第二話
佳達兄妹と、律斗の出会いは9年前の春。
当時、凌8歳、佳4歳だった。
この頃から佳の世話をするのは凌の役目だった。
「けいー、お昼ご飯なにたべたいー?」
冷蔵庫を覗きながら問うその姿は小さな主夫である。
「ぱん、たべたーい」
床でお絵描きをしながら返事をする佳。
「よし、じゃあ今日は晴れてるし庭でたべようか」
「やったー!ピクニック!ピクニック!」
「あ、野菜ないないから、かいものいこう」
「いくー!りょうにぃ、ぎゅうにゅうもかってね」
こうして、2人は手を繋いで近くの商店街にむかった。
「あらあら、凌ちゃんに佳ちゃん!今日はこのトマト!安いわよ〜。どう?」
2人が行きつけの八百屋に行くと、恰幅の良いおばさんが出てきた。
「うーん、じゃあトマト3つと…アスパラ2束ください!」
「はいよ、いつもありがとね!これ、おまけよ♪」
そういっておばさんが付けてくれたのは新鮮な春キャベツ。この頃からすでに人気者の兄妹である。
「ありがとう、おばちゃん!」
「ありがとー!」
天使の様な兄妹ににっこり微笑みかけられれば、鼻血を出しそうになるおばさんだった。
こうして、無駄に笑顔を振りまきながら商店街を後にした。
「おなかすいたねぇ、りょうにぃ」
繋いだ手をぶんぶんと振り回しながら佳が凌を引っ張る。
「家に帰ったらすぐにたべれるよ」
あと一つ角を曲がると家が見えると言う時、繋いだ手をほどき、佳がまっすぐに走り出した。
「ちょ、ちょっとけい!あぶないってー!」
あわてて佳を追う。
佳が立ち止まった。
「いきなりはしったりしてー、いったいどうし…た…」
佳の目の前を確認した凌は思わず立ちすくんだ。
少年が塀にもたれかかる様にして座り込んでいた。顔や足に見えるのは赤黒い痣。
「おにーちゃん、けがしてるのー?」
佳が少年の前に屈む。少年からはなんの反応もない。
凌は佳の声で我に返り、少年にかけよる。
「おーい!大丈夫!?」
耳元で怒鳴り、肩を叩く。
「…っう…」
少年が顔をしかめ、うなった。しかし、眼を開ける気配は一向にない。
「ど、どうしよう…」
流石に凌はパニックになっていて、どうすればいいの分からなかった。
「りょうにぃ、いえにつれてかえったら?いえにはばんそうこうあるよ」
状況の危機感がいまいち分かっていない佳の一言だったが、凌にとっては渡りに船だった。
「そうだね、家に連れてこうか」
凌は少年を背負い、佳は買い物を抱え、家に帰った──