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星に願う

少しずつ更新していきたいです。

※以前短編小説として掲載してしまいましたが、連載に訂正いたしました。

物語の主人公は大抵いい人間だ。

友達が少ない、地味で目立たない、頭が悪い、とか、そんな欠点はあるにしても、いい人間なのだ。

だから、仲間がいて、困難を乗り越え、ヒロインに愛される。

でも僕はいい人間ではない。

友達は多い方ではなかったけれど、少なくは無かった。運動部に入っていたし。

派手ではなかったけど地味ってほどでもなかったし存在感でいえばクラスでは中の上くらいだったと思う。

勉強も運動もできるほうだった。


でも僕はいい人間ではなかったんだ。

とうとう7月1日の放課後、僕はクラスの女子の顔を3回ほど思いきり殴り倒してしまった。

おまけにすごく暴力的な言葉を彼女に浴びせた。

しかもそれが、何かを守るため、とか、そんな「殴ってもしかたない」理由からではなく、ただ、悪い人が人を殴るのと同じ理由で彼女を殴ったのだ。



彼女は腫れた顔で家に帰り、彼女の両親はどうしたのかと問う。瞬く間に僕の悪行は学校側、そして僕の両親に伝わった。

僕は家で父親に殴られ、母親は泣きわめくようにして僕を責めた。

彼女の両親からは抗議の電話がかかってきて、耳が割れるほど叱られた。

教師は最初は何故そんなことしたのだと冷静を装って聞いてきたけれど、僕がただカッとなったからと答え続けるうちに、僕を恐ろしいものを見る目で見るようになった。

僕の悪行には尾ひれがついてクラスメートやその親にも広がって行った。

醜い魚は、いつの間にか怪物になっていった。

男子は僕を避け、女子は僕を化物を見る目で見ながらも、聞こえてるように悪態をついた。


そうして家にも学校にも居場所がなくなって1週間ほどたって、7月7日を迎えた。

親が寝静まって、僕は唯一の安寧の空間である2階の自室にいた。なぜかカーテンを開けっ放しだったカーテンを閉めようと窓際に寄って行って、普通でないくらい星が綺麗であることに気が付いた。僕は誘われるように窓を開け、身を乗り出した。

本当にその日の星空は、異様だったのだ。

カレンダーを見たわけではないけれど、かっちりと光る星の粒粒を見て、ああ、そういえば今日は七夕じゃないか、と自然と思った。

七夕とは何をする行事だっただろう。願い事を言う?それは流れ星か?

願い事ってなんだろう。

 笑ってしまう。

 星にでもどうにかしてもらうしかない状況に僕はあるじゃないか。

 こんな状況をどうにかしてください?

 いやいや、どうにかって、なんだよ。

 じゃあ、そうだな、僕が願うべきなのは―――



一瞬、特大のカメラのフラッシュが焚かれたみたいに目の前が、いや、世界が真っ白に光った。

ふわっと浮遊感が有って、しかし、ずんと体重分の重力を足に感じるようになった頃には、世界は元通りの色に戻っていた。


なんだ?いまの。


窓の外を見回し、部屋の中も見回したが、特におかしなところもない。

部屋に戻ってスマホでニュースを調べてみるけれど、白い閃光に関するニュースはない。

しばらく椅子に座っていろいろ考えたけれど、だんだん眠たくなってきた。

ロクな明日が待っていないけれど、眠ってしまおう。


ベッドに入り瞼を閉じることには、僕はきっと、さっきのは唯の立ちくらみだったのだと、思い始めて、次第に、そう確信していた。

7月8日。

 目覚まし時計の音で起きた。

 目覚ましを止めて、ん?と何かひっかかったけれど、朝、目覚まし時計に起こされることの何が不思議なのだろう。

 寝癖のついた髪をてぐしで押さえつつ、1階に下りて行く。

「あら、アキ。おはよう」

 ダイニングで母にそう言われて凍りついた。


 おかしい。


母さんが上機嫌に鼻歌なんぞ歌いながらフレンチトーストを作っているぞ。

父さんはもう着替え始めていて、僕に、いつから夏休みなんだとか聞いている。

おかしすぎるのだ。

二人とも、まるで僕がクラスメイトを殴らなかったことなんて無かったかのように動き、喋り、僕に接してくる。

「アキ?どうしたのよ。顔色が悪いわ」

「いや、なんでもないよ」

 僕は出された愛情たっぷりのフレンチトーストを口に入れながら答える。

「ねえ、母さん、7月1日ってさ、なんかあったっけ?」

「7月1日?なんかってなあに?」

「いや、ちょっと思い出せないんだけど気になると言うか」

「どうだったかしら。覚えてないけど、普通の日じゃなかったかしら」

 普通の日なもんか。

「夕ご飯ってなんだった?」

「夕ご飯?さあ、何だったかしら?普通だったんじゃないかしら。ここのところ別に特別なもの作った覚えがないもの」

 僕の知っている7月1日の夕食は、無かった。それどころか、あの日から1週間、僕は母さんに食事を用意してもらってない。

「どうしたんだ。変な顔して」

と、父さんが言う。

 そうだろう。今、変な顔しなくていつするんだ変な顔。


 僕は学校に向かった。怖いというよりは、なにか夢の中を手探りで歩いているようなそんな気持ち。

「おはよ」

「うわああ」

「なんだよ、その反応。俺は化け物か」

 後ろから飯田に肩を叩かれ悲鳴のような声を上げてしまう。

 飯田は――7月1日まで仲の良かった友人だ。

「なあ、昨日って何かあった?」

「は?」

「だから、なんていうか、昨日って学校で何かあったっけ?」

「バスケ部の試合だったろ」

ああ、そうだ。それで僕は、もちろん出ないで、退部届を出しにいった。

「ありゃ酷かったよな……つうか、お前、お前のせいで負けたんだぜ」

「え?僕のせい?」

「おいおい、そうだろ。だってお前が試合に出なかったんじゃねえか」

 ここは合ってる。僕は試合に出てない。

「おまえがいないと戦力不足なんだよ」

 ……なに、僕褒められてるの?

「足の怪我だっけか?つーか大丈夫なのかよ、足」

 ここは間違ってる、僕は足の怪我をしていない。

 というか、そうだ、足を怪我しているのは薄井っていう別の部員だ。

「……まあ、大丈夫だよ。ところでさ、7月1日って何かあったっけ?」

「さっきからなんなんだよ。記憶喪失か?あれか?アリバイ確認?」

「何のアリバイだよ。ただ、気になってるだけ」

「7月1日?一週間前だろ?……あんまり思い出せないけど、そういえば数学の教師が授業中貧血で倒れたのって1日じゃなかったか?」

そうだ。でも問題は、そうか、2日の方か。

「2日は何かあったっけ?」

「なんなんだよ、ほんとそのシリーズの質問」

「いいからいいから」

「2日?あー、ぜんぜん覚えてねえ。なんもなかったんじゃねえか」

「……じゃあさ、江原さんのことなんだけど」

 その名前に凍りついたのは僕だけで、飯田は特になんともなかったように口元をにまにまさせてくる。

「なに?おまえ、江原のこと好きなわけ?」

「違うよ。江原さんと僕、実は喧嘩してるんだけど、それって、なんていうか、周りにばれてた?」

「江原とお前が?いいや、ぜんぜん。つうかお前と江原に接点があったことがまず驚きだわー。だって、江原って地味だから、お前、名前も憶えてなさそうじゃん」

 飯田の軽口に僕は肩をすくめた。


結果。

家族、飯田、のみならず、すべての人が「僕が女子を殴っっていない」かのように僕に接してきた。

不思議で、不安で、いつこの夢が覚めるのではないかと緊張していた。けれども一方で、そんな「いい人間」に戻った一日を楽しんでしまった。

やっぱり僕はいい人間ではない。

でもこうしているうちに、本当は僕が女子生徒を殴っただなんてことは無かったんじゃないかと、僕自身が思えてきてしまったいた。

でもそんなはずはない。

僕の殴った女子――江原の頬には、昨日と同じように「僕の作った」あざがあった。

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