゴ。落ち着いて座れ」


「トリスタン、だが―――」


「座れ」


「っ……!」


 私の説明――エルルがハデスとして目覚めてしまったこと、まだ“エルル”を取り戻せるかもしれないこと。

 冥界の軍勢、その代表とも言える存在。テューホーン・アワリティア。黒の力を使える彼と、そしてファフニールと融合したハムのことの説明を終える。

 ユーゴが席を立とうとしたのを、トリスタンが諌める。ユーゴの表情は焦っている。本当に、今にも飛び出してしまいそうな。

 安心する。それほどまでにエルルを想ってくれていることに。彼の恋心が本物だとよくわかる。

 私の願いを聞いて、ミリアリアが召集してくれたのは、間違いなくこの王国。ひいてはこの人の世界の中でも屈指の存在たちだ。

 『色の位階(ナンバリングカラー)』の第一位たち。八人の内、五人までもがこの場にいる。

 『銀の旅人(シルバー・ワン)』ユーゴ・マトウ。『赤の暴君(レッド・ワン)』トリスタン・イルンイラード。

 『緑の旋律(グリーン・ワン)』ローレン・オルティアナ。『紫水晶(パープル・ワン)』ウィル・クォーレン

 そして、一癖も二癖もある彼らを纏め上げる――『光の女王(シャイニング・ワン)』にして、白の力を手に入れたゼロ・ホワイト。

 現国王、ミリアリア・ハイゲイン・ウォルスタン。エルルに対してやたらと自分の地位を告げなかったのは何かしらの意図があったのだろう。

 例えば、第一位という概念で見てほしくなかったとか。


 話を逸らすのはやめよう。私たちは今、ミリアたちに助力を求めている。

 エルルを取り戻すための方法と戦力。今の私たちに足りないもの。

 私の後ろに立ったハムと、ミニマムモードで円卓の上に立つセルとリフルはミリアの言葉を待っている。


 胸の前で腕を組んだミリアは、私の説明が終わってからずっと瞳を閉じている。

 手段や方法を思案しているのだろう。手に取るようにわかる。だって、ミリアはエルルのことが大好きだから。

 でも、ユーゴと違って立場がある。いやユーゴもそれなりに重い立場であるはずなんだけど。

 そこは旅人だった経緯があるとして。


「……」


「ミリアリア、じゃない。女王陛下。どうしますか?」


 未だに口を開かないミリアに業を煮やしたのか、普段の砕けた口調はどこにいったのかローレンが言葉を投げかける。

 ミリアの瞳が開く。ユーゴを、トリスタンを、ローレンを、ウィルを。

 そして、私達を見て、口を開いた。


「トリスタン。長く王国に仕えて来た貴方に聞くわ」


「なんなりと」


「今私がここで王位を捨て、エルルのために命を使うと言ったら――貴方は怒る?」


「……いいえ。それが女王陛下の意思であるなら。先代よりこの国に仕えて来たからこそ、俺……私は王の意思を尊重します。かつて彼女に化物と手紙を送ったことも」


「そう……」


 少し意外そうな表情をして、そして目を細める。悲しげな表情から、察してしまう。

 ミリアは、エルルのために王位を継いだといっても過言ではない。二人の間の遺にはそれだけの友情があり、エルルは気付いているのかはわからないが愛情もあった。

 エルルの二つ名を、脅威が取り除かれた今、ミリアが女王を続けているのは一重に彼女以上にこの国を任せられる人材がいないからだ。

 そして、ミリアが国民を愛していることも、起因している。

 自らの政策に従ってくれる国民たちの期待を、裏切れない。


「もう一つ。第一位をどこまで一つの任務に投入したら……“宣戦布告”と思われる?」


「三人ですな。先代が決めて、かつ当時の情勢から判断されたことですが」


「そう。ありがとう」


 ミリアが立ち上がる。そして再び周囲を見て、空席にため息を吐く。

 円卓は王が座る椅子の他に八つの椅子が用意されている。

 それぞれの第一位が腰掛けるためのものだ。私はその一つに座らせてもらっている。

 空いている三つの席は、この場にいない第一位の人たちのものだ。

 茶、大地を操る。青、水を、液体を操る。黄、雷を操る。

 この国の最高権力者である女王の招集にも応えない彼らは、いったいどんな人たちなのだろう。


「クルル」


「――はい」


「“私”はいけない。私はこの国を守る使命がある。責務がある。だから――ユーゴ。貴方に頼むわ」


「応っ!!!」


「だから話終わってないんだから座ってろ童貞小僧っ!」


「あのなぁっ!!!」


 すぐに着席するも、トリスタンとユーゴはすぐに威嚇しあう。険吞な雰囲気ではあるが、お互いに実力を認めてはいる。だからこそこれ以上の争いに発展することはない。

 二人の喧嘩も他所に、ミリアが言葉を続ける。


「ウィル。貴方に頼みがあるわ」


「おや、気まぐれで参加しただけの僕にも何かあるんですか?」


 今までまったく口を挟もうとしなかったウィルが、おどけた表情で答える。

 ミリアもその態度を咎める様子はない。どこか掴み所どころが無いのがウィルという魔法使いだ。

 けれどそんな彼の態度も気にも留めず、ミリアがユーゴに目配せする。


「私の白の力をユーゴに移植するわ。そうすれば――事実上、ユーゴはエルルに迫ることが出来る。第一位を動かせない今での、最善の方法よ」


「……ふむ。で、それを僕にやれと?」


「ええ。私が見つけた白の力も貴方が発見した魔導書がもとでしょう?」


「そういえばそうですね」


 ……そうか。ミリアの白の力はあくまで後天的に手に入れたもので、私のような先天的なものではない。

 戦女神アテナの力。黒の力すら無効にしてしまう無の力。それがあれば、ハデスを無力化できる。エルルを取り戻すのにこれほど有力なものはない。


「問題がありますよ?」


「ええ。私のときは半年掛かった……そうでしょう?」


「そうです。魔法の才に恵まれ、類稀なる実力と、まるで神に愛されたかのような運を持っていた女王陛下でさえ、半年掛かったのです」


「……一ヶ月だ」


 半年、と言う言葉に口を挟もうとした私の前にユーゴが割り込んでくる。

 一ヶ月。ミリアが半年掛かった白の力の習得を、一ヶ月でやると言っている。

 現実的に考えれば絶対に不可能だ。ユーゴはミリアほど魔法に長けているわけではない。有り余るバトルセンスと直感が彼の魔法を底上げしてくれるからこそ辿り着いた銀の一位の座なのだ。それは彼のそこまで多くない魔力量も絡んでいる。

 ユーゴ・マトウはただの魔法使いではない。魔法が使える兵士だからこそ、本来通るべき過程をすっ飛ばして異例として認められた。


「無理じゃない。やるんだよ。やるしかないんだよ。一ヶ月だって待ちたくない。その間にエルルが手遅れになってしまうかもしれないのに……っ!」


 悔しそうに歯噛みするユーゴを見て、険しい表情のミリアが表情を崩した。

 諦めた、というのが正しいのかもしれない。


「……はっきり言って無茶で無謀で蛮勇よ。死ぬわよ?」


「死んでもエルルを取り返す」


「はぁ……馬鹿だとは思ってたけどここまでとはね」


 でも、心なしか口元が笑っている。


「ウィル、出来るわよね?」


「やるしかないのでしょう? 彼も諦めなさそうですし」


 やれやれとウィルが嘆息している。無理であることは重々承知、といったところだろう。


「ハム」


「はい」


「私たちも……出来ることをしよう。ユーゴの準備が整う一ヶ月の間に」


 私の言葉に、ハムもこれ以上ないほどに強く頷いてくれた。


「はい……!」

王としての責務を捨てるわけにはいかない。

ここで全てを捨てればエルルはきっと怒るから。

だから、信頼できるユーゴに全てを任せる。

それが、女王ミリアの選択だ。

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