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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
エピローグ
28/31

そのままあたしを受け止めて

 長らくご無沙汰していたような気がしますが、実の兄に監禁されてまだ十分ほどしか経っていないらしいです。小町です。

 いやいやいや。十分も経ってしまった、の誤りです。もう進藤との待ち合わせの時間を過ぎてしまった。ちくしょう、クソ兄貴め。

 窓から脱出するしか方法はないと決めたものの、未だ達成ならず。なぜなら――(しばし回想)。




 窓から脱出するなら、シーツを繋ぎ合わせてロープの代わりにしようと思い立つ。ベッドからシーツを剥ぎ取り、引き裂き、端と端を結ぶ。何度か繰り返し、完成。


「さて、強度の確認っと」


 シーツを引っ張り……ビリッ。


「…………」


 嫌な音は聞かなかったことにして、別の部分の確認……ビリッ。


「…………」


 苛立ちながら無残に破られたシーツをゴミ箱に叩きつけ、


「シーツ弁償しやがれ、クソ兄貴!!」


 八つ当たり(回想終わり)。





 あーあ。無駄な時間を過ごしてしまった。そもそもロープもどきを作ろうとしたのが間違いだったんだ。二階からだったらロープなしでも降りられる気がするし。

 まずは足場の確認……って、足場になりそうなところがないんですけど。この家を作った大工さん、なぜあたしの部屋の外に足を掛けられそうなものを作ってくれなかったのさ。

 しかし今更、後には引けない。やると言ったらやる女だぜ、あたしは。

 窓の縁に足を掛け、外に背中を向けるように恐る恐る方向転換。もう一方の足を縁に掛けようとした瞬間、強い風が襲い掛かる。


「うわっ!」


 体制を崩し、あわや落下……と思いきや、持ち前の反射神経により片手で宙ぶらりんに成功。はぁ、マジ危なかった。

 もう片方の手で縁をなんとか掴み、これからどうしようか考えを巡らす。

 ……うーん、思いつかん。誰か見つけてくんねーかなぁ。そんでもってレスキュー呼ぶとかしてくんねーかなぁ。


「田原!」


 あーあ、いるはずもない進藤の声が聞こえてきた。空耳か?


「おい、何やってんだ! 田原!」


 やべぇ、これって瀕死のときに見るっていう例のアレか?


「危ない真似してんな! 聞いてんのか、小町!!」

「これが走馬灯……、あれ?」


 頑張って声のする方向に顔を向けると、リアル進藤がいた。ものすんごい険しい顔している。


「あ、遅刻してすみま」

「それはいいから! 何でこんなことになってるんだ!?」

「ええと、のっぴきならない状況で」

「どんな状況だ! そもそもその状況で呑気に俺と会話してるやつが走馬灯なんか見るか! 早く降りてこい!」


 そんな簡単に言うなよ。降りられるならとっくに降りてるっつーの。しゃーない。


「せんせー、受け止めて――っ!」

「はあ!?」


 叫んだ瞬間、両手を離して空中で方向転換。目を丸くしてあたふたしている進藤目掛けてダイブ。


「ちょ、待て! っ、うわぁああ!」


 ドスンと大きな音を立てて進藤を下敷きにして地面に着地。下が芝生でよかったね。進藤はあたしをしっかりとキャッチしてくれた。手を地面について、身体を起こす。

 あらま。進藤を押し倒してるような格好になった。


「ってぇ……。馬鹿野郎! 何やって……」


 あたしのことをこんなに心配してくれるんだ。それになんだか堪らなくなって、怒鳴る進藤の口を自分のそれで塞いだ。進藤の目が大きく見開く。触れるだけのキスをし、すぐ唇を離す。床ドン(地面ドン?)みたいな体勢で、ポカンとしている進藤をまっすぐ見下ろす。


「あたし、先生が好きです!」


 勢いで言っちまったぁあああ。しかし、肝心の進藤は無反応。ありゃ、失敗?

 しかし次の瞬間、肩を掴まれて乱暴に揺さぶられる。


「ままま、マジで!?」

「ちょ、酔う……」


 首がガクガク上下に揺れて、脳みそ潰れるから!

 抗議するとピタッと動作を止め、視線を合わせて改めて確認される。


「さっきの、本当か?」

「はい。あたしも先生が好きなんで、付き合ってください」


 目を見てはっきり言うと、頬を赤く染めた進藤が満面の笑みを浮かべた。


「やべぇ、すげー嬉しい」


 それから進藤はゴホンと咳払いし、


「えっと、そういうことで、よろしくお願いします」


 微かに頭を下げるから、それに倣う。


「いえいえ、こちらこそ」


 見つめ合い、ドキドキ。


「……何か照れるな」

「そうですね」

「なぁ」

「はい?」

「もう一回キスしたい」


 うぉっ、今日も相変わらず甘い。恥ずかしい。でも、


「奇遇ですね。あたしもです」

「して、小町。……俺にキスして」


 いきなりハードル高すぎじゃねぇ!? でも今押し倒してるのあたしだし、さっきしちゃったし、なーんかいい感じだし。グッバイ、羞恥心。

 顔を近づけると進藤の目がゆっくり閉じた。くそう、すんげぇ睫毛長いんですけど。女として負けてる、負けてるよ。

 あと三センチでくっつくと言うところで、急に玄関のドアが開く音がした。


「もう、何騒いで……ぎゃぁあああああ!」

「うるさいよ、光。黙らないと口縫い付け……わぁお!」


 くそう、邪魔された。地面ドンしたままそっちを睨み付ける。兄貴と昭二くんだ。昭二くん、いつの間に来てたんだろう。

 二人はこっちに駆け寄ってきた。昭二くんは純粋に驚いているだけっぽいけど、兄貴はもう混乱しまくっていて、あたしを進藤から引き離そうと腕を掴んでくる。

 地面ドンをやめて上体は起こしたけど、意地でもどいてやんない。進藤の腰に跨ったまま、兄貴の腕を力いっぱい振り払う。反抗するあたしに、兄貴がショックを受けたようにムンクの叫び体勢。今度は進藤に怒りの矛先を向けた。


「どうして進藤先生がうちにいるんだよ。即刻小町から離れろ!!」

「なーんだ。小町の相手って進藤先生だったんだ」

「いやぁあああ! 小町が、お兄ちゃんの小町が、エロ教師の毒牙にぃいいいいい!」

「キスぐらいでエロ教師呼ばわりじゃ、進藤先生がかわいそうだよ。それに押し倒してるのは小町の方」

「小町! 早くその男から離れなさい。妊娠しちゃうから!」

「しないしない。どんなカマトトだよ」

「昭二! 何でそんなに冷静なんだよ!」

「いやー、小町も大人になったんだなーって。もう一人のお兄ちゃんとして、とっても嬉しいよ」

「僕は全然嬉しくない!」

「つーか、二人ともマジうるさい! 近所迷惑!」


 一喝し、


「先生、うるさくしてすみま……」


 進藤に謝ろうと視線を向けると、彼は顔を真っ赤にして今にも泣きそうだった。言葉が途切れる。


「小町……頼む。降りて……」

「…………」

「は、恥ずかしいから……はやく……」


 何、何なの。今の進藤、ものすっごく――


「かわいいっ!」


 めっちゃかわいいんですけど。撫でくり回したいぐらいに。胸がキュンキュンする。乙女かっ! あたしより女子力ハンパねぇ!!


「なぁ、頼むって……」

「やだ。だってまだしてないもん。キス」

「ぎゃぁああああああっ、何言ってんだよ、小町っ!」


 うるせぇ。黙ってろよ、クソ兄貴。

 あたしがこんなこと言うなんて思ってもみなかったんだろう。進藤が潤んだ目を大きく見開いた。視線を絡ませじっと見つめていると、徐々に周囲の雑音が消えていく。


「する?」


 訊けば、しばし視線を逸らしたものの、進藤はコクンと頷いた。


「……する。して」


 やっば、めっちゃかわいい。何だ、この生き物。

 背けた顔を両手で覆ってこちらに向けると、進藤が再び目を閉じる。顔を近づけてやっとキスできる……と思ったのに、


「ダメェエエエエエエエエッ!」


 後ろから兄貴に羽交い絞めにされ、引き離されてしまった。そのまま抱きしめられる。


「お兄ちゃん以外の男のものになっちゃダメェエエエエエエエ!!」


 泣いてる、泣いてるよ。号泣とか、マジ鬱陶しい。

 今日は監禁もされたし、流石に我慢の限界。


「気持ち悪ぃんだよ、クソバカ兄貴ぃいいいい!!」


 思いっ切り足を踏み、腕が緩んだところで拘束から逃れて数歩距離を取る。助走をつけて奴の胸にドロップキック。

 倒れ込んだところ足を掴んで腰元に抱え、ブンブン回してジャイアントスイング。その勢いのまま手を離し、吹っ飛んで転がる兄貴。

 あたしはその落下地点から少し離れた家の壁面に向かって走り、壁を蹴って飛び上がり、そのまま兄貴に向かってダイピングエルボードロップ。

 駆け寄ってきた昭二くんがスリーカウントを取り、あたしの完全勝利! 腰に手を当てて、声高らかに勝利の雄叫び。


「あははははっ。わかったか、クソ兄貴。ガタガタ気持ち悪ぃこと言ってんじゃ……」


 言いかけて、ハッとした。視線の向こうに上体を起こし、呆気に取られた顔をする進藤が。

 し、しまったぁああああ! ついいつもの癖でやってしまった。ひ、百年の恋も冷める……。

 どんどん血の気が引いていく。何と言い訳しようかと考える間もなく、不死身の兄貴が腰にしがみついてきた。


「酷いよ、小町っ! 何でお兄ちゃんの言うこと聞いてくれないの!? お兄ちゃんはあんなホスト教師との交際は認めません!」


 あああああ、もう! こいつを黙らせなきゃ話にならん! 昭二くん、フォロー頼む! 

 視線を向けると、心得たとばかりに頷かれる。彼は進藤を引きつれて、家の中へ入っていった。

 これで心置きなくバカ兄貴をシバき倒せる。覚悟しな!


「いちいちうっせー、馬鹿兄貴。あたしが誰と付き合おうが関係ないじゃん! 自分だって好き勝手してるくせにっ」

「とにかく絶対ダメッ!」

「兄貴の許可なんていりません!」

「小町っ!」


 喚く不死身兄貴の胸倉を掴み、思いっ切り背負い投げた。今日は絞め技オールスターだ、この野郎。生きて帰れると思うなよ!



 弟よ

 姉はようやく幸せというものを掴みとったぞ

 だけどこれは終わりじゃなく、始まり

 もうあたしのことは心配しなくていいから

 あんたもあんただけの幸せ掴みな

 あたし以上に幸せにならなきゃ、ぶん殴るから!

                        敬具




次話におまけあります。

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