表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ラッセルカ

作者: そらみみ

ラッセルカはおんなのこ

長い黒髪

金の瞳


ラッセルカはひとりが好き

部屋の中で

本さえあれば


ひとりで生きていける

誰ともはなさず

誰とも会わず

悩むことも 傷つくこともなく



ラッセルカのおうちは森の中

小鳥のさえずり

川の音


全部が完結しているようで

まったくもって

なにかが欠けてるようで


今日は森をおさんぽ

そして出会った

見知らぬだれか


これから始まる

そんなおはなし


------------------------------


ラッセルカはひとりが好きです

誰かと会うなんて事は週に一度

作ったレースを村の生地屋さんにかってもらい

新しい材料や食べ物を買うために森を出るときくらいです

昔は生地屋さんもいろいろ話しかけてくれた気もするのですが

ラッセルカがあんまり無口なもので今ではもう話しかけてはくれません

始終そんな感じですから

ラッセルカには親しい友達がいません

でも

今までずっと そうでしたから

それがラッセルカの普通でした


ラッセルカはおさんぽが好きです

本で読んだことを 頭の中でぐるぐる考えながら

鳥の声や 水の音

ちょっと涼しい風の中を

歩いていくことが好きでした


それが全てでした

そこにいるようで

まるでいないような

そんな毎日でした


今日もラッセルカはひとりで森を歩いています

さっきまで読んでいた本のことを考え考え

頭の中の世界でひとりで遊んでいました

あまりに頭の中の世界に浸っていましたから

その人とぶつかるまでまったく気がつきませんでした


「?」


なにが起きたのか しばらく把握できません

相手の人も驚いているようです


「君はいったいいつからそこにいたの?」


少年から青年へとうつろっていく年頃でしょうか

おどおどした態度が 幼さをいっそう際だたせる

色白の青年でした


「・・・」


突然の事と はじめて見る人

ラッセルカは言葉がでません


「ごめんなさい 君がいるのにきづかなかったんだ

 まるで突然 森の中から現れたみたいだったんだ」


青年はしどろもどろになりながら 謝ります

ラッセルカもようやく言葉がでてきます


「おさんぽをしていたの」


やっとそれだけ言えました

でも

その後に なんと言っていいのかまるで言葉が浮かんできません

何も言えずに黙っていると


「怒っているのかい?」


青年がおずおずと聞いてきました

青年も おしゃべりは 決して得意ではないようです

何処か遠くを見るような まるで直接話しかけるのは いけないことだと

そう思っているような話し方です

それでもラッセルカが困ってだまっていると

青年もまた 黙ってしまいました


そして青年は そのままなんだか 怒られたような

そしてちょっと寂しそうな そんな顔をして

歩いていってしまいました


なんだかラッセルカは 悪いことをしたような気がしました

今までもそうでした

誰とでもそうでした

ほんのちょっと この居心地の悪い感情

ラッセルカはまた 考えるのをやめて

頭の中の世界に 沈んでいきました


次の日

今日もラッセルカはおさんぽをしています

昨日 あの青年とぶつかったあたりにさしかかります


「あ」


昨日の青年がいました

なんだか ラッセルカに 気づいているのに

わざと知らんぷりをしているような そんな風に

朽ちて 折れてしまった木の幹に座っています


昨日感じた あの ちょっといたたまれないような感情が

またラッセルカに生まれます

そのまま気づかないふりで 通り過ぎようとラッセルカが思っていると


「昨日はぶつかってしまって 驚かせてしまって ごめんなさい

 まだ 怒っているだろうか?」


なんだか へんな話し方で 青年が声をかけてきました

ラッセルカは 別に怒ってなんかいませんでした

ただちょっと 突然だったので どうしていいかわからなかっただけでした


「僕 人と話すことが 苦手なんだ はじめてのひとが 怖いんだ

 それで 昨日は ちゃんと謝れず逃げてしまった ごめんなさい」


なんだか青年は謝ってばかりです

ラッセルカは困ってしまいました 怒ってなんかいませんし

なにより 自分の方が いけないことをしたと そう思っていたからです


ラッセルカはゆっくりと 考え考え やっと


「怒ってなんか いないわ」


それだけ言いました

なんだか たどたどしくはありますが お互いに はじめて 会話しました


「本当に 怒ってないのかい?今僕は 変なことを言ってはいないかい?」


青年はやっぱり 昨日と同じ なんだか遠くを見ているようにきょろきょろしながら

話していましたが なんだかちょっと 嬉しそうでした


「いいえ 変なことは言っていないわ それに本当に怒ってなんかいないわ

 私こそごめんなさい 私も人と話すって事に 慣れてないの」


ラッセルカも 自分の無口が 相手を怒らせてしまうことがありましたので

なんだか この ゆっくりな 手探りな会話が すこし 楽しくもありました


「僕はターマイロ もしよければ 本当に もしよければ 貴方の名前を教えてもらえないだろうか?」


ラッセルカは初めて相手の名前 自分の名前というものを 意識しました

そうです 他者が存在しないのに 今まで名前なんてものに なんの意味があったでしょう

自分はラッセルカ それさえも あまり重要ではなかったのです


「私は ラッセルカ」


なんだか 久しぶりに 自分はラッセルカだと そう思いました


「はじめまして ラッセルカ ああ はじめましてじゃないか ラッセルカ こんにちわ」


おどおどと 半ば逃げそうになりながらも ターマイロは一生懸命 話しています


「貴方が突然森の中から現れて そしてあまりに消え入りそうだったから

 森の精霊にでも 会ったんじゃないかって 昨日あの後 ずっと考えてたんだ」


そして少し恥ずかしそうに


「・・・それにあんまりその瞳が綺麗だったから ますます精霊だったのかなって

 その・・・ 今日は確かめに来たんだ」


ラッセルカの瞳は金色でした 夕方の 森の木々から漏れてくるような

やさしい金色でした


「私は精霊じゃないわ この森でひとりで暮らしているの」


ターマイロが言います


「こんな森の奥で一人で?寂しくはないの?」


ラッセルカはまた困ってしまいました

寂しいって何だろう?今までずっとひとりでした

本さえあればよかったし 本だけが全てでした

それで 聞いてみました


「寂しい?寂しいってどういう事かしら?私は今までずっとひとり

 これっておかしいことなのかしら」


ターマイロも考え考え


「おかしいって事はないけれど・・・ どうなんだろう?そう言われると僕もよくわからなくなってくるね

 でも僕はひとりでいると 寂しいって感じちゃうんだ」


そしてターマイロは いろいろ考えすぎてしまって 他人と話すのが怖いこと

だから親しい友達が誰もいないこと 寂しい 一緒の物を観て 一緒の感想を持ちたいことなどをラッセルカに話して聞かせました


ラッセルカはこんなに他人と会話をしたのは初めてでした

ターマイロはラッセルカが何も言わなくても不機嫌になりません

そのかわり 始終ラッセルカが怒ってないかどうか確かめますが 真剣にラッセルカに話しかけます

いろいろなターマイロの思いをを聞いているうちに ラッセルカはまるで 本を読んでいるみたい とそう思いました


「ターマイロ 貴方の中にはいろいろな物語がつまっているのね 私ね 今ね 楽しいわ」


ターマイロはびっくりした顔をして そして嬉しそうに言いました


「僕の話が楽しい?本当に? 初めて言われたよそんなこと」


そしてそれからしばらくの間 ターマイロは自分が考えていることをいろいろラッセルカに話して聞かせました

その間 ラッセルカが口を開くことはありませんでしたが とてもラッセルカも ターマイロも楽しそうでした


「それじゃ 僕 もう帰らなきゃ」


気がつくとあたりは薄闇に包まれています

ラッセルカの心に なにか おかしな感情が生まれます

ただ単に悲しいわけじゃなく なんだかわからない気持ちです

でも

こんな時 なんと言えばいいのかわからないので やっぱりラッセルカは黙っていました


「また 会いに来てもいいだろうか?」


ターマイロの言葉を聞いたときも なんだかわからなくなってしまって ただ コクンと うなずくだけでした


次の日もラッセルカの日常は変わりません

本を読むことと おさんぽ それだけです

ただ おさんぽの途中で ターマイロが座っていた朽ちた木の幹で 本を読む

そんなちょっとした変化はありましたが


幾日かが過ぎていきました

ターマイロはやってきません

ラッセルカは今までのように 考えるのをやめようかと思いましたが

何故でしょうか やめようやめようと思いながら ターマイロの事を考えてしまうのです

自分にいろいろ話をしてくれた ターマイロの一言一言が思い出せます

なにかが足りないと 思いました

それまで 感じていた森と 今のこの森 一緒のはずなのに

川の音や 鳥の声

あの人にはどんな風に聞こえるのだろう

そして

あの人には 私はどんな風に見えるのだろう

その答えはこの森のどこにもありません

答えを持っているのは ターマイロだけです


今のこの森は いえ ラッセルカ自分自身は 欠けています

ラッセルカはそう 感じてしまいました


「寂しい」


声に出して言ってみました


「寂しい」


ラッセルカは 寂しくなってしまいました


こんな事ならば


今まで通りに


ひとりがよかったとか


そんなことを考えていましたが すこしばかりこの孤独は 気持ちよくもありました


夜に泣きました 何故いままで こんなひとりの夜を 過ごせてきたのでしょう


朝がきました 森のいろんなことが そこにありました

ラッセルカははじめて せかいの存在感を感じました


世界は 森は やさしく そして つめたく ただ 存在していました

自分だけが 全てではありませんでした


朽ちた木の幹を目指しました


川の音や 鳥の声 木漏れ日や 風の音 流れる雲や 陽の光


それら全てが ラッセルカに 突き放す冷たさと 包み込む暖かさ


両方をいっぺんに くれました


「ひさしぶり」


ターマイロが座っていました 嬉しい気持ちが あふれます


そしてまた いろいろ話しました


初めて出会った日 ターマイロはこの世界から消えようと 森にいたことや


ただ 誰かに 会いたいって事や ほんのちょっと 認めてもらえること


それだけで 生きていこうと がんばれること


そんないろいろなことを   話しました


「また がんばろうって そう思って やり直せることに向き合って

 君に会いに来たんだ」


ラッセルカはターマイロとの ターマイロはラッセルカとの そして二人とも森や 世界との


繋がりを感じました


-------------------------------------------



今日もラッセルカは本を読んでいます


「おさんぽしよう」


ターマイロが手を差し伸べます


「おさんぽしましょう」


読んでいた本を置き 笑顔を向け ラッセルカがその手をとります


森はもう 欠けてはいませんでした







 













習作なので何か感想をいただけると幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 自分は童話などはあまり読んだことがないのですが 素直に面白いと感じました。 少ない文字数なのに内容がしっかりと 組み込まれててとても良かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ