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第十五話

「くっそ、どこいった!?」


十字路で不良達は立ち止まった。


「左からから声がするぞ!」


「あっちは…空き倉庫だ!」

「よし、いくぞっ!」


少し高めの声に教えられ、わらわらと走り出す。


そして、倉庫に着いた。


「ほーら、皆いい子だから出ておいでー」

「今出てきたら痛い思いしなくてすむよー、たぶん」

「ぎゃははっ、たぶんかよ」


「ほぉら、怖がらせないよぉ?ひーめぇ、いずれ見つかっちゃうでしょ?」


がたんがたんと、決して広くはない倉庫に積まれた段ボールの山を崩しながら探し回る不良達。その後ろで、洸河は相変わらず笑っていた。


「てかぁ、俺らってそんなに我慢強くないんだよねぇ。痛い目みたくないなら早く出てきてよぉ?」


ワントーン下がった洸河の声。不良達が震え上がった。


その時、


パンッ!!


鋭い音が天井から響いた。


「え?」


全員が音のした方を見上げる。ぽかんと口をあけ、間抜け面をさらす不良達に向かって大量の白い粉が降ってきた。


突然のことに反応できず多くの者がその白い粉を飲み込んだ。最初こそ運良く飲み込まなかった者も、呼吸をするたびに粉を吸い込みむせている。

絶え間無く降り注がれる粉のせいで眼を開けることも難しい。


「ぐ、げぇぇっ…」

「うあぁ、眼ぇ入った…いっでぇぇ」

「ぉえぇぇっ」

「な、なんだよこれっ!!」


「なにって…ここがなんの工場だったか知らないの?製粉工場だったんだよ。小麦粉に決まってるでしょ」


二階から佳のよく通る綺麗な声が響く。二階にたっていたのは粉を吸い込まないように口を布で覆った佳。


「そこにいたんだぁ。他の子は…いないみたいだねぇ。まぁいいけど。


そんなとこにいないでさぁ、降りといでよぉ」


とっさに顔を隠して粉を吸い込まなかった洸河が佳の姿をみとめてニヤリと笑う。


「言われなくても」


は、と不敵笑うと佳は手すりをひょいと飛び越えた。

すとん、と軽く降り立った佳の足元で、佳がばら撒いた小麦粉が羽のように舞った。


「よく逃げなかったねぇ?こっちで残ってるのは…12人かぁ。お前ら、手加減しなくていいからねぇ?」


洸河がすうっ、と眼を細め許可をだした。


「うっしゃあぁ!!」

「同志の仇ぃっ!」

「うおりゃあああぁっ」


雄叫びもそこそこに佳に襲いかかる。


「何人掛かってきたって…負けないっ!」


佳はまず一番近くのやつの腕ををかわし、相手の肩に肘鉄を落とす。2人同時に殴りかかってきたら、2人の頭を支えに飛び越え膝蹴りを食らわせる。


「こんのぉ…っ!」


いきり立った不良達に囲まれてしまった。それでも佳は慌てず、とりあえず一人を蹴り倒す。その直後、倒れていた一人に足首を掴まれ、ぐらりと佳の身体が傾いてしまった。


「おわったなっ!」


ここぞとばかりに佳に向かって拳を振り上げる数少なくなった不良達。しかし、佳は自分の足を掴んでいる手を振りほどき、地面に着いた手で体を支えてそこから蹴りを繰り出した。

その蹴りは的確に不良達の急所にあたり、不良達は棒のようにパタリと倒れてしまった。


「残念。終わったのはそっちだったね?」


不遜に笑う佳は、到底中学生とは思えない。


ピュー、と口笛を鳴らし、洸河が佳に近づいた。


「やっぱりねぇ、思った通りだ。全員で掛かってもだめだったかぁ。


でも、ま。俺が残ってるからぁ、相手、してねぇ?」


ひゅ、と風を切る音と共に振り下ろされた洸河の腕をガードする佳。


激しい攻防が続いた。


2人の動きに合わせて粉が舞う。流れるようなその動きは、舞う粉もあいまって、一つの完成された芸術作品を見ている様だった。



「ねぇ、姫ぇ。このまま続けてもいいんだけどぉ、っと。俺も忙しいからさぁ早く終わらせようよぉ?」


「終わらせたいんならっ、避けないでよ。て言うか、さっきから言ってる姫ってなんなの」


「あれ?姫、自分の噂知らないんだぁ?


誰とも群れず、馴れ合わず、頂点に立つ孤高の狼が全てをかけて守るこの世のものとは思えないほどの美貌を持った寵姫ちょうき…通称 『 姫 』


どっからどう考えても、君のことだよねぇ? 荒槻 佳ちゃん?」




《ねぇ、姫ってなんのこと?》


《佳の事じゃねぇから》


ついこの間律斗と交わした言葉が頭の中で反響した。




「…それは、私じゃない」



不意に佳の動きが止まった。その表情は、泣いているような自嘲しているような全てを悟ったような、13歳の少女には似合わないものだった。

洸河は寸止めする事ができず勢いはそのまま、動かない佳の首に手刀を落としてしまった。

がくん、と力を失い崩れ落ちる佳。


「んー?姫はこの子で間違いないはずなんだけどなぁ…」


洸河は崩れ落ちた佳を支えながら頭を搔いた。




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