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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
敵は暴力を誘う悲しき恋心
8/31

彼女でもライバルでもないんですけど

少し短いです

 翌日、あたしは睡眠不足のまま学校に向かった。


「おはよーございます……」


 教室に入ると、進藤はまたすでにいた。眠気眼のあたしを一瞥し、眉を顰める。


「何だ、田原。夜更かしか?」

「はい、読み始めたら止まらなくて……」


 言い訳しながら、かばんから借りた本を取り出す。それを進藤に差し出した。


「ありがとうございました」

「もう読んだのか?」

「読めるかどうか自信なかったんですけど、意外に読めました。時間はかかったけど」


 すると、進藤が言葉を濁した。


「まぁ……中学生対象の本だからな」


 ち、中坊向きかよっ! 






 これ読めなきゃ、あたし中坊に負けたってことになるじゃん! 

 何とか中学生にはギリギリ勝てた(?)小町です。


 前回から、遅い補習の最中。意外に面白い日本史に、俄然興味が出てきたところです。


 席に着くと、同じく椅子に座った進藤に本の感想を訊かれたので、思ったままのことを口にした。


「身分が低い人なのに努力して偉い人になったのはすごいけど、率直に言えばエロい猿みたいなオッサンって感じですかね」

「ほう……。何故だ?」

「だって奥さんいるのに、すっごい年下の姫とか未亡人とかとヤリまくってたんでしょ。浮気しまくりで、ムカつく」

「あー……秀吉は当初は子供がいなかったし、若いほうが妊娠する確率も高いし……。あの時代は一夫多妻制だからそういうのが普通で、側室も妻に変わりないからな。だから別に、浮気というわけでは……」


 何だか男の言い訳に聞こえる。ハーレム? 何それ。女、なめんな!


「じゃあ先生も若い子が好きなんですか?」

「俺は別に」

「性別が女なら誰でもいい、と?」

「そうは言ってねぇだろ。それより女子高生が『ヤリまくり』とか言うな」

「ぶー」

「ぶー、じゃねぇ」


 ごめんなさいね。精神年齢、女子高生じゃないもんで。


「そもそもこの本には、側室云々なんて書いてないはずだが?」

「兄が言ってました。『小町はこういう男と関わっちゃ駄目だ』って」

「……そうか」


 昨日、力説してたよ。「いくら金や権力があっても、女好きな男はお兄ちゃん認めません!」だって。

 兄貴に言われるまでもなく、そんな男お断りだから。浮気男、滅亡しろ!


 今日も昨日と同じように、進藤が偉人の話をしてくれた。日本史って意外に面白いじゃん、なんて思う自分がいる。

 授業もこういうのだったら、あたしは勉強嫌いにならなかったのに。あたしが馬鹿なのは日本の教育制度のせいだな、うん。


 なんやかんやで補習終了。昨日のプリントを提出し、今日の分を受け取る。

 進藤の話は面白いけど、こういうプリントは面白みがなくていかんね。詰め込み式、反対。


「補習は明日までだから、もう少し我慢しろよ」

「こういう補習なら、むしろ受けてもいいんですけど」


 進藤はフッと笑った。大方調子のいいやつ、とでも思っているんだろう。


「いい進歩だ。この調子で、授業中も俺の話に耳を傾けてくれたら言うことなしなんだが」

「そりゃ無理ってもんでしょう」

「自信満々に言うな」


 だって事実だし。授業は寝るもの。これ、常識。


 口を尖らせて若干拗ねていると、教室に電子音が鳴り響く。もちろん、あたしのではない。


「あ、先生いけないんだ。校内で携帯は……」

「悪い。見なかったことにしてくれ」


 ばつが悪い表情を浮かべながら、携帯電話を取り出す。画面を見た瞬間、進藤の表情が強張る。


 ん? 何だろう……。


 進藤は何やら操作し、曇り顔のままそれをしまった。


「田原……」

「はい」

「お前、この後暇か?」

「暇ですけど」

「ちょっと付き合ってくれないか」

「……はい?」

 






 制服姿のまま進藤に連れられてきたのは、学校の裏にある公園だった。

 その中央にある噴水の前のベンチに、何もせずにただ座っている。進藤はあたしの横に立ち、無言で微動だにしない。


 なんじゃ、この光景。あたしはなぜ、こんなところにチャラ男と二人……。


 座っているだけでも、体力は少しずつ奪われていく。汗もダラダラ流れ、べたついた肌や服が不快指数を上昇させる。

 そりゃそうだ。だってここ、日向だもん。直射日光ガンガン当たるもん。真夏の太陽、あんたマジ無敵。


 蝉はミンミンうるさいから無駄にイライラするし、噴水があっても水は太陽光のせいでもはやお湯状態だから、涼しさの欠片もない。

 それに肌はピリピリするし。日焼け止めは塗ってるけど、確実に日焼けする。メラニン、イヤ。だって程よく美少女だもん。しみそばかす、駄目。


「先生」

「…………」

「先生!」

「……何だ?」

「誰か待つならそれでもいいんですけど、せめて日陰にしませんか? 熱中症になります」

「……ああ、悪い」


 反応がイマイチだな。さっきまでの華麗なるツッコミはどこへ行った?


 無事日陰へ移ってその場にしゃがみ込み(ベンチがないもので)、あたしは借りた本を読む。


 今日は織田信長。読めば読むほど変態保険医とカブってしょうがない。

 ……いや、織田さんに失礼かも。織田さんは変態でもヤンデレでもなさそうだし。

 すみません、織田さん。あんな変態とあなたを一緒にしてしまって。平に謝ります。


 読み始めて少しすると、一人の女性がこちらに近づいてきた。進藤を見上げると、その表情はどこかつらそうだった。

 女性は進藤に視線を留めると、話しかけてきた。


「進藤くん、久しぶりね」

「……ああ」


 誰だ、この人。進藤の彼女か? 

 チャラ男の彼女だからてっきり派手~な感じの人かと思ったけど、全くそうではなかった。どっちかって言うと清楚なお嬢様系。白いワンピースが似合いそう。


「ごめんね。急に呼び出したりして」

「いや。……それで用件は?」

「譲さんがね、進藤くんがなかなか顔を出さないから、様子を見てきてほしいって。私もこの近くで用事があったから、忙しいとは思ったんだけど……」

「兄貴が?」


 ほう。兄が『譲さん』で、弟は『進藤くん』か……。――チャラ男の片思いか?


「ご両親も心配しているわ。お盆もお正月も帰って来ないって。きっと寂しいのよ。だから、少しでいいから……」

「帰らなくてもおのずと会うことになるだろう? ……お前らの結婚式で」


 な、なんと! 進藤兄とこの娘さん、結婚するのか。つーことはチャラ男、失恋!?


「それはそうだけど……」

「話がそれだけなら、もういいか? 人を待たせてるから」


 そう言って進藤がこっちを見るから、つられるようにこっちを向いた娘さんと視線が合う。って、こっちに振るなよ!

 あたしは渋々、挨拶をした。


「こ、こんにちは」

「こんにちは。ええと……生徒さん?」


 ええそうですよ。意味もわからず連れられてきた、ただの教え子ですよ。

 なんて思っていたのにこの娘さん、とんでもない勘違いをし始めた。


「でも連れてくるのはおかしいか。……まさか、彼女?」


 はぁあ!? どうしてそうなる?


「ち、ちが……」

「そういうことだ。……行くぞ」


 否定をさせてもらえぬまま、進藤に腕を掴まれて、娘さんの前から立ち去った。


 ちょいと! 誤解させちゃマズイでしょ? あんた、あの人好きなんでしょ? ……予想だけど。


 公園を出てしばらくしても、進藤はあたしの腕を掴んだままだ。力が入っていて、ちょっと痛い。歩幅も合わなくて、あたしは小走り状態だ。足の長い奴、キライ。


「先生! ちょっと止まってください!」


 声をかけると、ようやく立ち止まってくれた。それでも腕は依然掴まれたまま。

 歩道の真ん中、アスファルトのむわっとした熱気が気力と体力を奪っていく。


 額の汗を空いている手で拭い、あたしに背を向けたままの進藤に視線を向ける。

 いつもの軽そうな感じが一切しない。その背中はどこか小さくて、哀愁が漂っている。落ち込んでいるのがよくわかる。


「先生、どうしたんですか?」

「悪い、田原……」


 謝るだけで、こちらを見ようとしない。もしかしたら顔を見られたくないのかもしれない。

 無関係なあたしが、立ち入ったことを聞いていいんだろうか……。


 考えていると、前方から「進藤さ~ん」と大声で叫ぶ女性がこちらに向かって走ってきた。彼女はそのまま進藤の胸に飛び込んだ。


「進藤さん。急に会ってくれなくなるから、どうしたかと思った。ちょっとムカついたけど、許してあげるっ」


 今度の人は、あたしが思い描いたチャラ男の彼女そのものだった。派手、かなり派手。

 どれだけ盛っているんだと言わんばかりの髪型。

 キラキラ(むしろギラギラ?)な濃いメイク。

 キャミソールとミニスカ(乳とパンツ見えそう)。

 まさにギャル。日焼けを恐れていないこの感じ、ある意味尊敬。


「……許すも何も、お前とは別れたはずだ」


 進藤は驚いたようだが、それを全く聞いていないギャル。


「そんなの認めてないもん。ねぇ、進藤さん。これから遊びに行かない?」


 うわぁ、兄貴ばりの人の話聞かない人種。進藤、女の趣味悪っ。


「……あんた、誰?」


 ここでようやく、進藤の後ろにいたあたしに気が付いたようだ。

 さっきまでの少しぶりっ子な声色とは違う。低くて、あたしを敵視するような鋭い声。

 いまだに進藤に掴まれたままの腕を一瞥し、ギャルは眉を顰めた。


「進藤さん。その手、離して。彼女である私の前で、他の女に触らないで」


 ところが、より力を入れる進藤。ちょ、痛いって!


「お前とは別れた。だからもう関係ないだろう」

「……その女のせいなの? だから私と別れようとしたの?」


 あたし、無関係ですから。勝手にライバル認定しないでください。


「あたしは何も……」

「だったらどうだっていうんだ?」


 おいぃ――!! 否定をさせろよ、さっきから!


 見る見るうちに表情を歪ませるギャル。進藤から距離を取りながら、あたしと進藤を険しい顔で睨み付けた。


「私より、そんな色気のない女を選ぶなんて……許せない……」


 色気がないのは余計なお世話。あんただって言うほどでもないぞ。


「人を馬鹿にして……。覚えてなさい。絶対に許さないんだから!」


 怒鳴り、走り去っていくギャル。

 その背を眺め、途方に暮れる。


 これはもしや、また何かのフラグを立ててしまったんじゃねーのか!?




小町に巻き込まれフラグが立ちました

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