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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
敵は変幻自在の教職者
14/31

あんた、誰ですか?

遊園地で何かが起きる……

結構ベタ。

 土曜日は雲一つない晴天で遊園地日和だった。

 駅で琴美ちゃんと待ち合わせ、電車で目的地へ向かった。


「晴れてよかったよね~」

「そうだね。何から乗ろうか?」

「んー、やっぱりジェットコースター?」

「人気そうだからなぁ~。待ち時間が少ないといいけど」

「楽しもうね、小町ちゃん!」

「うん。楽しもう、琴美ちゃん!」


 二人で顔を見合わせ、微笑んだ。

 



 いやぁ~、女二人って落ち着くわぁ~。

 美少女との遊園地デートに胸躍らせる小町です。


 前回、変態が美少女をスパイに仕立て上げようとしていたのを、寸でのところで阻止しました。そして逆に返り討ち。自分の作戦が上手くいきすぎて怖いぐらい。

 その変態からもらった有効期限ギリギリのチケットを手に、今日は美少女と遊園地デートです! もうウッキウキ!





 遊園地に到着。園内はほどほどに込み合っていた。まぁ土曜だから仕方がないよね。

 カップルと家族連れが多いから、ナンパとかは恐らくないだろう。もし万が一ナンパ男が琴美ちゃんに近づいてきたら、あたしはそいつを追い払わなければいけない。

 せっかくのデートを邪魔されてたまるか。あたしはナイト様だよ。


「じゃあ、最初はジェットコースターでいいよね?」

「うん」


 乗り場へ向かうと、朝早くというのに人だかりができていた。開園して三十分しか経っていないのに、すでに二時間待ちだった。


「小町ちゃん、どうする? 二時間待ちだって」

「二時間かぁ……。結構長いよね」


 二人でしゃべっていれば二時間なんてあっという間のような気もするが、あたしは二時間待つほどジェットコースターに興味はない。

 それに二分少々のために二時間待ちって、割に合わないと思うんだ。


「琴美ちゃんが乗りたいっていうなら待とうか」


 彼女の要望には応えたい。が、彼女は首を横に振った。


「乗りたい気もするけど、二時間も待つならいいや。他のところに行こう」

「いいの?」

「うん。だってせっかくなら、たくさん回りたいじゃない」


 ニコッと笑うその顔、和むわぁ~。今日は変態もいないことだし、この笑顔独り占め。ぐふふ。


 しかし人生、そんなにうまくいくはずもなかったのだ。




 比較的空いていそうなゴーカード乗り場に向かって歩いていると、琴美ちゃんがとある方向を見て、「あっ」と声を上げた。


「せ、せんせー?」

「えっ?」

「ほら、あそこ」


 彼女の指差す方には門倉がいた。

 この野郎。あたしと琴美ちゃんのデートを邪魔しに来たか。

 イラッとしていると、彼女が不思議そうに首をかしげた。


「おかしいなぁ。せんせー、用事があるって言ってたのに。……あれ、隣に誰かいるみたい」


 よくよく観察してみると、確かにもう一人いた。……あれは男、だな。

 黒髪で門倉より少し背が低い。ジーンズにジャケット。うむ、センスはまぁまぁだな。何やら門倉と話し込んでいる。

 ここであたしと同じようにその光景を凝視していた彼女が、またもや「あっ」と声を上げた。


「小町ちゃん。あの人、進藤先生じゃない!?」

「ま、まさか……」


 そんなはずがない。だって進藤は、どこをどう見てもチャラ男だ。

 ほぼ金髪、着崩した服装。だるそーな態度。アクセサリーじゃらじゃら……。


「絶対進藤先生だって! 疑うなら確認してみようよ。せんせー!!」

「あ、ちょっと!」


 止める間もなく、琴美ちゃんは門倉を大声で呼び、大きく手を振った。それに気づいた門倉が、隣の男を伴ってこっちにやって来る。

 待ちきれなかったのか、彼女が変態に駆け寄り、胸にダイブ。それを愛しげに抱き留める変態。チッ、家でやれ!


「せんせー、用事があったんじゃなかったの? びっくりした」

「すみません。琴美さんを驚かせたくて」


 あたしは夫婦のいちゃこらに視線を留めていた。

 その間にも、あたしに注がれる視線をひしひしと感じる。それを直視できないでいた。

 門倉があたしの視線に気づき、胡散臭いほど満面の笑みを向けてきた。


「おはようございます、田原さん。お久しぶりですね」

「……おはようございます」


 消えそうなほどの小声で挨拶を返すと、門倉が首をかしげる。


「僕だけでなく、もう一人にも挨拶をされたらいかがですか? 知らない仲ではないのですから」


 その言葉で、琴美ちゃんの言ったことは事実だと認めざるを得なくなる。

 恐る恐る突き刺さる視線の方を向けば、黒髪の男が気まずそうに口を開いた。


「……おはよう。久しぶりだな、田原……」


 顔を見ればその人物に間違いないのだが、如何せん見た目が変わり過ぎだっつーの。マジで「あんた誰」状態。

 元担任のあまりの変わり様に絶句しながら、あたしは何とか言葉を紡いだ。


「お、おひさしぶりです……先生」


 本当に、本っ当にこの人、正真正銘チャラ男・進藤だよ――――!!





 それからのことはよく覚えていないが、当然のことながら四人で回ることになった。乗り物の類は二人乗りが多いので、夫婦がペアになる。ということは、必然的にあたしと進藤のペアになるわけだ。何の因果だ。

 周囲にハートを振り撒いている新婚バカップルに対し、あたしたちの間に会話らしい会話はない。本当に乗り合わせているだけ。進藤は俯き加減で、あたしは半分魂が抜けていた。アトラクションに何のリアクションもできない。たとえ絶叫マシンでも。


 昼になってもそれは変わらなかった。フードコートに腰を落ち着けたものの、あたしも進藤も一言も発しない。それを見かねた琴美ちゃんが、わざとらしく立ち上がった。


「わ、私お腹空いちゃったなぁ~。小町ちゃんも空いたよね? うん、きっとそうだ。何か買ってくるねっ」


 すると門倉が意外なことを口にした。


「そうですね。進藤、琴美さんについて行ってください。あなたは財布と荷物持ちです」

「え……俺?」


 指名された進藤が驚きで目を見開いている。そのときバチッと視線が交差したが、思わず逸らしてしまう。

 二人が席から離れると、大きなため息をつかれた。


「あなたという人は……。せっかくのデートを不穏な空気にしないでください」


 カチンと来て、あたしは門倉を睨み付けた。


「謀りやがったな。最初からこれが狙いだったの?」


 門倉はクスッと笑った。


「琴美さんからあなたのことを探るのは失敗しましたからね。本人に直接当たるのが一番かと」

「卑怯者」

「それはこちらのセリフです。逃げ回るなんて、あなたらしくありませんね」

「あたしは逃げてなんか……」

「逃げているじゃありませんか。進藤の顔をまともに見られないあなたの、どこが逃げていないというのですか」


 図星を指されて、反論できない。悔しいが、この男の言う通りだった。


「……あんたが琴美ちゃん以外のことに協力するなんて、どういう風の吹き回し?」

「僕としては、あなたと進藤がどうなろうが知ったことではありません。が、これでも一応進藤の友人ですから」


 この男に友情を感じる心があったことに驚いた。血も涙もない男のはずなのに。


「それにあなたが進藤にかまければ、僕と琴美さんを邪魔する者がいなくなりますし」


 やっぱりか! 予想に反しない男だ。それでこそ変態なのだが、少し進藤がかわいそうになる。こんな男と友達やってて、苦労しただろうなぁ……。

 ふと門倉が真面目な顔つきになった。


「大まかなことは進藤から聞きました。あなたがこの前、琴美さんに相談したいと言っていたことは進藤のことですか?」


 誤魔化しようがないので、あたしは素直に頷いた。どうやら今は茶化す気がないみたいだ。


「仕事でもないのに他人の事情に介入するのは嫌なのですが、あまりに進藤が鬱陶しく落ち込んでいるので仕方がありません。ちょうどよい機会です。ここは二人で腹を割って話してみてはいかがですか?」


 黙り込んでいると、門倉はさらにあたしに言い聞かせた。


「あなたは自分を殺しかけた僕に対しては噛みついてきたくせに、たかが進藤ごときに何を弱気になっているのですか。自分の気持ちを素直にぶつければいいのです。どうせ進藤がしたことの意味を考え過ぎているだけなのでしょう? そんなことは対話をすればすぐに解決します」


 そうなんだけど、そう簡単に言わないでほしい。乙女心は複雑なのだよ。


「あなたがどのようなことを想像していたかは知りませんが、事実は思ったより簡単なことかもしれませんよ?」


 至極真っ当な言葉に驚いた。


「……あんた、本当に医者だったんだね」

「失礼ですね。僕を何だと思っていたのですか?」

「変態」


 思ったままの言葉に、門倉の笑みが凍りついた。しばしの無言の後、門倉は笑顔を引きつらせたまま口を開いた。


「……まぁ、それだけ言えるのなら心配することもありませんね。とにかく、あなた方に必要なことは対話です。いいですね」


 話に区切りがついたところで、二人が食べ物の乗ったトレーを手に帰ってきた。

 ハンバーガーをかじりながら、門倉に言われたことを反芻する。


 対話、ねぇ……。気まずいことこの上ないけど、それが一番いいってことは、あたしだって理解してる。でもそれができたらこんなに悩んでないっつーの。

 つーか今のあたし、夏休みの進藤状態!? うわぁ~、それは嫌だな。説教した張本人が同じ状態に陥るなんて……。ミイラ取りがミイラになるってこと?


 ぼんやりと考えながら食事を終え、トイレに行く琴美ちゃんのお供をする。

 鏡の前でメイクを直す彼女が、申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめんね、小町ちゃん。何だかとんでもないことになっちゃって」

「ううん。琴美ちゃんが悪いわけじゃないし……」


 あたしは力なく首を横に振った。するとあたしの顔色を窺うように彼女が提案してきた。


「このまま二人で回ろうか。せっかく来たのに、小町ちゃん全然楽しんでないもん」

「……いいの? 門倉先生は?」

「いいの、いいの。家に帰れば、せんせーいるし」


 それはすごくありがたかった。心の奥底ではちゃんと進藤と話をした方がいいと思っている。でも、やっぱりまだ無理だ。もう少しだけ冷却期間を置きたい。

 同意すると、彼女は携帯電話を取り出した。


「じゃあせんせーにメールしておくね」


 送信するのを待ち、あたしは再び美少女とのデートを楽しんだ。

 進藤のことがものすっごく気になったけど、考えないように空元気で乗り切った。




 夕方。時間的に最後の乗り物だろう。パンフレットを眺めていると、琴美ちゃんがある乗り物を指差した。


「最後はあれにしようよ。観覧車」

「そうだね。夕日が綺麗に見えるかも」


 乗り場に向かうと、なぜかそこはガラガラだった。待ち時間、ほぼゼロ。

 今、アイドルが広場でイベントやっているからかな? 確かめちゃくちゃ人気のあるアイドルだったはずだし。興味ないけど。

 すぐ乗れるのに、琴美ちゃんが何やらキョロキョロしている。


「琴美ちゃん、どうしたの? 乗るよ?」


 係りのお姉さんに促されて、一足先に乗り込んだ。でもまだ乗ってこない。


「琴美ちゃん、早く!」

「うーん……、あ、来た! 早く!」


 そこに現れたのは息を切らしながら駆け込んできた門倉と、そんな門倉に腕を引っ張られていた進藤だった。

 あたしと進藤はお互いを見て、目を丸くしている。

 その隙に、門倉はあたしの乗り込んだ観覧車の中に進藤を押し込む。


「「えっ!?」」

「早く閉めてください!」


 お互い混乱しているうちに、門倉の声に催促された係りのお姉さんがドアをロックしてしまう。ドアをこじ開けようとしても、ビクともしない。

 あたしはどんどん離れていく門倉に怒鳴った。


「ちょっと、どういうことよ!」

「二人で話し合ってください。時間はたくさんありますから」


 くっそー。またはめられた!!

 やけに笑顔の門倉と申し訳なさそうな琴美ちゃんに見送られ、あたしは進藤との逃げられない密室の三十分を過ごすこととなった。

 しばし怒りに湧いていたが、先に状況を受け入れたのは進藤だった。


「田原、危ないからとりあえず座れ」


 言われるままに進藤の正面に座る。でも顔をまともに見られず、あたしの視線は正面下の靴に注がれた。ごついブーツだ。ちょっとカッコイイ……。

 しばらく無言でいると小さな呟きが耳に入ってきた。


「悪かった……」


 その言葉に一つの考えが浮かぶ。謝るってことは、ノリだったってことか。


「謝るようなことしたんですか? ってことは、やっぱりあれはノリっていうか、冗談ってことなんですね」


 少し棘のあるような物言いに、進藤はすぐさまそれを否定した。


「そうじゃない。謝ったのは、お前の同意なしにしたことに対してだ。ノリや冗談であんなことはしない」


 思わず顔を上げると、真剣な表情の進藤がいる。黒髪で着崩していない服装、装飾品も一切ないその姿は、まるで別人だった。

 それに違和感を持ちながらも、あたしは視線を逸らすことができなかった。さっきまでは直視できなかったというのに、今度は目が逸らせない。


「……な、何でそんな格好なんですか」


 思わず訊いてしまう。すると返ってきた言葉は予想外のものだった。


「チャラ男は苦手だろ?」


 え――っ! それって、あたしのため!? 

 驚愕したが、まだそうと決まったわけではない。進藤があたしに対して好意を抱いているなど、ありえないことなんだから。


「苦手ですけど、それと先生のイメチェンは関係ないですよ」


 冷静に言えば、大きなため息とともに小さな呟きが落ちる。


「……鈍い」


 そして進藤はあたしを呆れたように見る。


「大アリだ。俺は何とも思っていない女のために、長年してきたスタイルを変えるようなことはしない。まして好きじゃなきゃ、付き合っていない女にキスなんて……絶対しない」


 絶句した。これは、まさかの告白!?

 でもどうしてもそれを認められなかった。そんな要素がどこにある。


「はは……冗談キツイって。何であたし? 生意気で、こんな一回りも年下のガキに……」


 はぐらかして、顔を背けた。

 すると急に進藤が立ち上がり、あたしに近づいてきた。片膝をあたしのすぐ横の座席に置き、座っている背もたれに両手をつく。あたしは進藤の腕の中に閉じ込められてしまった。至近距離に進藤の顔がある。


「……冗談でこんなことするわけねーだろ」


 やけに低い声に身体が震える。進藤の視線が鋭くなり、背に嫌な汗が噴き出す。


「俺があのときどれだけショックだったか、お前にわかるか? 俺に縋り、潤んだ眼をしながら貪欲に俺の唇を求めていたお前に……急に突き放されて泣きそうな顔されて、断りの言葉を口にしながら逃げられた俺の気持ちが」


 あのときのあたし、そんなだったの!? うわ、恥ずかしい。聞きたくなかった。


「お前に求められたとき、『こいつも俺と同じ気持ちだったんだ』と嬉しかった。……それなのにお前は逃げた。振られたと思ったよ。それがどれだけショックだったか……。また一人でウジウジ悩んで、それを門倉なんかに慰められたんだぞ」

「そんなの、知らない……。何も言われてないのに、そんなこと……」


 ええ、鈍いですよ。でも言葉にしてくれなきゃ、あれをどんな風にとられたって文句を言う筋合いなんてないじゃないか。それを歪曲してとらえるのも、あたしの自由だ。

 すると進藤はあたしの耳元に顔を寄せ、囁いた。


「お前が好きだ」


 ゾワッとした。でもそれは嫌悪感からくるものではない。低くて、子宮に響くようなエロボイス。ストレートすぎる言葉に羞恥心が湧き上がる。

 それに耐えられなくて進藤を押しやろうとすれば、逆に腕の中に取り込まれた。ギュウギュウにきつく抱きしめられる。


「自分でも気づかないうちに、お前を目で追っていた。十年片想いしていたあいつへの気持ちも、いつの間にか消えていた。田原、お前を意識し始めてから……」


 それっていつからだよ!? そんな感じ、一切しなかったのに!!


「ずっと苦しかった。――教師と生徒だからな。でも……もうお前は俺の生徒じゃない」


 そう言いながら、進藤はあたしの耳を甘噛みしてくる。ビクッと体が震える。

 うおーい! これ、本当にあの進藤なのか!? 

 軽口を叩く、絶妙なツッコミをするあのチャラ男なのか!? 嘘だろ、おい!


「いろいろ馬鹿みたいに悩んだが……もう遠慮しない。お前を俺のものにする」


 ぬおー―――! マジで誰だ、お前! キャラ変わり過ぎだろーが!!

 進藤があたしの首筋に顔を埋め、きつく吸い上げる。チュッという音がやけに卑猥に感じる。


「逃げたきゃ、俺を殴って気絶させろ。お前ならできるはずだ。逃げないなら同意と取る」


 そう言われても、あたしは身動き一つできなかった。驚きで思考停止中。だけど不思議と嫌悪感は全くなかった。


「せんせ、ドッキリならもう……、――っ!」


 苦し紛れにそう言えば、首筋に思い切り歯を立てられた。


「俺の本気をドッキリで片づけるな」


 あたしの顔を見るその目は、猛禽類みたいに獲物を狙うそれだった。

 突然位置が逆転し、進藤は座席に、あたしはその膝の上に乗せられた。そのまま、また抱きしめられる。


「先生、何を……」

「お前が冗談と思いたいなら、今はそれでもいい。冗談と思えなくさせるだけだからな」


 そう言って進藤は耳に顔を近づけてきた。ちょ、吐息がゾクッとするから離れろ!

 抵抗するべくジタバタすれば、低い声でボソッと呟かれる。


「暴れるなら、ここで抱くぞ」


 その言葉にピキッと硬直した。

 このエロエロ――!! こんな周囲から見えそうなところで卑猥なことするつもりか。あんた一応教職者だろうが!! 

 しかも「嫌なら逃げろ」って言ったくせに「暴れると抱く」って、支離滅裂だろ!


 たとえ単なる脅しでも、ここは大人しくしている方が得策だろう。こんなところで襲われてたまるか。あたしはじっとしていた。

 進藤はあたしの顔を覗きこむように近づいてくる。至近距離でじーっと見つめられる。


「好きだ、小町。……好きだ」


 何故だろう。進藤に名前で呼ばれると、胸がギュッと締め付けられる。


「小町、俺を好きになって」


 顔を進藤の胸に押し付けられる。手慣れた感じに、この男は余裕綽々だと思っていた。

 だけど……。


 ドクドクドクドクドクドクドクドク――――


 信じられないほど胸の鼓動は速かった。

 進藤も、緊張してる……?

 だけどあたしを腕の中に閉じ込めるこの男は、そんな素振りを一切見せずにあたしの頭を撫で、そこにチュッと口づける。


「好きだ……好きなんだ……小町……」


 まるで暗示をかけるように、進藤はあたしに愛の言葉を囁き続ける。甘くて、優しくて、本当に愛されているように錯覚する。

 しかも頭とか目尻とか頬とか額とか首筋とかにキスするくせに、口には絶対に触れない。……いや、ガッカリしてないからね? マジで。


 そんなことをされているうちにだんだん羞恥で真っ赤になり、耐えられなくて涙まで浮かんでくる始末。

 少し距離を取って羞恥の原因を睨み付けると、彼は目を見開き、少し顔を赤く染める。あたしを見つめる進藤は、色気が半端なかった。それからまたすぐ顔を胸に押し付けられる。


「くそっ……あんまり煽るな」


 切羽詰まった言葉に、あたしはより真っ赤になった。

 煽ってなんかなーい!!


 こうして観覧車が地上に近づくまでの約二十分、あたしは抵抗らしい抵抗もできぬまま、進藤からまるで暗示のような好き好き攻撃を受け入れざるを得なかった。







 弟よ

 前世で肉食獣のようだと言われた姉に

 まさか告白してきた勇者が現れました

 どうすればいい?

 ねぇ、どうすりゃいいのさ!?

                      敬具




これにて第三章、完結。

観覧車で……って、王道中の王道だよね。

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