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第十四話

降りた沈黙。


「なにがあったの?」


背の高い依月の影になって女の人が見えなかった有穂が尋ねる。もうすでに律斗と女の人は見えなくなっていた。


「…あー、なんていうかさ。これは結構きついね」


どこか他人事のように言う佳。口角は上がっているのに、目はみていられないほどの哀しみに塗られていた。


「佳…」


「リツだって、高校生だもんね。彼女くらいいるよね」


その現場を直接みた依月はもちろん、佳のこの言葉で全てを悟った有穂でさえも、かける言葉を見つけることができなかった。佳がどれだけ律斗の事が好きか、近くでみていただけに、無責任な慰めなどできるわけがない。


「『姫』みーっけたぁ」


間延びした声が、気まずい静けさを破った。


「な、なに…?」


わらわらと出てくるのは青やらオレンジやら…カラフルな頭のいかにもな不良達。


そんな人種に関わる事のなかった有穂と依月があからさまにおびえた。


「初めまして〜、『クロウ』の洸河こうがでぇす!

うっわぁ!これはこれは…写真なんかよりももっとカワイイねぇ」


いかにも盗撮のような佳の写真を見せながら近づくやたらと顔の良い白い髪の男、洸河こうが。人懐っこそうな顔とゆる〜い喋り方が佳達の不安を煽る。


「…『クロウ』が、なんの用ですか?」


依月が警戒心剥き出しで洸河を睨む。


「んー?良いねぇ、その目ぇ。隣の子も…カッワイイー。

よいには『姫』連れて来いってしか言われてないけどぉ

…これってさぁ、皆連れていくしかないよねぇ?据え膳食わぬはーって、ねぇ?」


笑う洸河こうがのこの言葉に有穂と依月が一瞬にして青くなり、依月も青くなりながら有穂を支える。佳は殺気だち、さりげなく有穂と依月を庇うようにしてたった。


「『クロウ』ってんなら、この2人は関係ないでしょ」


「へぇ?捕まるのは私だけでいいじゃない、ってぇ?意外と男前なんだぁ?いいねぇ…


でもさぁ、後ろみてみなよぉ。逃げらんなくなぁい?」


有穂と依月が後ろを振り向くと、いつの間にか後ろにも不良達が集まって、佳達は囲まれていた。至近距離で洸河こうがが勝ち誇ったように笑う。

しかし、佳は言われる前に囲まれている事に気づいたようで、洸河を見据えたまま鼻で一笑した。


「私、こんなんで捕まってあげたりしないから」


「ふーん。君みたいな子、嫌いじゃないんだけどぉ…

さらわれるお姫さまはおとなしくしてないと、ねぇ!」


へらへら顔のまま、洸河が佳に向かって一歩踏み出し、佳の腕を掴んだ。

…と、次の瞬間、身体が傾いたのは佳の腕を掴んだはずの洸河だった。


「2人とも!カバン捨てて走って!」


洸河を転ばすが早いか佳は有穂と依月の手をとり走り出した。後ろを囲っていた男たちを足で散らしながら。


不良達が呆然とする中、あっと言う間に包囲を抜けた三人。



「早く追え」


起き上がり笑顔の消えた洸河の、地を這うような低い声が不良達を動かした。


「「「は、はいいぃぃぃっっ!!」」」



洸河の右腕でクロウの幹部、オレンジ頭のやすは、佳に対して恐れおののいていた。

いくら佳のか弱そうな見た目に油断していたとはいえ、大派閥のグループで副総長の位置に着く洸河を倒したのだ。


「...洸河さん、大丈夫っすか?」


「うーん、まぁ大丈夫…かなぁ?でもさぁ、やすぅ、姫が俺になにしたか見えたぁ?」


「足引っ掛けた、ように見えたっすけど」


「『姫』さぁ、俺の鳩尾狙って蹴りいれてきたんだよねぇ…。ギリ防げたけどぉ、もう片方の足に気ぃとられたってわけ」


康はさぁ、と血の気がひいていくのが分かった。康だってクロウの幹部をしているだけあって,動体視力は良い方だ。


「まさかそんな…見切れない早さで蹴りいれたってことっすよね…」


「おもしろくなりそーだねぇ?」


洸河の声は前と変わらず楽しそうなのに、眼はまるで飢えた獣が餌を見つけたかのような獰猛さを宿していた。






野太い怒鳴り声と走る音が聞こえて、佳と手を繋いでいる2人の手に力が入るのがわかった。


「道分かるよね。絶対に、止まらないで」


佳はそう言うと、唐突に2人から手を放し踵を返した。


「え!?け、佳!」


2人が後ろを振り返ったとき、すでに佳の姿は見えなくたっていた。


「佳!」

「ちょ、依月!だめ!」


思わず佳を追おうとした依月を有穂が慌てて止める。


「でも、佳…っ」

「凌先輩呼びに行こう」

「…うん」


なにもできない自分達の無力さに歯がゆく思いながら2人は道を急いだ。



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