若くして人生終えたくありません
短編『ヤンデレは二次元に限る』とリンクしています。そちらを先に読んでから読むと、より楽しめます。よろしければどうぞ。
拝啓 前世の弟よ
姉は今、戦いの最中です
それも一生を左右する、大変厳しい戦いの――――
突然だが、あたしには前世の記憶がある。
ちなみに「病院へ行け」とは言わないでもらいたい。行って治るなら、とっくに行っているさ。
どうやら巷で流行っている、前世の記憶を持ったまま転生ってやつらしい。
それに気づいたのは、まだオギャーと泣いていた赤ん坊の頃。泣きながら、それをあやす両親に「あんたたち、誰だよ――!?」と叫んでいた。当然しゃべれないから、伝わるはずもない。
しばらくすると自分の置かれた状況を嫌でも理解し始め、考えることが苦手なあたしは戸惑うことなくそれを受け入れた。
ちなみに前世のあたしはバリバリの元不良様だったりする。
地元の複数あったチームを一つにまとめ、そこで頭を張るほどに、強く、気高く、そして美しく……。
――この世で誰も事実を知らないから、ちょっとねつ造しましたゴメンナサイ。
……ゴホン。話を戻そう。あたしが言いたいのは、前世の記憶があったからどうだっていうことだよ。はっきり言って、ラッキーなんて思ったことは一度もない。
前世のあたしは勉強が大嫌いだったし、喧嘩ばかりでロクに学校も行かなかった。だから前世の知識を利用って言っても、人間の急所とか、メンチの切り方とか、メンチの切り方とか……(ってメンチばっか!)。今のあたしにあまり役立つものではない。
なぜなら今のあたし、結構美少女なのだ。見た目儚げで、趣味はお菓子作りとかお裁縫、好きな食べ物はフルーツパフェ――とか言っても許されるぐらいには美少女。
前世のあたしとは真逆だよ、あはは……。「生肉を貪り食いそうっすね」とか満面の笑みで言われてたからね。泣けるぜ、前世のあたし……。
どうしてあたしに前世の記憶が残されていたのか、ずっとわからないままだった。まぁぶっちゃけどうでもいいって思ってたし。
それで幼稚園に入ったぐらいかな。ふと思い出した。
今のあたし、“田原小町”という名が前世の記憶に引っかかった。そして一歳年上の兄、“田原光”という名も。
――――あたしら兄妹、乙女ゲームの登場人物じゃん!
この世界は『私立青鞜学園恋物語~イケメンはあなたのトリコ~』という、なんとも寒いタイトルの乙女ゲームの舞台らしい。
どうしてあたしがそんなこと知ってるかって? もちろんあたしはしないよ、ゲームなんて。ゲームするなら街に出て、絡んでくる命知らずをボコボコにしてた方が面白いし。
ゲームをしていたのは、弟。それもあたしと性格真逆の、男のくせに女装が趣味のいわゆる男の娘ってやつ。
性別女で男勝りなあたし、性別男で女の子らしい弟。事実、あたしより女子力は高かった。周囲は「人格入れ替わったら完璧だったのにねぇ~(笑)」って口々に言うし。余計なお世話じゃい!
こんなあたしたち姉弟、意外や意外に仲が良かった。怪我をして帰ってくるあたしを心配そうな顔をしながら手当てしてくれたり、一緒に買い物に行ったりするほどには。
そんな男の娘な弟は、乙女ゲームが大好きだった。「ゲームするから隣で見てて」と言われて、渋々見ていたこのゲーム。あまりに何度も繰り返されるそれに、無駄なゲーム知識が増えた。記憶力がないにも関わらずだよ。
そしてこれが重大なこと。あたし、田原小町はゲーム内で唯一死亡フラグを持つキャラクターだったのだ。
兄・光がヒロインの攻略対象者で、あたしはそんな兄に溺愛されている。それを快く思っていない兄のファンから嫌がらせを受ける。そしてその嫌がらせに耐えかねて自殺、もしくはそんなファンに依頼された不良に誘拐されたのちになんやかんやで事故死してしまうという、バッドエンドが約束されていると言っても過言ではないキャラなのだ。
ちなみに主人公が兄を攻略する場合には、あたしの死亡事実が必須だった。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。せっかく美少女に生まれてきたのに死にたくない。ゲームに人生決められてたまるかっつーの。
あたしはこれまで、人の言いなりになんてならなかった。あたしのことはあたしが決める。それがあたしという人間だ。子や孫に囲まれて、百歳まで生きたいんだよ。こんなに若く、人生終えてたまるか!
このままだと十代で人生が終わると悟った日から、あたしは生き残るために必死に努力した。
まずは身体を鍛え始めた。そうでなければ、こんな儚い少女が危険回避などできるはずがない。毎日休むことなく走り、筋トレ、そして武道・武術など、身を守ることに役立ちそうなことは何でもやった。
そしてちょっとのことでは動揺しないように、いざというときに適切な判断ができるように、精神力を鍛えた。たとえば滝に打たれてみるとか(冷たかった)。
突然そんなことをはじめた娘に両親は驚いたが、子供の意志を尊重させたいと反対されなかった。
ただ、兄だけは猛反対。「女の子がそんなことしなくてもいい」だの「小町は僕が守るから、そんな危ないことはやめなさい」だの、過保護もいいところ。
でもやめなかった。ここでやめたら人生はあと十数年ほどしかないんだぞと、悲鳴を上げる心身を追い込んだ。マゾではない。
その努力と前世の知識と感覚も合わさり、あたしは吹けばふっ飛ぶ儚いお嬢さんから、見た目通りに受け取ると痛い目見ちゃうゾ、な女の子へ成長していった。
それから、兄のあたしへの溺愛心を取り除こうとした。だから一度、「あたしに近寄るな」って言ったことがある。そしたら「お兄ちゃんの何がいけないの? ねぇ、言って。小町が嫌なこと全部直すから。だからそんなこと言わないで」って号泣された。
うぜぇ……。捨てられそうになった恋人に縋るようなこと言うなよ、女々しいな、と呆れたものの次第に罪悪感が込み上げ、兄と疎遠になる計画は失敗に終わった。
年月が過ぎ、鍛錬も徐々にパワーアップしていった。
実践に勝るものはないと、中学生になると夜の街に出て、たむろするヤンキー捕まえて実戦するつもりだった。だけど兄の妨害でできなかった。
仕方がないので校内でこっそり喧嘩していたら、上級生も含めて学校統一していた。さすがあたし。その噂も結構広まり、地元で絡まれ、制圧。ふふっ、今や地元じゃ負け知らず。
そして受験生になった三年。あたしは兄が通う乙女ゲームの舞台・私立青鞜学園を受験しないことで、自分の死亡フラグをへし折ろうとした。
あの学校は超進学校だし、あたしの頭じゃ無理~と余裕ぶっこいていた。
だが馬鹿兄が「小町と一緒に通いたいから、家庭教師する」と言い出し、親も「それがいいわ。光、お願いね」と承諾してしまった。
逃げ出すが、この兄は予知能力でもあるのだろうか。潜伏先に現れてはあたしを家に引きずっていき、勉強を強要する。
当然あたしは反抗した。歴史だと、教科書に載っている偉人に落書き。眉毛繋げたり、まつ毛植毛したり、鼻毛書いたり、額には肉。ふきだしつけてアテレコとか。
そしたら案の定、泣かれた。
「お兄ちゃんは小町と一緒に学校に行きたいだけなのに……。僕の教え方がへたくそだから聞く気も起きないの?」とか「小町が同じ学校に来てくれなきゃ、お兄ちゃんもう不登校になる。小町がいない学校なんて考えられない」とか。
「今、ちゃんと学校行ってるじゃん」って指摘すれば、「僕だって通えるならもう一回中学通うよ!」って逆ギレされた。この兄貴、ちょっとイカれてる……。シスコンの度が過ぎる。引くわ、これ。
あまりに泣く兄がウザくなり、しぶしぶ同じ学校を受験はした。でも解答適当だし、落ちてしまえばさすがの兄も黙るだろうと思っていた。
が、しかし――――
「小町、入学おめでとう!」
「……嬉しくない」
満面の笑みで喜ぶ兄、この世の終わりのような気分で肩を落とすあたし。
一体どんな手、使いやがったんだ。ゲーム補正ってやつか、そうなのか?
次回でゲーム中のネタは終わり(笑)
早い?




