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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
敵は傍迷惑なバカップル
17/31

阿呆な身内と縁切り希望

引かないで欲しいな……

 あたしは青筋を立てながら、努めて冷静に昭二くんを問いただした。彼はあたしの顔色を窺いながらポツリポツリと話し出す。


「だから光が、『小町が昭二と結婚すれば、将来三人で仲良く暮らせる。どこの馬の骨かわからない男に小町を奪われるぐらいなら、昭二の方がまだマシ。だから小町をモノにしてこい』って……」

「ふーん……」

「小町、怒った?」

「あたりまえじゃん。昭二くんも昭二くんだよ。そんな馬鹿な話に乗っかって、好きでもない女に迫るなんて」

「僕、別に小町は嫌いじゃないよ。ただ女として見られないっていうか、色気皆無だよねっていうか、所詮妹……むしろ弟?」

「……もう黙って」


 あたし、いつから性別男になったのさ!





 あんのクソ馬鹿兄貴めぇええええ!!

 身内のあまりの馬鹿さ加減に、怒りが沸点を軽く越した小町です。


 前回、兄貴の恋人の昭二くんに押し倒された末、なんやかんやで進藤のことが好きだと自覚しました。今更かという感じもしますが、そこは置いておいて。

 そのきっかけを作った昭二くんの暴走が兄の差し金だということが判明し、あたしは怒り狂っています。


 今は正座している昭二くんに仁王立ちで詰問中。足が痺れてしまえと思うが、生憎彼は正座が慣れっこだからそれは無理なのだ。チッ。

 昭二くんの言うことをまとめると、馬鹿兄貴がシスコン魂を発揮して、あたしの恋愛事情に介入しようとしているそうだ。昭二くんとあたしが上手くまとまれば、自分も彼と付き合い続けることもできるし、あたしのことを干渉できるから一石二鳥ということらしい。

 ここまで重度のシスコンだったとは……。今度という今度は呆れて物も言えんわ。

 怒りでプリプリしているあたしに、昭二くんは平謝り。


「小町、ごめんって。……でも結果的に、僕のおかげで自分の気持ちに素直になれたんでしょう?」

「……ハァ?」

「ゴメンナサイ、ウソデス。ユルシテクダサイ」


 なんでカタコト?


「とにかく、恋人なら兄貴のことちゃんと見張っててよね。暴走に加担するなんて、信じられない!」

「もうしない」

「あたりまえだっつーの」


 まだまだ言いたいことはわんさかあったが、このままだとあたしの血圧が上がりっぱなしなので彼を解放してあげた。あー、あたしって優しい。まるで女神さまだな。

 正座しても涼しい顔の昭二くんは、「今度お詫びに和菓子いっぱい持ってくるから」と言い残して帰って行った。って、いつもいつも和菓子でほだされると思うなよ!


 ……さぁて、馬鹿兄貴が帰ってきたらどうしてくれよう。筋肉馬鹿だから、気を引き締めて取り掛からねば……。

 そんなことを考えながら部屋に戻る。本棚にあるいろいろな分野の格闘本を床に広げ、熟読しながら馬鹿兄貴への仕返しを考えていると、携帯が鳴った。表示を見れば、進藤だった。


 ドクンッ。心臓が跳ねる。

 ヤバイ。自覚したのがさっきだっていうのに、あたし冷静に話せるんだろうか……。

 あたふたしているうちにかなり時間が経っていたようで、無情にも着信音が途切れた。


「ああっ!」


 なんてことだ。あたしの馬鹿! 早く出ればよかったのに!

 自分に悪態をついていると、もう一度携帯が鳴る。今度は画面を見る前に、慌てて出た。


「も、もしもし!」


 すると聞きたかった声が耳に入ってきた。


『……小町? 俺』


 ヤバイ。すごい破壊力。昨日散々聞いた声なのに電話だからか、直で耳に入ってくるせいかエロく聞こえる。心拍数がすごいことになっている。


『おい、聞いてるのか?』

「あ、はい! 聞いてます!」


 声を張り上げると、クスクス笑い声がした。


『今日は元気だな』

「あ、あたしはいつも元気ですよ?」


 そう返すと『そうだな』と同意の言葉。

 どうしよう。進藤が何を言ってもドキドキが止まらん。


「せ、先生、何か用でも?」

『ん、別に何も。ただ……小町の声が、聴きたかっただけ』


 ズキューン! な、な、な、なんと! も、悶絶。

 一瞬で全身が赤く染まり、恥ずかしくなった。

 キザ! 甘い! 本当に進藤なのか!? いや、進藤に間違いないんだけど。

 でも……すごく嬉しい。


「あ、あの……」

『ん?』

「あ、たしも……デス」

『!!!』


 勇気を出して言葉に詰まりながらそう言うと、息を呑み、絶句したような進藤の反応。それからしばらく無言だったけど、どこか嬉しそうな優しい声が返ってきた。


『そっか……』

「……そうですよ」

『……うん』

「はい……」


 うぎゃぁああ。この甘酸っぱい感じ、まさに青春! 前世で味わったことのないこの感じ、憧れたわぁ~。あたし、恋しちゃってます。ルンルン!

 初恋の感覚に浸っていると、進藤の甘い声が甘い言葉を吐く。


『小町……会いたい』

「っ!」

『顔が見たい……』

「ぅ……」

『抱きしめたい……』


 やーめーてー! それ以上は羞恥で死ぬ。悶えて死ぬ。心拍数が上がって死ぬ。


「先生……恥ずかしくないんですか?」

『何がだ?』

「そんな甘ったる~い、キザなこと言って」

『恥ずかしくない。だって……』

「だって?」

『こんなこと、小町にしか言わないから』


 プシュー……。撃沈しました。

 昨日もかなり照れまくりだったけど、気持ちを自覚したら破壊力は三倍増し。正面切って言われるより、電話の方がヤバい気がする。耳にダイレクトに響く、甘い囁き。

 言葉を返せないでいると、進藤が切り出した。


『ところで来週の週末、暇か?』

「あ、はい」

『じゃあ、約束』

「約束?」

『したろ? 二人きりでデートしよう、って』


 そういえばそうだ。昨日のことなのにすっかり忘れてた。


『どこに行きたいか考えておけ』

「…………」

『小町、返事』

「は、はい!」

『よろしい』


 駄目だぁ……。これ以上は心臓がもたない。電話でこれなら、直接会うときなんてどうなってしまうんだ。


『じゃあ土曜の十一時に駅で待ち合わせでいいか?』

「はい」

『楽しみにしてる』

「はい」


 あたし、さっきから「はい」しか言ってねぇ……。


『小町』

「はい」

『好きだ』

「っ……」


 何これ、反則すぎる。


「あ、ありがとうございます?」


 苦し紛れに返答すると、小さな笑い声が聞こえた。


『そこは同じように“好き”って返して欲しいんだがな』


 多分苦笑しているんだろうな。


『じゃあ、土曜な』

「はい」


 電話を切った後、携帯に向かって呟いた。


「あたしも好きですよ、……しーちゃん」


 うっは! 自分で言ってて恥ずかしすぎる――! あたし、どうかしてるぜ!


 進藤の電話に浮かれ、馬鹿兄貴への怒りが一瞬で消え去った。

 後々、ここで兄に制裁を加えなかったことを激しく後悔することになる。

 






 それから週が明け、いつものように毎日大学に通うが……。


「……ねぇ、小町ちゃん」

「何だね、琴美ちゃん」

「今週ずっと、行く先々に光先輩がいるのは……目の錯覚?」

「錯覚ならどれだけよかったことか……」


 やはり、あのときボコボコにして病院送りにしておくべきだった。


 昭二くんから陰謀を知らされた次の日から、あたしは実の兄からストーキングされています。

 家を出るところから大学の授業、はたまた帰り道まで、ずっと監視されています。

 警察に被害届出したら、身内だけどストーカーで逮捕してくれないかな? いや、逮捕してくれ。多大な被害に遭っておるぞ。


 いつも一緒にいる琴美ちゃんも戸惑っている。一応面識はあるのだが、兄が壮絶なシスコンだと知って以来、若干引いている。いや、あなたの旦那も同等、もしくはそれ以上だからね。


 今日は金曜日。これまで静観していたが、もう限界。むしろ今日までよく我慢したよ。

 あたしは兄のところへつかつかと近づき、睨み付けた。


「兄貴、いい加減にしてくんない? 妹をストーカーとか、マジありえない!」


 しかし、兄はキョトンとして首を傾げやがった。かわいくねーよ!


「ストーカー? 何言ってるの、小町。お兄ちゃんは普通に大学に通ってるだけだよ」

「嘘つけ! 取ってる講義違うくせに、何であたしと同じ教室にいるわけ? しかも毎度」

「それはもう一度聞きたかったからだよ」

「行きも帰りも一緒だし!」

「目的地も帰る場所も一緒なんだから、当然でしょう?」


 ぬぅうううう。腑に落ちないが、言い分は筋が通っている(講義の件はありえないけど)。


「それに小町は講義中、よく居眠りしてるでしょう。お兄ちゃんがノート全部取ってるから、単位を落とすことはないよ。よかったね」


 むむむ。そういう利点もあったか……ハッ、いかん! 騙されてはいかん!

 これはあたしを黙らせる口実にすぎんのだ。


「とにかく琴美ちゃんが気味悪がってるから、もうついてくんな!」


 そう吐き捨て、足早にその場から去った。


「……ねぇ。私、別に光先輩のこと気味悪がってないよ?」


 ついてきた琴美ちゃんが抗議したが、聞き耳持ちません。


「いいの。あたしが言っても聞かないから、第三者の名前を出せば効果あるかもってことだから」

「……残念ながら、効果ないみたいよ?」


 その言葉で後ろを向けば、兄はちゃっかりついてきていた。

 この野郎……マジで訴えてやろうか。


 かなり早足で歩いて兄から距離を取り、トイレに駆け込んだ。ここならさすがに入って来れないし。むしろ入って来て、警察に捕まればいいのに。

 洗面台の前で化粧直しをしている琴美ちゃんが、確認するように訊いてきた。


「小町ちゃん。明日大丈夫なの?」

「そうなんだよねぇ……」


 明日はいよいよ進藤と初デートなのだ。この分だと明日もストーキングされてしまう。

 絶対邪魔してくる。考えるだけでウゼェ……。


「せっかくの初デート、先輩に邪魔されちゃうね」

「全くだよ」

「せっかく自分の気持ちを自覚したのにね」


 妙にニヤニヤしている彼女。彼女には自覚した次の日に話しました。

 そしたら「本当に鈍いね~」って呆れられてしまった。何度考えても、やっぱりあなたにだけは言われたくありません。

 でも「進藤先生なら安心」だってさ。ふふふ。


「明日、先生に言うつもりなんでしょう? 小町ちゃんの気持ち」

「うん……」


 ド緊張だけど、ちゃっちゃと言った方が心臓に悪くない。……多分。


「もう明日なんだなぁ……」


 一週間って、長いようで短いね。まだどこに行くか、全然考えてないや。進藤、怒るかな?








 デート当日。あたしは朝からクローゼットの中身を部屋に広げ、何を着ていくべきか悩み中。

 ひらひらスカート? ショートパンツ? 進藤の好みの服装って、どんなんだろう。

 確か、あの娘さんは清楚っぽい感じだった……。でもあたしに清楚が似合う気が全くしない。

 結局ショートパンツにTシャツという無難な恰好に落ち着いた。あ、二―ハイソックスでチラリズムをアピールしたけどね。


 髪型もどうしよう。いつもはそのまま流すかポニーテールだけど、今日はお団子にしてみようかな。あたし、ぶきっちょだから上手にできるかなぁ? ヘアスプレーを振りかけまくったら、何とかできた。地球に悪い女だ。ソーリー、アース。


 いろいろ考えを巡らしながらも、気分は上々。待ち合わせ二十分前にようやく準備万端。かばんを持って一階に降りた。

 リビングにかばんを置いてからトイレを済ませ、いざ出かけようと思ったが……。


「あれ? 携帯がない」


 かばんに入れたはずの携帯がどこにもなかった。

 おかしいなぁ。部屋か?

 慌てて部屋に戻り、探したけど見つからない。


「何で?」


 首をかしげ、もう一度リビングを探そうとドアノブを捻ったが……。


「……あれ?」


 ノブはガチャガチャ音を立てるだけで、ドアは押しても引いても開かない。


「ちょっと、どういうことよ……」


 力を込めて押しても、ビクともしない。

 すると……。


「無駄だよ、小町」

「兄貴……?」


 ドアの向こうで兄の声がした。普段より低い、威圧感のあるその声に、あたしは戸惑った。


「デートなんて行かせない」

「おい! 何考えてんの? 開けてよ!」

「小町に彼氏なんて必要ない」

「ふざけんな! あーけーろー!!」


 ドンドンとドアを乱暴に叩くが、ドアが開く気配も、兄がここを開けてくれる感じもしなかった。

 すると兄は、非常に気持ち悪いことを言い出した。


「小町は一生、お兄ちゃんだけの小町でいればいい。もう家から一歩も出さないよ」

「ハァ!? 今なら許してやるから開けろ! この馬鹿兄貴!!」


 しかし兄はドアの前から去って行ってしまったようだ。返事がない。


「くっそー。何考えてんだよ……クソ兄貴」


 まさか実の兄に監禁されるとは……思ってもいなかった。

 多分かばんから携帯を抜き取ったのも、あいつの仕業だ。

 しばらく喚き散らしてドアを殴打していたが、手と喉が痛くなっただけで、兄がやって来る気配は皆無だった。

 兄の暴挙に怒りもあるが、深呼吸して一旦冷静になろうとした。


「どうするか……」


 携帯がないから誰とも連絡が取れない。両親は夜まで不在。パソコンはリビングに放置したまま……。

 このままだと進藤を待たせてしまう上、すっぽかされたと思われたり、事故か何かかと心配をかけたりしてしまう。あたしは必死で考えた。


 ドアを蹴破る? 絶対怒られるよなぁ……。たとえ兄貴のせいでも、説教確定だよな。障子破ったときも丸一日正座で説教喰らったしな……。あの経験は二度としたくない。

 念力でも送ってみる? でも無理だ。あたしにそんな力はない。

 チラッと窓に視線を向ける。


「こうなったら……」


 あたしは覚悟を決め、考えを実行することにした。これしか方法はない!




ここでこの章は終わりです。

次回は進藤視点。

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