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宙に浮く

序章、完結、という感じです。


僕は「大原さん」に勧められるがまま、部屋にある椅子に座ったが、カレンは睨みを利かせたまま、椅子に座ることを拒んで立っていた。

 反抗期の中学生みたいだ、とカレンを見ながら思った。

「突然きてもらってわるいわね」

 大原さんはもうしわけなさそうな表情で、声色でいう。

「実はね、あなたたち――相田アキくんと霞野原カレンさんにぜひぜひお願いしたいことが有って来ていただいたの。ぜひあなたたちに引き受けていただきたい――あなたたちにしかできないことなの」

 そういって大原さんは大ぶりな胸の前で手を合わせる。

「ここ、大原事務所はね、私がやっている幅の広い探偵業事務所……わかりやすくいってしまえば何でも屋なの。

もともとはちゃんとした探偵事務所だったんだけどね、いまどき探偵事務所にくるお仕事なんて浮気調査かワンちゃん探しくらいなものなのよ。それじゃあつまらないじゃない?だからもっといろんなお仕事を引き受けられるように努力したの」

 相変わらず、隣のカレンは詐欺師を見るような目で大原さんを見ているが、大原さんはひるまず続ける。

「それでね、つい先日、ある方から興味深い依頼をいただいたのよ。

 なんでも、今年の七夕にね、とんでもないことが起きるっていうの」

 それまで、どこか他人事のように聞いていた僕だが、七夕、という単語に少しびくりとしてしまう。

「なんとね、七夕に願いが叶ってしまった人がいるっていうの」

「あら、七夕ってそういうイベントじゃない。何を今更」

 氷点下に冷めた声でカレンが言う。

「あら、そんなの迷信でしょ?そうじゃなくって、本当に『願いが叶って』その結果、不思議な能力を持った人がいるって言うのよ。

 それでね、その『依頼主』様に依れば、願いが叶ってしまった人たちはその能力で困ったことを――たとえばちょっとしたトラブルなんかをね、起こすかもしれないから、それを解決してほしいっていうの」

「そんな悪戯電話みたいな依頼、真に受けたわけ?」

とカレンが言うと、大原さんはにこりと微笑み、

「そりゃあ、馬鹿げた話だと思ったわ。でも依頼主様が報酬にこれだけ払うっていうから」

 そう言って机の上の電卓を見せる。数字を見てカレンも

「それじゃしかたない」

と。

「それでうちの優秀な情報班を使って調べさせたところ、あら、本当にそれっぽいトラブルが起こっているじゃないの。

これはピンチ、いやチャンスだわ。

でもね、相手は簡単に言ってしまえば超能力者なわけでしょう? 人並みに体力もない女一人に何ができるかしら」

 大原さんは「困った女」の表情を作る。

「その芝居は結構なんで、早く話してくださる?」

とカレン。

「まあまあ。

そんなわけでね、私が思うに、敵が反則技でくるならこちらも反則技を使ってしまえばいいのよ。それが道理で理屈ってものだわ」

「それで、超能力者である私たちを道具にしようって考えてここに呼んだわけね」

とカレンが言うと、大原さんは、言い方が悪いわね、とだけ言う。

「いや、ちょっと待ってください」

やっと僕の出番である。

「話は分かりましたけど、僕、超能力者とかじゃないんで」

「あら、うちの優秀な情報班によれば、アキくんは立派な超能力者よ。

だって、七夕以来、何もなかったわけでは、ないでしょ?」

僕は黙る。

「情報班に依れば、アキくんは『他人の記憶を消すことができる』のね」

他人の記憶を消す?記憶を消す……。

 僕が家族や学校のやつらから「僕が江原というクラスメートに暴行した」という記憶を消したのだとすれば?

 七夕以降の家族や友人の僕への「優しい」対応も納得できるし、にもかかわらず、江原の顔に痣が残っていた理由もわかる。

 でも、

「『消す』だけなんですか?記憶を『書き換える』んじゃなくて?」

 僕は、僕がバスケの試合に出なかった理由が『足の怪我のため』と記憶されていたことを思い返して、聞く。

「いいえ、情報班によると『消す』だけ、だそうよ。

 もし、記憶が書き換わっているように感じたんだとすれば、その他人が勝手に書き換えたんだわ。消されて空白になった記憶を前後と照らし合わせて辻褄が合うように、勝手にね」

 なるほど。


「それでカレンちゃんは」

「私は、透明人間になる能力、ってとこかしら」

 説明しようとする大原さんを遮るようにカレンが言う。

 いや、しかし。

「……なにじろじろ見てんのよ、記憶泥棒」

 いやだって、僕の目には霞野原カレンがはっきりくっきり綺麗に見えてる。

「透明人間に見せる相手を選ぶ、とか?」

「いいえ、違うわ」

大原さんが言う。

「カレンちゃんの能力は『相手の見えるものを消す』力よ。相手の視界から特定のものを見えなくするの。だから、ある人の視界からカレンちゃん自身の姿を消してしまえば、それは透明人間みたいなものね」

「それもあんたの優秀な情報班から?」

 皮肉めいた声色でカレンが問うと、大原さんは余裕たっぷりにウインクで答える。

「たしかに、相手の記憶が消せる子供と、相手の見えるものを消せる子供だなんて、道具としては使い勝手がいいでしょうけど、得体のしれないやつら相手に仕事しろだなんて。

 金ででも釣るつもりかしら?この男はほいほい釣れるかもしれないけど、あたしは遠慮したいわ」

 いやいや、僕だってそんな安い男じゃないもん。

「億、出されたら?」

「それは喜んで」

「やだわ。お金で釣ろうだなんて。

 カレンちゃんも言うとおり、将来有望なお若い二人に危険を冒してもらうんですもの。お金じゃいくら積んでも足りないわ」

 やはり芝居めいて、大原さんが言う。

「もっと高いものよ。

 考えてみて。貴方達二人がこのお仕事を断ったら、私は他の超能力を持った子たちにお手伝いしてもらうと思うの。

 そしたら貴方達は『私たちの仕事の対象』になるの」

それは、つまり、僕たちが超能力でトラブルを起こしたときに、それを大原事務所が解決しにやってくると言うことか。

「そしたらね、きっと、もしかしたら『相田アキの能力は危険だから彼から能力を奪ってしまおう』って解決策を取らざるを得ないときもあると思うの」

「そんなことできるんですか?能力を奪うなんていう」

「できるのよ。実は7年前の七夕でも同じ現象が起こっていて……その時『解決』にあたった人たちは殆どのケースで、能力者の能力を奪ってしまうことで事を解決したらしいのよ」

 そういって大原さんは机の上のピンクの段ボール箱を叩く。

 どうやらその箱の中にその7年前のいろいろの資料でも入っているということなのだろう。

「つまり、ここで大原さんからの仕事を断ると、能力を奪ってしまうぞーっていう……」

「脅しね」

 カレンがはっきりと言う。

「しかももっと悪質。

 能力なんて私は正直どーぞ、欲しけりゃくれてやるけど、能力を奪ったらそれまで私が消したものが見えてしまうかもしれない。

 つまり、七夕以前の『あの生活』に戻してやるっていう脅しなのね」




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