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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
プロローグ
2/31

あたしが死亡フラグを回避するまで

これでゲーム中の話は終了。

なのでゲームでのイベントごとを期待された方はごめんなさい。


お気に入り登録、評価をいただき、ありがとうございます!

 春です。入学式です。


 新しい環境に期待と不安を抱く人が多い中、あたしの中には不安と緊張感しかありませぬ。

 すでに登校拒否希望ですわ……。


 真面目に試験を受けなかったのに、前回なぜか私立青鞜学園に合格してしまった小町です。


 解答は超適当、半分以上の時間はお昼寝タイムだった、この学校の入学試験。

 それなのに何故なんだ? ミスではないのか? ちゃんと確認してくれ! もし合格が間違いだと言うなら、あたしは歓喜に沸くぞ。


 ちなみに他の受験した高校はすべて不合格。この学校が一番偏差値高いのに、ここしか受からなかったのだ。

 ゲーム補正め……。あたしの邪魔をしやがって。


 でもまだあたしは踏ん張れる。クラス発表の紙を見た瞬間、「やっほ~い、まだ神は我を見捨てていな~い」と純粋に大喜びした。もちろん心の中で。


 隣のクラス、一年A組のところに見つけた“九条琴美”という名前。一作目のゲーム主人公。


 彼女がいた場合、彼女の攻略が終わるまでは二作目――つまり、あたしや兄が出てくるゲームは始まらない可能性がある。なぜなら二作目に誰かと付き合っている彼女が登場するからだ。誰かはわからないが、恋人の話が出てきたはず。


 二作目の主人公は来年の新入生。だからとりあえず今年一年は安全だ。

 そして九条琴美の攻略が長引けば、それだけ死亡エンドの確率は低くなるかもしれない。兄が卒業してしまえば、主人公は兄を攻略できない。そうすれば生き残れる確率がぐっと上がるのだ。


 と、ここであたしと同じようにクラス発表を見ていた一人の少女が倒れた。

 あ、あれって九条琴美? 確かこんなシーンがあったような……。マジでゲームと同じ展開になるのか。これは気を引き締めなければヤバいぞ。


 九条琴美と言う人物は、さすがゲーム主人公というほど美少女だった。背が高くて、足も長くてすらっとしている。それなのに胸が程よくデカい。DかEぐらいあるんじゃないかな。腰がくびれている分、バストのデカさが目立つ。

 顔は目鼻立ちがくっきりしている(……多分。だって今、目を閉じてるし)。肩まである栗色のふんわりとしたウエーブのかかった髪。非の打ちどころのない美少女って彼女のことを言うのかもしれない。


 ――――ま、あたしも顔では負けてないけどねっ! 背は低いし、胸はないけどな。

 いや、むしろ低くて、なくて正解。ノッポで、デカチチで、機敏な動きができるかっつーの! この世のすべては命あっての物種なのだ。多くは望みません。


 そんな倒れた彼女を、チャラいホスト教師・進藤が姫だっこで運んで行った。チャラ男も攻略対象者。うわ、ゲームと同じ顔だ……って、あたりまえか。

 チャラ男が彼女を運んでいく光景を、周囲の女子生徒がうっとりしながら眺めていた。


 そういやこいつ、モテるんだっけか? ゲームでは意外に生徒想いだった気がする。実際は知らないけど。

 でも、そうそうゲームと同じ性格なんているもんか。いい例があたしだ(エヘン)。


 彼女が運ばれていくのは恐らく保健室。あそこにはキモい変態野郎がいるからな。保険医・門倉。「性欲? 何それ」的雰囲気を醸し出しておきながら、裏でこっそりやりたい放題のエロい医者だ。うわっ。考えただけで、すごい鳥肌立った。嫌悪感が半端ない。

 あれはヤバイ。絶対近寄らないようにしなきゃ。あたしの勘がそう言っている。そしてこの勘、かなり当たる。






 学校生活が始まり、あたしは遠巻きに九条琴美の攻略を逐一チェックしていた。


 すると、ものすごく進むのが遅いことに気付いた。イベントがあっても三回に一回ぐらいは気づかずにスルーしてしまうし、選択肢にないことを口走るし。やっぱゲームと現実は違うのかな。ちょっと安心。


 そしてあるとき、バッチリ目撃してしまった。弟が言っていた、巷で人気ナンバーワンキャラの生徒会長が甘いセリフを言うシーンで――――。


「お前といると、時折胸が締め付けられるように苦しい……。なぁ、どうしてだ?」


 美形な顔をグイッと近づけ、会長は彼女にそう言った。


 正しい選択肢は「私も、苦しい……。先輩が他の女の子と一緒にいるところを見ると……嫌なんです」。


 だが、彼女は――――


「ハッ」


 と鼻で笑い、


「知らないですよ。病院に行って、検査でもすれば?」


 冷たく吐き捨て、呆然とする会長を置き去りに、スタスタとその場を去った。


 うぉー、かっこよくね? すげぇ痺れる! 何この絶対零度の冷たさっ。


 ――――でも駄目なのだ。なぜならこのゲームは非常に曲者だから。


 本来のトゥルーエンドの選択肢はさっきのセリフ。残りの二つ、「私のこと好きなんですか?」と、彼女が言った「病院に行け」。

 前者は「うぬぼれるな」と会長から冷たく吐き捨てられ、そこから攻略不可となる。

 そして後者は――――


「ふっ……面白い」


 会長の表情がおかしいです。どこか違う世界に行ってしまっているような、恍惚とした表情。何かキモい。


 このゲームはなぜか袖にされるほど主人公に執着する展開に発展してしまう。そして攻略対象全員が執着展開に向かわなければ、逆ハーレムにならないらしい。うわ、誰が喜ぶよ?


 彼女を観察すればするほど、変質的逆ハーに向かっている気がした。

 もしかしたら彼女に前世でのゲームの記憶があって、わざと逆ハー狙ってる? と疑ったこともある。だが、彼女は本気で嫌がっているようだ。しかしそれとは逆にどんどん深みにはまっていく。


 ああ、助けてあげたい。だけど「あたし前世の記憶あります」とか言ったら変人扱いだよね。しかも彼女と話したことないし。


 それに変質的逆ハーは、どうやら展開が通常より遅いようだ。

 だからあれよと言う間に二年生になり、二作目の主人公が入学してきたものの、ゲームは始まっていないようだ。少々安堵している。


 そして安息の日々が終わりを告げたのは二年の秋。


 九条琴美が全攻略キャラの好感度MAX状態であるにもかかわらず、一刀両断で全員振ってしまったのだ。

 この場合彼女の残された道は、百合まがいの友情エンドと隠れ攻略キャラ・門倉エンド。

 どちらかものすごく気になったが、その頃には人のことに構っていられる余裕なんてものはなかった。まさに命がけで戦々恐々の日々。毎日ピリピリしていた。


 九条琴美の攻略が終わりを告げた途端、畳み掛けるように起きる二作目主人公のイベント。


 当然兄のイベントも起こるはず――――だが、ちょうど冬休み直前のある休日にそれは起きた。


「小町、聞いて~。お兄ちゃん、彼氏できた」

「は!?」


 突如、兄からとんでもないカミングアウトを受けたのだ。

 相手は幼馴染の昭二くん。昔からかなり仲いいなとは思っていたが、まさかそんな展開に!?


「どうして? どうして男? だって兄貴、あの子といい感じだったじゃん。ほら、あの一年の……」


 驚きながらも尋ねれば、兄が急に表情をなくし、冷たく吐き捨てた。


「ああ……あの女ね。小町を馬鹿にした女、僕が相手にするとでも?」


 それを見て、あたしはまたもや驚いた。


 珍しい。こんな顔めったにしないのに。あたしが「ウザい」って言ってもこんな顔はしないのに。相当お怒りですな、こりゃ。


 でもそれはほんの一瞬で、すぐいつものふにゃっとした情けない表情に戻った。


「それより小町。『兄貴』じゃなくて、かわいい声で『お兄ちゃん』でしょ?」


 うーむ……。確かに兄が主人公と、“あたし”のことを会話するイベントがあった。べた褒めすると好感度が上がり、よく知らないと答えても変化はないはず。侮辱すれば、その瞬間から兄の攻略は不可となる。

 でも少し見ていれば兄があたしを溺愛していることは周知だし、よっぽどのことがなければ兄の前であたしの悪口はご法度だ。


 今度の主人公は兄に興味ナシか。よっしゃあ!


 ちなみに自己防衛として、兄のファンには仲良くなるために定期的に賄賂という名の隠し撮り写真を提供していたし(結構際どいショット多数。命のためなら兄も売る)、誘拐実行犯になりうる不良は中学時代に粗方見つけ出して下僕にしておいた(今ではあたしに従順な犬である)。

 だから気がかりは主人公の動向だけだったんだけど、これで無事回避!


 うわぁ~、耐えたぁ。危機的状況、脱出したぁ~。死亡フラグ、完全回避!!


 あたしは自分の未来に明るい光が差し込んだことに浮かれ、思わず兄に抱きついた。


「お兄ちゃん、おめでとう~! あたし、お兄ちゃんがホモでもゲイでも馬鹿でも構わないよっ!」


 あたしに「お兄ちゃん」と呼ばれたことが嬉しかったのか、兄は表情を綻ばせた。


「ありがとう。お兄ちゃんもいろいろ悩んだけど、この先小町より好きになれそうな女はできないだろうし、小町以外の女と付き合うなら昭二の方がいいからね」


 非常に危うい発言だったけど、狂喜乱舞中のあたしは華麗にスルーした。







 こうして死亡フラグを無事回避し、カミングアウトした兄も泣く泣く卒業していった。


 卒業式終わりに、「嫌だ、卒業したくない。小町と学校に通えないなら大学なんて行かない。留年する――!!」と駄々をこねられた。しかも大勢の人がいる前で。

 田原家の恥だ。本気で兄妹やめたくなった。


 職員室に卒業を取り消してもらいに行こうとした兄を止めてくれたのは、兄の幼馴染で恋人の昭二くんだ。

「ごめんね、小町。後でしっかり躾しておくから心配しないで」と言って、兄の首根っこを捕まえて帰って行った。さすが昭二くん。素敵。


 昭二くんが兄だったらよかったのに……。あ、でも兄貴が他人になったら付きまとわれそうで嫌かも。あれは絶対ストーカーになるよ。キモッ。そしてウザッ。  


 ちなみに二作目主人公が、その後どうなったかは知らない。兄が攻略不可となった瞬間に観察はやめたから。だから彼女がどうなろうが知ったこっちゃねー。好きに生きておくれ。あたしに迷惑をかけないようにな。





 そして三年生になり、あたしは九条琴美と同じクラスになった。ひょんなことから話すようになり、今や仲のいい友達になった。美少女は大好物です。


 結局、彼女はどちらのエンドを迎えたのだろうか。彼女が攻略対象者を一刀両断してから観察をやめてしまったため、どちらかわからなかった。できれば友情エンドがいいなと願う。そのほうがきっと幸せだ。そして害がない。


 もちろんゲームの舞台とはいえ、その設定通りに進むかもわからない。あたしが今こうして生きていられるみたいに。もし設定通りにしか進まなかったらと思うと、ゾッとする。


 ある日の放課後。あたしは部活中にうっかり指を切ってしまい、絆創膏をもらいに保健室へ向かっていた。

 出来れば近寄りたくはなかったが、深く切ったせいで血が止まらない。それに自分を含め、周囲は誰も絆創膏を持っていなかったのだ。


 保健室までの道のりはなぜか人っ子一人おらず、シーンと静まり返っていた。何か不気味……。


 そして保健室の前まで来て扉に手をかけたとき、中から微かに声が聞こえた。


「琴……愛しているよ。前世の分まで幸せになろう」


 ゾゾゾッと、気持ちの悪いものが背筋を走った。


 甘い言葉なのに、どこか狂気を孕む声。あれは保健室の主、門倉に間違いない。彼女はよりによって、一番キモい男につかまってしまったのか。


 そして何より――――あんたも転生者かっ!


 精神面を鍛えていたあたしだが、流石に動揺してしまった。手をかけていた扉がガタッと音を立ててしまい、すぐさま中から「誰だ!」と厳しい声がかかる。


 逃げたいのに、どうしてか足がピクリとも動かない。

 動け、足! 危険回避だぞ! 最近、生き延びたからって油断してたかも。くそっ、無理か……。


 無情にも目の前のドアがガラッと開く。恐ろしく整ったその顔で、あたしに殺気を含む視線を向ける変態保険医。


「君は……」

「あ、あはは……。お取り込み中すみませんが、絆創膏をください」


 あたしは冷や汗をかきながら、へらっと笑って言ってのけた。……もう知らん。





 弟よ

 姉は新たな危険フラグを立ててしまったようです

 今度のフラグは手強そうです

 でも姉は負けません

 だから前世の世で姉の無事を祈ってろよ

                       敬具




さて、次回から本格的にゲーム後のお話が始まります。

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