第十八話
「うらあぁっ!!今日こそっ!!」
「 最強 は、俺たちのもんだぁ!」
「お前らみたいなガキに渡さねぇ!」
「やられっかよ!」
「宵ぃ、後ろは任せてねぇ」
「こっちはもうすぐ片付くぞー」
宵たちはまだ中学に入ったばかりだった。
小さい頃から家に居場所なんかなかった宵が自分の居場所をつくるために、たった二人の友人で理解者の捺と洸河を巻き込んで創ったのが、『クロウ』だ。
最初こそ宵も街の全ての不良たちと同じように、男の夢である最強の座を目指し、負けては勝って、勝っては負けてを繰り返していた。
勝てば、宵が幼くても認めてくれた。宵はそれが純粋にうれしかった。
なのに・・・
天賦の才か、努力の結果か、宵達はみるみる成果をあげ、そんな宵達に惹かれた者が集まりクロウはだんだんと大きくなっていた。
その頃になると、宵は貪欲に勝つ事を求めていた。まるで、勝つことが自分の存在意義であるかのように。
喧嘩の仕方も、相手を徹底的に潰すような残忍なものになっていた。
学校などもちろん行かず、喧嘩に明け暮れる日々。
総長がそんなだったため、クロウは荒れに荒れた。捺や洸河がいくら止めようとしても、限度がある。
クロウの存亡自体が危なくなり始めたとき、宵は律斗と闘った。
結果は、宵の惨敗。手も足もでなかった。格が違いすぎたのだ。
「絶対、勝つ…」
地面に倒れた宵は、負けてもなお立ち上がろうとした。
律斗はそんな宵を再び蹴り倒して胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「なんで、そんなに勝ちにこだわる?」
「どうしてって、んなの決まってるだろ!『最強』になるためだ」
宵は顔をしかめながらも律斗を睨みつけた。
「チームが、自分が勝って最強になったらそれで満足か?本当、反吐が出る。
俺は『最強』を目指してるわけじゃねぇ。
けど、チームの仲間を顧みることもできないようなやつに、俺は負けたりしない」
宵は言い返そうとして・・・何も言えなかった。
チームがまだ小さい頃は、クロウは宵にとっての家族だった。騒いで笑って、誰かがしょーもない事をしたら叱る人がいて…
それが今はどうだろう。皆が取り憑かれたように喧嘩だけをして、笑いあう事なんてもう長い間していないように思う。宵が大切に想っていたはずの家族の姿はもうどこにも無くなっていた。
「お前は一生『最強』になんかなれねぇよ」
おっそろしい顔でそう言い放つと、すたすたと去って行った。
後に残されたのは倒れたまま呆然とする宵と捺、洸河、クロウの仲間達だった。
「宵ぃ、今の気持ちはぁ?」
宵の横にしゃがみ込んだ洸河が軽く訊ねた。
「…悔しい…っ!!」
腕を交差させて顔を隠した宵から震える声が零れる。
「悔しいのは負けたことか?それとも、勝てねぇって言われたことか?」
捺も洸河の逆にしゃがみ込みながら聞いた。
「それだけじゃない…っ。勝てば勝つほど大切な家族が増えるのがすっげぇ嬉しくて、だから…負けて皆が離れるのが怖かったんだ。だから強い俺でいたかった。
でも俺、自分の居場所を、ようやく手に入れた家族を自分の手で壊そうとしてたんだって、いつの間にか大切にしなきゃいけないものを間違えてたんだって、今さら気づいて…っ!そんなことにも気づけなかった自分が情けなくて…悔しい…っ」
絞り出すように言葉を吐き出した宵のこめかみには透明の雫が伝っている。
「勝ったって負けたって、俺らクロウの人間はずっと付いていく。だって宵は、クロウの総長だろ?」
「家族はさぁ、そんな簡単に離れるもんじゃないよぉ?
あいつらが宵の家族になったのは宵が強いからだけじゃないんだよー。あいつら全員、もちろん俺と捺もねぇ、宵が好きだからさぁ。宵が俺らを捨てないかぎりずーっと家族だからねぇ?」
「…っ!ごめ、本当に…ごめん」
「宵は、これからどうしていきたい」
捺がいつものふざけた声色を消して訊ねる。
「俺…は、俺は、もっともっと強くなりたい!『勝ち』じゃなくて、皆がただいまって言って帰ってくる家を守れる『強さ』が欲しい!」
捺と洸河は顔を見合わせ笑った。
「宵ならそう言ってくれるって思ってたよぉ」
「それでこそ宵だな。もっかい、始めようぜ?最初っからさ」
宵は腕をはずし上体を起こした。そんな宵に向かって捺と洸河が手をひっぱり立ち上がらせた。
「・・・ありがとう」
俯いたままの口からこぼれたその言葉に、ありったけの想いを込めた。
「それはあいつらに言ってやってねぇ?ずっと、宵のこと待ってたんだよぉ」
洸河に頭をぐしゃぐしゃなでられながら促された方を向くと、ずっと宵達を見守っていたクロウの仲間、いや宵の家族が大泣きしながら駆け寄ってきた。
「おぐぉぉっ」
「ぞーぢょ〜〜っ!!(総長〜〜っ!!)」
「おでらいっじょーづいでいぎまずっっ(俺ら一生ついていきます)!!」
「・・・ひとつ、言っていいか?」
「なんでずが〜(なんですか〜)」
「な”んなりど(なんなりと)」
宵は一人一人の顔をみて、言った。
「・・・お前らの泣き方、汚い」
「!!??」
「酷い!自分が美形だからって!」
このあとも聞くに耐えない泣き声が響いていたのは言うまでもない。




