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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
敵は傍迷惑なバカップル
15/31

混乱期に沸いた混乱

大変お待たせしました。

第4章開始です。

 拝啓 もてるくせに女に微塵も興味がなかった弟よ

 前世で甘酸っぱい恋愛をしてこなかった姉は

 ただいま非常に戸惑っています

 さらに面倒なことも起きそうだし……





 自室のベッドに倒れ込み、全身から力が抜けた。

 あー、今日は一日にいろいろなことがあり過ぎて、無駄に疲れた……。


「やっぱ家は落ち着くなぁ~」


 ゴロンと仰向けになり、天井を眺めた。




 チャラ男……マジか……。

 頭の中は進藤のことでいっぱい、いっぱいの小町です。


 前回、変態にはめられて、チャラ男からイメチェンした進藤と再会してしまいました。

 その上、密室の観覧車での三十分間に告白され、迫られ、揚句抱きしめられたまま好き好き攻撃されました。


 羞恥心を持て、持つんだ小町! 

 好きかどうかわかんない男と密室で抱き合うなんて、そんな娘に育てたつもりはありません!


 大きく息を吐いて目を閉じれば、さっきまでの出来事が脳裏に浮かぶ――――。





 観覧車が地上に近づき、三十分間のある意味拷問みたいな濃密な仕打ちに耐えたあたしは無事地上に降り立った。

 地面に足をつけて数歩歩いた途端、その場に崩れ落ちてしまった。多分、ものすごく赤面していたと思う。羞恥が酷過ぎて、足腰にかなりキた。


「田原……大丈夫か?」


 さっきまであれほど「小町、小町」と連呼していたにもかかわらず、進藤は以前のようにあたしを苗字で呼ぶ。

 それが少し面白くない……って、どうしてそんなことを思ってしまうんだぁあああ!


 あたしの様子を窺うように、しゃがみ込んで視線を合わせてくる進藤。バチッと視線が交差した瞬間、全身の熱がグーッと上昇する。

 するとさっきまで余裕な素振りを見せていた進藤も、なぜか急に頬を上気させた。


 どこの初々しい純情カップルだ!? いや、カップルではないんだけれども!

 そもそも進藤なんか彼女がいたわけだし、もっとすっごいことだって当然経験しているはずだ。それなのに、「目が合ってドッキドキ!」ぐらいで赤面すんなよ! ドキドキしているのかは知らないけどさ。

 そんなふうに変な世界を築いているあたしと進藤に冷や水をぶっかけたのは、やはりあの男だった。


「そんなところで座り込まれたら邪魔です」


 声のした方を見れば、門倉が若干ぐったりとして心ここに非ずな琴美ちゃんを支えていた。どうやらあたしたちを観覧車に押し込んだ後、自分たちも乗ったらしい。

 つーか彼女のぐったり具合を見ると、この変態は観覧車で何かしでかしたようだ。


「あんた、琴美ちゃんに何したのよ!」


 イラッときて、あたしは変態に噛みついた。

 しかし、ものの見事に反撃された。


「おや、あなた方も似たようなことをしていたのではありませんか? そんな事後みたいな表情で詰められても、何の説得力もありませんよ」


 じ、じ、じ、事後みたいな顔ってどんなだぁああああ!!

 恥ずかしすぎて涙が出てくる。もう何も言い返せない。今攻撃しても、勝てる気が全くしなかった。

 あたしが黙っているからか、ここで進藤が代わりに門倉に反撃した。あたしの顔を門倉から隠すように、自分の胸に押し付けながら……って、また抱きしめられた!


「お前らと一緒にするな。俺たちは別に何もしてねぇよ」

「そうなのですか? 進藤は意気地なしですねぇ。既成事実を作ってしまえば最後でしょうに」


 あんた、琴美ちゃんが半分意識飛ばしてるからって、本性出してんじゃねーよ!

 チラッと見ると、進藤は門倉の言い分が不快だと言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。


「俺は田原が本気で好きだから、こいつの気持ちを大事にしてやりたい。こいつの同意なしに、もうそういうことをしたくないんだ……」

「先生……」


 やだ。ちょっとキュンってしちゃったよ。

 で、でも、訂正するけど、あたしらキスまでしかしてないからね。決して事後ではないからね。

 門倉は進藤の言葉に、呆れたように大きなため息をついた。


「あなたがそれでいいなら何も言いませんけど、うかうかしているとまた逃げられますよ」

「誰が逃がすか。小町は俺のものだ。誰にもやらない」


 ううっ……人前でそんなこと言うなよ――!! マジで恥ずかしいんだけど。


 ここで、ふと気づいた。この空間にはあたしら以外にも人がいるということを……。

 観覧車乗り場で美男美女が四人(一応あたしも数に入れてみた)、なにやら痴情で縺れている……的な状況に見えるんだろうな。すっごく注目されている。

 いやぁああああっ!! 見ないでぇ――!!

 あたしは恥ずかしくて、恥ずかし過ぎて、進藤の服をツンツンと引っ張った。


「ん? どうした、田原」

「せんせ……ここから、逃げたい……」


 ここでようやく進藤も、自分たちが周囲から注目されていることに気が付いたようだ。

 頷いて、あたしを立たせてくれた。


「歩けるか?」

「ちょっと無理……」


 身体に力が入らない。こんなことは初めてだ。これって腰砕けって言うのか?

 すると少し困った顔をした進藤は訊いてきた。


「抱き上げても……いいか?」


 そんな小首をかしげるような感じでこないでほしい。ドキドキするだろうがぁ!

 抱き上げられるのは恥ずかしいけど、ここでずっと見られるのはもっと嫌だ。究極の選択を天秤にかけたのち、あたしは頷いた。


 進藤は子供をだっこするように膝の裏に腕を差し込んであたしを抱き上げ、足早にその場から連れ出してくれた。あたしは落ちないように進藤の首に腕を回し、羞恥を隠すように肩に顔を埋めて周囲を見ないようにした。

 門倉も琴美ちゃんを連れてついてくる。姫だっこだってさ。子供だっこと姫だっこ、どっちが恥ずかしくないんだろうか。


 そのまま遊園地を出て、駐車場までやって来た。

 どうやら進藤と門倉は、各々が車でここまでやって来たようだ。


「では、今日はここで解散にしましょうか」


 門倉の提案に進藤も頷いた。

 門倉は琴美ちゃんを地面に立たせ、まだ呆けている彼女の頬を軽く叩いて覚醒させた。


「琴美さん、帰りますよ」


 ハッと気が付いた彼女は、自分がなぜ駐車場にいるのかが理解できないようにキョロキョロしていた。

 それから進藤に抱き上げられているあたしを見て驚き、顔を真っ赤にした。


「こ、こ、こ、小町ちゃん。そういうことなの?」

「いや、ちが……」

「大丈夫。言わなくてもいいよ。そっか、よかったねぇ~」

「だから、ちが……」


 否定の言葉を一切聞かず、彼女は目をキラキラさせて笑みを浮かべる。それどころか進藤に詰め寄って来た。


「進藤先生、小町ちゃんを泣かせたら承知しませんよ」

「ああ、もちろん」

「ちょ……先生!」


 非難の目で進藤を見ると、クスッと意地悪そうに笑われた。余裕ありげでムカつく!

 琴美ちゃんは微笑ましく、あたしと進藤を交互に見ていた。その視線、何かヤダ。


「小町ちゃん、今度詳しく聞かせてね」

「では帰りましょうか、琴美さん」

「うん。進藤先生、さようなら。小町ちゃん、またね」


 人の話を全く聞かず、バカップルはさっさと車に乗り込んで帰って行った。


「何なの……あれ……」


 呆然としながら走り去る車を凝視していると、目の前の男がクスクス笑っていた。


「ちょっと先生! 笑いごとじゃないんですけど!」

「どうせそうなるんだから、いいだろ?」

「…………」


 ムッとしていると、急に進藤が真面目な顔になった。


「そうならない、とは言わないんだな……」


 指摘されて、ハッとした。

 進藤は上目づかいで、確認するようにあたしに訊く。


「俺は……望みを持ってもいいんだな?」

「先生……」

「嫌なら、今ここではっきり言ってくれ。そしたら……諦めるから……」

「っ……」


 そんな泣きそうな顔で言わないでほしい。そんな顔されたら、あたし……。


「本気で嫌じゃなければ、少しでも望みがあるなら……考えてくれないか。大事に、するから……」


 ぎゅーっと胸が締め付けられる。そして胸の鼓動がどんどん速くなる。あたし、今おかしい。

 と、とにかく、ちゃんと言わなきゃ……。


「い、いや……じゃないから……困る」

「ん?」

「こんなこと……初めてだから……よく、わかんない……」


 言葉に詰まるあたしを、進藤は忍耐強く待ってくれた。真っ直ぐな視線をじっと見つめ返す。


「先生のことは……嫌いじゃ、ない……。嫌いなら、キスなんて……させてない」


 そうなんだよ。本気で嫌なら、最初にキスされた瞬間にボコボコにぶん殴っていたと思う。まして自分から縋るように求めたりしない。


「だから、少しだけ……時間をください。ちゃんと……考えるから……」


 チャラそうに見えても、本当は一途で真面目なこの人の真剣な気持ちだから、あたしも真剣に考えなきゃいけない。それが礼儀ってもんだ。

 すると進藤は嬉しそうに破顔した。


「ありがとう……すげぇ嬉しい……」


 そう言って、あたしをギューっと力強く抱きしめた。その温もりが、なぜかとても安心できた。


 それから車で家まで送ってもらった。進藤の車は国産車。運転も上手く、安心して乗っていられた。

 家の少し前で停車し、お礼を言って降りようとしたときに引き留められる。


「携帯、教えろ」


 言われるままにアドレスを交換する。それぐらいなら、まぁいいか。


「連絡してもいいか?」


 こくりと頷くと、急に真顔になる目の前の男。


「キス……してもいいか?」


 え、そ、それは……。


 あたふたしているうちに、あたしの後頭部に手を回してきて顔が近づく。ギュッと目を瞑って身体を固くしていると、フッと笑った気配がし、額に柔らかいものが押し当てられた。

 目を開けると、鼻が当たるほど間近にある進藤の顔。どこか色気のある瞳に吸い込まれそうだ。 


「今日は……これで我慢する。今度、どこか行こう。……二人きりで」


 もう何を言われているかもわからないほど、頭がぐっちゃぐちゃだ。展開がいろいろ急すぎる。

 なかなか返事をしないあたしに焦れたのか、進藤は唇を耳に寄せ、甘ったるい声で物騒なことを呟いた。


「我慢しなくてもいいなら、今からホテルにでも行くか?」


 な、な、な、なんですと――――!?

 テンパりMAX状態でいると、もう一度、進藤は言った。


「行くよな、デート」

「……はい」


 そう言わざるを得んでしょうが!! ここで断ったら、何されるのかわかったもんじゃない。

 あたしの返事に満足したのか、進藤は優しい笑みを浮かべながら、そっとあたしの頬を撫でる。


「おやすみ……小町」

「お、おやすみなさい」


 甘いよー。こんなゲロ甘、慣れてないんすよ。


 羞恥で真っ赤になり、フラフラしながら車を降りて家に入った。玄関で顔を両手で覆いながら、へたり込む。

 やばい、やばいぞ小町。あたし、このままだと自分の気持ちもわからんまま、進藤に流されちまうぞ。


「……小町? そんなところでなにしてるの?」


 悶々としていると、通りがかった兄が声をかけてきた。のろのろと顔を上げると、なぜか兄が目を見張る。それから泣きそうな顔をして、無言で走って行ってしまった。


 ……何? 泣く要素なんてある?

 兄の行動がおかしいのはいつものことだと自分を納得させ、あたしは自室に籠った。





 しばらくして母がご飯を呼びに来たが、胸がいっぱいで何も食べる気がしなかった。「いらない」と伝えると、ドア越しに母が訝しい声を上げた。


「小町もなの? 光も『食べたくない』って言って、家を飛び出していったのよ」

「え?」

「多分昭二くんのところへ行ったんだろうけど。いやぁね、今頃反抗期かしら」


 ぶつぶつ文句を言いながら、母はそのまま下に降りて行った。

 ……あの大食いの兄がご飯を拒否? 明日、槍でも降るのか? 怖っ。






 次の日。家に引きこもっていたあたしのもとに、意外な人物が尋ねてきた。


「やぁ、小町」

「昭二くん」


 兄の幼馴染兼恋人の昭二くんだった。


「兄貴ならいないけど?」

「うん、知ってる。今日はね、小町に会いに来たんだ」


 あたしに用事なんて珍しい。何だろう。


 今、家にはあたし一人。両親は揃って出かけ、兄は昨日から不在。

 仕方がないので手ずからお茶を入れ、昭二くんをもてなした。


「これ、小町が好きな和菓子」

「わぁ、ありがとう!」


 あたし、実は洋菓子より和菓子派なんだよね。

 昭二くんの父親は茶道の家元だから、彼もやはり和が好きらしい。手土産は大抵和菓子。


 昭二くんは和風の王子って感じだった。うちの兄が筋肉の塊で、彼は優等生タイプ。タイプが違うのに、よくぞここまで仲良くなったもんだ。まぁ母親同士が親友だからっていうのもあるだろうけど。

 ちなみに兄と同じく、二作目の攻略対象者だったりする。


 和菓子を食べながらお茶でまったりしていると、突然昭二くんが言った。


「小町、彼氏できたでしょう」


 ブ――――ッ!!


 思わず飲んでいたお茶を吹き出し、それが昭二くんの顔面にかかってしまった。


「あ、ごめ……」


 慌ててティッシュを手渡すと、昭二くんは無言で顔を拭う。

 うわぁ、無言の圧が強い。昔から兄より昭二くんの方が怖かった。いつもニコニコしているんだけど、何を考えているのかさっぱりわからない。いまだにわからない。


「な、なんでそんな変なこと訊くの?」

「変? どこが?」

「だってあたしに彼氏なんて、そんな……」

「まだ付き合っていないってことか。でも相手の人、相当独占欲が強いみたいだね」

「ふぇ?」


 言われた意味がわからない。独占欲? 確かに進藤はそれっぽいけど、何故それを見ても聞いてもいない昭二くんがわかるんだ?

 あたしの困惑ぶりを見て、彼は怪訝な顔になる。


「……もしかして気づいていないの?」

「何が?」

「小町、鏡見た?」

「見てないけど?」


 何なんだよ、一体。

 すると昭二くんがあたしの首筋をスッと撫でた。


「ここ、マーキングついている」

「は? マーキング?」


 慌てて鏡を見てみると、首筋に赤い痣みたいなものと、薄いけど歯形みたいなものがついていた。


「うぎゃぁあああ!!」


 なんじゃこりゃぁあああ!!

 思い返してみれば観覧車で進藤に首を吸われたし、歯も立てられた。思い出したら怒りと羞恥で、頭に血が上る。


 進藤めぇええええ!! あいつ、絶対確信犯だろう!! 

 これ、人に……人に見られ……。

 うわぁあああん! なんてこった! これ、一体何人に見られたんだぁ!!


 思わず涙目になってしまった。そんなあたしを昭二くんは頬杖をつきながら、優しい笑みを浮かべて眺めている。


「小町はさ、その彼が好きなの?」

「へ?」


 進藤のこと? まだ自分の中で結論が出ていないのに、そんなこと訊かないでほしいよ。


「う……わかんない」

「付き合ってはいないんだよね?」

「うん」

「……じゃあまだ間に合うかな」


 ボソッと呟かれた言葉に眉を顰める。意味が分からん。

 すると彼はあたしを見て、とんでもないことを切り出した。


「小町、僕と付き合わない?」

「は?」


 何を言っているんだ。昭二くんは兄の恋人だ。ということはゲイだ。ゲイと付き合うほど、あたしは暇じゃない。

 思わず爆笑してしまった。


「あははははっ、冗談キツイって! だって昭二くん、兄貴と付き合ってるじゃん。女の人、駄目なんでしょう?」

「ううん。僕、両方イケるよ」


 目が点になる。

 兄から昭二くんの方から告白してきたと訊いていたから、てっきりゲイなのかと思っていた。


「り、両刀?」

「そう、両刀。だからさ、小町。僕と付き合いなよ」


 ニッコリと笑いかけてくる昭二くん。


 うぇえええ!! 何なの、ここ最近のあたし。

 意味不明なぐらい、モテキ到来なんですけど――!?




すみません。

また少しお待たせします。

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