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神に惑う 3

とりあえずこのお話は完結です。

【7月11日】

 朝。

 4通目の呪いの手紙は東野という男子の靴箱に入れられた。が、入れられた直後にカレンが回収した。

「入れるかわかんないけど月島咲子の家に行って、日記を探してみるわ」

 カレンが呪いの手紙をピリピリと破いて細かくしながら言う。

「おまえ、学校は? いいの?」

 この件が始まってからずっと他校で透明人間してるだろ。

「そんなことより早くこの件、片付けたいのよ」

 毎日こんな手紙を破く朝なんて御免よ、と言い残して学校を出て行った。


教室に戻ってきて、昨日の夜、添田水穂が突然自宅で倒れ、救急車で運ばれたと聞いた。未だに意識が戻っていないとかなんとか。


僕だって毎日早起きは嫌だ。ギリギリまで寝ていたい。

そのためには早く『神様』を処理しなきゃならない。

学校の情報は殆どコイツにあつまる、下世話な噂話のハブ空港――あるいは女子のボス――西原の元を訪れる。

「なに? また呪いの手紙の話聞きたいの?」

 西原が怪しい、という目で顔を覗き込んでくる。が、口は話したそうにしてるぞ、このお喋りめ。

「今回は違う。女子テニス部のあの、日本人形みたいな、美人いるだろ?どんな子なのかなあって」

「何?月島咲子?気になるの?」

「別に。……まあ、かわいいな、とは思う」と常套句。

「へえぇ?……それにしても積極的ねえ」

「?」

「相田くん。最近は静井さんとも仲良いし、放課後ときどき女子校のお嬢を侍らせてるらしいし、それに昨日は添田水穂に『僕が君を守って見せる』って言ったんでしょ」

 そんなこと言っただろうか。そして僕の行動がどうしてこんなに漏れているのだろうか。

「まあ、いいけど」

といって、西原が月島咲子にまつわる噂話を中学校から遡って始める。

大人しくて、かわいくて、テニスがうまくて、テニスはうまいけど、テニス部にはあまり馴染んでいないようだ、とか。

 特に収穫はなさそうな話。

「それにしても添田水穂も災難だったわね。天罰って言うくらいだから何かしたのかしら?」

「さあ。人間、一つや二つ悪いことくらいしてるだろ。

 西原もやばいんじゃないのか。その口の軽さ、いつ手紙が入ってても不思議じゃないだろ」

「まあね。怖い怖い」といいつつ、肝が据わってるというか。

「もし手紙が入ってたら、『僕が守ってくれる』ってセリフ、私もいただけるのかしら?」

「入ってたら手紙破けよ。破けば無効になるかもしれないんだろ」

「何よ、その話、私知らないけど」

 あれ?静井さんが言ってたけど。静井さんは西原から聞いたって。

「確かに静井ちゃんとは話したわよ。でも、手紙を破くなんて話はしてないし、そんな話、そもそも知らないわ」


カレンに『行先変更』のメールをして、僕は静井さんに話しかける。

「大丈夫?」

「え? 何が?」

立って話すと身長差が30センチくらいある。だから、自然と上目使いで見上げられる。

「入ってたんでしょ?7月8日に、呪いの手紙が」

 静井さんはおもしろいくらい固まって僕を見る。

「なんで? なにが?」

「9日に静井さんから、手紙を破けば呪いが無効になるかもって話、教えてもらったよね。でも静井さんに呪いの手紙の話をした西原はそんな話は知らないって言ってたよ。あの西原が、呪いの解除法が噂になってて知らないはずないよね。

 だから、きっと破けば無効って話は静井さんしか知らないんじゃないかな、と思って。

8日に呪いの手紙を貰ったのは須川さんだけじゃなくて、静井さんもだったんだね。須川さんは大袈裟に騒ぎ立てたけど、静井さんは誰にも言わず、手紙を破いた。

9日になってその須川さんには不幸が起こったけど、自分の身にはなにも起きなかった。だから手紙を破けば無効になるかも、と思って、その日に僕に話してくれたわけだ」

 それで、僕が言いたいのはここから。

「でも、まだどこかで自分の身に不幸が降りかかってくるんじゃないかって心配してるんじゃないかなって思って」

少しの沈黙の後、

「だとしたら?」

 静井さんが小さく唇を動かして言う。

「だとしたら、守ってくれるの?」


【7月11日 夜】

『話を聞かせろ。肉を奢れ』

とカレンからメールが来たので僕は家を出た。

二人で事務所に近いしゃぶしゃぶ屋に入る。

「それで?

私は突然、あんたから

『犯人は月島咲子じゃなくって反田素子だった。素子の家で日記を探してくれ』

ってメールを貰って反田素子邸に行ったわけだけど、どういうわけだったの?」

「それで、日記は見つかった?」

「見つかったわよ。その前に他人様んちに侵入する方が大変だったんだから」

 カレンから厚いノートを受け取る。

「読んでみたけど、どうやら反田素子は月島咲子に『並々ならぬ思い』を寄せてるみたいね。もう恋や信仰って言って間違いないと思うわ。そのきっかけになったのが、彼女とテニスの試合をした7月1日」

 僕は反田素子の日記の7月1日の欄を開き、斜め読む。

「で、どういうわけなの?」

「実は静井さんが8日に呪いの手紙を貰ってたんだ。だけど、騒ぎになって、更に実際に不幸な思いをした須川と違って、静井さんの身には何も起こらなかった。それは、静井さんが騒ぎ立てなかったからじゃないかって思ったんだよ。

 静井さんが手紙を貰ったことを静井さん以外――正確に言うと、手紙を入れた犯人と静井さん以外が知らなかった。だから、静井さんは呪いを免れたんじゃないかって思ってさ。

で、手紙を書いて入れてたのは、カレンが目撃したとおり月島咲子で間違いない」

「なるほど」カレンが肉をほおばりつつ言う。「私たちが追うべき犯人――つまり、実際に天罰を下す能力を持っている犯人が、月島咲子の他にいる。その犯人は手紙を貰った人が騒ぐのを聞いて、その人に手紙が渡されたことを知り、天罰を下していたってわけね」

 僕は頷く。

「3件目の添田水穂は動揺したけど、僕らが近くにいてすぐに対処できた。添田水穂が騒いだこと、添田水穂が手紙を貰ったことを知っていたのは、僕らと――」

「一緒にいた反田素子ってわけね。――すみません、肉、追加で」

カレンは僕の倍ほどの肉を既に平らげている。

『咲子ちゃんは悪い奴らを憎んでる。

どいつもこいつもクズみたいな奴ばっかりだ。

どうしてあいつらは人を馬鹿にして、他人を傷つけて、のうのうと生きていられるんだろう。

それ相応の罰を受けさせられたら――』


って、反田素子の日記に書いてあるよ。

反田素子にとっての『神様』である月島咲子が天罰を下したいと選定した相手に、本物の『神様』の力を手に入れた反田素子が天罰を下してたってわけだな」

「なるほど。真の『神様』はわかったわけだけど。

それで?どうするの? どう解決して、反田様の暴走を止めるわけ?」

「これだよ」

 反田素子の日記を指す。

「そもそも7月1日に反田素子が月島咲子に恋しなかったら、心酔しなかったら、どうだろう?」

「反田素子自身が悪い友人を成敗したいと思ってる、というよりは、正義感の強い咲子の手助けがしたいと思っているみたいだから……七夕に、反田素子が神様になることはなかったかもしれないわね」

「だろ?

そこで僕の出番だよ。

 反田の7月1日の記憶を消す」


【7月12日 夜】

事務所から帰る僕とカレン。ちょっとの現金報酬を鞄に秘めて。

「今日も女子が一人呪いの手紙を貰ったらしいよ」

「もう呪いの、じゃなくて、ただの手紙ね」

 とカレンが渇いた笑いを返す。

「でもなんか、本当なのかしら、って思っちゃう」

「何が」

「本当に、反田素子が月島咲子への恋心を忘れただけで、能力を失ったのかしらって。

もしかしたら、誰かに天罰を下したいって気持ちは反田素子自身の中に有って、呪いの手紙に基づいて天罰を下すことはなくなっただけで、天罰を下す能力自体はまだ反田素子に残ってるって可能性はないかしら?」

「つまり、反田素子が七夕以前に抱えていた問題が解決されてないんじゃないかって?」

 そう問うと、カレンが曖昧に頷く。

「まあ、無くは無いな。

――でも、いいんじゃないか、一人くらい、神様がいたって」



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