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儚げ少女は元不良様  作者: いとみ
敵は変幻自在の教職者
13/31

友人のスパイ疑惑

小町さん、ウジウジ期間突入。

 プルルルル……プルルルル……プルルルル……。


「……出ないな」


 何度かけても出ない。

 メールを送っても返事がない。

 留守電を残しても折り返してこない。


「どうしたんだろう……琴美ちゃん」


 繋がらない電話に、少し心配になる。





 相談したいことがあったのにな……。

 珍しく人に頼ろうとしている小町です。


 前回の「進藤とチューしちゃったけど、あれってどういう意図なんだろ?」事件から、二週間ほど経ちました。


 まだあたしは、ぐるぐるぐるぐる悩んでいます。

 普段なら人に相談することなく自分で結論付けるあたしだけど、今回は自分で考えるのに限界。だから人妻である琴美ちゃんならいいアドバイスをくれるのでは、と思ったんだけど……。

 一度電話を切り、再度かけ直す。するとようやく通話状態になった。


「! もしもし琴美ちゃん? よかった。やっと繋がった」

『…………』


 しかし受話器の向こうからは何の反応もない。


「もしもし?」

『……しつこい人ですね、あなたは。まるでストーカーですね』


 聞こえてきた声に、反射的に頭に血が上る。


「なんであんたが琴美ちゃんの携帯に出るのよ!」


 ストーカーはあんただっつーの!


『……怒鳴らないでください。聞こえていますから』


 電話に出たのは変態・門倉だった。少し声を抑えて話しているようだった。


「琴美ちゃんを出して」

『無理です。今は眠っています』


 あたしは眉間に皺を寄せ、部屋の掛け時計に視線を移した。


「……昼の二時なんだけど?」

『そうですね。でも眠っているのですよ。僕の隣で』

「はぁ!?」


 また薬でも盛りやがったかと苛立っていると、とんでもない爆弾が投下された。


『蜜月に、朝も昼も夜も関係ないですから』


 ……んんっ? みつ、げつ……? 朝も昼も夜も……? つまり……。

 小町、瞬間湯沸かし器になる。


「この変態! 琴美ちゃんに無体なことしてんじゃないでしょーね!?」

『失礼な人ですね、無体だなんて。今はごく普通だと思いますよ』

「今は、だとぉ~!?」


 この変態野郎。じゃあ初めはどうだったんだっつーお話ですよ。


『仕方がないではありませんか。僕が琴と結ばれるまで、どれだけ待ったと思っているのですか。五十年ですよ』


 威張るな! この時空を超えたストーカー野郎! もうクソジジイじゃんか!


『やっとのことでここまで来たのですから、止まらないのは当然です。琴があんなにかわいいのがいけないんです。初々しくも妖艶で、僕のモノを上手に……』

「ええい! 言わんでいいわ! 純な乙女に生々しい説明すんな!」


 どいつもこいつも、あたしを可憐な美少女と知っての狼藉か。呆れるわ!


「……つーかさ、あんた仕事はいいわけ?」

『問題ありません』

「確か、式が終わってすぐに新婚旅行へ行ったんだっけ?」

『ええ。十日間ほどヨーロッパに。お土産を買ってきましたので、大学が始まってから琴美さんから受け取ってください』

「それはありがとうございます……じゃなくて! 駄目でしょ、社会人!」


 危ない。お土産に惑わされるところだった。

 十日はいいよ、新婚旅行だし。でも帰ってきたら仕事に行くだろうよ。


『僕の休暇は二十日間です。まだ六日ほどありますよ』

「六日も!?」


 どういうことだ。勤勉な日本人なのに? 二十日間の休暇ってありえないだろう。


「そんなに休んで平気なの?」

『ええ。琴のためなら僕は何でもできますから』

「アー、ソーデスカ……」


 もう、何も言うまい。この男には言うだけ無駄だ。


『それで琴美さんに何の用ですか?』

「ちょっと相談したいことがあって」

『僕でよければお聞きしますよ。琴美さんの目が覚めるまで暇ですから』


 いやいや、あんたになんて絶対言えないっつーの。言ったら進藤に筒抜けじゃん。

 というか、まだがっつく気なのか。琴美ちゃん、身体大丈夫かな。


「いえ、琴美ちゃんに話したいので」

『僕はカウンセリングのプロですよ。今なら特別に無料ですが?』

「金取る気だったんかい!」


 もー嫌。こいつと話してると疲れる。


「……とにかく、琴美ちゃんとまともに話せるのはいつですか?」

『あなたも頑固な人ですね。――大学が始まるまでには規則正しい生活に戻しますので、そのときにでも相談してください』

「わかりました」


 たった数分の通話だったのにもかかわらず、すでに疲労困憊。一応お礼を言って、電話を切った。


 しかし朝も昼も夜もって……。とんだ絶倫野郎だな。

 琴美ちゃん、本当にあんな男でよかったわけ? あたしにはさっぱり理解できないよ。






 ようやく四月に入り、大学が始まった。入学式が終わってから、琴美ちゃんと駅近くのカフェに入った。


 久しぶりに会った琴美ちゃんは、肌がツヤツヤでかわいらしさに磨きがかかっていた(ホルモンの影響か?)。でも少し痩せていた。

 ああ、変態に貪られたせいだな。あの変態鬼畜め。何もないところでコケろ。


「小町ちゃん。これ、新婚旅行のお土産」

「わぁ~、こんなにも!? ありがとう」


 何が入っているのかワクワクしながら大きな袋を受け取ると、なにやら思いつめた様子であたしを見つめる美少女。憂い顔もかわいいなぁ~。


「琴美ちゃん、どうかした?」

「……ねぇ、小町ちゃん」

「うん?」

「せんせーと何かあった?」


 ま、まさか、進藤のこと!?

 ギクッとしたが、彼女の言う「せんせー」とは門倉のことだろう。ふー、焦った。


「門倉先生と? 何もないけど」


 進藤がらみじゃないみたいだから安心してそう答えるが、まだ納得していないようだった。


「どうしてそんなこと訊くの?」

「……あのね、昨日せんせーが私に訊いてきたの。『田原さんがどうしているか、知っていますか?』って」

「えー? 何でそんなことを変……いや、門倉先生が?」


 考えても思い当らない。“琴美ちゃん命”の門倉が、あたしのことを気にするはずがない。

 ここで美少女は思いもよらぬことを口にした。


「もしかしたらせんせー、私より小町ちゃんのことを好きに……」

「いやいやいや、それは絶対に、ぜーったいにないから!」


 そんなことは天地がひっくり返ってもありえない。そんでもって鳥肌が立つことを言わないでほしい。キモい。キショい。うわぁ、吐きそう……。

 ……ハッ、まさか!

 一つの可能性が浮かび、まだ沈んでいる彼女に言った。


「あ、あのね、琴美ちゃん。門倉先生があたしのことを訊いたのは……」

「訊いたのは?」

「多分……進藤先生に関係があると思う」

「え、進藤先生?」


 まさかその名が出てくるなんて思ってもいない琴美ちゃんは、キョトンとしていた。

 あのことを話さなければならないが、もともと相談するつもりだったのだ。きちんと口止めすればいいか。


「実はね……」


 説明すると、彼女はものすごく驚いていた。


「ええっ!? 小町ちゃんと進藤先生が、結婚式の帰り道にキス……」

「そ、そうなの……」


 ううっ、恥ずかしい。穴があったら入りたい……。


「で、それから?」


 急に目をキラキラさせて、興味津々の彼女。おい、さっきまでの憂い顔はどこ行った?


「それだけだよ?」

「それだけ!? 進藤先生から告白されたとかは?」

「ないよ。あたし、ビックリし過ぎて逃げちゃったもん」

「逃げちゃったんだ……。あ、でも進藤先生から何か連絡が……」

「ううん。そもそも携帯のアドレス知らないから」


 答えると、何やら考え込んだ琴美ちゃん。

 しばらくしてハッとし、あたしにものすごい目力を向けた。


「そっか! せんせーは進藤先生に頼まれたんだ。なーんだ。じゃあ、『小町ちゃんは進藤先生を気にしていました』って伝えればいいんだ!」

「駄目! 絶対駄目!!」


 言う気満々の琴美ちゃんを慌てて止めた。進藤を気にしているのは事実だけど、それを伝えられては困るのだ。


「どうして?」

「……進藤先生がどうしてあんなことをしたのかわからないから、気まずい」

「わからないって? 好きでもない人にキスなんてしないでしょう」

「そうなんだけどさ。でも『泣き止まないと、キスするぞ?』なんて、いかにも冗談というか、からかってない?」


 そう訴えると彼女は首を横に振り、呆れたような声を上げた。


「小町ちゃん、鈍―い!」


 鈍い? あたしが? 聞き捨てならないよ!


「琴美ちゃんにだけは鈍いって言われたくないよ!」


 あの門倉の言うことを疑いもせず信じ切っている、琴美ちゃんの方がよっぽど鈍いっつーの! 

 あたしの訴えを完全にスルーし、彼女は断言した。


「進藤先生、絶対に小町ちゃんのこと好きだって。それならいろいろ説明がつくし」

「え?」


 いろいろ説明って何さ? 何をトンチンカンなことを言うのさ。


「夏休み前から進藤先生、よく小町ちゃんのこと見てたし~」


 いや、それは門倉の変態行為を言うか言わざるかでゴタゴタしてたから、あたしを観察……というか監視してただけだろうし。


「小町ちゃんによく話しかけていたじゃない。二学期からは特に」


 それはあの超進学校で受験生なのに、何度も赤点取るのがあたしだけだったからだよ。それに話しかけたっていうより、説教されたっていう方が正しい。


「そういえば、夏休みに先生がガラの悪い男の人に連れて行かれたことあったでしょ? あれって結局、どうしてああなったの?」


 いきなりそんな古い話を持ち出してきた……。

 そういえば琴美ちゃんには説明してなかったかも。門倉も言葉を濁していたみたいだし。「あなたの旦那が男を容赦なくフルボッコしてましたよ~」とは言えんわ。


「理由は個人情報云々で言えないかな……」


 進藤先生の事情だからねと付け加えると、彼女は渋々引き下がった。


「……じゃあ理由はいいよ。でもあのときの小町ちゃん、かっこよかったなぁ~。あんな風に助けに来てくれたら、誰でも絶対惚れちゃうって。私も『絶対守るから』って言われたとき、ちょっとキュンってしたもん」

「それは……知り合いがピンチのときは、とりあえず助けに行くでしょう!?」


 それが不良の美学だと、あたしは思う。


「でも複数の男の人がいるところに一人で乗り込む度胸はないなぁ。私は無理だよ。警察呼んじゃう」

「いや、琴美ちゃんは乗り込んじゃ駄目」


 そんなことしたら、門倉がキレる。危ない真似は厳禁ですよ。


「で、他にも何かあった?」


 琴美ちゃんの鋭い指摘に焦る。他にもあったけど、あれも個人情報云々……。

 期待で目をキラキラさせてあたしを見つめるその視線。……くっ、負けました。美少女に弱いわぁ、あたし。


「ひょんなことから進藤先生の相談に乗ったの。先生が苦しい片想いをしていてずっと気持ちを告げられなかったんだけど、その人がもうすぐ結婚するらしくてね。ウジウジしている姿が見ていられなくて……」

「それで、それで?」


 グイグイ来るな、本当に。人の恋バナに興味津々じゃんか。まぁ、あたしもそうだけど。


「……説教しちゃった」


 その言葉に目を丸くしたが、なんだか納得した様子。


「もしかしたら、それからその片想いの人に好きって言えたとか?」

「うん。そうらしい」

「ってことは吹っ切ることができたんだ。それは惚れちゃうよ」

「惚れないよ」


 そうそう簡単に人を好きになるもんか。


「いや、惚れちゃうって。『苦しいよね、つらいよね』とは言えても、なかなか説教なんてできないよ? きっかけがなきゃ、気持ちを引きずるタイプかもしれないし」

「そんなもんかなぁ?」

「そのきっかけを作ったのが小町ちゃんなんだよ。そりゃ気になるって。惚れるって」


 まぁ、きっかけを作ったのはあたしで間違いないけど。でもそれがラブに結びつくものかなぁ~? 恋愛はよくわからんよ。前世でも全くモテなかったし。

 納得できないでいると、彼女は思いもよらぬことを言い出す。


「それから先生、小町ちゃんと話してるとき、結構いい顔で笑ってるよ。周りのみんなも『あんな先生、見たことない』って言ってたし。『先生と小町ちゃん、結構いい感じだよね』って噂になってたよ」

「え、嘘っ!?」


 何それ、知らない。噂って何?


「本当だよ~。進藤先生が小町ちゃんのこと好きなんじゃないかって。だってあんなあからさまに小町ちゃんに熱視線送っていたんだもん。誰でも気づくと思ってたけど、小町ちゃん全然気づかなかったんだね……」

「ね、熱視線……」


 そんな馬鹿な。あたしが自分の周囲の変化に気付けなかったなんて……。

 過去ではありえない失態で、ガックリと落ち込む。やっぱ生命の危機を回避した時点で油断しちゃってたかな。これは気を引き締めなければ。

 新たな誓いを立てていると、琴美ちゃんは胸を張って自分の主張を肯定した。


「やっぱり鈍感でしょ~。で、小町ちゃんは? 先生のこと、どうなの?」

「どうって……。そりゃ世話になったし、いい先生だと思うよ」

「それだけ? 恋愛的にはどうなの?」


 あたしは黙り込んだ。恋愛的って、考えもしなかった。

 いい先生で、いい人だと思う。真面目で、意外に一途。好きか嫌いかでいえば、好きだ。

 だけど付き合いたいとかそういう気持ちになるかと言われれば、疑問が残る。キスしたって事実がガツンとはじめに来たせいで、自分の気持ちがよくわからなくなっている。


「……わかんない」


 あたしの返事に、控えめに笑みを返した美少女。


「焦らなくてもいいと思う。じっくりゆっくり考えればいいよ」

「うん。……あ、だから門倉先生にも言わないでね。それから今後あたしの情報を漏らさないでくれるかな?」

「うん、約束する。でもまた訊かれるかも。私、せんせーに強く言われると弱くて……」


 だろうね。ということで恒例の、門倉を一撃で黙らせる必殺技を伝授しました。





 数日後。少しだるそうな琴美ちゃんが報告してきた。


「小町ちゃん。言われた通りにせんせーを諦めさせたよ~」


 どうやら、こんなやり取りがあったらしい。




※※※




「琴美さん、田原さんはどうでした?」

「…………」

「? 琴美さ……」

「せんせー、私より小町ちゃんが気になるんだ」

「え?」

「私じゃなくて小町ちゃんの方が好きなんだ……」

「何を馬鹿なことを……」

「じゃあ何で? 何で小町ちゃんのことばかり訊くの? そうなんだ。せんせー、私に飽きたんだっ!」

「違います! 僕は琴美さんだけを愛しています。世界中の誰よりも、琴美さんが好きで、好きでたまりません。琴美さんに比べたら、田原さんなど取るに足りない人です。月とすっぽん……いや、むしろ田原さんにはすっぽんでさえもったいない。……そうですね。田原さんはなぜか道路に落ちている、軍手ほどの価値しかないんです」

「せんせ、それ言い過ぎ……」

「いいえ、まだ言い足りないほどです。が、今はそんなことはどうでもいい。僕の琴美さんへの愛は永遠です。十分伝えてきたつもりですが、琴美さんにはまだ伝わりきれていないようです。ではこれから十分すぎるほど、あなたへの愛をその身に刻み付けましょう」

「え? ちょっと待って、せんせーっ!!」


 ――――以下、省略。




※※※




 むっかつく――っ!! 人のいないところで酷い言い草だよ。

 すっぽんですらもったいない? 道端の軍手? 言ってくれるじゃないか。あの野郎、今度会ったら絶対シバく。

 しかもどさくさに紛れて、また美少女を貪りやがったな。覚えてろよ。いつか天誅下す。


「でね、それからせんせー、私に小町ちゃんのこと一切訊かなくなったんだ」

「そっか。ありがとう」


 これで変態からチャラ男に情報が漏れることがないっと。一安心。 

 すると琴美ちゃんがある提案をしてきた。


「そうそう、小町ちゃん。今度の土曜日、暇?」

「暇だけど、何?」


 彼女はかばんから何かの紙切れを取り出した。


「せんせ―が遊園地のチケットくれたの。二枚あるから一緒に行かない?」

「え、あたし? 門倉先生と一緒に行かなくていいの?」

「いいの。せんせー、その日用事があるんだって。有効期限がこの日までなの。もったいないから小町ちゃんと行ってきなさいって」

「そうなんだ。……うん、行こう!」


 変態にしては粋な計らいをするもんだ。暴言は許してないけど、ちょっとだけ怒りが収まった。




次回恒例(?)の遊園地。

そして三章、完結。

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