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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
敵は暴力を誘う悲しき恋心
7/31

なんだかんだ言っても受験生

新章、開始です

章タイトルの「誘う」は「いざなう」でお願いします。

 拝啓 あたしと似てない弟よ

 姉は今、青春を謳歌してます

 でもいいことばかりじゃないって、身に染みてるんだな

 それに新たな困難も降って湧いてきて――――





 夏休みに入り、あたしは部活漬けの日々を送っていた。高校最後の大会だもん。力が入るのも仕方がない。


 地区予選を危なげなく突破し、個人、団体共に県大会に進むことができた。

 その結果は団体でベスト8、個人でベスト4だった。

 惜しくも全国には行けなかったけど、精一杯やったし。大学でも剣道は続ける。


 大会を終え、学校で軽い打ち上げをした。三年はここで引退。寂しいけど、誰もが通る道だしね。

 それに引退するとはいえ身体がなまるのは避けたいから、たまに部活には顔を出すつもり。だから平気なのさ。


 打ち上げを終えて、一人でいつもお昼を食べている中庭へやって来た。

 そこに座り込み、ぼんやりと大会のことを振り返っていた。



 もっとやれたはずなんだけどな……。

 ちょっぴり切ない小町です。


 人前では明るく振舞っていたけど、一人になると反省することもある。

 悔いはないって思いたいけど、やっぱり全国には行きたかったな……。

 感傷に浸っていると、頭にコツンと冷たいものが乗った。見上げてみれば、それはペットボトルのお茶だった。


「お疲れ。惜しかったな」

「……進藤先生」


 チャラ男、なぜここに。


 不思議に思いながら、ありがたくいただく。

 すると隣に進藤が座り込んだ。……なぜ座る?


「話には聞いてたが、お前強いんだな」

「見たんですか?」

「まぁ、暇だったからな」


 ぐびぐびとお茶を口に流し入れる。うん、ちょっと温い。


「いろいろ反省はありますが、悔いはないんで」

「そうか」


 しばし沈黙。でも気まずい雰囲気ではないのが救いだな。


 どれぐらいの時間を二人で過ごしただろうか。

 しばらくして進藤が立ち上がり、あたしを見下ろした。


「今日は早く帰ってゆっくり休め。で、明日九時に教室に来い」

「……はい?」


 何? 何の誘い?


 不思議そうな表情のあたしに、進藤は呆れたようだった。


「わからんのか? 補習だ、補習。お前は期末で日本史、赤点取ったの忘れたか」


 そう言えばそうだ。そんなこと頭から抜けてたよ。都合の悪い過去は振り返らないのさ。


「本来なら夏休み入ってすぐの補習だったところを、大会のためにずらしたんだからな。お前は上位を狙える選手だったし、特別に配慮した」


 んん? その言い方だと何だか……。


「えっと、他に誰か……」

「いない。お前だけだ」


 つーことは……。


「マ、マンツーマンってことですか?」

「そういうことになるな」


 うげぇ、マジかよ。教師とタイマンはご免被りたい。


「ということでちゃんと教材持って来いよ。遅れたら課題倍にするからな」


 言うだけ言って、進藤はその場から立ち去った。

 その後ろ姿をぼんやりと眺め、呟いた。


「よりによって日本史……」


 しゃーねーか。授業中はほぼ寝てるか、教科書に落書きしてただけだしな。

 それに今回は勉強どころじゃなかったし。むしろ赤点が日本史だけだったことが奇跡。


 よっこらしょと立ち上がり、荷物を持って家へ帰ることにした。





 帰宅するなり、暑苦しい出迎えがあたしを待っていた。


「小町、おかえり! 惜しかったね」

「ただいま……」


 抱きつくな、馬鹿兄貴。暑いっつーの!


 汗でべたついた身体が不快で(兄貴の体温も言わずもがな)、先にお風呂に入ってしまう。

 さっぱりしたところで、ちょうど夕飯の時間になった。


「小町、明日どこか遊びに出かけようか。昭二が車を出してくれるし」


 やけにニコニコしている兄が提案してきた。が、それをあっさり断る。


「無理。明日から補習だもん」

「補習? 今さら?」

「そっ。大会があるからって日程ずらしてくれたみたい」


 説明すると、兄は口を尖らせてあたしを非難し始めた。


「もう。だからお兄ちゃんが勉強教えてあげるって言ったのに。小町はもっとお兄ちゃんを頼りなさい」

「つーか赤点は日本史だけだし」


 すると急に不機嫌な顔になった。


「日本史って進藤先生?」

「そうだけど?」

「他に誰か来るの?」

「ううん、あたしだけ」


 今度は顔色を青くする。……忙しい男だな。


「ダメーッ。あのホストと二人きりなんかにしたら、小町が傷物になるっ!」


 何だ、情緒不安定か? また意味不明なことを言ってるわ。


「傷物って……。んなわけないじゃん。馬鹿じゃないの?」

「小町はあいつのこと知らないからっ。小町が、お兄ちゃんのかわいい小町が、あの男の餌食にィィィ」


 誰がテメーの小町だ。ボケェ!!


「うっせーぞ、馬鹿兄貴。仮にも担任だぞ。つーか、あのチャラ男があたしみたいなガキに興味あるわけねーだろ」

「いやぁああ! 小町がグレたぁ!! お兄ちゃんの小町がぁ――!!!」


 グレてんのは元からだっつーの。前世からあたしはこんなんだよ。悪いか!


「病院行って来いや! クソ兄貴!!」


 口論を繰り返していると、眉を顰めた母が止めに入った。


「光、やめなさい。先生に失礼でしょう。せっかく小町のことを思って補習の日程を変えてくださったのに。教師は夏休みでも忙しいそうじゃない。せっかくのご厚意なんだからありがたく思わなきゃ」


 さすが母。もっと言ってやって。再起不能になるまでやっちゃって。

 だがその小言の矛先は、当然あたしにも向けられた。


「それから小町。あなた女の子なんだから、もう少し言葉遣いに気をつけなさい。先生をチャラ男とか、お兄ちゃんを馬鹿とかクソとか言っちゃ駄目。はい、仲直りして」

「「……はーい」」


 あたしら兄妹、母には弱い。しゅんとして食事を続けると、ずっと黙っていた父が口を開いた。


「小町、よく頑張ったな。えらいぞ」


 それだけ言って、また黙り込んでしまった。

 本当に寡黙だ。しかもだいぶタイミングずれてる。マイペースな人だ。


「うん……」


 それだけ返した。

 ほんと、馬鹿兄貴もこういう風に少しは黙ってくんないかなぁ。





 次の日、言われた通りに学校へ行った。

 九時少し前に教室に入ると、進藤はすでに来ていた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。……惜しいな。あと一分遅れたら課題を倍にしてやれたのに」

「残念でしたね」


 そう言って自分の席に着こうとすると、進藤が怪訝な顔をした。


「お前しかいないんだから、そんな後ろの席に座るな。教卓の前に来い」


 うげーっ。そんな目の前って、嫌だなぁ。

 嫌々ながら、一番前の席に座った。


 補習開始、十分後。


 スパーンッ!! 

 ゴツン!!


「イテッ!」

「たーはーらー。俺とマンツーマンの補習で居眠りするとはいい度胸だな」


 うっかり眠りこけてしまったようです。丸めた教科書で殴られた勢いで、机に額を打ち付けました。ジンジンするわ。

 目の前に両腕を組み、鬼の形相をしたチャラ男がいます。


「すみません。が、日本史は意味がわからんのです」

「嫌いか?」

「嫌いっていうか、人の名前とか、仏像の名前とか、本の名前とか、建物の名前とか、覚えられませぬ」


 難しい漢字が多いし、読み方も意味不明。宇宙語だ、ありゃ。


「そうか……」


 進藤が何やら考え込み始めた。それから何か思いついたような顔をして、あたしを見た。


「田原。今日は予定変更だ。教材は片づけろ」


 え? 何すんの?


 不思議に思っていると、進藤は教卓に備え付けの椅子に座った。


「日本史に興味が持てなければ、普通に教えても頭に入らんだろう。だから今日はお前が興味の持てそうな話をする」


 そう言って、進藤は歴史上の人物の話を始めた。

 はじめは面倒くせーと思いながらうわの空で聞いてたけど、次第に話に夢中になった。

 進藤の話は教科書には載ってない、人間っぽい偉人の話でとても興味ひかれた。


「うわー、織田信長って門倉先生っぽい」

「ちなみにどこが?」

「邪魔な人間は排除しようとするところとか」

「言えてるな。でもいつの時代もそんなもんだぞ。親子や兄弟、仲間同士で争い、足を引っ張り合うとか、どっちが跡を継ぐかとかな。あとは大奥みたいな女の争いとか」

「ふへー。昼ドラみたい」

「その通りだ。他にも争いなんて腐るほどあったんだ。今も昔も、金と権力と女は諍いの元ってことだ」

「他にはないんですか? ドロドロの昼ドラ的展開!」


 俄然、興味が出てきた。

 前のめりで他の話を聞き出そうとすると、進藤がチラッと時計を見た。


「残念、時間切れだ。続きはまた明日」

「えーっ」


 膨れ面をすると、苦笑される。


「補習にはならなかったが、お前が興味を持ってくれたみたいだからよしとしよう。その代わり、渡したプリントはちゃんとやってこいよ。明日チェックするからな」

「……はーい」


 がっかりしながら帰る準備をしていると、進藤が思い出したように言った。


「そうだ、田原。ちょっと職員室に寄っていけ」


 何だろう?

 言われるままに職員室に寄ると、進藤は自分の机から一冊の本を取り出し、あたしに手渡した。


「何ですか、これ」

「伝記だ。豊臣秀吉のな。これこそまさに成り上がりの見本だ。気が向いたら読んでおけ」

「とよとみ、ひでよし……」


 ……誰だっけ?

 質問すると怒られそうだったので、黙って受け取る。


「じゃあまた明日、同じ時間な」

「はい。ありがとうございました。さようなら」

「気を付けて帰れよ」


 ペコリと頭を下げて、職員室を出た。


 家に戻り、昼ご飯を食べた後、さっそく本を開いてみた。

 伝記って小難しいイメージだったけど、読んでみるとそうでもない。


 夢中になって読んでいると、突然本が目の前から消えた。

 顔を上げれば、兄が本を手にして立っていた。


「小町、ご飯だって言ってるのに」

「あ、ごめん。気づかなかった」


 もうそんな時間か。そういえば腹減ったわ。

 窓の外を見れば、とっくに日が暮れていた。

 兄が本を見て、目を見開いて驚く。


「小町が伝記!? どういう心境の変化?」

「失礼な。あたしだってこういうの読むことあるし」

「普段漫画しか読まないのに? 読書感想文もお兄ちゃんに書かせていたくせに?」

「ぐっ……」


 悔しいが、事実そうなので何も言い返せない。

 兄から本を取り返し、しおりを挟んで閉じた。

 あれだけ長い時間読んでいたのに、まだ半分残っている。……いや、むしろここまで読めたことが誇らしい。


「で、どうしてまた豊臣秀吉なわけ?」

「先生が読んでみたらって貸してくれた」

「……ふーん」


 訝しがる兄の背を押し、あたしはダイニングに向かった。



小町さん、豊臣秀吉ぐらいは知っておこうよ……

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